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四章 夏期講習
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side:まこと
「夏期講習?」
後ろで、守くんが聞き返す。
「うん。その塾で体験授業みたいなのがあってね、明日から何日か行くんだ。だからお盆まで会えない……あっ、やられた?!」
そう答えていたら、画面の中で僕の操作しているキャラクターが、穴に落ちた。
夏祭りの次の日、八月の始め。僕は守くんの家に来ていた。
今日は、守くんのお父さんが居て家に二人きりじゃなかったから、宿題したあとはリビングでゲームをしていた。
「うーん、難しいなあ……守くん何でそんなにできるの?」
「まあ、慣れてるからな」
守くんは、敵に当たらないように、器用にキャラクターを動かしていく。
すごいなあ。
「てか、夏期講習って……十分勉強出来るだろ、わざわざ行かなくていいんじゃないか?」
「うーん、けど僕――ってあぁーっ!?また死んだ!?!」
軽快なリズムと共に、僕の残機が減っていく。
「えーもう全然できないよーやだー」
「まあ初めてだし、しょうがないだろ」
「もう、声が笑ってるよ?」
リモコンを放置して、あぐらをかいている守くんの膝に、頭をのせて横になる。
「……で、なんだって?」
「あのね、僕ほんとに勉強しか得意なことないから、ちゃんとやらなきゃ。守くんみたいにゲーム上手くないし、音楽とかオシャレとかも全然分かんないし」
「何言ってんだよ、まことはもっと良いとこあるだろ。優しいし性格良いし平等だし、あと、」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、守くんは言葉を切った。
「……まあ、そんなとこだな」
「えー、もっと褒めてくれるんじゃないの」
「ねぇよ。図々しいな」
「…………」
「……ッあ?! ばっばかやめろ変態っ!!!」
わざと股間に頭を擦り付けると、リモコンで頭を叩かれた。
地味に痛かったので、そうするのは止めて、また膝に頭を戻す。
「守くんは、塾とか行かないの?」
「まだ二年生だし」
「そっか。じゃあ三年生になったら、一緒のところ行こうよ」
「……まことの通うところ、難しそう」
「守くんなら大丈夫だよ。一緒にがんばろう」
「はいはい」
答えながら、守くんはゲームのステージをクリアした。
見計らってまた守くんの足の間に座ると、後ろから肩に頭を乗せられた。
髪が、僕の頬をかすめて、くすぐったい。
「ねえ、えっちなことしたいねー」
「…………」
「守くんの部屋行きたい」
「……二階に、親父いるから」
「守くんが声出さなければバレないよ」
「あ? なんだよ、俺ばっかうるさいみたいな」
ムッとする守くんが面白くて、笑う。
すると、リビングのドアが開く音がした。
「や、ここにいたのか」
そう言って入ってきたのは、守くんのお父さん。
黒のシンプルなポロシャツを着て、四角い眼鏡をかけている。
「はじめまして。こんにちは」
「こんにちは。仲良いね」
ぴったりくっついてる僕らを見て、微笑む。
優しそうなおじさんだ。あと、背が高いところとか、目元とか、守くんに似てる気がする。
「ちょっと電気屋に行ってくるよ。一応鍵は持っていくけど、守たちはまだ家にいる?」
「ああ。いつ帰ってくるんだ?」
「二時間後くらいかな。じゃあ、留守番よろしくね」
そう言っておじさんは、部屋を出た。
続いて、がちゃんと、玄関の閉まる音。
すぐに守くんの方を振り返った。
「これでえっちなことできるね!!!」
「…………」
反論されるか叩かれると思ってたけど、守くんはただ僕を見ていた。
そのまま、何も言わない。
……あれ?
「え? したいの?」
「……うざ」
そう言って目を反らす。頬が、赤い。
…………お???
「なに? なに? 溜まってるの?」
「違う。ばか」
もっと顔を背けて、そう否定する守くん。
シャツの中に手を入れたら、すぐビクッてなった。あー、かわいい。
ズボンに手をかけると、守くんは慌ててその手を止めた。
「おい。何してんだよ」
「たまにはリビングでするのも良いかなーって」
「良くない」
「え~なんで~。ほら、マンネリって良くないじゃん?」
そう駄々をこねたら、守くんはますますムッとした。
そして、ぐっと僕を引き寄せ、抱き止められたような状態になる。
「えっ何?!……うわっ!?」
どきまぎしてたら、なんと僕の体を持ち上げられ、そのまま立たれた。
足が完全に浮いて、守くんに抱っこされてるみたいな状態になる。
「まこと、軽すぎ……」
「なにこれ?! やだー、恥ずかしい! 下ろして!!」
じたばたするけど離してもらえず、守くんはそのまま廊下の方に向かった。
……あっけどちょっと楽しくなってきた。
軽い方とはいえ40キロはあるのに。
守くん、力持ちだなぁ。
「やっぱり、男の子なんだね」
「やっぱりって何……」
「ときめいた」
「ふ、少女漫画みたい」
ちょっと笑われた。
階段手前で下ろされ、そのまま守くんの部屋まで行く。
「やっぱり、守くんの部屋落ち着くね」
「まこと」
寝ようとしたら、ベッドに座らされた。
守くんも座り、向き合う。
まだクーラーを入れていない、蝉の声が響く、蒸し暑い部屋。
「どうしたの?」
「あのさ……マンネリとか気にしなくていいからさ……俺……」
守くんは何か言おうと、口をもごもごさせている。
顔が赤い。
……よっぽど、言いにくいこと?
それって……。
「俺……俺、実は」
「痔になったの?」
「………………」
聞くと、盛大にため息をつかれた。
「ばか」
「え? 痔だから今日はやめようって話じゃないの?」
「違う。もうやだ。知らね」
そう言って、守くんは枕に突っ伏す。
あれ、違ったの……?
「わかんないけど、大丈夫だよ、僕は守くんが好きだよ」
「…………っ」
守くんは、壁の方を向いた。
髪の隙間から見える耳が赤い。
「今日どうしたの?なんか変だよ」
「べ、別に……なんでもねぇ……」
後ろから抱き締めて聞くけど、やっぱり首を横に振られる。
しばらくすると、「今度、ちゃんと言うから……」という呟きが聞こえた。
「夏期講習?」
後ろで、守くんが聞き返す。
「うん。その塾で体験授業みたいなのがあってね、明日から何日か行くんだ。だからお盆まで会えない……あっ、やられた?!」
そう答えていたら、画面の中で僕の操作しているキャラクターが、穴に落ちた。
夏祭りの次の日、八月の始め。僕は守くんの家に来ていた。
今日は、守くんのお父さんが居て家に二人きりじゃなかったから、宿題したあとはリビングでゲームをしていた。
「うーん、難しいなあ……守くん何でそんなにできるの?」
「まあ、慣れてるからな」
守くんは、敵に当たらないように、器用にキャラクターを動かしていく。
すごいなあ。
「てか、夏期講習って……十分勉強出来るだろ、わざわざ行かなくていいんじゃないか?」
「うーん、けど僕――ってあぁーっ!?また死んだ!?!」
軽快なリズムと共に、僕の残機が減っていく。
「えーもう全然できないよーやだー」
「まあ初めてだし、しょうがないだろ」
「もう、声が笑ってるよ?」
リモコンを放置して、あぐらをかいている守くんの膝に、頭をのせて横になる。
「……で、なんだって?」
「あのね、僕ほんとに勉強しか得意なことないから、ちゃんとやらなきゃ。守くんみたいにゲーム上手くないし、音楽とかオシャレとかも全然分かんないし」
「何言ってんだよ、まことはもっと良いとこあるだろ。優しいし性格良いし平等だし、あと、」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、守くんは言葉を切った。
「……まあ、そんなとこだな」
「えー、もっと褒めてくれるんじゃないの」
「ねぇよ。図々しいな」
「…………」
「……ッあ?! ばっばかやめろ変態っ!!!」
わざと股間に頭を擦り付けると、リモコンで頭を叩かれた。
地味に痛かったので、そうするのは止めて、また膝に頭を戻す。
「守くんは、塾とか行かないの?」
「まだ二年生だし」
「そっか。じゃあ三年生になったら、一緒のところ行こうよ」
「……まことの通うところ、難しそう」
「守くんなら大丈夫だよ。一緒にがんばろう」
「はいはい」
答えながら、守くんはゲームのステージをクリアした。
見計らってまた守くんの足の間に座ると、後ろから肩に頭を乗せられた。
髪が、僕の頬をかすめて、くすぐったい。
「ねえ、えっちなことしたいねー」
「…………」
「守くんの部屋行きたい」
「……二階に、親父いるから」
「守くんが声出さなければバレないよ」
「あ? なんだよ、俺ばっかうるさいみたいな」
ムッとする守くんが面白くて、笑う。
すると、リビングのドアが開く音がした。
「や、ここにいたのか」
そう言って入ってきたのは、守くんのお父さん。
黒のシンプルなポロシャツを着て、四角い眼鏡をかけている。
「はじめまして。こんにちは」
「こんにちは。仲良いね」
ぴったりくっついてる僕らを見て、微笑む。
優しそうなおじさんだ。あと、背が高いところとか、目元とか、守くんに似てる気がする。
「ちょっと電気屋に行ってくるよ。一応鍵は持っていくけど、守たちはまだ家にいる?」
「ああ。いつ帰ってくるんだ?」
「二時間後くらいかな。じゃあ、留守番よろしくね」
そう言っておじさんは、部屋を出た。
続いて、がちゃんと、玄関の閉まる音。
すぐに守くんの方を振り返った。
「これでえっちなことできるね!!!」
「…………」
反論されるか叩かれると思ってたけど、守くんはただ僕を見ていた。
そのまま、何も言わない。
……あれ?
「え? したいの?」
「……うざ」
そう言って目を反らす。頬が、赤い。
…………お???
「なに? なに? 溜まってるの?」
「違う。ばか」
もっと顔を背けて、そう否定する守くん。
シャツの中に手を入れたら、すぐビクッてなった。あー、かわいい。
ズボンに手をかけると、守くんは慌ててその手を止めた。
「おい。何してんだよ」
「たまにはリビングでするのも良いかなーって」
「良くない」
「え~なんで~。ほら、マンネリって良くないじゃん?」
そう駄々をこねたら、守くんはますますムッとした。
そして、ぐっと僕を引き寄せ、抱き止められたような状態になる。
「えっ何?!……うわっ!?」
どきまぎしてたら、なんと僕の体を持ち上げられ、そのまま立たれた。
足が完全に浮いて、守くんに抱っこされてるみたいな状態になる。
「まこと、軽すぎ……」
「なにこれ?! やだー、恥ずかしい! 下ろして!!」
じたばたするけど離してもらえず、守くんはそのまま廊下の方に向かった。
……あっけどちょっと楽しくなってきた。
軽い方とはいえ40キロはあるのに。
守くん、力持ちだなぁ。
「やっぱり、男の子なんだね」
「やっぱりって何……」
「ときめいた」
「ふ、少女漫画みたい」
ちょっと笑われた。
階段手前で下ろされ、そのまま守くんの部屋まで行く。
「やっぱり、守くんの部屋落ち着くね」
「まこと」
寝ようとしたら、ベッドに座らされた。
守くんも座り、向き合う。
まだクーラーを入れていない、蝉の声が響く、蒸し暑い部屋。
「どうしたの?」
「あのさ……マンネリとか気にしなくていいからさ……俺……」
守くんは何か言おうと、口をもごもごさせている。
顔が赤い。
……よっぽど、言いにくいこと?
それって……。
「俺……俺、実は」
「痔になったの?」
「………………」
聞くと、盛大にため息をつかれた。
「ばか」
「え? 痔だから今日はやめようって話じゃないの?」
「違う。もうやだ。知らね」
そう言って、守くんは枕に突っ伏す。
あれ、違ったの……?
「わかんないけど、大丈夫だよ、僕は守くんが好きだよ」
「…………っ」
守くんは、壁の方を向いた。
髪の隙間から見える耳が赤い。
「今日どうしたの?なんか変だよ」
「べ、別に……なんでもねぇ……」
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