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三章 夏休み
07
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side:まもる
「でけー!」
「きれ~!」
花火が上がる度に、歓声が上がる。
放たれた光の粒が、夜空を彩っていた。
花火はすぐ下の海から上がっていて、ここからだととても大きく見える。
始まって十分くらい経って、まことが思い出したように聞いた。
「陽くん、これ何時に終わるんだっけ?」
「んーと、四十五分くらいだよー」
「……そっか、ありがとう。わかった」
まことはそう言って、また空を見上げた。
……それからまことは、度々携帯を開いて時間を気にしていた。
なんだ、予定があるのか?
けれどその動作にも、なんだか落ち着きがない……。
そのことに気がついて、ふと、ひとつ心当たりを見つけた。
「トイレ行きたいの?」
彼にしか聞こえない声でそう呟いたところ、まことはビクッとして振り返り、なんでわかったの、みたいな顔をする。
だがそれは一瞬で、すぐにいつもの笑みを浮かべ、
「大丈夫、我慢できるよ」
そう言われたが、なんとなく、その表情に焦りが浮かんでいる気がした。
そうして暫く、花火を見つつまことのことも気にしていたが、やっぱり動きに落ち着きがない。
……なんで行かないんだ?そんなに花火を見られないのが惜しいか?
けど、ここから動いて、人の邪魔になりたくなくて……とか、まことならありえそうだ。
時折時間を確認しては、ため息をつく。
そんなまことが見ていられなくて、ぐっと、片手をひっぱった。
「?! え、ちょっと、守くん?!」
「来い」
はると一ノ瀬が目を丸くしているが、構わず人混みをかき分け、集団の外に出る。
林を走っていると、まことは慌てたように言った。
「ま、まって僕、そんなに速く走ったら漏っ……んんっ、な、なんでもない」
「……わかった、ゆっくり行くから」
「ゆ、ゆっくりしすぎても、ちょっと、あの……」
「ったく……なんでそんなになるまで我慢したんだよ」
階段を下がり、神社の公衆トイレについた。
「ほら、行ってこいよ」
そう言うが、まことは俺の袖を掴んだまま、隣から離れようとしない。
どうしたのかと顔を見ると、まことは俯いて何か呟いた。
「……い……」
「え?」
聞こえなくて聞き返すと、まことは顔を上げ、涙目で言った。
「こ、怖い……」
「は?」
予想外の言葉に、耳を疑う。
……確かに、昼間と違って辺りは真っ暗だし、人気のない古い公衆トイレだ。
しかも近くに神社あるし。一人で入るのは怖いかもな。
「しょうがいな、付いていくから」
「あ、ありがとう……」
まことはぎゅっと俺の手を握った。
「怖かったから我慢してたのか?」
「うん……」
「ついてきてって言えば良いじゃん」
「だって、悪いし……」
トイレから出て、まことはもごもごと言い訳する。
「一回外れたら、もう居たところに戻れないじゃないか」
「俺はいいよ、別に。暑苦しかったし」
ひとのいない神社の裏、古ぼけたベンチに座る。
まだ後ろで、ドンドンと花火の上がる音が聞こえていた。
「……まこと、結構怖がりなのか?」
「うーん……夜も一人じゃ眠れないし……前の学園祭のお化け屋敷でも、怖くて叫んじゃった」
恥ずかしそうなその笑みは、何だか新鮮だった。
それに……何から何まで完璧だと思っていたのに、まことにも、不完全な部分がある。
ああ、俺と同じなんだなって知ることができて、なんていうか、嬉しかった。
まことは周りに誰もいないのを見計らい、俺の膝の上に向い合わせになるように座った。
この距離だと辺りが暗くても、まことの顔がよく見える。
彼は俺の首に手を回し、
「ねぇ、みんな花火の見える方に行っちゃってるから、ここ誰もいないね」
「そうだな」
「する?青姦」
「……はっ!?」
「冗談だよ」
まことは笑って、キスをした。
そうしてされるままに、深く舌を絡める。
誰か来たらどうすんだよっていうのと、興奮しているのとが混ざって、どきどきして胸が苦しかった。
「でけー!」
「きれ~!」
花火が上がる度に、歓声が上がる。
放たれた光の粒が、夜空を彩っていた。
花火はすぐ下の海から上がっていて、ここからだととても大きく見える。
始まって十分くらい経って、まことが思い出したように聞いた。
「陽くん、これ何時に終わるんだっけ?」
「んーと、四十五分くらいだよー」
「……そっか、ありがとう。わかった」
まことはそう言って、また空を見上げた。
……それからまことは、度々携帯を開いて時間を気にしていた。
なんだ、予定があるのか?
けれどその動作にも、なんだか落ち着きがない……。
そのことに気がついて、ふと、ひとつ心当たりを見つけた。
「トイレ行きたいの?」
彼にしか聞こえない声でそう呟いたところ、まことはビクッとして振り返り、なんでわかったの、みたいな顔をする。
だがそれは一瞬で、すぐにいつもの笑みを浮かべ、
「大丈夫、我慢できるよ」
そう言われたが、なんとなく、その表情に焦りが浮かんでいる気がした。
そうして暫く、花火を見つつまことのことも気にしていたが、やっぱり動きに落ち着きがない。
……なんで行かないんだ?そんなに花火を見られないのが惜しいか?
けど、ここから動いて、人の邪魔になりたくなくて……とか、まことならありえそうだ。
時折時間を確認しては、ため息をつく。
そんなまことが見ていられなくて、ぐっと、片手をひっぱった。
「?! え、ちょっと、守くん?!」
「来い」
はると一ノ瀬が目を丸くしているが、構わず人混みをかき分け、集団の外に出る。
林を走っていると、まことは慌てたように言った。
「ま、まって僕、そんなに速く走ったら漏っ……んんっ、な、なんでもない」
「……わかった、ゆっくり行くから」
「ゆ、ゆっくりしすぎても、ちょっと、あの……」
「ったく……なんでそんなになるまで我慢したんだよ」
階段を下がり、神社の公衆トイレについた。
「ほら、行ってこいよ」
そう言うが、まことは俺の袖を掴んだまま、隣から離れようとしない。
どうしたのかと顔を見ると、まことは俯いて何か呟いた。
「……い……」
「え?」
聞こえなくて聞き返すと、まことは顔を上げ、涙目で言った。
「こ、怖い……」
「は?」
予想外の言葉に、耳を疑う。
……確かに、昼間と違って辺りは真っ暗だし、人気のない古い公衆トイレだ。
しかも近くに神社あるし。一人で入るのは怖いかもな。
「しょうがいな、付いていくから」
「あ、ありがとう……」
まことはぎゅっと俺の手を握った。
「怖かったから我慢してたのか?」
「うん……」
「ついてきてって言えば良いじゃん」
「だって、悪いし……」
トイレから出て、まことはもごもごと言い訳する。
「一回外れたら、もう居たところに戻れないじゃないか」
「俺はいいよ、別に。暑苦しかったし」
ひとのいない神社の裏、古ぼけたベンチに座る。
まだ後ろで、ドンドンと花火の上がる音が聞こえていた。
「……まこと、結構怖がりなのか?」
「うーん……夜も一人じゃ眠れないし……前の学園祭のお化け屋敷でも、怖くて叫んじゃった」
恥ずかしそうなその笑みは、何だか新鮮だった。
それに……何から何まで完璧だと思っていたのに、まことにも、不完全な部分がある。
ああ、俺と同じなんだなって知ることができて、なんていうか、嬉しかった。
まことは周りに誰もいないのを見計らい、俺の膝の上に向い合わせになるように座った。
この距離だと辺りが暗くても、まことの顔がよく見える。
彼は俺の首に手を回し、
「ねぇ、みんな花火の見える方に行っちゃってるから、ここ誰もいないね」
「そうだな」
「する?青姦」
「……はっ!?」
「冗談だよ」
まことは笑って、キスをした。
そうしてされるままに、深く舌を絡める。
誰か来たらどうすんだよっていうのと、興奮しているのとが混ざって、どきどきして胸が苦しかった。
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