6 / 27
6
しおりを挟む
海沿いをひた走り、次に訪れたのは巨大な港のある国だ。
先に訪れた国とは違い、ここは造船を産業としている国だった。それ故、漁船の並ぶ先の国とは違い、港には建造中の船が並んでいる。造船業という生業上、職人が多く見られる……そんな国だった。
王宮に通され、今回はすぐ食事の場を用意しておりますので……と、客間に案内される。果たして客間には、国王夫妻、それにその息子が一人、レナードとエリザベスを待っていた。
「リジー!君も来ていたなんて!」
挨拶もそこそこに、一人息子のロックが歓声をあげた。年も近く、また、これまで何度か交流があったため、エリザベスも笑顔でロックを受け入れる。
「突然の訪問、申し訳ありません。……お久しぶりですね、ロック様。お元気そうでなによりですわ」
「こちらこそ久しぶり!さ、食べよう食べよう!」
はしゃぐロックを尻目に、ちらりとレナードの方を窺うと、神妙な顔つきでエリザベスの方を見ていた。
なにか気に触ることはしたかしら……?疑問に思いながら、ロックの対面に腰を下ろす。
「しかしまぁロックの言う通りだ。エリザベス嬢もご一緒だとは。今の時期は……学園を卒業して、政務の仕事を振られる時期では?」
豊かな髭を撫でながら王が言う。
その言葉に、レナードが頭を軽く下げた。
「申し訳ありません。実は並々ならぬ事情がありまして……」
そこまで耳にして、エリザベスはすぐにピンときた。
これは、わたくしが婚約破棄されたという話をする流れなのでは?
「実は……」
レナードや先の国王夫妻の言葉を信じるなら、この国の国王夫妻もハリーとジャネットの『真実の愛』騒動を知っているに違いない。なぜレナードがここまで婚約破棄の話を吹聴したがるかは不明だったが、話すなら自分の口から話したい、そう思ったのだ。
「実は、先日、王太子であるマーク様から婚約破棄を言い渡されたのです」
「……なんだって!?」
いの一番に声を驚きの声を上げたのはロックだ。
「男爵令嬢と真実の愛に目覚めてしまったようで……。まだ公にはされていませんが、件の男爵令嬢がマーク様の婚約者に変更となりました」
「そんな!」
「婚約破棄宣言も、つい先日行われた学園の卒業パーティーで言い渡されたもので……。急な婚約破棄、しかもまだ公にはされていない話。暇を持て余すわたくしに、レナード様が補佐としての役割を与えてくださったのです」
「…………なるほどな」
なにか納得したように王が呟いた。鋭い眼光をたたえながら、なぜか、値踏みするようにレナードを見る。
「レナード様。エリザベス嬢を補佐として連れ回すとはよく考えたな」
「お褒めにあずかり光栄です」
髭を撫で、王がワイングラスを手にした。真紅の液体が、グラスの中で揺れる。
「それならリジー、次の婚約者候補はもう決まってるの?」
身を乗り出してロックがそう尋ねてきた。いいえ、とエリザベスは静かに首を横に振る。
「まだなにも。めぼしい貴族はほとんど婚約者がいらっしゃいますから。国に帰ったところで相手がいるかどうかも不明瞭ですわ」
「そりゃそうだ。……うーん、なにかツテでもあれば、」
「お言葉ですが」
ぴしゃりと。ロックの言葉を遮るようにレナードが口を開いた。
「エリザベス嬢は王妃教育を終えた令嬢。今更他国に嫁がせるわけにはいきません」
強い物言いに、エリザベスの方が驚いてしまう。
「それに、エリザベス嬢は……国にとって大切な人間です。どうかお相手の斡旋などはご容赦いただければと」
大切な。
その言い方に、場違いながらエリザベスの心臓が跳ねた。
「そうだ、ロック。あくまで他国の政治にこちらが首を突っ込むわけにはいかない」
「……申し訳ありません。少し熱くなってしまいました」
しゅん、と肩を竦めて、ロックが素直に謝った。
「ふふ、良いのです、ロック様。気にしておりませんわ」
「……リジーがそう言うのなら良いんだけど」
そうして食事会は粛々と進んだ。
なぜだかレナードだけは、いつもより少し不機嫌な様子だった。
先に訪れた国とは違い、ここは造船を産業としている国だった。それ故、漁船の並ぶ先の国とは違い、港には建造中の船が並んでいる。造船業という生業上、職人が多く見られる……そんな国だった。
王宮に通され、今回はすぐ食事の場を用意しておりますので……と、客間に案内される。果たして客間には、国王夫妻、それにその息子が一人、レナードとエリザベスを待っていた。
「リジー!君も来ていたなんて!」
挨拶もそこそこに、一人息子のロックが歓声をあげた。年も近く、また、これまで何度か交流があったため、エリザベスも笑顔でロックを受け入れる。
「突然の訪問、申し訳ありません。……お久しぶりですね、ロック様。お元気そうでなによりですわ」
「こちらこそ久しぶり!さ、食べよう食べよう!」
はしゃぐロックを尻目に、ちらりとレナードの方を窺うと、神妙な顔つきでエリザベスの方を見ていた。
なにか気に触ることはしたかしら……?疑問に思いながら、ロックの対面に腰を下ろす。
「しかしまぁロックの言う通りだ。エリザベス嬢もご一緒だとは。今の時期は……学園を卒業して、政務の仕事を振られる時期では?」
豊かな髭を撫でながら王が言う。
その言葉に、レナードが頭を軽く下げた。
「申し訳ありません。実は並々ならぬ事情がありまして……」
そこまで耳にして、エリザベスはすぐにピンときた。
これは、わたくしが婚約破棄されたという話をする流れなのでは?
「実は……」
レナードや先の国王夫妻の言葉を信じるなら、この国の国王夫妻もハリーとジャネットの『真実の愛』騒動を知っているに違いない。なぜレナードがここまで婚約破棄の話を吹聴したがるかは不明だったが、話すなら自分の口から話したい、そう思ったのだ。
「実は、先日、王太子であるマーク様から婚約破棄を言い渡されたのです」
「……なんだって!?」
いの一番に声を驚きの声を上げたのはロックだ。
「男爵令嬢と真実の愛に目覚めてしまったようで……。まだ公にはされていませんが、件の男爵令嬢がマーク様の婚約者に変更となりました」
「そんな!」
「婚約破棄宣言も、つい先日行われた学園の卒業パーティーで言い渡されたもので……。急な婚約破棄、しかもまだ公にはされていない話。暇を持て余すわたくしに、レナード様が補佐としての役割を与えてくださったのです」
「…………なるほどな」
なにか納得したように王が呟いた。鋭い眼光をたたえながら、なぜか、値踏みするようにレナードを見る。
「レナード様。エリザベス嬢を補佐として連れ回すとはよく考えたな」
「お褒めにあずかり光栄です」
髭を撫で、王がワイングラスを手にした。真紅の液体が、グラスの中で揺れる。
「それならリジー、次の婚約者候補はもう決まってるの?」
身を乗り出してロックがそう尋ねてきた。いいえ、とエリザベスは静かに首を横に振る。
「まだなにも。めぼしい貴族はほとんど婚約者がいらっしゃいますから。国に帰ったところで相手がいるかどうかも不明瞭ですわ」
「そりゃそうだ。……うーん、なにかツテでもあれば、」
「お言葉ですが」
ぴしゃりと。ロックの言葉を遮るようにレナードが口を開いた。
「エリザベス嬢は王妃教育を終えた令嬢。今更他国に嫁がせるわけにはいきません」
強い物言いに、エリザベスの方が驚いてしまう。
「それに、エリザベス嬢は……国にとって大切な人間です。どうかお相手の斡旋などはご容赦いただければと」
大切な。
その言い方に、場違いながらエリザベスの心臓が跳ねた。
「そうだ、ロック。あくまで他国の政治にこちらが首を突っ込むわけにはいかない」
「……申し訳ありません。少し熱くなってしまいました」
しゅん、と肩を竦めて、ロックが素直に謝った。
「ふふ、良いのです、ロック様。気にしておりませんわ」
「……リジーがそう言うのなら良いんだけど」
そうして食事会は粛々と進んだ。
なぜだかレナードだけは、いつもより少し不機嫌な様子だった。
3
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる