アオソラ診察室

No.26

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episode2 毎日診察が必要です

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episode.2 side:Aoi


「あのさ、蒼って、同性愛者?」
 忘れもしない、中学三年生の頃の、暑い夏の夕方。
 急に外から帰ってきて、クーラーの効いた俺の部屋に勝手に入ってきた、二歳年上の兄貴に、そう聞かれたのは。
 俺が唖然としていると、兄貴はベッドの上に体育座りしたまま、脱色した長い前髪と、ゴテゴテしたピアスを揺らして、フッと笑う。
「ビンゴ?」
「……何で、わかった?」
 いつ? どうして? 誰にも気づかれないよう、隠していたつもりだったのに。
 しかし兄貴は、「へえ」と適当な様子で言った。
「いや、このボクの弟なのに、彼女いない原因がそれしか思いつかなくて。まさか本当にそうだったとはねえ」
「ナルシストも大概にしろよ」
 なんだよ、鎌かけただけかよ。まんまとハマってしまった。
 どうでも良くなって、勉強机に突っ伏した。
「そうだよ。俺は可愛い男の子が大好きだよ。女とか無理なんだよ。ごめんなこんな弟で」
「いや、別に変な目で見たりしないよ。好みは人それぞれだとボクは思ってるし」
 確かに、髪を染め、ピアスをいくつも開け、原宿ファッションを好むこの兄こそ、「好みは人それぞれ」を体現しているような男だ。
「でも、父さんと母さんは保守的だから、その辺がなあ」
「……やっぱり、そうだよな」
 兄貴の格好にも度々文句を言う、父と母の顔を思い浮かべ、またため息をついてしまう。
 しかし兄貴はへらへらした様子で、
「んー、同性愛者って言っても『そんなことくらい』って言われるくらい、蒼がすげーやつになれば良いんじゃね?」
「……例えば?」
 聞き返すと、兄貴は笑って言った。

「医者とか?」



 宙と正式に付き合うことになってから、仕事のある日は一緒に帰ることを約束した。

 再会から次の日。昨日交換したラインのメッセージを見て、病院のロビーの方へ行くと、宙は待合室の椅子に座って待っていた。
「あっ、蒼!おつかれさま!」
 宙は俺に気づいて、へらっと笑う。
 ああもう超可愛い。今すぐ抱きしめたい。まだ病院だから流石にしないけど。
 病院を出ると、宙は俺に聞いてきた。
「今日は、真っ直ぐ帰る予定?」
「あ、それなんだけど。俺の家に来ないか?」
「え? 蒼の家?」
「そう。一人暮らししてるんだ」
 そう答えると、宙はぱあっと顔を輝かせる。
 俺も笑って、
「この前発売された、新しいゲームを買ったんだ! 一緒にやろう!」
 元々、宙とはゲームの趣味が一致したことで知り合った。だから、喜んでもらえると思った。
 嬉々として提案すると、宙は一瞬間を開けてから、笑って頷いた。
「うん! いいよ。楽しそう!」
 ……あれ、反応、ちょっと微妙?
 少しひっかかりながらも、宙が喜んでくれることを信じて、家に向かって歩いた。


「ねえ、蒼」
「ん?」
 ゲームを初めて三十分。二人で一面のボスを倒したとき、宙は言った。
「ゲームもいいけどさ……今日、しないの?」
「え? 何を?」
 宙の方を向いて聞く。何か約束してたか?
 すると、宙は俺から目をそらして、無表情のまま伏せ目がちに、小さな声で言った。
「エロいこと」
 その言動に、ちょっとどきっとする。
「……セックスしたいの?」
「……あ、蒼はしたいのかなって」
 宙はそう言って、そっぽを向く。
 昨日ホテル行ってしたばっかりだし、って思っていたけど、宙が良いなら、そういうことをしてもいい。
「してもいいんだけど、ゴム、家にあったかなあ」
「オレ、持ってきてるよ」
「マジか。けど、ローション……」
「それも持ってる」
「…………」
 思い当たることがあって、宙を見て、聞いた。
「実は、最初からヤる気満々だった?」
「べっ、べ、別に?! 蒼がする気になるかもしれないって思って持ってきただけ!!」
 宙は振り返って、顔を真っ赤にして、慌てたように言った。
 ……いや、それ嘘だろ、絶対。可愛いな。
 宙に、もう一度聞いた。
「宙。今日、したい?」
「……だから、蒼が」
「俺じゃなくて、宙の気分聞いてるんだけど」
 そう言うと、宙は暫く目を泳がせて、そして頬を赤く染めたまま、俺を見つめた。
「…………したい、って言ったら?」
「いいよ、って言うけど」
 そう答えると宙は、俺の肩に顔を埋めた。
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