35 / 38
火属性現る
01
しおりを挟む
ラブホでなんやかんやがあった、その一週間後。
ここは、いつも俺たちが楽器の練習で借りているスタジオ。
そこには、俺を合わせて『五人』の人間がいた。
「呼んでくれてありがとぉ~~~!!!」
赤い派手な髪、耳にいくつも空いたピアス。
そしてギターケースを背負っているその男は、部屋に入ってくるなり満面の笑みでそう叫んだ。
「オレ、テルって言います! 本名は木下照(きのしたてる)でーす!! ほんっとにキラさんのファンで、キラさんの曲のベースパート全部弾けまぁす!!!」
彼は、このバンドの新メンバー……つまりベースギターを担当する男だった。
「相変わらずうるさいな……これだから呼ぶの迷ったんだよ」
「え?!俺のこと褒めてる?!」
「褒めてない。どう解釈したら褒めたことになるんだ」
浦瀬はそんなとにかく明るい照にため息をついたあと、俺たち他の三人を見渡して行った。
「テルさんはベーシストとして活動していて、メジとボクの知り合いなんだ。確か先生と同い年だと思う」
「へえ、そうなんだ」
浦瀬も面谷も一芽も年下だから、同い年が入ってくれるのは嬉しい。俺は照に手を差し伸べた。
「俺は真中征一、リードギターを担当させてもらってる。よろしく」
「よろしくーー!」
俺がそう言うと、照は太陽みたいにニカッと眩しく笑って、俺の手を両手で握った。悪い奴ではなさそうだ。
「つかタメうれし~! なんで呼んだらいい?」
「んー、真中でも征一でもなんでもいいけど……そういえば、この前の動画のクレジットは『セイ』にしてもらってたな」
そう考えながら放たれた俺の言葉に、照は目を見開いた。
「え……?!もしかして、あの新曲のプロミネンスのギター弾いてた『セイ』?!」
「え?うん」
頷くと、照は興奮気味に俺の手をブンブン振った。
「すっげー!リードギターめっちゃうまいと思ってたんだよ!!会えて超~~嬉しい!!」
「はは、ありがと」
ネットでも色々褒め言葉が並んでいたけど、こうやって現実でも褒められると、より一層嬉しさが増す。
「高速トリルのとこ、どうやってんの?あれ」
「え?普通にこう……」
手元に持っていたギターの弦を、照の前で弾いてみせる。
照は感心したように、
「はっや。てか手つきエロ~」
「…………」
その手の動きのまま、照の脇腹をくすぐった。
「ちょ、やめ!!ごめんて!!ぎゃはは!!降参降参!!」
「ふん。わかればよろしい」
笑い転げる照を見て、手を離す。
そんなやりとりを、後ろの年下三人たちは遠巻きに見ていた。
「意外にも初対面の先生が一番打ち解けてるな」
「一軍陽キャ同士……火属性と氷属性だ……」
「…………」
けれどそのとき、一芽はなぜか黙ったままだった。
「この前、メジとボクで相談してセトリを作ったんだ」
一通り、楽器の準備や自己紹介などが済んだ後。浦瀬はスタジオの椅子の上でパソコンを開き、画面を俺たちに見せた。
「約二時間のライブで、計二十一曲、そのあとアンコールが三曲ある構成だ。……アンコールは、くればだけど」
「くるくる!!絶対くるって!!」
照がそう明るく励ますと、浦瀬はふっと笑って、話を続けた。
「その全二十四曲のうち、先生……『セイ』のリードギターが必要な曲は、後半の十五曲」
「ってことは、最初の方俺は必要ないのか?」
「そうです。先生は本業もあるから少なめにしました」
俺が聞くと、浦瀬は頷き、
「あと、ボクの曲はピアノがメインになってる曲が半分なので、おとなしい曲たちを前半に持ってきて、後半はノリのいい曲にしたいなと思っています」
気を遣ってもらえるのは助かるし、たしかにその方が盛り上がりの強弱がついてよさそうだ。
「それまでのギターパートと、そのあとのサイドギターはメジが担当」
「うん。ギターもっと練習して、足引っ張らないように頑張るよ!」
そう意気込む一芽に、浦瀬は言葉を付け加えた。
「それから、先生とメジは全体練習に加えて、ギターを合わせる練習をしたほうがいいと思う。……まあ、二人は息もぴったりだし、心配ないと思うけど」
にやっと笑った浦瀬に、俺と一芽は少し気まずくて目を逸らす。
一方、何も知らない照は、「へー!」と感心するような声を上げた。
「メジくんとセイ、仲良いんだ!なんか意外~」
「そう見えるか?実は超ー仲良し」
「ちょ、ちょっと、せーちゃん……」
そう言って、隣にいた一芽の頭をぽんぽんと撫でると、一芽は少し焦ったように俺を見上げる。
そんな俺たちを、浦瀬は白い目で見てから、再び全員を見渡した。
「まあそういうわけで、早速練習しよう」
ここは、いつも俺たちが楽器の練習で借りているスタジオ。
そこには、俺を合わせて『五人』の人間がいた。
「呼んでくれてありがとぉ~~~!!!」
赤い派手な髪、耳にいくつも空いたピアス。
そしてギターケースを背負っているその男は、部屋に入ってくるなり満面の笑みでそう叫んだ。
「オレ、テルって言います! 本名は木下照(きのしたてる)でーす!! ほんっとにキラさんのファンで、キラさんの曲のベースパート全部弾けまぁす!!!」
彼は、このバンドの新メンバー……つまりベースギターを担当する男だった。
「相変わらずうるさいな……これだから呼ぶの迷ったんだよ」
「え?!俺のこと褒めてる?!」
「褒めてない。どう解釈したら褒めたことになるんだ」
浦瀬はそんなとにかく明るい照にため息をついたあと、俺たち他の三人を見渡して行った。
「テルさんはベーシストとして活動していて、メジとボクの知り合いなんだ。確か先生と同い年だと思う」
「へえ、そうなんだ」
浦瀬も面谷も一芽も年下だから、同い年が入ってくれるのは嬉しい。俺は照に手を差し伸べた。
「俺は真中征一、リードギターを担当させてもらってる。よろしく」
「よろしくーー!」
俺がそう言うと、照は太陽みたいにニカッと眩しく笑って、俺の手を両手で握った。悪い奴ではなさそうだ。
「つかタメうれし~! なんで呼んだらいい?」
「んー、真中でも征一でもなんでもいいけど……そういえば、この前の動画のクレジットは『セイ』にしてもらってたな」
そう考えながら放たれた俺の言葉に、照は目を見開いた。
「え……?!もしかして、あの新曲のプロミネンスのギター弾いてた『セイ』?!」
「え?うん」
頷くと、照は興奮気味に俺の手をブンブン振った。
「すっげー!リードギターめっちゃうまいと思ってたんだよ!!会えて超~~嬉しい!!」
「はは、ありがと」
ネットでも色々褒め言葉が並んでいたけど、こうやって現実でも褒められると、より一層嬉しさが増す。
「高速トリルのとこ、どうやってんの?あれ」
「え?普通にこう……」
手元に持っていたギターの弦を、照の前で弾いてみせる。
照は感心したように、
「はっや。てか手つきエロ~」
「…………」
その手の動きのまま、照の脇腹をくすぐった。
「ちょ、やめ!!ごめんて!!ぎゃはは!!降参降参!!」
「ふん。わかればよろしい」
笑い転げる照を見て、手を離す。
そんなやりとりを、後ろの年下三人たちは遠巻きに見ていた。
「意外にも初対面の先生が一番打ち解けてるな」
「一軍陽キャ同士……火属性と氷属性だ……」
「…………」
けれどそのとき、一芽はなぜか黙ったままだった。
「この前、メジとボクで相談してセトリを作ったんだ」
一通り、楽器の準備や自己紹介などが済んだ後。浦瀬はスタジオの椅子の上でパソコンを開き、画面を俺たちに見せた。
「約二時間のライブで、計二十一曲、そのあとアンコールが三曲ある構成だ。……アンコールは、くればだけど」
「くるくる!!絶対くるって!!」
照がそう明るく励ますと、浦瀬はふっと笑って、話を続けた。
「その全二十四曲のうち、先生……『セイ』のリードギターが必要な曲は、後半の十五曲」
「ってことは、最初の方俺は必要ないのか?」
「そうです。先生は本業もあるから少なめにしました」
俺が聞くと、浦瀬は頷き、
「あと、ボクの曲はピアノがメインになってる曲が半分なので、おとなしい曲たちを前半に持ってきて、後半はノリのいい曲にしたいなと思っています」
気を遣ってもらえるのは助かるし、たしかにその方が盛り上がりの強弱がついてよさそうだ。
「それまでのギターパートと、そのあとのサイドギターはメジが担当」
「うん。ギターもっと練習して、足引っ張らないように頑張るよ!」
そう意気込む一芽に、浦瀬は言葉を付け加えた。
「それから、先生とメジは全体練習に加えて、ギターを合わせる練習をしたほうがいいと思う。……まあ、二人は息もぴったりだし、心配ないと思うけど」
にやっと笑った浦瀬に、俺と一芽は少し気まずくて目を逸らす。
一方、何も知らない照は、「へー!」と感心するような声を上げた。
「メジくんとセイ、仲良いんだ!なんか意外~」
「そう見えるか?実は超ー仲良し」
「ちょ、ちょっと、せーちゃん……」
そう言って、隣にいた一芽の頭をぽんぽんと撫でると、一芽は少し焦ったように俺を見上げる。
そんな俺たちを、浦瀬は白い目で見てから、再び全員を見渡した。
「まあそういうわけで、早速練習しよう」
20
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる