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研修生お断り
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私が泣き終わるまで、魔女は何も言わなかった。きっと、呆れているのだろう。
自分の気持ちを全部さらけ出すと、思い残す事はもうなかった。後悔はとんでもない量で襲いくるけれど、今更どうしようもないのだ。
カラス城の前で火事をおこした事も、魔法使いになりたいのは人を呪う為だという事も。
「私、帰ります」
鼻声でやっとそれだけ言うと立ち上がる。
「今でも、その思いは変わらないわけ?」
魔女は突然にそう聞く。私は自分の心を探ってみる。今でも、仕返しをしてやりたいのか。
「正直、分かりません。でも、魔法を覚えることが怖いです」
それは、誰かの命を奪う事のできるものだと知っているから。
「魔法を覚えたら、私、誰かを傷つけるんじゃないかって」
今の私にとって、一番信用できないのは自分自身だった。無意識のうちに、考え方が変わってしまったら?命を命と思えなくなったら?
投げかけても投げかけても、言葉は心の闇に落ちて行くだけだった。
いつからあったのかソファーの近くには小さなテーブルがあり、そこにはランプが置いてあった。オレンジ色の暖かい光がぼんやりと一定の距離を照らしている。
魔女は私の手を取ると、オレンジ色の光が届く場所まで何歩か移動した。私が少し困惑していると、魔女の手にはタオルがあった。
光に照らされたタオルは、ほんのりオレンジ色。魔女はタオルで私の真っ黒な手を拭いた。
暖かくて、どこかから花の香りがして心が緩む。けれど、私の手の汚れはどうせ落ちないのだ。昨日宿屋で、手の皮が剥けるほど洗ったけれど落ちはしなかったもの。
魔女が片方の手を拭き終わり、もう片方の手を拭き始めた。見ると汚れは綺麗になくなっていた。驚いて声を出す時には、両手とも綺麗に汚れが落ちていた。
「魔法?」
まるで、初めて魔法を見たような気がした。今まで授業で何度となく見せられてきたのに。不思議な気持ちで自分の両手を見入る。
「さあね」
魔女はタオルをたたむと、石の床を響かせながら歩いていく。
「魔法というのはね、人が作り出す希望そのものよ。荷物、奥の部屋に運びなさい」
感情が見えない魔女の言葉に驚いた。最後の言葉は聞き間違いだろうか。
いや、確かに言ったはずだ。
自分の気持ちを全部さらけ出すと、思い残す事はもうなかった。後悔はとんでもない量で襲いくるけれど、今更どうしようもないのだ。
カラス城の前で火事をおこした事も、魔法使いになりたいのは人を呪う為だという事も。
「私、帰ります」
鼻声でやっとそれだけ言うと立ち上がる。
「今でも、その思いは変わらないわけ?」
魔女は突然にそう聞く。私は自分の心を探ってみる。今でも、仕返しをしてやりたいのか。
「正直、分かりません。でも、魔法を覚えることが怖いです」
それは、誰かの命を奪う事のできるものだと知っているから。
「魔法を覚えたら、私、誰かを傷つけるんじゃないかって」
今の私にとって、一番信用できないのは自分自身だった。無意識のうちに、考え方が変わってしまったら?命を命と思えなくなったら?
投げかけても投げかけても、言葉は心の闇に落ちて行くだけだった。
いつからあったのかソファーの近くには小さなテーブルがあり、そこにはランプが置いてあった。オレンジ色の暖かい光がぼんやりと一定の距離を照らしている。
魔女は私の手を取ると、オレンジ色の光が届く場所まで何歩か移動した。私が少し困惑していると、魔女の手にはタオルがあった。
光に照らされたタオルは、ほんのりオレンジ色。魔女はタオルで私の真っ黒な手を拭いた。
暖かくて、どこかから花の香りがして心が緩む。けれど、私の手の汚れはどうせ落ちないのだ。昨日宿屋で、手の皮が剥けるほど洗ったけれど落ちはしなかったもの。
魔女が片方の手を拭き終わり、もう片方の手を拭き始めた。見ると汚れは綺麗になくなっていた。驚いて声を出す時には、両手とも綺麗に汚れが落ちていた。
「魔法?」
まるで、初めて魔法を見たような気がした。今まで授業で何度となく見せられてきたのに。不思議な気持ちで自分の両手を見入る。
「さあね」
魔女はタオルをたたむと、石の床を響かせながら歩いていく。
「魔法というのはね、人が作り出す希望そのものよ。荷物、奥の部屋に運びなさい」
感情が見えない魔女の言葉に驚いた。最後の言葉は聞き間違いだろうか。
いや、確かに言ったはずだ。
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