隣の夜は青い

No.26

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大人の宿泊カラオケ会

01

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 二月初めての、土曜日。
 生徒たちがそれぞれ希望の大学に出願したことを見届け、気持ちがひと段落ついたその夜、俺は意気揚々と帰路を歩いていた。
 理由は二つある。一つは、今日一芽が家に夕飯を持ってきてくれるということ。
 もう一つは……。

「はー、一週間ぶりにヤれる……!」

 一芽とセックスができるということ。
 我ながら煩悩しかないが、ここ数日の激務で頭が疲労しているから、ちょっとくらい本能に走っても許してほしい。
 今日は何しよう、一芽の手首だけじゃなくて足も縛るか。
 そんなことを考えながらアパートの階段を上がると、しかしそこには複数の人影があった。

「あっ、先生!おかえりなさい」
「え?浦瀬?面谷くん?」

 俺の家の入り口には、一芽と並ぶ浦瀬と面谷の姿があった。
 驚く俺を、一芽は申し訳なさそうに見て、

「ごめんせーちゃん……二人ともオレの新居見たいって今日来てたんだけど、このあとせーちゃんと夕飯食べること言ったら、ぜひ一緒にって……」
「ああ……なるほど」

 なるべく平常心を装って、そう中身のない相槌を打つ。
 一芽は様子を伺うように、目を泳がせる。

「鍋の材料も、四人分買っちゃったんだけど……せーちゃん仕事で疲れてるしやっぱり今日は……」
「いやいや、鍋食おうぜ。三人とも俺の家来るでいいよな?」

 そうして断れず、俺は三人を家に呼んだ。
 


「本当にメジと家隣なんですね……わー、うちの大学の赤本だ。懐かしい」

 浦瀬は俺の部屋を歩き回り、本棚をキラキラした目で見ている。
 一応、一芽が来る想定で家は片付けていたし、棚にも人に見られてまずいものはないはずだ。俺は電子派だからな。
 浦瀬がうろつき回るその一方、テーブルにぐつぐつと煮えるキムチ鍋の向こうで、面谷は置物のように体育座りをしている。
 相変わらず目が隠れていて感情はわかりづらいが、申し訳なさそうな雰囲気で俺の方を向いていた。

「い、いきなり押しかけちゃってすみません……先生はメジくんと二人で約束してたのに……」
「ううん、いいよ別に。みんなで飯食ったほうが楽しいし」

 俺は大人なので、表面上はにこやかにそう答える。
 …………内心、よくないけど。
 隣にいる一芽をチラリと見る。
 一芽はずっと鍋の世話を焼いていた。熱い鍋をいじっているせいか、その首元は少し汗ばんでいて、頬はほんのりと上気している。
 あー、いつ見ても本当に可愛い。その汗舐めたい。今すぐ押し倒して襲いたい。
 けれど浦瀬と面谷の前でそんなことできるわけがないのは頭ではわかっているから、ムラつきを抑え込んで、必死に冷静を装った。

「んー、そろそろいいかな……みんなおまたせ! 乾杯しよ!」

 一芽はそう言って箸を置いた。
 そうしてキムチ鍋が完成し、宅飲みが始まった。



「そういえば、今度みんなでカラオケ行かないか?」

 鍋の中身がほとんどなくなり、酒も進んだ頃。
 浦瀬がストゼロの二缶目を開けながら、そんなことを言ってきて、俺は思わず言葉を返す。

「へえ、浦瀬がそういうこと言うの意外だな」

 てか、発言もそうだけど、かなり酒強いなこいつ。真面目そうで童顔のくせに。
 そう思っていると、浦瀬はちょっと照れたように笑い、

「ボクたちがこの前あげた曲が今日カラオケに入ったんですよ。だから、ちゃんと入ってるかどうか実際に見に行きたくて」
「そういうことか。それなら俺も久しぶりに行きたいけど……一芽も行くのか?」
「え?もちろん行きたいし、歌うけど……」

 一芽は甘そうな酎ハイを持ったまま、不思議そうにこっちを見る。俺は今一芽の顔見てると勃つから、あんまりまともに見れない。浦瀬に視線を戻した。

「一芽本人が歌ってて大丈夫なのかなって思ったんだけど。カラオケ、結構壁薄いから筒抜けだろ」

 そういうと、浦瀬は目を瞬かせ、

「今までは何も起きてないんですけど……三人で人が少ない平日の昼とかに行ってたからかな……」
「平日の昼は俺が難しいな」
「あっ、それならほら、旅館とかにカラオケついてるところあるよね?ああいうのは?」
「あー、ラブホとか?」

 面谷の言葉に、俺はにこやかに思いついたことをそのまま口にした。
 ……しん、と場が静まる。
 面谷は気まずそうに顔を逸らし、一芽は頬を赤らめ、そして浦瀬はにっこり笑みを浮かべて首を傾げた。

「先生?」
「酒入ってるので許してください」

 元生徒に圧をかけられて、思わず謝る。まずい。だいぶ酔いが回って口が緩くなってきた。
 しかし浦瀬は、考えるように顎に手を当て、

「まあけど、選択肢としてはアリか。男だけでラブホ入れるのか?」
「う、うーん……そもそも四人がどうだろう……」
「聞いてみる?男四人でラブホ入れますかって」

 笑いながらそう放たれた一芽の言葉に、俺も笑って言った。

「はは、四人で乱交すると思われそう」
「先生?」
「はい」

 また浦瀬に圧をかけられ、素直に返事をする。
 浦瀬は意外そうな目を俺に向けた。

「先生、もしかして酔うと下ネタ止まらなくなるタイプですか?」
「…………左様ですね……」
「せーちゃん大丈夫?お水飲む?」

 一芽はそう言って、俺に天然水を汲んでくれる。気遣いは嬉しいけど、今はその声聞いてるだけでムラつくから話しかけないでほしい。
 浦瀬は俺たちの様子を横目で見ながら、スマホを取り出して操作をする。そして耳に当てた。

「もしもし……まず聞きたいことがあって。友達同士の男四人とかでも入れますか?」

 そうして電話が終わり、浦瀬はこちらを見た。

「一応追加料金で行けるらしい。なんなら今からでも空いてるって」
「え?じゃあ、今から行く?」

 一芽の言葉に、面谷と浦瀬は顔を上げた。

「僕、明日予定ないよ」
「ボクも。先生は?」

 三人に目を向けられて、俺は反射的につい正直に答えてしまった。

「俺もないけど……」
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