隣の夜は青い

No.26

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火属性現る

01

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 ラブホでなんやかんやがあった、その一週間後。

 ここは、いつも俺たちが楽器の練習で借りているスタジオ。
 そこには、俺を合わせて『五人』の人間がいた。

「呼んでくれてありがとぉ~~~!!!」

 赤い派手な髪、耳にいくつも空いたピアス。
 そしてギターケースを背負っているその男は、部屋に入ってくるなり満面の笑みでそう叫んだ。

「オレ、テルって言います! 本名は木下照(きのしたてる)でーす!! ほんっとにキラさんのファンで、キラさんの曲のベースパート全部弾けまぁす!!!」

 彼は、このバンドの新メンバー……つまりベースギターを担当する男だった。

「相変わらずうるさいな……これだから呼ぶの迷ったんだよ」
「え?!俺のこと褒めてる?!」
「褒めてない。どう解釈したら褒めたことになるんだ」

 浦瀬はそんなとにかく明るい照にため息をついたあと、俺たち他の三人を見渡して行った。
 
「テルさんはベーシストとして活動していて、メジとボクの知り合いなんだ。確か先生と同い年だと思う」
「へえ、そうなんだ」

 浦瀬も面谷も一芽も年下だから、同い年が入ってくれるのは嬉しい。俺は照に手を差し伸べた。

「俺は真中征一、リードギターを担当させてもらってる。よろしく」
「よろしくーー!」

 俺がそう言うと、照は太陽みたいにニカッと眩しく笑って、俺の手を両手で握った。悪い奴ではなさそうだ。

「つかタメうれし~! なんで呼んだらいい?」
「んー、真中でも征一でもなんでもいいけど……そういえば、この前の動画のクレジットは『セイ』にしてもらってたな」

 そう考えながら放たれた俺の言葉に、照は目を見開いた。

「え……?!もしかして、あの新曲のプロミネンスのギター弾いてた『セイ』?!」
「え?うん」

 頷くと、照は興奮気味に俺の手をブンブン振った。

「すっげー!リードギターめっちゃうまいと思ってたんだよ!!会えて超~~嬉しい!!」
「はは、ありがと」

 ネットでも色々褒め言葉が並んでいたけど、こうやって現実でも褒められると、より一層嬉しさが増す。

「高速トリルのとこ、どうやってんの?あれ」
「え?普通にこう……」

 手元に持っていたギターの弦を、照の前で弾いてみせる。
 照は感心したように、

「はっや。てか手つきエロ~」
「…………」

 その手の動きのまま、照の脇腹をくすぐった。

「ちょ、やめ!!ごめんて!!ぎゃはは!!降参降参!!」
「ふん。わかればよろしい」

 笑い転げる照を見て、手を離す。
 そんなやりとりを、後ろの年下三人たちは遠巻きに見ていた。

「意外にも初対面の先生が一番打ち解けてるな」
「一軍陽キャ同士……火属性と氷属性だ……」
「…………」

 けれどそのとき、一芽はなぜか黙ったままだった。



「この前、メジとボクで相談してセトリを作ったんだ」

 一通り、楽器の準備や自己紹介などが済んだ後。浦瀬はスタジオの椅子の上でパソコンを開き、画面を俺たちに見せた。

「約二時間のライブで、計二十一曲、そのあとアンコールが三曲ある構成だ。……アンコールは、くればだけど」
「くるくる!!絶対くるって!!」

 照がそう明るく励ますと、浦瀬はふっと笑って、話を続けた。

「その全二十四曲のうち、先生……『セイ』のリードギターが必要な曲は、後半の十五曲」
「ってことは、最初の方俺は必要ないのか?」
「そうです。先生は本業もあるから少なめにしました」

 俺が聞くと、浦瀬は頷き、

「あと、ボクの曲はピアノがメインになってる曲が半分なので、おとなしい曲たちを前半に持ってきて、後半はノリのいい曲にしたいなと思っています」

 気を遣ってもらえるのは助かるし、たしかにその方が盛り上がりの強弱がついてよさそうだ。

「それまでのギターパートと、そのあとのサイドギターはメジが担当」
「うん。ギターもっと練習して、足引っ張らないように頑張るよ!」

 そう意気込む一芽に、浦瀬は言葉を付け加えた。

「それから、先生とメジは全体練習に加えて、ギターを合わせる練習をしたほうがいいと思う。……まあ、二人は息もぴったりだし、心配ないと思うけど」

 にやっと笑った浦瀬に、俺と一芽は少し気まずくて目を逸らす。
 一方、何も知らない照は、「へー!」と感心するような声を上げた。

「メジくんとセイ、仲良いんだ!なんか意外~」
「そう見えるか?実は超ー仲良し」
「ちょ、ちょっと、せーちゃん……」

 そう言って、隣にいた一芽の頭をぽんぽんと撫でると、一芽は少し焦ったように俺を見上げる。
 そんな俺たちを、浦瀬は白い目で見てから、再び全員を見渡した。

「まあそういうわけで、早速練習しよう」
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