借金ホスト

美国

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先輩たちと和解して、それからしばらくは平穏な日々だった。たまに、このあと俺と誰と食事に行くのかで和哉と先輩たちで軽く揉めることもあったが、蓮二さんやオーナーが割り込んで俺を連れ去ることもしばしばだった。でも、俺に嫌がらせしてくるものもいなくなり、みんな俺のことを認めてくれたように思う。先月のランキングでは俺はランキング3位を勝ち取り、プリンスの看板ホストになりつつもあった。充実していた。何者にも煩わされることのない日々。今までの人生、特にあのクソ従兄弟が居候してきてからはなかった幸福感だった。


…ん?そういえばホストが忙しくて忘れてたけど、あのクソ従兄弟しばらく見てないな。俺の部屋にもおそらく帰ってきていない。
嫌な予感はしたが、わざわざ連絡を取る気もなかったので、また何週間か放置していた。


すると、そのつけが回ってきたかのように、また悪夢のような日々が待っていたのだった。




「おいお前、新谷瑞樹だな。乗れ。」
振り向くと、190センチありそうな体格のいい黒スーツ姿の男2人組が黒ベンツから降りて来た。そして、有無を言わさず、口をふさがれ、後部座席に乗せられる。

「ちょ、何なんですか」
車が発進した後、口を解放され、男たちに問いかけたが視線をよこされただけで、無視される。
おいおい、明らかにヤクザかなんかじゃねえか…ホストクラブ関係か?思考を巡らせるが、全く心当たりがない。

もう少しで到着するようで、場所がわからないように目隠しをされる。車が止まり、男2人に脇を抱えられてどこかに連れて行かれる。見えない恐怖が襲いかかるが、声をあげはしなかった。

ようやく目隠しが外されると、コンクリート剥き出しの部屋に一つだけ異質な高級そうなソファが置かれている。そこの床に、膝をつけさせられる。これから何が起こるのか、状況から考えてリンチか殺人でもしそうな雰囲気ではあるが、動揺して言葉も出てこない。

少しすると、ドアから2人の人物が入ってきた。1人は、俺を連れてきたのと同じような大柄で黒スーツの男。その男を引き連れてスタスタとこっちに向かってくるのは男か女か判別しづらい中性的で華奢なショートカットの人物。アーモンド型の大きな目に、白い肌。身長は160後半ほどだろう。栗色のサラサラの髪が艶を放ち、軽く見惚れてしまう。その人物は、備えられていたソファーに座った。

「新谷瑞樹だな。」
その美しい人に問われ、おずおずと頷く。
「お前に、5千万払ってもらう。今すぐだ。」

ご、ご、ごせんまん???????俺やクソ従兄弟の両親が残した借金の何倍もの額だ。
「え、なにゆえ、でしょうか。」
強面の男3人に睨まれているため、こちらも強気には出れないが、あまりに理不尽なため、問いかける。

「お前の従兄弟の、新谷和泉が、ギャンブルに失敗してウチで5千万借りたあげく、逃げたんだよ。」
おお、割と声はボーイソプラノだな。これで男と確定したが、その声の美しさにも一瞬ポーッとする。そういえばあのクソ従兄弟そんな名前だったな…と考えるているとだんだん、あまりに悲惨な状況に、頭が冷えていく。

「な…なるほど。あのクソ従兄弟ならしでかしそうですね。で、でもなんでそんな大金をあんな無職で、返済できそうもないやつに貸したんですか?」
現実逃避するように、軽く茶化すと、その美少年ははっ、と吐き捨てる。

「新谷和泉は、俺の従兄弟は売れっ子ホストだから5千万くらいすぐ返済できるから大丈夫って大見得切ってたぞ。」
あ、あの野郎~!!!クソは本当にクソだな!はなっから俺に押し付けるつもりだったんだ、あのクソ!!!

「いや、そんなの俺知らないんですけど、って言っても、聞いてもらえるわけないですよね~」
知らぬ存ぜぬで通せなそうなのは、美少年の目が全く笑っていない笑みを見せられて実感した。
だが、今すぐと言われても、まだ従兄弟の両親の借金もあと少しあるし、今すぐ5千万なんてホストの給料前借りしたってどう考えても無理だ。どうしたら…と考えていると急に、俺を連れてきた男の1人に頭を地面に押し付けられる。

「ぐっ」
痛みに顔を歪めていると、ソファから立ってゆっくりと美少年が俺の方に近づいているのを音で感じた。
「今すぐ返済できないなら、君のパーツでも売って回収させてもらおうか。顔は悪くないし。頭部だけでもかなりの値段がつくと思うよ。」
こ、この美少年は笑顔でなんて恐ろしいことを言うんだ…俺は、ここで殺されてしまうのか?

「いや、今すぐは無理ですけど、俺もだんだん稼ぎがよくなってきてるんですよ。少し待っていただいたら毎月500万ずつ返済できますよ。」
これは本当のことだ。このまま、ナンバー3を維持できたら、一年で返済できる。だが、そう甘くはなかった。

「はあ?期限は今日なんだよ。今日回収できないなら、お前には死んでもらうしかないね。」
これは俺絶体絶命のピンチか?ピンチすぎてもう冷静にものが考えられなくなってくる。

ヴイイイイイイイイイイイン
後ろから、おぞましい機械音が響く。頭をかるく上げさせられて、後ろを振り向くと、やはり予想したとおりのものがあった。
俺を連れてきたうちのもう1人の男が、チェーンソーを持って立っていた。
ヴイイイイイイイイイイン
けたたましい音をさせて振動するそれは、この状況下でどう使うかなど分かり切っていた。美少年が合図して、一旦チェーンソーの振動を止めさせた。

「じゃあ、どこから切り落とす?最初に頭やっちゃうとつまんないし、足でもいいね。希望はある?」
この世のものとは思えない美しい微笑みで俺に問いかける。もう、俺に拒否権などないようだ。
「…頭を、ひとおもいに。」
力を振り絞って、そう口にする。ああ、あんなクソ従兄弟のために、俺は…。

「ふーん、今まで何人もの人間にこれやってきたけど、そんな諦めの早いのはお前が初めてだよ。みんなぶった切られる瞬間まで言い訳やら命乞いやら必死だったよ。」
「お、俺は…あのクソ従兄弟がいつかやらかすことは、分かっていたんで。」
俺の頭の中を駆け巡るのは、ホストクラブのみんな、お客さん、オーナー、何も言わずにいなくなって、怒るかな、なんて自分がもういない将来のことだった。

命乞いをしない俺が面白くなかったようで、ずっと微笑んでいた美少年は俺の髪を掴み、引っ張り上げる。
「ぐぁっ」
頭に激痛が走るが、辛うじて目を開き真正面の美少年を見る。彼は、光のない目で、俺を見つめていた。

「あー、面白くない。やっぱり足から一つずつ、取っちゃおーっと。ねえ、手足掴んで。」
チェーンソーを持っていない他の2人の男に指示を出し、俺を床に押し付ける。まず右足からいくようで、チェーンソーを持った男が俺の右側に立つ。
「んじゃ、ゆーっくり、切り離してあげるよ。バラバラだと運びやすいし、パーツだけだと買い手もすぐ見つかるんだよね。」
光の灯っていない目で、口角をあげて微笑む。俺が死ぬのは確定した。もう、俺は抗うのをやめ、痛みに備えた。

「んじゃ、解体ショーを始めまーす。多分もう痛みでまともなこと喋れなくなるから聞くけど、最後に言い残したいことはない?」
は、は、と恐怖で息が荒くなる。身体中から汗が吹き出して、寒気がする。だが、ちからを振り絞り、声を出した。

「それじゃあ…最後に、あの…」
口に出すと、周りの男4人が一斉に俺の方を向く。

「俺の身体、だけで、5千万も回収、できるんですか?」
恐怖で震えながら、美少年を見上げる。

一瞬驚いたように目を見開いたが、また暗い目に戻った。
「恐らくね。ホストなだけあって顔も悪くないし。肌も白くて身体のパーツも細くて綺麗だ。結構な値がつくよ。お釣りが来るかもね。それが何?時間稼ぎのつもり?」
無表情でそう言う彼に、少し安堵した。それなら、大丈夫だ。

「いえ、大丈夫です。それならいいんです。」
言い終えて目をつぶろうとしたが、不審な目を向けられたので、少し付け足す。

「…じゃあ、約束していただけますか。5千万回収できたら、もう借金はチャラで…俺の従兄弟には、何もしないって。」
それが不安だった。俺が死んだ後、金を回収できても、それを知らない従兄弟にまた同じことをふっかけられたら…。あいつがバラバラになって死ぬなんて、なんか嫌だしな。あいつ痛いの嫌いだし。あいつはいつまでも、フラフラしてるのが似合ってる。俺が死んだら、誰か金持ちの女にでも拾われて、ヒモ生活するだろう。
だから、これだけは約束して欲しかった。


しばらくの沈黙が流れた。周りの男は4人とも、固まったように動かない。あれ、俺なんか変なこと言ったか…?

美少年は、やっと動いたかと思うと、ぷるぷると震えている。眉を釣り上げて、怒っているような顔だ。
「おま、お前何なの?自分のことはどうでもいいの?従兄弟が勝手に借金作って全部押し付けて逃げたんだよ?それで生きたままチェーンソーでバラバラにされて、パーツで売られて、それでも人の心配?馬鹿なの?」
なぜかお説教をされているようだが、必死にまくし立てる美少年を見て、なんだか可愛くて、笑ってしまう。

「え、は?なに?」
くすっと笑うと、美少年は俺を見てどきまぎと軽く顔を赤らめる。

「いや、さっきまで冷酷な美少年て感じだったのに、急に表情豊かになって、かわいいなって」
「は、はああああ?美少年?かわいい?は、何言ってんの?媚び売って許されるとでも?」
全くそんなつもりはなく、本心で言ったのだが、美少年はあわあわとしながらも俺を怒鳴りつけてくる。でも、顔は真っ赤で、今までの彼と別人みたいで、なんだか可笑しい。


「ふふっ、そんなつもりはないですよ。準備はできてます。いつでも殺してください。」
「お、お前なああああ!…はあ、もうやる気なくした。いいよ、もう。パーツ保存するのもちょっとめんどくさいし。普通の一般人と違ってお前なら完全体のほうが価値あるし。…さっき、一ヶ月500万返済できるって言ったよね?」

なんだか、助かったようだ。何が良かったのだろう、分からないが、とりあえずほっとひとする。
「は、はい。遅くとも10ヶ月で返済します。」
「いや、それじゃダメだ。本当は今日殺して回収するつもりだったんだ、そんなに待てない。…じゃあ、一ヶ月で一千万を10ヶ月。つまり全額で1億。これが返済できるなら、今日は見逃してやる。」


い、1億?????蓮二さんレベルなら軽く出せる額かもしれないが、俺にはあまりに馴染みのない桁数だ。
…だが、本当なら今日ここで殺されてもおかしくなかったんだ。うん。このぐらい、軽いもんだ。


「わかりました、必ず返済いたします。今日殺さないでいただけたこと、本当に感謝します。」
自ら、美少年の前に跪く。そして、まっすぐ彼を見つめて言った。
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