隣の夜は青い

No.26

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セイなる夜に

03

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 時間帯も遅いせいか、クリスマスマーケットはそこまで混雑していなかった。
 西洋風の白いテントが電飾でライトアップされ、おしゃれな屋台には飲食物やアクセサリー、スノードームなんかも売っている。
 その非日常感に、見ているだけでテンションが上がった。戸成もきっとそうだと思う。

「何食う?」
「せっかくだしチキン食べたいな~。あとホットワイン飲みたい!」
「ホットワイン?」

 それは聞きなれない単語で、戸成に聞き返した。

「飲んだことない? 美味しいよ。けど甘いからせーちゃんは苦手かも」
「そうか。悩むな……」

 そうして店でチキンとポテトを買って、あと戸成は例のホットワインを持って、二人横に並んで椅子に座った。

「戸成、ホットワインどう?」
「おいしいよ~。せーちゃんも試しに飲んでみる?」
「……じゃあ、ちょっとだけ」

 勧められて、遠慮なく一口もらう。
 確かに甘いが、俺が飲めない甘さじゃない。
 むしろ温かくてしっかりワインの味がして、美味かった。

「うまいな……俺も買ってこようかな」
「いいじゃん! クリスマスくらいしか飲めないし」

 そうして俺は一度席を離れ、すぐそばの屋台へホットワインを買いに行った。
 大きめのマグカップひとつ分をなみなみ注がれたが、まあ熱でアルコールは飛ばしてあるから度数は低いだろう。

 ……そう、俺は失念していた。
 ワインは元々、アルコール度数が高いということを。
 そして、自分の酒癖の悪さを。



「で、そのお客さん面白くてさー、間違えて子供のコーラにミルク入れちゃったんだよね。オレは見てたけど、キッチンにいたから止められなくて~」
「へぇー……」

 チキンとポテトは食べ終わり、ホットワインのマグカップは空になった。
 まだワインを飲みながらけらけら笑いながら話す戸成に、俺は返事をしながらその肩を抱いた。
 戸成は驚いたように俺を見る。

「……せーちゃん?」

 その唇は、ホットワインで少し赤く染まって、つやりと光っていた。。
 ……ああ、美味しそう。今すぐ食べてしまいたい。

「っ、ま、待って、ここ外だから……!」
「ん?」

 俺がその口を舐めようとすると、戸成は慌てて身を引いた。

「せ、せーちゃん、もしかしてかなり酔ってる……?!」
「んにゃー酔ってないよ」
「酔ってるよね?!」

 そう言って慌てる戸成……いや、一芽。
 景色がふわふわぼやけていって、一芽の声しか聞こえなくなる。
 世界に、俺と一芽しかいなくなる。

「……一芽、ほんとに可愛い……」
「っ~~~、ちょ、ちょっと、みんな見てるよ……?!」

 名前を呼んでその首に顔を擦り寄せると、一芽は俺の頭を押さえて離そうとする。
 構わず、その耳元で囁いた。

「今すぐ抱き潰したい」
「……っ」
「なあ、いいだろ?」

 俺がそう言って首にキスをすると、一芽の顔が耳まで一気に赤くなる。
 服の中に手を入れてそのベルトに触れると、一芽はガタンと椅子から立ち上がった。

「ほ、ホテル行こ! 今から! そこまで我慢して……!」
「……ん、いいよ」

 なんだかよくわからないけど、ホテルは俺も行きたい。立ち上がって、一芽と手を繋いでマーケットを出た。



「どうしよ、高い部屋しかない……まあいっか、クレカ持ってるし……」

 一芽はそう独り言をいいながら、ホテルの入口のパネルをタッチしている。
 そんな様子を見ていると、だんだん頭が冷めてきた。

「オレ準備してくるから、待っててね」
「あ、ああ……」

 気がついたらスイートルームのベッドに座っていて、一芽は早々にバスルームへ行った。
 バタン、とシャワー室のドアが閉まった音がして。

「………………しにたい……」

 そこでようやく、理性とここまでの記憶が全部蘇った。

「あああ~~~ッッッ殺してくれ……!!!くそ、なんでこんなことに……!!!」

 羞恥心が頂点に達して、顔を覆う。広いベッドで暴れる。
 疲れてたからとか溜まってたからとか、色々言い訳はできるけどもう遅い。
 やばい。恥ずい。人が大勢いるところで、一芽にあんなこと……?!
 絶対めちゃくちゃ見られたじゃん。てかキモいって。自重しろ。ほんとしにたい。まぢ無理マリカしよ。
 そう俺がジタバタしていると、少し顔を赤らめた一芽が戻ってきた。

「せーちゃん、お待たせ」
「……大変申し訳ございません」

 一芽の目の前に、スライディング土下座をする。

「え?! ……あ、酔いさめた?」
「……殺してください……」
「こ、殺さないけど?! 顔あげてよ!」

 一芽に慌てて顔を上げさせられ、二人でベッドに座り直す。

「俺……自分で外だといちゃつきたくないとか言っときながら……けど正直元々一芽とめっちゃシたくて……いや理由にならんけど……はあああ」
「よ、酔ってたなら仕方ないよ! ワインって酔いやすいし……!」
「一芽だって、クリスマスマーケットもっと楽しみたかっただろうし……ごめん……」

 後悔しまくる俺を、一芽はよしよししてくれる。
 一芽は俺がこんなキモいおっさんみたいなことしても、引いてないみたいだ。本当に優しい。俺に惚れてる。

「せーちゃん……もう、えっちする気なくなった?」
「……え?」
「その……オレの方がその気になってきちゃった……」

 一芽は落ち着かない様子で、自分のシャツの裾を引っ張る。
 俺はその服の中に手を入れた。

「あ、ちょっと……!」
「……勃ってる。可愛い」
「ん…っ、だ、だって、酔ってるせーちゃんめっちゃエロかったし……なんか色々想像しちゃって……」

 けれど一芽もかなりそういう気分になってしまったのか、抵抗せずに顔を俺の肩に押し付けた。

「性欲は全然なくなってないから、安心してくれ。朝までいける」
「い、いや、嬉しいけど……ほどほどで……」

 そう言われたのは聞かなかったことにして、俺は一芽を押し倒した。
 そうして、一日遅れの性なる夜が始まった。
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