16 / 21
episode4 恋という病
04
しおりを挟む
蒼と再会して、二週間が過ぎた。
「今日もする?」
もうすっかり慣れた、蒼の部屋。
蒼はオレの頭を撫でて、にこにこしながら言う。
「ゴム買ってきたし」
「……あのさ」
その箱を開ける蒼の手を止めて、オレは言った。
「ナマでシたらダメ?」
「え?」
オレの言葉に、蒼はぱちくりと目を瞬かせる。
「オレ、性病持ってないし……アオイもオレしか付き合ったことないなら、ゴムつけなくても大丈夫だと思うんだ」
「んー、それはそうだけど……」
蒼はそう言いながら、箱を無造作に弄り、
「腸内って結構細菌がいるし、傷つきやすいから、性病がなくてもゴムをつけずにするのはお互いに良くないと思うんだ。それに、今のままでも気持ちいいし、つけてもつけなくても一緒じゃないか?」
「いや、ナマで挿れた方が全然気持ちいいよ?」
「そんな体験談みたいな」
そう蒼に笑われて、思考が停止した。
蒼もオレの表情に気付いて、笑うのをやめて、静かに聞いた。
「やったことあるのか?」
「………………」
その目と声があまりにも無感情で、まずいことを仄かしてしまったと、変な汗が流れる。
蒼は、箱を弄ることを完全に止めて、オレに真顔で聞いた。
「それ、相手が女の人なら、間違えたら取り返しのつかないことになると思うけど」
「……知ってる」
中に出さなくても、相手が妊娠する可能性はゼロじゃないことはわかる。
オレも当時、考えなしにしたわけじゃない。
それを蒼にわかって欲しくて、説明を付け加えた。
「ピル飲んでるから大丈夫って言われたから」
「……………………」
蒼は黙り込み、オレから目を逸らした。
「へえ」
それだけ言って、蒼は立ち上がる。
どこに行くんだろうと思っていたら、蒼は背を向けたまま、静かに言った。
「ごめん、今日できない」
「……え、」
「もう帰って」
バタン、と洗面所のドアが閉まった。
そこで初めて、蒼がオレのことを拒否したのだと脳が理解した。
「あ……蒼!!」
立ち上がって、洗面所のドアに手をかける。
だけど、鍵がかかっていて開かない。
ノックをしながら、ドアの向こうに叫んだ。
「ご、ごめん、違うんだよ! あの、オレ、」
「宙はさ、結局自分が気持ち良ければ誰でもいいんだろ」
その冷たい言葉に、硬直する。
そして、扉の向こうで、吐き捨てるように言われた。
「最低」
「…………!!」
――わかってたのに。
オレのこと、全部言ったら蒼に嫌われるって、わかってたのに。
「なんで、オレ……!」
冷たい夜道を歩きながら、涙が止まらない。
蒼に引かれたくないから、今まで蒼に合わせてたのに。
蒼がオレのこと、全部許してくれるから……オレが付き合ってって言ったとき喜んでくれから、甘えさせてくれたから、何でも受け止めてくれるんじゃないかって、つい流されて……。
でも、もう手遅れだ。取り返しのつかないことを言ってしまったんだ。
泣きながら家のドアを開けると、廊下にお父さんがいた。
「宙?」
「た……ただいま」
そこでようやく、今日はお父さんが早く帰ってくる日だということを思い出した。
油断していたから、もちろん泣いてるところもバッチリ見られた。
お父さんは心配そうにオレに駆け寄る。
「今晩も友達と一緒だって……ど、どうしたんだ?泣いて……」
「……別に? 帰りながら感動する映画、見てたから」
無理やり笑ってそれだけ言って、家に上がる。
お父さんは疑うような顔をしていたけど、それ以上は聞いてこなかった。
「そ、そうか……お風呂湧いてるから、入っていいぞ」
「うん」
『明日から先に帰っていいから』
『俺のこと待たなくていい』
部屋に戻ってスマホを見ると、そうラインのメッセージが来ていて、心臓を掴まれたような感覚になる。
『本当にごめん』
『蒼に甘えすぎてた』
『蒼の気持ち考えてなかった』
そう返すと、すぐに既読がつく。
しばらくして、
『もう別れよう』
それだけ送られてきた。
「……っ!」
慌てて、文章を入力する。
『やだ、ちゃんと話したい』
『ダメなとこ直したい』
送ると、またすぐに既読がついた。
『ソラはダメじゃないよ、俺と合わないだけで』
その一文に、頭が真っ白になる。呆然としてると、続けてメッセージが送られてきた。
『ヤりたいだけなら他にもする相手いるじゃん』
『俺やっぱり無理だよ、ソラと付き合うの』
……「やっぱり」無理?
なんで、どうして、最初からオレのこと好きじゃなかったの?
『やっぱりって何?』
そう聞いたけど、『もう寝るから、おやすみ』とだけ返ってきて、その答えはわからなかった。
「今日もする?」
もうすっかり慣れた、蒼の部屋。
蒼はオレの頭を撫でて、にこにこしながら言う。
「ゴム買ってきたし」
「……あのさ」
その箱を開ける蒼の手を止めて、オレは言った。
「ナマでシたらダメ?」
「え?」
オレの言葉に、蒼はぱちくりと目を瞬かせる。
「オレ、性病持ってないし……アオイもオレしか付き合ったことないなら、ゴムつけなくても大丈夫だと思うんだ」
「んー、それはそうだけど……」
蒼はそう言いながら、箱を無造作に弄り、
「腸内って結構細菌がいるし、傷つきやすいから、性病がなくてもゴムをつけずにするのはお互いに良くないと思うんだ。それに、今のままでも気持ちいいし、つけてもつけなくても一緒じゃないか?」
「いや、ナマで挿れた方が全然気持ちいいよ?」
「そんな体験談みたいな」
そう蒼に笑われて、思考が停止した。
蒼もオレの表情に気付いて、笑うのをやめて、静かに聞いた。
「やったことあるのか?」
「………………」
その目と声があまりにも無感情で、まずいことを仄かしてしまったと、変な汗が流れる。
蒼は、箱を弄ることを完全に止めて、オレに真顔で聞いた。
「それ、相手が女の人なら、間違えたら取り返しのつかないことになると思うけど」
「……知ってる」
中に出さなくても、相手が妊娠する可能性はゼロじゃないことはわかる。
オレも当時、考えなしにしたわけじゃない。
それを蒼にわかって欲しくて、説明を付け加えた。
「ピル飲んでるから大丈夫って言われたから」
「……………………」
蒼は黙り込み、オレから目を逸らした。
「へえ」
それだけ言って、蒼は立ち上がる。
どこに行くんだろうと思っていたら、蒼は背を向けたまま、静かに言った。
「ごめん、今日できない」
「……え、」
「もう帰って」
バタン、と洗面所のドアが閉まった。
そこで初めて、蒼がオレのことを拒否したのだと脳が理解した。
「あ……蒼!!」
立ち上がって、洗面所のドアに手をかける。
だけど、鍵がかかっていて開かない。
ノックをしながら、ドアの向こうに叫んだ。
「ご、ごめん、違うんだよ! あの、オレ、」
「宙はさ、結局自分が気持ち良ければ誰でもいいんだろ」
その冷たい言葉に、硬直する。
そして、扉の向こうで、吐き捨てるように言われた。
「最低」
「…………!!」
――わかってたのに。
オレのこと、全部言ったら蒼に嫌われるって、わかってたのに。
「なんで、オレ……!」
冷たい夜道を歩きながら、涙が止まらない。
蒼に引かれたくないから、今まで蒼に合わせてたのに。
蒼がオレのこと、全部許してくれるから……オレが付き合ってって言ったとき喜んでくれから、甘えさせてくれたから、何でも受け止めてくれるんじゃないかって、つい流されて……。
でも、もう手遅れだ。取り返しのつかないことを言ってしまったんだ。
泣きながら家のドアを開けると、廊下にお父さんがいた。
「宙?」
「た……ただいま」
そこでようやく、今日はお父さんが早く帰ってくる日だということを思い出した。
油断していたから、もちろん泣いてるところもバッチリ見られた。
お父さんは心配そうにオレに駆け寄る。
「今晩も友達と一緒だって……ど、どうしたんだ?泣いて……」
「……別に? 帰りながら感動する映画、見てたから」
無理やり笑ってそれだけ言って、家に上がる。
お父さんは疑うような顔をしていたけど、それ以上は聞いてこなかった。
「そ、そうか……お風呂湧いてるから、入っていいぞ」
「うん」
『明日から先に帰っていいから』
『俺のこと待たなくていい』
部屋に戻ってスマホを見ると、そうラインのメッセージが来ていて、心臓を掴まれたような感覚になる。
『本当にごめん』
『蒼に甘えすぎてた』
『蒼の気持ち考えてなかった』
そう返すと、すぐに既読がつく。
しばらくして、
『もう別れよう』
それだけ送られてきた。
「……っ!」
慌てて、文章を入力する。
『やだ、ちゃんと話したい』
『ダメなとこ直したい』
送ると、またすぐに既読がついた。
『ソラはダメじゃないよ、俺と合わないだけで』
その一文に、頭が真っ白になる。呆然としてると、続けてメッセージが送られてきた。
『ヤりたいだけなら他にもする相手いるじゃん』
『俺やっぱり無理だよ、ソラと付き合うの』
……「やっぱり」無理?
なんで、どうして、最初からオレのこと好きじゃなかったの?
『やっぱりって何?』
そう聞いたけど、『もう寝るから、おやすみ』とだけ返ってきて、その答えはわからなかった。
10
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる