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episode2 毎日診察が必要です
03
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episode.2 side:Sora
……やばいなあ。
シェークのストローを咥えながら、思う。
正面には、ポテトを食べている蒼。
「ここ来るの、大学生のとき以来だなあ。やっぱ、たまに食べるとうまいよな」
そう言って、蒼はまたポテトを一つ摘んだ。
男らしく、だけど綺麗な、長い指で。
その動作を見てると、思い出してしまう。
――その指が、肌を撫で、足をなぞり、中に入る感覚を。
ぶわっと、頬が熱くなる。慌てて、蒼から目をそらした。
「……宙?」
「え?! あ、うん。オレもハンバーガー食べるの、久しぶり!」
返答のないオレが不振に見えたのか、蒼が名前を呼んできて、オレは慌てて頷いた。
なんでもない様子で答えたけれど頭を占めることはひとつだった。
――シたい。
認めたくないけど、オレは性欲が強い方なんだと思う。
けれど高校生の頃は、蒼に嫌われたくなくて、シたくてもなるべく蒼に合わせて我慢していた。
そう、ちゃんと我慢できてたんだ。…………毎日自慰はしてたけど。
……で、蒼と別れて、でも別の誰かとする気にはなれなくて、本当に四年間誰とも寝てなかった。
「その反動が、これかあ……」
病院の休憩室。机に頬をつけて、思わず独り言をいう。
一昨日、久しぶりに蒼と一回ヤってから、自分でも引くほど欲が収まらない。ほんとにヤバイ。何これ?
既に午前が終わって休憩に入ったけど、今日も仕事に全然集中できなかった。
ああもう、どうしよう、めっちゃシたい。セックスしたい。
悶々とする気持ちが、ぐるぐる頭を回る。ため息をついて、目を閉じる。
けど、流石に三日連続は、蒼に引かれる。間違いない。
……今日だって、ムラムラするから一緒にお風呂入りたくないって言ったら、若干引かれたし?!
蒼は、コスプレとか特殊シチュエーションとか拘束とか、なんかコアな趣味は結構色々あるけど、オレほど性欲強くはない。というか、医者になれるくらいには、自分のやりたいこととか、ちゃんとセーブができるんだ。
……でも。
身体の中の、形容し難いむずむずが収まらなくて、膝同士をすり合わせる。
蒼に、触れたい。キスがしたい。あと、それから――。
「あら、花畑君。寝不足?」
突然声が降ってきて、目を開ける。
見ると、上司(三十歳独身女性)の姿があった。
相変わらず上司は一ミリも笑顔じゃなくて、慌てて姿勢を正した。
「えっと……まあ」
「ふうん、だから最近ミスが多いのね。ちゃんと寝ないとだめよ」
「す……すみません」
言い訳もできなくて、とりあえず謝る。
女の先輩はそれ以上は話しかけてこなくて、スマホを横目に自分の弁当を机に広げた。
オレも、いい加減しっかりしないとなあと思いながら、かばんから昼食のパンを取り出した。
「宙ー、お待たせ!」
昨日と同じ時間、同じ待合室のロビー。上機嫌の蒼が手を振りながら歩いてきた。
やっぱり、かっこいい。彼氏補正効いてるのかもしれないけど。
並んで、病院を出た。
空は、水色からオレンジ色の、綺麗なグラデーション。
病院の庭では、車椅子のおじいさんがおばあさんに押されてゆっくり散歩している。その側では、鳩が三匹ちょこちょこ歩いてる。
なんてのどかな夕方なんだろう。
「今日はいい天気だったらしいな。室内にいるとあんまりわかんないけど」
そう言って蒼は、伸びをする。
「はあ、明日は休みかあ」
「そうだね」
笑顔な蒼に、オレも微笑む。
……だけど、こうして隣で蒼の声聞いてると、だんだん、ムラムラしてきて。
やばい。ヤりたい。キスしたい。抱きしめてほしい。それから――。
「なんか元気ないけど、大丈夫?」
「――え?」
蒼に顔を覗き込まれて、ハッとして、慌てて答えた。
「そう? いつも通りだけど」
「…………」
突然、蒼は立ち止まり、俺の手首を握った。
その指の感触に、ぞわりとする。
「あ、あおい、何?」
蒼は、手首を見つめている。さらりと、前髪が目元を流れた。
「脈、測ってる」
……脈。
そう答えた真剣な表情の蒼に、心拍数が一気に跳ね上がった。
えっ、かっ、顔が良すぎじゃない?!?! いや、知ってたけど!!!
この人、循環器科にいて大丈夫なの?! 患者、心臓爆発しない?! 抱いて。マジで。
脈が早くなったことに気づいたのか、蒼はオレを見て笑った。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ」
「き、緊張してないよ」
「じゃあ、ちょっと自律神経乱れてるかもな。確かに連日ヤってたし……」
「…………」
その言葉に、身体が硬直する。
蒼はニヤッと笑い、オレの顔を覗き込んだ。
「今日はシなくていいのか?」
「え? さ、流石に三日連続はないでしょ」
そう言って、目をそらす。
「そっかー、じゃあ今日こそゲームの続きしよう」
「いや、もう、今日は家帰るから」
本当は一緒にいたい。けどこれ以上一緒にいたら、オレがムラムラしてることが間違いなくバレる。
そう思って素っ気なく答えたら、蒼はちょっと残念そうに、
「えー、うーん、そっか。二日家帰ってないもんな……」
そう言って少し間を開けた後、急に、オレの手首を引っ張って足を早めた。
「え?」
とりあえずそのまま着いていくと、木の裏側に連れてこられる。
蒼はオレの手を離し、オレと向き合う。
「何?」と聞く前に――抱きしめられた。
「っ、あ、あお……」
体温。匂い。息の音。
全部を全身で感じて、頭の中が真っ白になった。
そして、髪を撫でられる。
「また月曜日、会おうな」
低く、優しい声が、耳のすぐ側でした。
ショートした頭で、なんとか頷いた。
「……う、うん」
……やばいなあ。
シェークのストローを咥えながら、思う。
正面には、ポテトを食べている蒼。
「ここ来るの、大学生のとき以来だなあ。やっぱ、たまに食べるとうまいよな」
そう言って、蒼はまたポテトを一つ摘んだ。
男らしく、だけど綺麗な、長い指で。
その動作を見てると、思い出してしまう。
――その指が、肌を撫で、足をなぞり、中に入る感覚を。
ぶわっと、頬が熱くなる。慌てて、蒼から目をそらした。
「……宙?」
「え?! あ、うん。オレもハンバーガー食べるの、久しぶり!」
返答のないオレが不振に見えたのか、蒼が名前を呼んできて、オレは慌てて頷いた。
なんでもない様子で答えたけれど頭を占めることはひとつだった。
――シたい。
認めたくないけど、オレは性欲が強い方なんだと思う。
けれど高校生の頃は、蒼に嫌われたくなくて、シたくてもなるべく蒼に合わせて我慢していた。
そう、ちゃんと我慢できてたんだ。…………毎日自慰はしてたけど。
……で、蒼と別れて、でも別の誰かとする気にはなれなくて、本当に四年間誰とも寝てなかった。
「その反動が、これかあ……」
病院の休憩室。机に頬をつけて、思わず独り言をいう。
一昨日、久しぶりに蒼と一回ヤってから、自分でも引くほど欲が収まらない。ほんとにヤバイ。何これ?
既に午前が終わって休憩に入ったけど、今日も仕事に全然集中できなかった。
ああもう、どうしよう、めっちゃシたい。セックスしたい。
悶々とする気持ちが、ぐるぐる頭を回る。ため息をついて、目を閉じる。
けど、流石に三日連続は、蒼に引かれる。間違いない。
……今日だって、ムラムラするから一緒にお風呂入りたくないって言ったら、若干引かれたし?!
蒼は、コスプレとか特殊シチュエーションとか拘束とか、なんかコアな趣味は結構色々あるけど、オレほど性欲強くはない。というか、医者になれるくらいには、自分のやりたいこととか、ちゃんとセーブができるんだ。
……でも。
身体の中の、形容し難いむずむずが収まらなくて、膝同士をすり合わせる。
蒼に、触れたい。キスがしたい。あと、それから――。
「あら、花畑君。寝不足?」
突然声が降ってきて、目を開ける。
見ると、上司(三十歳独身女性)の姿があった。
相変わらず上司は一ミリも笑顔じゃなくて、慌てて姿勢を正した。
「えっと……まあ」
「ふうん、だから最近ミスが多いのね。ちゃんと寝ないとだめよ」
「す……すみません」
言い訳もできなくて、とりあえず謝る。
女の先輩はそれ以上は話しかけてこなくて、スマホを横目に自分の弁当を机に広げた。
オレも、いい加減しっかりしないとなあと思いながら、かばんから昼食のパンを取り出した。
「宙ー、お待たせ!」
昨日と同じ時間、同じ待合室のロビー。上機嫌の蒼が手を振りながら歩いてきた。
やっぱり、かっこいい。彼氏補正効いてるのかもしれないけど。
並んで、病院を出た。
空は、水色からオレンジ色の、綺麗なグラデーション。
病院の庭では、車椅子のおじいさんがおばあさんに押されてゆっくり散歩している。その側では、鳩が三匹ちょこちょこ歩いてる。
なんてのどかな夕方なんだろう。
「今日はいい天気だったらしいな。室内にいるとあんまりわかんないけど」
そう言って蒼は、伸びをする。
「はあ、明日は休みかあ」
「そうだね」
笑顔な蒼に、オレも微笑む。
……だけど、こうして隣で蒼の声聞いてると、だんだん、ムラムラしてきて。
やばい。ヤりたい。キスしたい。抱きしめてほしい。それから――。
「なんか元気ないけど、大丈夫?」
「――え?」
蒼に顔を覗き込まれて、ハッとして、慌てて答えた。
「そう? いつも通りだけど」
「…………」
突然、蒼は立ち止まり、俺の手首を握った。
その指の感触に、ぞわりとする。
「あ、あおい、何?」
蒼は、手首を見つめている。さらりと、前髪が目元を流れた。
「脈、測ってる」
……脈。
そう答えた真剣な表情の蒼に、心拍数が一気に跳ね上がった。
えっ、かっ、顔が良すぎじゃない?!?! いや、知ってたけど!!!
この人、循環器科にいて大丈夫なの?! 患者、心臓爆発しない?! 抱いて。マジで。
脈が早くなったことに気づいたのか、蒼はオレを見て笑った。
「そんなに緊張しなくてもいいんだよ」
「き、緊張してないよ」
「じゃあ、ちょっと自律神経乱れてるかもな。確かに連日ヤってたし……」
「…………」
その言葉に、身体が硬直する。
蒼はニヤッと笑い、オレの顔を覗き込んだ。
「今日はシなくていいのか?」
「え? さ、流石に三日連続はないでしょ」
そう言って、目をそらす。
「そっかー、じゃあ今日こそゲームの続きしよう」
「いや、もう、今日は家帰るから」
本当は一緒にいたい。けどこれ以上一緒にいたら、オレがムラムラしてることが間違いなくバレる。
そう思って素っ気なく答えたら、蒼はちょっと残念そうに、
「えー、うーん、そっか。二日家帰ってないもんな……」
そう言って少し間を開けた後、急に、オレの手首を引っ張って足を早めた。
「え?」
とりあえずそのまま着いていくと、木の裏側に連れてこられる。
蒼はオレの手を離し、オレと向き合う。
「何?」と聞く前に――抱きしめられた。
「っ、あ、あお……」
体温。匂い。息の音。
全部を全身で感じて、頭の中が真っ白になった。
そして、髪を撫でられる。
「また月曜日、会おうな」
低く、優しい声が、耳のすぐ側でした。
ショートした頭で、なんとか頷いた。
「……う、うん」
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