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episode4 恋という病
04
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蒼と再会して、二週間が過ぎた。
「今日もする?」
もうすっかり慣れた、蒼の部屋。
蒼はオレの頭を撫でて、にこにこしながら言う。
「ゴム買ってきたし」
「……あのさ」
その箱を開ける蒼の手を止めて、オレは言った。
「ナマでシたらダメ?」
「え?」
オレの言葉に、蒼はぱちくりと目を瞬かせる。
「オレ、性病持ってないし……アオイもオレしか付き合ったことないなら、ゴムつけなくても大丈夫だと思うんだ」
「んー、それはそうだけど……」
蒼はそう言いながら、箱を無造作に弄り、
「腸内って結構細菌がいるし、傷つきやすいから、性病がなくてもゴムをつけずにするのはお互いに良くないと思うんだ。それに、今のままでも気持ちいいし、つけてもつけなくても一緒じゃないか?」
「いや、ナマで挿れた方が全然気持ちいいよ?」
「そんな体験談みたいな」
そう蒼に笑われて、思考が停止した。
蒼もオレの表情に気付いて、笑うのをやめて、静かに聞いた。
「やったことあるのか?」
「………………」
その目と声があまりにも無感情で、まずいことを仄かしてしまったと、変な汗が流れる。
蒼は、箱を弄ることを完全に止めて、オレに真顔で聞いた。
「それ、相手が女の人なら、間違えたら取り返しのつかないことになると思うけど」
「……知ってる」
中に出さなくても、相手が妊娠する可能性はゼロじゃないことはわかる。
オレも当時、考えなしにしたわけじゃない。
それを蒼にわかって欲しくて、説明を付け加えた。
「ピル飲んでるから大丈夫って言われたから」
「……………………」
蒼は黙り込み、オレから目を逸らした。
「へえ」
それだけ言って、蒼は立ち上がる。
どこに行くんだろうと思っていたら、蒼は背を向けたまま、静かに言った。
「ごめん、今日できない」
「……え、」
「もう帰って」
バタン、と洗面所のドアが閉まった。
そこで初めて、蒼がオレのことを拒否したのだと脳が理解した。
「あ……蒼!!」
立ち上がって、洗面所のドアに手をかける。
だけど、鍵がかかっていて開かない。
ノックをしながら、ドアの向こうに叫んだ。
「ご、ごめん、違うんだよ! あの、オレ、」
「宙はさ、結局自分が気持ち良ければ誰でもいいんだろ」
その冷たい言葉に、硬直する。
そして、扉の向こうで、吐き捨てるように言われた。
「最低」
「…………!!」
――わかってたのに。
オレのこと、全部言ったら蒼に嫌われるって、わかってたのに。
「なんで、オレ……!」
冷たい夜道を歩きながら、涙が止まらない。
蒼に引かれたくないから、今まで蒼に合わせてたのに。
蒼がオレのこと、全部許してくれるから……オレが付き合ってって言ったとき喜んでくれから、甘えさせてくれたから、何でも受け止めてくれるんじゃないかって、つい流されて……。
でも、もう手遅れだ。取り返しのつかないことを言ってしまったんだ。
泣きながら家のドアを開けると、廊下にお父さんがいた。
「宙?」
「た……ただいま」
そこでようやく、今日はお父さんが早く帰ってくる日だということを思い出した。
油断していたから、もちろん泣いてるところもバッチリ見られた。
お父さんは心配そうにオレに駆け寄る。
「今晩も友達と一緒だって……ど、どうしたんだ?泣いて……」
「……別に? 帰りながら感動する映画、見てたから」
無理やり笑ってそれだけ言って、家に上がる。
お父さんは疑うような顔をしていたけど、それ以上は聞いてこなかった。
「そ、そうか……お風呂湧いてるから、入っていいぞ」
「うん」
『明日から先に帰っていいから』
『俺のこと待たなくていい』
部屋に戻ってスマホを見ると、そうラインのメッセージが来ていて、心臓を掴まれたような感覚になる。
『本当にごめん』
『蒼に甘えすぎてた』
『蒼の気持ち考えてなかった』
そう返すと、すぐに既読がつく。
しばらくして、
『もう別れよう』
それだけ送られてきた。
「……っ!」
慌てて、文章を入力する。
『やだ、ちゃんと話したい』
『ダメなとこ直したい』
送ると、またすぐに既読がついた。
『ソラはダメじゃないよ、俺と合わないだけで』
その一文に、頭が真っ白になる。呆然としてると、続けてメッセージが送られてきた。
『ヤりたいだけなら他にもする相手いるじゃん』
『俺やっぱり無理だよ、ソラと付き合うの』
……「やっぱり」無理?
なんで、どうして、最初からオレのこと好きじゃなかったの?
『やっぱりって何?』
そう聞いたけど、『もう寝るから、おやすみ』とだけ返ってきて、その答えはわからなかった。
「今日もする?」
もうすっかり慣れた、蒼の部屋。
蒼はオレの頭を撫でて、にこにこしながら言う。
「ゴム買ってきたし」
「……あのさ」
その箱を開ける蒼の手を止めて、オレは言った。
「ナマでシたらダメ?」
「え?」
オレの言葉に、蒼はぱちくりと目を瞬かせる。
「オレ、性病持ってないし……アオイもオレしか付き合ったことないなら、ゴムつけなくても大丈夫だと思うんだ」
「んー、それはそうだけど……」
蒼はそう言いながら、箱を無造作に弄り、
「腸内って結構細菌がいるし、傷つきやすいから、性病がなくてもゴムをつけずにするのはお互いに良くないと思うんだ。それに、今のままでも気持ちいいし、つけてもつけなくても一緒じゃないか?」
「いや、ナマで挿れた方が全然気持ちいいよ?」
「そんな体験談みたいな」
そう蒼に笑われて、思考が停止した。
蒼もオレの表情に気付いて、笑うのをやめて、静かに聞いた。
「やったことあるのか?」
「………………」
その目と声があまりにも無感情で、まずいことを仄かしてしまったと、変な汗が流れる。
蒼は、箱を弄ることを完全に止めて、オレに真顔で聞いた。
「それ、相手が女の人なら、間違えたら取り返しのつかないことになると思うけど」
「……知ってる」
中に出さなくても、相手が妊娠する可能性はゼロじゃないことはわかる。
オレも当時、考えなしにしたわけじゃない。
それを蒼にわかって欲しくて、説明を付け加えた。
「ピル飲んでるから大丈夫って言われたから」
「……………………」
蒼は黙り込み、オレから目を逸らした。
「へえ」
それだけ言って、蒼は立ち上がる。
どこに行くんだろうと思っていたら、蒼は背を向けたまま、静かに言った。
「ごめん、今日できない」
「……え、」
「もう帰って」
バタン、と洗面所のドアが閉まった。
そこで初めて、蒼がオレのことを拒否したのだと脳が理解した。
「あ……蒼!!」
立ち上がって、洗面所のドアに手をかける。
だけど、鍵がかかっていて開かない。
ノックをしながら、ドアの向こうに叫んだ。
「ご、ごめん、違うんだよ! あの、オレ、」
「宙はさ、結局自分が気持ち良ければ誰でもいいんだろ」
その冷たい言葉に、硬直する。
そして、扉の向こうで、吐き捨てるように言われた。
「最低」
「…………!!」
――わかってたのに。
オレのこと、全部言ったら蒼に嫌われるって、わかってたのに。
「なんで、オレ……!」
冷たい夜道を歩きながら、涙が止まらない。
蒼に引かれたくないから、今まで蒼に合わせてたのに。
蒼がオレのこと、全部許してくれるから……オレが付き合ってって言ったとき喜んでくれから、甘えさせてくれたから、何でも受け止めてくれるんじゃないかって、つい流されて……。
でも、もう手遅れだ。取り返しのつかないことを言ってしまったんだ。
泣きながら家のドアを開けると、廊下にお父さんがいた。
「宙?」
「た……ただいま」
そこでようやく、今日はお父さんが早く帰ってくる日だということを思い出した。
油断していたから、もちろん泣いてるところもバッチリ見られた。
お父さんは心配そうにオレに駆け寄る。
「今晩も友達と一緒だって……ど、どうしたんだ?泣いて……」
「……別に? 帰りながら感動する映画、見てたから」
無理やり笑ってそれだけ言って、家に上がる。
お父さんは疑うような顔をしていたけど、それ以上は聞いてこなかった。
「そ、そうか……お風呂湧いてるから、入っていいぞ」
「うん」
『明日から先に帰っていいから』
『俺のこと待たなくていい』
部屋に戻ってスマホを見ると、そうラインのメッセージが来ていて、心臓を掴まれたような感覚になる。
『本当にごめん』
『蒼に甘えすぎてた』
『蒼の気持ち考えてなかった』
そう返すと、すぐに既読がつく。
しばらくして、
『もう別れよう』
それだけ送られてきた。
「……っ!」
慌てて、文章を入力する。
『やだ、ちゃんと話したい』
『ダメなとこ直したい』
送ると、またすぐに既読がついた。
『ソラはダメじゃないよ、俺と合わないだけで』
その一文に、頭が真っ白になる。呆然としてると、続けてメッセージが送られてきた。
『ヤりたいだけなら他にもする相手いるじゃん』
『俺やっぱり無理だよ、ソラと付き合うの』
……「やっぱり」無理?
なんで、どうして、最初からオレのこと好きじゃなかったの?
『やっぱりって何?』
そう聞いたけど、『もう寝るから、おやすみ』とだけ返ってきて、その答えはわからなかった。
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