アオソラ診察室

No.26

文字の大きさ
上 下
4 / 21
episode2 毎日診察が必要です

01

しおりを挟む
episode.2 side:Aoi


「あのさ、蒼って、同性愛者?」
 忘れもしない、中学三年生の頃の、暑い夏の夕方。
 急に外から帰ってきて、クーラーの効いた俺の部屋に勝手に入ってきた、二歳年上の兄貴に、そう聞かれたのは。
 俺が唖然としていると、兄貴はベッドの上に体育座りしたまま、脱色した長い前髪と、ゴテゴテしたピアスを揺らして、フッと笑う。
「ビンゴ?」
「……何で、わかった?」
 いつ? どうして? 誰にも気づかれないよう、隠していたつもりだったのに。
 しかし兄貴は、「へえ」と適当な様子で言った。
「いや、このボクの弟なのに、彼女いない原因がそれしか思いつかなくて。まさか本当にそうだったとはねえ」
「ナルシストも大概にしろよ」
 なんだよ、鎌かけただけかよ。まんまとハマってしまった。
 どうでも良くなって、勉強机に突っ伏した。
「そうだよ。俺は可愛い男の子が大好きだよ。女とか無理なんだよ。ごめんなこんな弟で」
「いや、別に変な目で見たりしないよ。好みは人それぞれだとボクは思ってるし」
 確かに、髪を染め、ピアスをいくつも開け、原宿ファッションを好むこの兄こそ、「好みは人それぞれ」を体現しているような男だ。
「でも、父さんと母さんは保守的だから、その辺がなあ」
「……やっぱり、そうだよな」
 兄貴の格好にも度々文句を言う、父と母の顔を思い浮かべ、またため息をついてしまう。
 しかし兄貴はへらへらした様子で、
「んー、同性愛者って言っても『そんなことくらい』って言われるくらい、蒼がすげーやつになれば良いんじゃね?」
「……例えば?」
 聞き返すと、兄貴は笑って言った。

「医者とか?」



 宙と正式に付き合うことになってから、仕事のある日は一緒に帰ることを約束した。

 再会から次の日。昨日交換したラインのメッセージを見て、病院のロビーの方へ行くと、宙は待合室の椅子に座って待っていた。
「あっ、蒼!おつかれさま!」
 宙は俺に気づいて、へらっと笑う。
 ああもう超可愛い。今すぐ抱きしめたい。まだ病院だから流石にしないけど。
 病院を出ると、宙は俺に聞いてきた。
「今日は、真っ直ぐ帰る予定?」
「あ、それなんだけど。俺の家に来ないか?」
「え? 蒼の家?」
「そう。一人暮らししてるんだ」
 そう答えると、宙はぱあっと顔を輝かせる。
 俺も笑って、
「この前発売された、新しいゲームを買ったんだ! 一緒にやろう!」
 元々、宙とはゲームの趣味が一致したことで知り合った。だから、喜んでもらえると思った。
 嬉々として提案すると、宙は一瞬間を開けてから、笑って頷いた。
「うん! いいよ。楽しそう!」
 ……あれ、反応、ちょっと微妙?
 少しひっかかりながらも、宙が喜んでくれることを信じて、家に向かって歩いた。


「ねえ、蒼」
「ん?」
 ゲームを初めて三十分。二人で一面のボスを倒したとき、宙は言った。
「ゲームもいいけどさ……今日、しないの?」
「え? 何を?」
 宙の方を向いて聞く。何か約束してたか?
 すると、宙は俺から目をそらして、無表情のまま伏せ目がちに、小さな声で言った。
「エロいこと」
 その言動に、ちょっとどきっとする。
「……セックスしたいの?」
「……あ、蒼はしたいのかなって」
 宙はそう言って、そっぽを向く。
 昨日ホテル行ってしたばっかりだし、って思っていたけど、宙が良いなら、そういうことをしてもいい。
「してもいいんだけど、ゴム、家にあったかなあ」
「オレ、持ってきてるよ」
「マジか。けど、ローション……」
「それも持ってる」
「…………」
 思い当たることがあって、宙を見て、聞いた。
「実は、最初からヤる気満々だった?」
「べっ、べ、別に?! 蒼がする気になるかもしれないって思って持ってきただけ!!」
 宙は振り返って、顔を真っ赤にして、慌てたように言った。
 ……いや、それ嘘だろ、絶対。可愛いな。
 宙に、もう一度聞いた。
「宙。今日、したい?」
「……だから、蒼が」
「俺じゃなくて、宙の気分聞いてるんだけど」
 そう言うと、宙は暫く目を泳がせて、そして頬を赤く染めたまま、俺を見つめた。
「…………したい、って言ったら?」
「いいよ、って言うけど」
 そう答えると宙は、俺の肩に顔を埋めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...