百夜の秘書

No.26

文字の大きさ
上 下
14 / 32
落ちるまであと

三、

しおりを挟む


「どうしたら、許してくださるんですか?」
「許すも何も、砂が全て落ちたら拘束を外してあげるし、おしっこがしたいならそこでしていいよって言っているんだよ」
 蝶は天藍に尋ねたが、天藍はそう言って微笑むだけだ。
「………………」
 砂時計をもう一度確認するが、砂の量はあと少しで四分の一に達するところだ。
 蝶は前を抑えたまま、ぎゅっと目を瞑った。
 ……もう、これ以上我慢できないのに……!
 そう蝶が思った途端、しゅわりと、下着がぬるく湿った。
「!!!」
 慌てて、必死にそこを揉んだり抑えたりするが、しゅわり、しゅわりと少しずつ溢れ出してくる液体は止まらない。
「あ、あっ、あ」
 服の上から股を押さえている蝶の手が、じわじわと確かに濡れていく。
 こんなところでしてはいけない、という蝶の意思に反し、限界を超えた膀胱が既に排泄を始めてしまった。
 このままでは衣服どころか、寝室のカーペットを汚してしまう。そんなことをしてしまえば、天藍にどんな責任を取らされるのかわからない。
 ……もう、言う通りに、洗面器にするしかない。
 蝶は床に膝をつき、洗面器を片手に取った。
「洗面器にしてくれるんだね? いいよ」
「……っ……」
 蝶はその言葉を無視して、焦る手つきで下着を脱ぎ始める。
 しかし天藍がこちらの動作をじっと見続けていることに、ついに羞恥に耐えきれなくなって叫んだ。
「もう、こっちを見ないでください!」
「どうして見てたらいけないの?」
「み、見られるの、恥ずかしいってわからないんですか?!」
 そう叫んだ蝶に、天藍はとびきり美しい笑みを見せた。
「恥ずかしいなら、砂が落ちるまで我慢したら?」
 そう煽るように言われるが、しかし蝶はもう十秒も我慢などできない。
 それを知って、天藍はそう提案しているのだ。
「っ~~~、この、鬼……!!」
 蝶は羞恥で顔を真っ赤にしながら、服をたくし上げ、洗面器に素股で跨った。
 すぐに、ビシャビシャと洗面器に勢いよく水が落ちる音が、寝室に響き始めた。
「はあ、はあ……っ」
 溜め込んだ多量の水分のせいで、その水音の激しさは一向に弱まらない。
 恥ずかしくてたまらないのに、身体は開放感に満たされ、蝶は頭がおかしくなりそうだった。
「可愛い」
 天藍は蝶の姿を見つめ、恍惚な表情でそう呟く。
 蝶はそれが悔やしくて、憎たらしくてしょうがなかったが、しかし水流を止めることなどできず、天藍の見つめる中で放尿を続けた。

 洗面器の半分程に水が溜まったところで、蝶の排泄が終わった。
「これでおあいこだよ」
 蝶の拘束器具を外し、洗面器を片付けた後。天藍は寝台の上に横になってそう微笑む。
 蝶は、天藍から借りた寝巻きに腕を通しながら、持ち主の彼をちらりと見て、
「旦那様は、日頃あれだけ身勝手なことを強いる癖に、無理やり犯してくるようなことだけはなさらないですよね」
「へえ、無理やり犯されたい趣味なの?」
「違います。ただ、微妙な良心が疑問なだけです」
 そう蝶が言うと、天藍はくすくすと笑って、
「だって、無理やり押し倒すだけじゃ簡単すぎて面白くないじゃないか。君が抱いて良いと首を縦に振るまで、僕は抱かないよ」
「そんな許可、私がすると本気でお思いですか?」
 蝶は呆れてそう言って、枕に頭を乗せる。
 天藍は目を細め、
「まあ僕も、君にいくら抱いて欲しいと懇願されても、そのとき抱くかは気分次第だけどね」
 その言葉に、蝶は背筋がヒヤリと冷たくなった。

 蝶は今、自分の意思でこの天藍の秘書をしている。
 蝶がその気なら、今すぐにでもこの仕事を辞めて逃げることだってできるし、天藍の要求を完全に拒否することはできる。
 しかし蝶は、天藍の自分への好意を逆手に取って、金銭も経験も快感もこの主人から搾取するだけ搾取する道が、一番利益が大きいと見て選んだのだ。

 ……だが、もし万が一、今後天藍のことを本当に好きになってしまったら、天藍は蝶のその好意まで好き勝手に弄び、玩具にするつもりだ。
 間違っても自分の心だけは絶対に落としてはならないと、蝶は改めて強く思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は淫らな機械の上で許しを請う

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

捜査員達は木馬の上で過敏な反応を見せる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

捜査員は柱の中央で絶頂を強制される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

林間学校は機械で淫らに壊される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...