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長谷川
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かなりの期間この本家で生活していたにも関わらず、地下に部屋があったなんて知らなかった。と言っても、壁も柱もコンクリートむき出しで何もないが、ここなら多少発砲したところで音が漏れることもなさそうだ。
だだっ広い殺風景な部屋で、俺がやられていたのと全く同じように、長谷川が椅子に手足をくくりつけられていた。もう大分痛めつけたようで、出血などはなかったが、長谷川はかなり憔悴しているようだった。
長谷川を脇で見張っていた大柄な構成員は俺と組長が部屋に入ってきたのを見ると、頭を下げさっと後ろに下がった。そのうちの一人に、組長が声をかけた。
「どうだ」
「いつも通りの拷問をいたしましたが、何も喋りません。」
それを聞くと、組長は長谷川の腹にがっと蹴りを入れる。長谷川はそのまま後ろに椅子とともに倒れ、顔を歪めながら痛みに耐える。
「うちの御園を好き勝手してくれたようだな、おい。覚悟はできてんのか」
組長は俺が今まで見たこともないような顔で長谷川に凄む。やはりヤクザの親分なだけあり、迫力は相当なものだった。
「…」
倒れたまま髪を掴まれ顔を上げさせられた長谷川は、それでも無言だった。
組長はそれが気に食わないといったようにさらに彼の腹を殴った。これまで痛めつけられたのもあり、長谷川はもう息も絶え絶えという様子だった。
「組長、それ以上すると死んじゃいます。」
「殺してやりゃいいんだよ、こんなやつ。お前をいたぶったんだ、当然の報いだ」
俺が進言すると組長は息を乱して言い返したが、俺が見つめると少し冷静になったようだった。
「…こいつの処分はお前に任すんだったな、悪い。一番傷ついたのはお前だ、お前の好きにすればいい」
そう言って組長は俺に彼を明け渡すようにこの部屋を出るため踵を返した。
「…こいつが目の前にいたら俺は憎しみで気が狂いそうだ。席を外す、すまない。」
組長は俺から目をそらして情けなさそうに俺に呟いた。俺はそんな組長を愛おしく思い、彼を見送った。
「二人で話したい。あなた方も席を外してください。」
俺がそばに控えていた構成員たちに言うと彼らは一瞬言い返そうとしたが、長谷川の拘束が外れることはないと判断したのか、しぶしぶ部屋を出て行ってくれた。
「…」
二人きりになると、しばらく沈黙が続いた。そうすると、今まで何も喋らなかった長谷川が急に口を開いた。
「っは、部下を追い出して、お前の見苦しい姿を見せずに俺を嬲り殺しにするつもりかよ。そんぐらい何でもないんだ、やれよ、おら」
挑発するように俺を罵倒する。だが、俺には強がりにしか見せなかった。縛られた姿で虚勢を張る長谷川がなんとも惨めで、そしてかわいらしかった。
「俺にそんな趣味はないですよ。…でも、俺は電流を流され続けて、けっこうキツかったんです。だから、そこはちゃんとケジメつけさせてもらいます。」
にっこりと微笑んだ俺を見て長谷川は怪訝な顔をしたが、そんなことは気にせず寝転んだままの彼の顔に一発拳をぶち込む。
「っぐ」
俺も少しは鍛えているだけあって、長谷川にもキいたようだった。顔を歪めて悔しそうな顔をする彼を見て、俺の気持ちはかなり晴れていた。
「っよし!」
張った声で俺が声を上げたことで、長谷川はびくっとし、もう一度殴られると思ったのか目をぎゅっと瞑ったが、俺が何もしないのに気づき、そっと目を開ける。
「俺はもうスッキリしました。俺が来る前にもやられてたようでしたし、これ以上あなたに何かする理由はないですよ。」
そう言うと、長谷川は意味がわからない、といった呆然とした表情になる。そうなったかと思えば、急に険しい顔になり、俺に怒鳴り散らす。
「なんだと、なめてんのか!憎いんだろ、殺せよ!俺はそんな口だけの奴が大っ嫌いなんだよ!俺はお前を殺そうとしたんだよ!早く殺せよ!後で人に命じて殺すつもりかよ!意気地なしが!」
何が気に入らないのか、殺せ殺せと俺に訴えかける。
「確かに憎いですよ。…でも俺はあなたを殺そうとするほどは憎いとは思ってないですよ。あなたの組はうちの支配下になって、これから経済的にも地位的にも制裁をうけるだろうし。それがあなたへの罰になると思いますから。」
そう言いながら俺は長谷川の拘束を外していく。その様子を長谷川は驚きの感情を隠さないで見つめていた。
「…あーあ、これ、腕折れてますよ。肋骨も。早く治療しないと。」
拘束を外すとと身体中から痣が見つかる。こりゃやりすぎにもほどがあるな。
俺が長谷川の身体を支えて立ち上がろうとすると、長谷川は疑問を口にした。
「…どうして、」
それ以上の言葉は出てこなかったが、言いたいことは理解できた。
「 俺は、犬だから。主人のためになることだけする。このセキュリティの中で俺を拉致する計画を立てたのはあなたでしょう?あなたの能力は組長の役に立ちます。近藤組の管轄になったんですから、その実力をこの組のために発揮してください。…ただ、それだけですよ。」
脇から腕を差し込み、長谷川の身体を支えて歩き出す。近接した中、すぐ横にある顔が驚きに包まれているのが見なくてもわかった。
「…それに、あなたみたいな人嫌いじゃないです。俺も、昔殺されそうになった時に、あなたみたいでした。虚勢を張って、諦めたようなフリをして。…でもやっぱり、生きてたら、死ぬよりも人の役に立てるから。俺は主人のために、生きます。だから、」
ふっと長谷川と目を合わせる。
「あなたも生きて。」
微笑みながら言うと、彼はさらに目を見開いた。そして、そっぽを向いて、小さく嗚咽を漏らした。
だだっ広い殺風景な部屋で、俺がやられていたのと全く同じように、長谷川が椅子に手足をくくりつけられていた。もう大分痛めつけたようで、出血などはなかったが、長谷川はかなり憔悴しているようだった。
長谷川を脇で見張っていた大柄な構成員は俺と組長が部屋に入ってきたのを見ると、頭を下げさっと後ろに下がった。そのうちの一人に、組長が声をかけた。
「どうだ」
「いつも通りの拷問をいたしましたが、何も喋りません。」
それを聞くと、組長は長谷川の腹にがっと蹴りを入れる。長谷川はそのまま後ろに椅子とともに倒れ、顔を歪めながら痛みに耐える。
「うちの御園を好き勝手してくれたようだな、おい。覚悟はできてんのか」
組長は俺が今まで見たこともないような顔で長谷川に凄む。やはりヤクザの親分なだけあり、迫力は相当なものだった。
「…」
倒れたまま髪を掴まれ顔を上げさせられた長谷川は、それでも無言だった。
組長はそれが気に食わないといったようにさらに彼の腹を殴った。これまで痛めつけられたのもあり、長谷川はもう息も絶え絶えという様子だった。
「組長、それ以上すると死んじゃいます。」
「殺してやりゃいいんだよ、こんなやつ。お前をいたぶったんだ、当然の報いだ」
俺が進言すると組長は息を乱して言い返したが、俺が見つめると少し冷静になったようだった。
「…こいつの処分はお前に任すんだったな、悪い。一番傷ついたのはお前だ、お前の好きにすればいい」
そう言って組長は俺に彼を明け渡すようにこの部屋を出るため踵を返した。
「…こいつが目の前にいたら俺は憎しみで気が狂いそうだ。席を外す、すまない。」
組長は俺から目をそらして情けなさそうに俺に呟いた。俺はそんな組長を愛おしく思い、彼を見送った。
「二人で話したい。あなた方も席を外してください。」
俺がそばに控えていた構成員たちに言うと彼らは一瞬言い返そうとしたが、長谷川の拘束が外れることはないと判断したのか、しぶしぶ部屋を出て行ってくれた。
「…」
二人きりになると、しばらく沈黙が続いた。そうすると、今まで何も喋らなかった長谷川が急に口を開いた。
「っは、部下を追い出して、お前の見苦しい姿を見せずに俺を嬲り殺しにするつもりかよ。そんぐらい何でもないんだ、やれよ、おら」
挑発するように俺を罵倒する。だが、俺には強がりにしか見せなかった。縛られた姿で虚勢を張る長谷川がなんとも惨めで、そしてかわいらしかった。
「俺にそんな趣味はないですよ。…でも、俺は電流を流され続けて、けっこうキツかったんです。だから、そこはちゃんとケジメつけさせてもらいます。」
にっこりと微笑んだ俺を見て長谷川は怪訝な顔をしたが、そんなことは気にせず寝転んだままの彼の顔に一発拳をぶち込む。
「っぐ」
俺も少しは鍛えているだけあって、長谷川にもキいたようだった。顔を歪めて悔しそうな顔をする彼を見て、俺の気持ちはかなり晴れていた。
「っよし!」
張った声で俺が声を上げたことで、長谷川はびくっとし、もう一度殴られると思ったのか目をぎゅっと瞑ったが、俺が何もしないのに気づき、そっと目を開ける。
「俺はもうスッキリしました。俺が来る前にもやられてたようでしたし、これ以上あなたに何かする理由はないですよ。」
そう言うと、長谷川は意味がわからない、といった呆然とした表情になる。そうなったかと思えば、急に険しい顔になり、俺に怒鳴り散らす。
「なんだと、なめてんのか!憎いんだろ、殺せよ!俺はそんな口だけの奴が大っ嫌いなんだよ!俺はお前を殺そうとしたんだよ!早く殺せよ!後で人に命じて殺すつもりかよ!意気地なしが!」
何が気に入らないのか、殺せ殺せと俺に訴えかける。
「確かに憎いですよ。…でも俺はあなたを殺そうとするほどは憎いとは思ってないですよ。あなたの組はうちの支配下になって、これから経済的にも地位的にも制裁をうけるだろうし。それがあなたへの罰になると思いますから。」
そう言いながら俺は長谷川の拘束を外していく。その様子を長谷川は驚きの感情を隠さないで見つめていた。
「…あーあ、これ、腕折れてますよ。肋骨も。早く治療しないと。」
拘束を外すとと身体中から痣が見つかる。こりゃやりすぎにもほどがあるな。
俺が長谷川の身体を支えて立ち上がろうとすると、長谷川は疑問を口にした。
「…どうして、」
それ以上の言葉は出てこなかったが、言いたいことは理解できた。
「 俺は、犬だから。主人のためになることだけする。このセキュリティの中で俺を拉致する計画を立てたのはあなたでしょう?あなたの能力は組長の役に立ちます。近藤組の管轄になったんですから、その実力をこの組のために発揮してください。…ただ、それだけですよ。」
脇から腕を差し込み、長谷川の身体を支えて歩き出す。近接した中、すぐ横にある顔が驚きに包まれているのが見なくてもわかった。
「…それに、あなたみたいな人嫌いじゃないです。俺も、昔殺されそうになった時に、あなたみたいでした。虚勢を張って、諦めたようなフリをして。…でもやっぱり、生きてたら、死ぬよりも人の役に立てるから。俺は主人のために、生きます。だから、」
ふっと長谷川と目を合わせる。
「あなたも生きて。」
微笑みながら言うと、彼はさらに目を見開いた。そして、そっぽを向いて、小さく嗚咽を漏らした。
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