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三章 夏休み
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けど……。
「……一ノ瀬のこと、もう好きじゃないのか?」
「え?」
口を離した後、そう聞くと、まことはそんなことを聞かれるのは予想外、みたいな表情を浮かべた。
けれど次には、ふわっと笑い、
「確かに聖くんはすごくかっこいいし、よかったらまた仲良くしたい、って思ってるよ。……けど、今は守くんが一番好き。守くんしか好きじゃない」
そう言って、俺の胸元に顔を埋めた。
「……そうか」
彼の、柔らかい髪を撫でた。
……本当は、もしまことが一ノ瀬を好きになって、そのまま付き合ってしまったら、どうしようかと思った。
だって、そうしたら俺はまことと、もうこうして話せないかもしれない。
「俺も、」
――そのとき、一際大きな花火の音がして、俺の声はかき消された。
「え?何?」
まことは顔を上げ、聞き返す。
あれ、今、俺…………何て、言った?
思い出そうとしたが、花火の音が止み上の方がざわついてきたから、そっちに気をとられてしまった。
「終わったのか。そろそろ戻ろう」
まことは頷き、俺から降りた。
ベンチから立ち上がったそのとき、ちょうどはると一ノ瀬が階段を降りてきた。
「どこ行ってたんだよ、ラインしたのに」
「トイレ。ごめん、携帯見てなかった」
ポケットの携帯を確認すると、はるの言う通り、二十件くらい通知が来ていた。
……流石に送りすぎだろ。ほとんどスタンプだし。
「そっかー。残念だったな、最後綺麗だったのに」
「ごめんね、誘ってくれたのに」
「気にすんなって。来年も行こうぜ!」
謝るまことに、はるは笑顔で答える。
「けど来年は受験だよなー」
「まあ、そうだな」
横に並んだ一ノ瀬に相づちを打ちながら、四人で帰り道を歩く。
「マモルは進学だっけ?」
「一応。具体的には決めてないけど……一ノ瀬も?」
「おう。都内狙ってる」
「へぇ、とーきょーかぁ」
憧れはあるけど、行ったことはない。
この町よりもっとビルがいっぱいあって、人もいっぱいいるんだろうな。
「マコトは?大学どーすんの?」
「できれば国立行きたいなって思ってるよ」
「オレはね~地元の私立!」
「キノコには聞いてねーよ」
「えーっひどっ!」
迷惑そうな顔をする一ノ瀬に、はるは面白がって笑って、
「けどさ、誠なら普通に行けるだろ。期末も学年一位だろ?」
「は?一位?」
はるのことばに、俺は思わず聞き返した。
あれ、だって、さっき神社で……。
「学年で十何位って言ってなかった?」
「え? ああ、あれは全国模試の」
「…………?」
???
全国……つまりまことは、全国の高校二年生で、十番代ってこと?
隣の可愛い顔立ちの彼を、改めて見つめた。
「え……お前、そんな頭良かったの……?」
「逆に守は知らなかったのか? 入学式で代表挨拶読んでたのも誠だぜ」
「マジか」
「そんな、たまたまだよ」
まことは照れたように笑った。
それから、一ノ瀬とはると別れ、まことと二人で電車に乗った。
「楽しかったね。陽くんも聖くんも面白いし」
まことはニコニコしながら言ったけど、俺はまださっきの驚きが忘れられていなかった。
……今さらだけど、まことと付き合うのが、平々凡々な俺なんかで良かったのか?
いや、まことは俺のこと、一番好きって言ってくれたけど。
それに、俺も、
「……え」
……あれ、待って。
自分の気持ちに気づいて、思わず、隣のまことを見た。
…………いつの間にか、俺も。
「…………俺も、好きだ」
「ん……? 今日、四人で遊んだこと?」
「……あ、ああ、うん。それ」
ごまかして、慌てて目を反らす。
……心臓が、いつになくうるさい。
どうしよう、もう一回ちゃんと、言ってしまおうか。
言ったらまことは、喜んでくれるかな。
「……あ、そういえば、まだだったよね」
「何が?」
「守くんの浴衣姿のレア写真!!!」
「おいふざけんな。おい。そのスマホしまえ」
……やっぱ、これ以上舞い上がられてもムカつくから、もっと後にしよう。
そう思った、夏の夜だった。
***
誠たちと別れたあと、いっちーと星の明るい夜道を歩く。
「誠と守、仲良いよな~! デコボココンビ」
「……仲、良すぎる気もするけどな」
軽く話題をふったつもりだったのに、いっちーはすごく真面目な顔をしてそう言った。
何でだろって思ってると、いっちーはちらっとオレを見て、
「あのさ……マコトって、りんご飴食べてた?」
「ん?食べてなかった気ぃするけど。食べてたの守じゃね?」
「だよな。……ふーん……なら……」
いっちーは口に手をあて、何やらもごもご独り言をしながら考え込んでいた。
変なやつだなー。
そう思って、ヨーヨーをくるくる回しながら、夜空を見上げた。
「……なら……それなら何で、マコトも舌が紅かったんだ?」
「……一ノ瀬のこと、もう好きじゃないのか?」
「え?」
口を離した後、そう聞くと、まことはそんなことを聞かれるのは予想外、みたいな表情を浮かべた。
けれど次には、ふわっと笑い、
「確かに聖くんはすごくかっこいいし、よかったらまた仲良くしたい、って思ってるよ。……けど、今は守くんが一番好き。守くんしか好きじゃない」
そう言って、俺の胸元に顔を埋めた。
「……そうか」
彼の、柔らかい髪を撫でた。
……本当は、もしまことが一ノ瀬を好きになって、そのまま付き合ってしまったら、どうしようかと思った。
だって、そうしたら俺はまことと、もうこうして話せないかもしれない。
「俺も、」
――そのとき、一際大きな花火の音がして、俺の声はかき消された。
「え?何?」
まことは顔を上げ、聞き返す。
あれ、今、俺…………何て、言った?
思い出そうとしたが、花火の音が止み上の方がざわついてきたから、そっちに気をとられてしまった。
「終わったのか。そろそろ戻ろう」
まことは頷き、俺から降りた。
ベンチから立ち上がったそのとき、ちょうどはると一ノ瀬が階段を降りてきた。
「どこ行ってたんだよ、ラインしたのに」
「トイレ。ごめん、携帯見てなかった」
ポケットの携帯を確認すると、はるの言う通り、二十件くらい通知が来ていた。
……流石に送りすぎだろ。ほとんどスタンプだし。
「そっかー。残念だったな、最後綺麗だったのに」
「ごめんね、誘ってくれたのに」
「気にすんなって。来年も行こうぜ!」
謝るまことに、はるは笑顔で答える。
「けど来年は受験だよなー」
「まあ、そうだな」
横に並んだ一ノ瀬に相づちを打ちながら、四人で帰り道を歩く。
「マモルは進学だっけ?」
「一応。具体的には決めてないけど……一ノ瀬も?」
「おう。都内狙ってる」
「へぇ、とーきょーかぁ」
憧れはあるけど、行ったことはない。
この町よりもっとビルがいっぱいあって、人もいっぱいいるんだろうな。
「マコトは?大学どーすんの?」
「できれば国立行きたいなって思ってるよ」
「オレはね~地元の私立!」
「キノコには聞いてねーよ」
「えーっひどっ!」
迷惑そうな顔をする一ノ瀬に、はるは面白がって笑って、
「けどさ、誠なら普通に行けるだろ。期末も学年一位だろ?」
「は?一位?」
はるのことばに、俺は思わず聞き返した。
あれ、だって、さっき神社で……。
「学年で十何位って言ってなかった?」
「え? ああ、あれは全国模試の」
「…………?」
???
全国……つまりまことは、全国の高校二年生で、十番代ってこと?
隣の可愛い顔立ちの彼を、改めて見つめた。
「え……お前、そんな頭良かったの……?」
「逆に守は知らなかったのか? 入学式で代表挨拶読んでたのも誠だぜ」
「マジか」
「そんな、たまたまだよ」
まことは照れたように笑った。
それから、一ノ瀬とはると別れ、まことと二人で電車に乗った。
「楽しかったね。陽くんも聖くんも面白いし」
まことはニコニコしながら言ったけど、俺はまださっきの驚きが忘れられていなかった。
……今さらだけど、まことと付き合うのが、平々凡々な俺なんかで良かったのか?
いや、まことは俺のこと、一番好きって言ってくれたけど。
それに、俺も、
「……え」
……あれ、待って。
自分の気持ちに気づいて、思わず、隣のまことを見た。
…………いつの間にか、俺も。
「…………俺も、好きだ」
「ん……? 今日、四人で遊んだこと?」
「……あ、ああ、うん。それ」
ごまかして、慌てて目を反らす。
……心臓が、いつになくうるさい。
どうしよう、もう一回ちゃんと、言ってしまおうか。
言ったらまことは、喜んでくれるかな。
「……あ、そういえば、まだだったよね」
「何が?」
「守くんの浴衣姿のレア写真!!!」
「おいふざけんな。おい。そのスマホしまえ」
……やっぱ、これ以上舞い上がられてもムカつくから、もっと後にしよう。
そう思った、夏の夜だった。
***
誠たちと別れたあと、いっちーと星の明るい夜道を歩く。
「誠と守、仲良いよな~! デコボココンビ」
「……仲、良すぎる気もするけどな」
軽く話題をふったつもりだったのに、いっちーはすごく真面目な顔をしてそう言った。
何でだろって思ってると、いっちーはちらっとオレを見て、
「あのさ……マコトって、りんご飴食べてた?」
「ん?食べてなかった気ぃするけど。食べてたの守じゃね?」
「だよな。……ふーん……なら……」
いっちーは口に手をあて、何やらもごもご独り言をしながら考え込んでいた。
変なやつだなー。
そう思って、ヨーヨーをくるくる回しながら、夜空を見上げた。
「……なら……それなら何で、マコトも舌が紅かったんだ?」
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