隣の夜は青い

No.26

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火属性現る

02

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 照と出会う前。俺たち四人はある決め事をした。

「照には悪いけど、彼にはメジと先生が付き合っていることは隠した方がいい」

 浦瀬はそう言って、ため息混じりに説明を続ける。

「あいつ、悪気はないんだけど、口が軽いしバカだから、メジと先生が付き合ってるってすぐ周りに広まると思う。まあ、別に絶対隠せって言ってるわけじゃないけど……ライブが終わるまでは、二人はただの家が近い友達だってことにしといた方がいいと思う」
「そもそも、今後俺とメジの関係をネットとかで公表したりするのか?」

 そう聞くと、浦瀬と一芽は揃って「うーん」と頭を悩ませる。

「メジは女の子のファンも多いし、戦略的に考えるんだったら隠し通すのがセオリーだけど……ボクらは別にアイドル営業するつもりはないから、変に隠すのもおかしいか……?」
「けど、突然オレが恋人いるよって言ったところで、普通に曲を聞いてくれてる人からしたら、だから何?って感じじゃない? 結婚とかなら別だけど」

 一芽の口からさりげなく放たれたワードに、俺も浦瀬も、聞いていた面谷も揃って彼を見た。

「結婚、か……まあ明確な基準だけど……」
「……え、オレ、なんか変なこと言った?!」
「い、いや、変じゃないし、僕も先生とメジくんが結婚してくれたら嬉しいけど……日本だと、まだ男同士は結婚できないよね……?」

 浦瀬と面谷の言葉に、俺は頷く。
 一芽は照れたように目を泳がせた。

「そっか、なら、えっと……指輪とか買うことになったら公表する?」
「そ……そうだな」

 一芽にそう聞かれて、思わず頷く。
 やばい。真剣に考え出すとなんかドキドキしてきた。

「……いや、急に甘酸っぱい雰囲気になられても困るからやめてほしいんだけど」

 俺と一芽がそわついてると、浦瀬に白い目で見られた。

 そうして、今後の公表はさておき、とりあえず俺たちは照に関係を黙秘することにした。



「セイは、ギター何年やってるの?」

 無事に練習が終わった後、俺たちは早めの夕飯を食べに五人で焼き鳥屋に行った。
 正面に座る照にそう聞かれ、俺は枝豆を食べる手を止めて答える。

「アコギ含めたら五年くらいかな。高校の文化祭で演奏して以降はしばらくやってなかったんだけど」
「へえ、先生のアコギ聞いてみたいです」
「実家にあるから、今度機会があったら持ってくるよ」

 興味津々になる浦瀬に、俺はそう返し、ふと今日の練習を思い出した。

「っていうか、エレキギターも買わないとだな。スタジオでレンタルし続けるわけにもいかないし」
「あっ、それならオレ、買いに行くの付き合うよ!良い店知ってる」

 俺の独り言のような言葉に、照が手を上げた。

「それは助かる。後で空いてる日連絡するよ」
「それなら、オレもついていこうかな」

 俺が了承すると、隣にいた一芽がそう言った。
 照は笑顔のまま、首を傾げる。

「いこいこ!!メジくんもなんか買うものあるの?」
「んー、なんか楽しそうだから?」

 一芽はなぜかそう、曖昧に答えた。
 そんな返答をするのは、なんだか珍しい。俺が知らないだけで、一芽と照は仲が良いのかもしれないけど。
 照は「そっかー!いいよ!」と軽く答えてから、俺に視線を戻した。

「ていうか、ギター持ってないなら、どうやって練習してたの?」
「一芽のをたまに貸してもらってた」
「あ~! そういや家近いって言ってたっけ。いいね!」

 照はそう言って、特に何も疑問に思わずに笑い、酒の入ったジョッキを煽る。
 何も思われなくて本当に助かった。


 そうして、三人で楽器店に行く約束をして、バンドの練習日は終わった。
 道端で解散し、帰り道で一芽と二人きりになる。
 二月の夜は相変わらず寒い。時間は、まだ午後七時半。

「せーちゃん、今日オレの家来ない?」
「……俺も、今そう言おうと思ってた」

 そう俺が答えると、一芽は嬉しそうに笑う。
 俺はその言葉の意図をわかっていながら、あえて聞いた。

「勉強は進んでる?」
「え?……あ、う、うん、せーちゃんに言われたテストは解いてみたよ」
「よし。じゃあ後で一緒に解答を確認しよう。風呂入った後、俺の家で合流でもいい?」

 そう言うと、一芽は少し目を泳がせた後、こくりと頷いた。



 ローテーブルに、答えが記入されたテストの模擬問題を広げる。それを床に座って二人で確認した。

「文系科目と英語はすでに合格点取れてるな。問題は理数系の科目か」
「……………」

 そう点数を見ながら言うと、一芽は俺の顔をじっと見つめてきた。
 俺はテストから目を離し、一芽に微笑む。

「どうした?」
「……今日、しないの?」
「何を?」
「……その、えっちなこととか……」

 一芽は頬を赤らめて、そうもごもご言う。
 俺はわざと首を傾げた。

「勉強はいいの?」
「い、いや、その、オレは勉強でも良いんだけど。今週はしてないから、しないのかなーって……」

 一芽はそうしどろもどろになる。
 素直に言えない様子が可愛くて、思わず笑って腰を抱き寄せた。

「っはは、からかってごめん。……俺もシたい」

 最後はそう囁くと、一芽はもっと頬を赤くする。
 そして一芽は俺の肩に頭を置き、ポツリと呟いた。

「……せーちゃんってさ、やっぱすごいモテるよね」
「え?」
「いや、なんでもない」

 意図が分からなくて聞き返すけど、一芽の綺麗な微笑みで誤魔化される。
 俺はその隙を見て、一芽の脇腹をくすぐった。

「あっ、ちょ、ひぁ…?!あはは!!や、やめっ…!!」

 一芽は笑い声をあげ、身を捩って俺に縋り付く。

「……一芽……声エロすぎ」
「え?! せーちゃんがくすぐってきたんでしょ?!」

 自分でやりはじめたことだけど、勃った。外じゃなくてよかった。
 それは一旦さて置き、一芽の言葉が気になって聞いた。

「俺がモテるって? 一芽もそうだろ?」
「んー、告白とかはされたりするけど、せーちゃんみたいに慣れてはないって言うか……」

 一芽はそうもごもご言ったあと、俺を見つめてこう聞いた。

「せーちゃんって、今まで付き合った人って何人?」
「三ヶ月以上続いたのは三人かな。みんな女の子」
「経験人数は?」
「……秘密」

 そう返すと、一芽は俯いた。

「え、どうした?」

 その目に涙が溜まってることに気づいて、慌てて顔を覗き込んだ。

「っ……今日のテルくんとのやりとりとか見てたら、せーちゃんってかっこいいしモテるから、オレなんかより他の人と付き合った方が楽しいんじゃないかって、不安になって……うー、ウザくてごめん」

 一芽はそう言って、目を拭う。
 俺はそんな一芽を見て、素直に思ったことを言った。

「……泣き顔マジで可愛い」
「ちょっと?!ねえ、真面目な話してるんだけど?!」
「ごめんごめん」

 そう謝って、一芽の目元を指で拭った。

「一芽とは一緒にいて楽しいから、俺は今のところ別れる理由もないし、他に相手作る予定もないよ。だから安心して」
「……うん」

 一芽は頷いて、顔を上げて微笑んだ。それは、無理やり作ったような笑みだった。
 けれど、一芽がそんな不安を感じる必要は、本当にないんだ。俺は、一芽と別れる気なんてさらさらないんだから。
 それをわかって欲しくて、その口に軽くキスをしてから、甘く尋ねた。

「そろそろベッド行く?」
「………………」
「一芽?」

 名前を呼んで、頭を撫でる。
 すると、一芽は恥ずかしそうに言った。

「……その、ここでされてみたい」

 その視線は、リビングの床にある。
 俺は、自然と口角が上がった。

「いいよ。……けど、床汚すなよ」

 そう言って、一芽を床に押し倒した。
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