アオソラ診察室

No.26

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episode3 それはきっと依存症

01

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episode.3 side:Aoi

「最近、嬉しいことでもあった?」
「え?」
 兄貴にそう聞かれて、コーヒーの中を見つめていた俺は顔を上げた。
 日曜日の午後。久々にゲームをして暇を満喫していたら、兄貴に呼び出しをされて、今こうしてカフェにいる。
「なんか、前より雰囲気明るくなったっていうか、楽しそうっていうか?」
 兄貴は手元のカフェオレを傾けながら、そう言ってニッと笑う。

 兄貴は相変わらずの金髪ピアスで、それにどこで買ってきたんだよってツッコミを入れたくなるような珍しいデザインの服を着ている。
 シンプルな服しか着ない、それに髪も染めてない俺とは真逆で、側から見たらとても兄弟とは思われなさそう。

 ……というか、俺の雰囲気が明るい?
 やっぱこういうのって滲み出るのか? それとも察しがいい兄貴だから気づいたのか。
 俺は兄貴に微笑む。
「実は四日前、恋人できた」
「え?! ちょ、聞いてねーんだけど?!どんな子? 何で会ったの? てか、性別どっち?」
 兄貴は驚きながらも、興味津々に質問攻めする。
「男だよ。めちゃくちゃ可愛い。うちの病院の事務職してるんだ」
「へーっ! 超良いじゃん!」
 兄貴はそう言って、ぱあっと笑顔になる。
「いやー、蒼もついに春がきたか!! めでたいね! 彼氏くんの写真とかないの?」
「んー、写真かあ……」
 聞かれて、そういえば宙とまともに写真を撮ったことがないと気づく。
 一方的に撮ったエロい写真なら持ってるけど、そんなの兄貴に見せられないし。
 少し考えて、そういえば宙のラインに写真がなかったっけ、と思いついて、スマホの電源を入れた。
 そしてその画面を見て初めて、宙から三十分前にメッセージが入っていたことに気がついた。

『あおい』
『あおい~』
『。°(っ°´o`°c)°。』
『死んだ?』

 そんなメッセージが連送されていて、思わず笑みが溢れる。
 死んでない。というか相変わらず絵文字のセレクトが可愛いな。
「どうした? にやにやして」
 ラインを読んでいたら、そう兄貴が聞いてきて、我に返る。
「いや、宙……恋人からラインが来てて」
「へぇ~? 蒼、恋人とラインとかするんだ? いいよ、ゆっくり返信して?」
 そう言って兄貴はニヤニヤしながら俺の顔を見る。……ニヤニヤするな、恥ずかしい。
 けど、その言葉には甘えさせてもらうことにして、メッセージを入力する。
 
『生きてるよ。どうした?』

 そう送って、写真を見るために、宙のホーム画面に飛ぶ。
 ラインの日記の最新部分に、高校卒業の宙の写真があった。宙のクラスメイトらしい十数人と写っている。
 それを表示させて、兄貴に見せた。
「だいぶ前の写真みたいだけど、この左端の子が俺と付き合ってる子だよ」
「ん~、写真だとよくわかんないけど、確かに雰囲気可愛いな。蒼、こういう子が好きなんだ?」
 兄貴にまたニヤニヤされながらそう指摘されて、内心ギクリとする。
 いや、まあ……めちゃくちゃ好みだけど???
 でも、これ以上兄貴にからかわれたくないから、「じゃあ、今度写真撮ったら見せるよ」とだけ返しておいた。
 兄貴は頬杖をつき、スマホの画面を見つめながら、
「楽しみにしとく! あとさ、今その宙くんからライン来たっぽいよ?」
「え?」
 そう言われて、画面を自分の方に戻した。

 そこには、『今から家行ってもいい?』というラインが表示されていた。
 兄貴はその文章を読んでしまったようで、ニヤニヤしたまま、
「今暇してる感じなら、ここ来るように誘ってよ! リアル彼氏くん見た~い」
「じゃあ、ちょっと聞いてみる」
 そう笑いながら返して、宙にメッセージを打った。

『ごめん、今外なんだ。兄貴といるんだけど、宙も来る? 兄貴に宙のこと紹介したら、会いたいって言われたんだけど』

 そうラインを送ると、すぐに既読がついて、返事が来た。

『お兄ちゃん? え、オレも会いたい』

 そのまま今のカフェの場所を教えると、『すぐ行く!』と返信が来た。
 顔を上げて、兄貴に報告する。
「宙、今から来て会ってくれるってさ」
「え? マジ?! 楽しみ!」
「たぶん十五分くらいで着くと思う」
 そう付け加えると、兄貴は首を傾げた。
「へえ、付き合って四日で、お互いの家知ってるんだ? 手早いねぇ?」
「………………」
 察しのいい兄貴は嫌いだよ。
 これ以上話すと、実はセフレだったこととか、俺が宙にどんだけ欲を感じてるかとか、色々とボロが出そうで、俺は話題を変えた。
「そういえばさ、兄貴もだいぶご機嫌だよな」
 そう指摘すると、兄貴は笑みを浮かべ、
「あは、気づいた? 何でだと思う? まだ父さんたちには言ってないんだけど」
 そう聞き返されてしまったが、その言い回しを聞いて、俺は一つ思い当たった。
「夢さん、子供できた?」
 兄貴は満面の笑みでピースした。
 兄貴は二十二歳のとき、兄貴の同級生の女子ーー夢さんと結婚していた。
 ついに第一子誕生か。生まれたら俺も叔父になるのかあ。
「昨日分かったんだ! それで、今日の本題なんだけどさ」
「うん?」
 本題?
 聞き返すと、兄貴はふと真剣な顔になって、こう聞いてきた。
「蒼の就職先の病院って、産婦人科あるよな? ネットで調べたら結構良いって出てきたんだけど、実際良いの?」
 その質問の内容に合点が言って、俺は頷いた。
「ああ、夢さんの通院先か! それなら、うちは設備もいいし、ベテランな先生ばかり揃ってるから、むしろお勧めしたいな」
「お、じゃあそこに決めよっかな~! 夢に教えとく! ありがと!」
 そうして、通院のことや病院の設備のことなどを色々話していると、カフェに宙が入ってきた。
「あ、宙!」
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