9 / 38
コンプレックスの二乗
05
しおりを挟む
☆☆☆
レースカーテン越しに注ぐ、窓からの光で目が覚める。
「うっ……」
体を起こそうとすると、ずきんと鈍い痛みが腰に走って、ぱたりと仰向けの状態に戻った。
瞬時に昨夜の情事を思い出して、思わず隣で眠る彼を見た。
(せーちゃん……今回もめちゃくちゃにエロかったな)
あとオレが思ってたより、かなりドSだった。まさか手首を縛られるとは……。
けれど引くどころか思い出しただけで顔が熱くなって、また心臓がドキドキしてくる。
……ていうか、
(無理矢理されるのってなんか……興奮する……)
ついそんなことを思ってしまって、慌てて首を横に振る。
いやいや、オレはノーマルだから。別にMとかそんなんじゃないし?!
(それに……えっちなこともいいけど、もっと話したいな)
こんなにかっこよくて上手い人と夜を共に過ごせるのは、側から見たらきっと願ったり叶ったりなのだと思うんだけど。
初日のときみたいに、他愛ない話で笑い合っていたい。もっと、せーちゃんのことが知りたい。
「オレ、やっぱりピュアすぎるのかな……」
思わずそう呟きながらぼんやり彼の寝顔を見つめていると、せーちゃんが目を開けた。
「……ん……」
「あ、おはよ」
オレが見つめていたことに気づき、せーちゃんもこちらに向き直った。
せーちゃんは目を細めて、オレの頬を指で撫で、
「おはよ。……この前も戸成の方が早く起きてたよな」
「睡眠時間短くても大丈夫なんだよね」
「へえ、若者はいいな」
「若者って。二歳しか違わないでしょ」
お互いに笑い合う。
けれど、せーちゃんはふわふわとあくびをして、布団をかけなおした。
「眠い……もう少し寝てて良い?」
「うん。朝ごはん食べる? 作っとこうか?」
「ん、たべたい……一芽の……」
そうまどろみながら言ってすぐ、せーちゃんは寝落ちる。
(……可愛い……)
すやすやと寝息を立てる彼を見て、ついそんなことを思ってしまう。
いつもかっこいいのに、こうやってたまに可愛いからずるい。
せーちゃん、寝起き弱いのかな。ていうか、今オレのこと『一芽』って下の名前で言わなかった?
(ずっと下の名前で呼んでいいのに)
そう思って、オレもそっと彼の頬を指で撫でた。
日にあたっていない白い肌。きっと休日も仕事の勉強でいつも忙しんだろう。
……すごいなぁ。
「………………」
とりあえず朝食を準備しようと、オレは起こさないようにそっとベッドから降りた。
「めちゃくちゃ美味しい」
「本当?」
ピザトーストと野菜スープを作って出すと、せーちゃんはまた喜んで食べてくれた。
「全部うまい。レストランでバイトしてるって言ってたけど、厨房の方で働いてるのか?」
「そうだよ。個人営業のとこなんだけど、まかないの作り方とかも教えてもらってるんだよね」
「へえー」
そう話しながら、夢中でパンを頬張る彼を見つめる。
「せーちゃんの味の好み、もっと教えてよ。甘いのが好きとか、辛いのが良いとか」
「んー、正直なんでも好きなんだよな。けど甘すぎるのは苦手かも」
「ふんふん」
「あと、和食とか中華が好きかな」
「そうなんだ! 普段もご飯派?」
「いや……最近はあんま食べてなくて……食べるときはコーヒーかヨーグルト」
それを聞いて、思わず「え……」と声が漏れる。
「ちゃんと食べてよ……夜もあんまり食べないって言ってたよね?毎日それだとほんとに体壊しちゃうよ?」
「……わかってるけど……」
オレが言うと、せーちゃんは気まずそうに目を逸らす。
「仕事、そんなに忙しいの?」
「結構忙しい。就業時間以外でもすることがあってさ……」
それを聞いて、ふと良いことが思いついた。
「オレ、隣に住むの来月からだけど……今度から、ごはんオレが作って持ってこようか? せーちゃん、ほっといたら死んじゃいそうだし……」
そう提案すると、せーちゃんは動揺したようにオレを見た。
「え?! う、嬉しいけど……なに、この、毎朝味噌汁作ってくれの逆バージョンみたいな……」
「プロポーズっていうか介護だと思う」
「あ、ハイ……デイサービス、お願いします……」
オレがズバッと言い切ると、せーちゃんは大人しく頷いた。
「……けど、それならお礼しないとだよな。もちろん食費は渡すけど、他に俺からできることはないか?」
「え?」
その話を聞いて、すぐに思い当たることがあった。
せーちゃんは、高校生の塾の先生だ。それなら……。
……いや、けど。
「今のところはないかな。でもこうして話したいから、いつも一緒に食べたい!」
「え、そんな可愛いこと言ってくれんの?」
せーちゃんはちょっと照れたように笑う。
「じゃあ、なんか他に思いついたときは言えよ」
「……うん」
オレも、頷いて微笑み返した。
本当の『お願い』はどうせ無駄だと思って、口には出さなかった。
レースカーテン越しに注ぐ、窓からの光で目が覚める。
「うっ……」
体を起こそうとすると、ずきんと鈍い痛みが腰に走って、ぱたりと仰向けの状態に戻った。
瞬時に昨夜の情事を思い出して、思わず隣で眠る彼を見た。
(せーちゃん……今回もめちゃくちゃにエロかったな)
あとオレが思ってたより、かなりドSだった。まさか手首を縛られるとは……。
けれど引くどころか思い出しただけで顔が熱くなって、また心臓がドキドキしてくる。
……ていうか、
(無理矢理されるのってなんか……興奮する……)
ついそんなことを思ってしまって、慌てて首を横に振る。
いやいや、オレはノーマルだから。別にMとかそんなんじゃないし?!
(それに……えっちなこともいいけど、もっと話したいな)
こんなにかっこよくて上手い人と夜を共に過ごせるのは、側から見たらきっと願ったり叶ったりなのだと思うんだけど。
初日のときみたいに、他愛ない話で笑い合っていたい。もっと、せーちゃんのことが知りたい。
「オレ、やっぱりピュアすぎるのかな……」
思わずそう呟きながらぼんやり彼の寝顔を見つめていると、せーちゃんが目を開けた。
「……ん……」
「あ、おはよ」
オレが見つめていたことに気づき、せーちゃんもこちらに向き直った。
せーちゃんは目を細めて、オレの頬を指で撫で、
「おはよ。……この前も戸成の方が早く起きてたよな」
「睡眠時間短くても大丈夫なんだよね」
「へえ、若者はいいな」
「若者って。二歳しか違わないでしょ」
お互いに笑い合う。
けれど、せーちゃんはふわふわとあくびをして、布団をかけなおした。
「眠い……もう少し寝てて良い?」
「うん。朝ごはん食べる? 作っとこうか?」
「ん、たべたい……一芽の……」
そうまどろみながら言ってすぐ、せーちゃんは寝落ちる。
(……可愛い……)
すやすやと寝息を立てる彼を見て、ついそんなことを思ってしまう。
いつもかっこいいのに、こうやってたまに可愛いからずるい。
せーちゃん、寝起き弱いのかな。ていうか、今オレのこと『一芽』って下の名前で言わなかった?
(ずっと下の名前で呼んでいいのに)
そう思って、オレもそっと彼の頬を指で撫でた。
日にあたっていない白い肌。きっと休日も仕事の勉強でいつも忙しんだろう。
……すごいなぁ。
「………………」
とりあえず朝食を準備しようと、オレは起こさないようにそっとベッドから降りた。
「めちゃくちゃ美味しい」
「本当?」
ピザトーストと野菜スープを作って出すと、せーちゃんはまた喜んで食べてくれた。
「全部うまい。レストランでバイトしてるって言ってたけど、厨房の方で働いてるのか?」
「そうだよ。個人営業のとこなんだけど、まかないの作り方とかも教えてもらってるんだよね」
「へえー」
そう話しながら、夢中でパンを頬張る彼を見つめる。
「せーちゃんの味の好み、もっと教えてよ。甘いのが好きとか、辛いのが良いとか」
「んー、正直なんでも好きなんだよな。けど甘すぎるのは苦手かも」
「ふんふん」
「あと、和食とか中華が好きかな」
「そうなんだ! 普段もご飯派?」
「いや……最近はあんま食べてなくて……食べるときはコーヒーかヨーグルト」
それを聞いて、思わず「え……」と声が漏れる。
「ちゃんと食べてよ……夜もあんまり食べないって言ってたよね?毎日それだとほんとに体壊しちゃうよ?」
「……わかってるけど……」
オレが言うと、せーちゃんは気まずそうに目を逸らす。
「仕事、そんなに忙しいの?」
「結構忙しい。就業時間以外でもすることがあってさ……」
それを聞いて、ふと良いことが思いついた。
「オレ、隣に住むの来月からだけど……今度から、ごはんオレが作って持ってこようか? せーちゃん、ほっといたら死んじゃいそうだし……」
そう提案すると、せーちゃんは動揺したようにオレを見た。
「え?! う、嬉しいけど……なに、この、毎朝味噌汁作ってくれの逆バージョンみたいな……」
「プロポーズっていうか介護だと思う」
「あ、ハイ……デイサービス、お願いします……」
オレがズバッと言い切ると、せーちゃんは大人しく頷いた。
「……けど、それならお礼しないとだよな。もちろん食費は渡すけど、他に俺からできることはないか?」
「え?」
その話を聞いて、すぐに思い当たることがあった。
せーちゃんは、高校生の塾の先生だ。それなら……。
……いや、けど。
「今のところはないかな。でもこうして話したいから、いつも一緒に食べたい!」
「え、そんな可愛いこと言ってくれんの?」
せーちゃんはちょっと照れたように笑う。
「じゃあ、なんか他に思いついたときは言えよ」
「……うん」
オレも、頷いて微笑み返した。
本当の『お願い』はどうせ無駄だと思って、口には出さなかった。
15
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる