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五章 二学期
02
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「ハッピーバースデー!いってらっしゃいませ!」
九月三日はよく晴れていて、熱いくらいだった。
「誕生日の人は専用のバッジがもらえる」なんて初耳情報を言われて、素直に胸につけていたら、スタッフに会うたびに祝われた。
「やっぱ恥ずい……外す」
「えー、せっかくだからつけようよ。守くんがみんなに祝われてるとぼくも嬉しいな」
そうまことと話していると、二人乗りの乗り物がゆっくり進んで、作り物の森の中に入っていく。
アトラクションの中では、なんだか可愛らしいキャラクターたちが動いていた。
遊園地に入園してすぐ、空いてたから乗ったけど……楽しいのかこれ。
「守くん、見て、あそこにリスがいるよ」
「ああ」
一方まことはこういうのが好きらしく、にこにこしながら景色を見ている。
景色より、ついその横顔を見つめていたら、まことは俺の視線に気がついた。
「ふふ、何?」
「いや、別に……」
なんだか妙にドキドキしてきて、目を逸らす。
まことは、椅子の上で俺の手に自分の手を重ねた。
「…………」
「…………」
お互いに見つめ合う。
周りに見ている人がいないことを確認すると、まことはふっと目を細めて、俺にキスをした。
そのあとは、アトラクションにたくさん乗ったり、キャラクターの形のオムライスを食べたり、遊園地を満喫した。
俺は相変わらずスタッフに誕生日を祝われて、ちょっと恥ずかしかったけど。
まことといるのは楽しくて、友達と遊園地にきたときと同じ感覚を覚える。けれどふとしたタイミングで手を繋いで、俺たちって恋人なんだなあと、柄にもなく甘酸っぱい感情に浸った。
「そろそろ最後だよね、どこ行こっか」
二人でソフトクリームを食べながら、遊園地のマップを見る。
「観覧車とか乗ってないんじゃないか?」
「いいね!のろのろ!」
そうして、ちょうど近くにあった観覧車に行った。
夕焼けの中、ゴンドラがゆっくりとあがっていく。
「守くんってさ……」
景色を見ていたら、正面に座るまことがぽつりと言った。
「A北高校に入ったのって、校則がゆるいから?」
「そうだけど」
「進学とかって、あんまり目指してないの?」
そう聞かれて、俺はまことに視線を戻した。
「大学は行くつもりだけど。……なんで?」
そう聞き返すと、まことはぎこちなく俺を見た。
「一緒に都内行かない?」
その言葉に、思わず固まる。
「わがまま言ってごめん。僕、多分都内に行くんだ。でも、守くんと大学生になっても一緒にいたいから……一緒の大学じゃなくてもいいから、守くんとルームシェアできたら、楽しいだろうなって」
「…………」
大学生になって、まことと、一緒に住む。……そんな先のこと、考えもしなかった。
同じ屋根の下で、朝起きて、学校に行って、帰ってきて夕飯を食べて。それから……。
「あ、毎日えっちなことし放題だよ!」
「………………」
そんなことをキラキラした目で言われて、ため息で返した。
「馬鹿じゃねぇの」
「え?えっちなことしたくないの?」
「……もっと真面目な話だろ」
窓の淵に腕を乗せて、頬杖をつく。
「親の許可とかさ。俺のとこはいいと思うけど、まことの家は大丈夫なのかよ? 」
「…………」
まことは俯いて、足をぷらぷらさせる。
「だよね。やっぱり、難しいかな」
「……俺は、一緒に住みたいけどさ」
そう答えると、まことは再び顔を上げた。
「けど、先のことはまだわかんねぇだろ。……一応、考えてはおくから」
俺の言葉に、まことは嬉しそうに頷いた。
「都内に進学か……」
その日、家に帰って部屋のカレンダーを見ながら、一人呟く。
勉強は好きではないが、不得意じゃなかった。
俺の行っている高校は、一応県でもかなり偏差値が高い方だ。けれど校則が自由だと聞いたから、俺はわざわざ勉強して入った。
まこととの二人暮らしに想いを馳せると、なんだか胸が高鳴ってきて。
「……なら、もっとがんばらねぇとだよな」
そうして、俺ははりきりすぎて次の中間テストで学年十位に入ってしまい、まことに「僕が一緒に住もうかって話したから?!」とドンピシャな考察をされ、しかも名前が貼り出されて学年中から珍しそうな目を向けられ、めちゃくちゃ恥ずかしいことになってしまった。
九月三日はよく晴れていて、熱いくらいだった。
「誕生日の人は専用のバッジがもらえる」なんて初耳情報を言われて、素直に胸につけていたら、スタッフに会うたびに祝われた。
「やっぱ恥ずい……外す」
「えー、せっかくだからつけようよ。守くんがみんなに祝われてるとぼくも嬉しいな」
そうまことと話していると、二人乗りの乗り物がゆっくり進んで、作り物の森の中に入っていく。
アトラクションの中では、なんだか可愛らしいキャラクターたちが動いていた。
遊園地に入園してすぐ、空いてたから乗ったけど……楽しいのかこれ。
「守くん、見て、あそこにリスがいるよ」
「ああ」
一方まことはこういうのが好きらしく、にこにこしながら景色を見ている。
景色より、ついその横顔を見つめていたら、まことは俺の視線に気がついた。
「ふふ、何?」
「いや、別に……」
なんだか妙にドキドキしてきて、目を逸らす。
まことは、椅子の上で俺の手に自分の手を重ねた。
「…………」
「…………」
お互いに見つめ合う。
周りに見ている人がいないことを確認すると、まことはふっと目を細めて、俺にキスをした。
そのあとは、アトラクションにたくさん乗ったり、キャラクターの形のオムライスを食べたり、遊園地を満喫した。
俺は相変わらずスタッフに誕生日を祝われて、ちょっと恥ずかしかったけど。
まことといるのは楽しくて、友達と遊園地にきたときと同じ感覚を覚える。けれどふとしたタイミングで手を繋いで、俺たちって恋人なんだなあと、柄にもなく甘酸っぱい感情に浸った。
「そろそろ最後だよね、どこ行こっか」
二人でソフトクリームを食べながら、遊園地のマップを見る。
「観覧車とか乗ってないんじゃないか?」
「いいね!のろのろ!」
そうして、ちょうど近くにあった観覧車に行った。
夕焼けの中、ゴンドラがゆっくりとあがっていく。
「守くんってさ……」
景色を見ていたら、正面に座るまことがぽつりと言った。
「A北高校に入ったのって、校則がゆるいから?」
「そうだけど」
「進学とかって、あんまり目指してないの?」
そう聞かれて、俺はまことに視線を戻した。
「大学は行くつもりだけど。……なんで?」
そう聞き返すと、まことはぎこちなく俺を見た。
「一緒に都内行かない?」
その言葉に、思わず固まる。
「わがまま言ってごめん。僕、多分都内に行くんだ。でも、守くんと大学生になっても一緒にいたいから……一緒の大学じゃなくてもいいから、守くんとルームシェアできたら、楽しいだろうなって」
「…………」
大学生になって、まことと、一緒に住む。……そんな先のこと、考えもしなかった。
同じ屋根の下で、朝起きて、学校に行って、帰ってきて夕飯を食べて。それから……。
「あ、毎日えっちなことし放題だよ!」
「………………」
そんなことをキラキラした目で言われて、ため息で返した。
「馬鹿じゃねぇの」
「え?えっちなことしたくないの?」
「……もっと真面目な話だろ」
窓の淵に腕を乗せて、頬杖をつく。
「親の許可とかさ。俺のとこはいいと思うけど、まことの家は大丈夫なのかよ? 」
「…………」
まことは俯いて、足をぷらぷらさせる。
「だよね。やっぱり、難しいかな」
「……俺は、一緒に住みたいけどさ」
そう答えると、まことは再び顔を上げた。
「けど、先のことはまだわかんねぇだろ。……一応、考えてはおくから」
俺の言葉に、まことは嬉しそうに頷いた。
「都内に進学か……」
その日、家に帰って部屋のカレンダーを見ながら、一人呟く。
勉強は好きではないが、不得意じゃなかった。
俺の行っている高校は、一応県でもかなり偏差値が高い方だ。けれど校則が自由だと聞いたから、俺はわざわざ勉強して入った。
まこととの二人暮らしに想いを馳せると、なんだか胸が高鳴ってきて。
「……なら、もっとがんばらねぇとだよな」
そうして、俺ははりきりすぎて次の中間テストで学年十位に入ってしまい、まことに「僕が一緒に住もうかって話したから?!」とドンピシャな考察をされ、しかも名前が貼り出されて学年中から珍しそうな目を向けられ、めちゃくちゃ恥ずかしいことになってしまった。
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