22 / 38
三章 夏休み
05
しおりを挟む
side:まこと
「ま、守くんの、ゆ、浴衣」
「なんだよ。似合ってないなら言え」
動揺する僕に、守くんは恥ずかしそうに目をそらす。
夏祭りの今日、守くんはシンプルな紺色の浴衣を纏ってやって来た。
「ううん、すごく似合ってるよ! 守くん背高いから、なんでも似合うよね」
「……あ、ありがと……」
褒めると、守くんは照れ隠しみたいに、自分の胸元の服をぱたぱたと捲って風を送る。
しかし、ちらちらと見えるその胸元に、刺激が強すぎて、僕は思わず頭を抱えた。
「エッッロ……」
「は?何て?」
「ちょっとそこの物影行かない?僕とイケナイことしようよ」
「ばかか。しね」
すぱん。手で頭をはたかれた。
夏祭りの出店は、神社の参道と敷地に出ることになっていた。
そこに向けて、まだ夕方で明るい、ゆるやかな坂道を二人で歩く。
「まことも、その甚平似合ってるじゃん」
「そうかな?ありがとう」
守くんが浴衣を着るって言うから、僕も家にあったのを着たんだ。
「ふふ、おそろいだね」
「………………」
「かわいいなあ」
「何も言ってないけど」
そうしているうちに、神社に着いた。
ちらほら人のいる石畳の参道を通って、守くんと並んでお参りをした。
五円玉をお賽銭箱に入れて、二礼、二拍手、一礼。
「まこと、何か願った?」
「学業成就だよ」
「……成績良いくせに」
答えると、呆れたような顔をされた。
「そんなに良くないよ」
「は? クラス一位が何言ってんだよ」
「学年ではいつも十何位くらいだし……」
「十分良すぎるだろ」
会話をしながら、出店を見て回る。
色々悩んだあげく、フルーツの入った水飴を買った。
「人、増える前に帰るからな」
「うん。僕も暗くなる前に家に着くつもりだから」
敷地を示すために並んだ石の上に座って、割り箸で水飴をねりねりする。
隣に座っている守くんは、イチゴ味のかき氷を食べている。
そんな守くんの様子を見て、ふと思いついた。
「そうだ、写真撮っていい?」
「あ、一緒に?」
「ううん、守くんのだけ。僕のオカズ用」
「良いわけねぇだろふざけんな」
すごく嫌そうな顔をされて、少し距離をとられる。
かまわず携帯を取り出そうとしたが、そういえば水飴で手がべたべただった。
「けど、これじゃ携帯持てないし、一度手洗ってくるね」
「わかった、ここで待ってる。……って、帰ってきても絶対撮らせないからな!」
忠告する守くんに笑いかけ、トイレのある場所に向かう。
side:まもる
既に半分色水になってしまったかき氷を食べながら、まことの帰りを待つ。
と、突然、声をかけられた。
「あれっ、守じゃん!おーい!」
「! は、はる?」
そこには、半袖短パンのはるが手を振っていた。
……まずい、気まずい。俺、夏祭り行かないって断ったのに。
急いで言い訳を考えていると、目の前に来たはるは、ニヤッとして、
「ははーん。さてはお前、恋人と来たんだな!」
「は?恋人?」
「だって、この前もキスマ? つけてたし、その彼女ときたんだろ? 彼女できたなら、教えてくれればいいのに! 水くさいやつぅ」
「き……っ?!」
ば、バレてたのか……?!
恥ずかしくて、頬が熱くなる。
すると、隣でまた違う声が聞こえた。
「マジなのか?」
振り向くと、そこには一ノ瀬がいた。
一ノ瀬のサラサラした黒髪は、中学の校則にもひっかからないような長さで、至って普通の髪型。
だがその顔立ちは、女子が見たら黄色い声をあげそうな、すごく整ったものだった。
背こそ平均だけれど、スラッとしていて、まるでどっかのモデルみたいな、そんなやつ。
「へえ、彼女できたのかよ」
一ノ瀬は意地悪く笑い、ドカッと俺の隣に座った。
……見た目の代償というか、こいつ、態度や口はそこそこ悪い。
何て言うか……少女漫画で言うとこの、俺様?ドS?そういう系だ。
まあ、そこも含めて、モテてるんだけどな。
「彼女じゃない。できるわけないだろ」
「そっかー、残念だなー!」
はるは全然残念じゃなさそうに、嬉しそうに笑った。
おい。
「……っていうか、一ノ瀬は夏祭り行かないんじゃなかったのか」
「行かないつもりだったけど、キノコがはしまき買いに行くって言うから、俺も飯だけ買って帰ろうかなぁと」
一ノ瀬はそう言って、焼きそばの袋を見せた。
「守は、誰かと来てんのー?」
「えっと……あの」
はるに聞かれて、何と言おうか迷っていたそのとき、近くでがさりと足音がした。
そっちを見ると、戻ってきたまことがつっ立っていた。
声をかけようとしたが、彼は俺の方を見ず、何故か酷く驚いた顔をしていた。
そして、まことは呟くように言った。
「しょうちゃん?」
……しょうちゃん?
誰のことかわからないでいると、隣にいた一ノ瀬が、弾みをつけて立ち上がった。
そしてまことを見て、にやっと笑い、
「久しぶりだな、マコト」
「ま、守くんの、ゆ、浴衣」
「なんだよ。似合ってないなら言え」
動揺する僕に、守くんは恥ずかしそうに目をそらす。
夏祭りの今日、守くんはシンプルな紺色の浴衣を纏ってやって来た。
「ううん、すごく似合ってるよ! 守くん背高いから、なんでも似合うよね」
「……あ、ありがと……」
褒めると、守くんは照れ隠しみたいに、自分の胸元の服をぱたぱたと捲って風を送る。
しかし、ちらちらと見えるその胸元に、刺激が強すぎて、僕は思わず頭を抱えた。
「エッッロ……」
「は?何て?」
「ちょっとそこの物影行かない?僕とイケナイことしようよ」
「ばかか。しね」
すぱん。手で頭をはたかれた。
夏祭りの出店は、神社の参道と敷地に出ることになっていた。
そこに向けて、まだ夕方で明るい、ゆるやかな坂道を二人で歩く。
「まことも、その甚平似合ってるじゃん」
「そうかな?ありがとう」
守くんが浴衣を着るって言うから、僕も家にあったのを着たんだ。
「ふふ、おそろいだね」
「………………」
「かわいいなあ」
「何も言ってないけど」
そうしているうちに、神社に着いた。
ちらほら人のいる石畳の参道を通って、守くんと並んでお参りをした。
五円玉をお賽銭箱に入れて、二礼、二拍手、一礼。
「まこと、何か願った?」
「学業成就だよ」
「……成績良いくせに」
答えると、呆れたような顔をされた。
「そんなに良くないよ」
「は? クラス一位が何言ってんだよ」
「学年ではいつも十何位くらいだし……」
「十分良すぎるだろ」
会話をしながら、出店を見て回る。
色々悩んだあげく、フルーツの入った水飴を買った。
「人、増える前に帰るからな」
「うん。僕も暗くなる前に家に着くつもりだから」
敷地を示すために並んだ石の上に座って、割り箸で水飴をねりねりする。
隣に座っている守くんは、イチゴ味のかき氷を食べている。
そんな守くんの様子を見て、ふと思いついた。
「そうだ、写真撮っていい?」
「あ、一緒に?」
「ううん、守くんのだけ。僕のオカズ用」
「良いわけねぇだろふざけんな」
すごく嫌そうな顔をされて、少し距離をとられる。
かまわず携帯を取り出そうとしたが、そういえば水飴で手がべたべただった。
「けど、これじゃ携帯持てないし、一度手洗ってくるね」
「わかった、ここで待ってる。……って、帰ってきても絶対撮らせないからな!」
忠告する守くんに笑いかけ、トイレのある場所に向かう。
side:まもる
既に半分色水になってしまったかき氷を食べながら、まことの帰りを待つ。
と、突然、声をかけられた。
「あれっ、守じゃん!おーい!」
「! は、はる?」
そこには、半袖短パンのはるが手を振っていた。
……まずい、気まずい。俺、夏祭り行かないって断ったのに。
急いで言い訳を考えていると、目の前に来たはるは、ニヤッとして、
「ははーん。さてはお前、恋人と来たんだな!」
「は?恋人?」
「だって、この前もキスマ? つけてたし、その彼女ときたんだろ? 彼女できたなら、教えてくれればいいのに! 水くさいやつぅ」
「き……っ?!」
ば、バレてたのか……?!
恥ずかしくて、頬が熱くなる。
すると、隣でまた違う声が聞こえた。
「マジなのか?」
振り向くと、そこには一ノ瀬がいた。
一ノ瀬のサラサラした黒髪は、中学の校則にもひっかからないような長さで、至って普通の髪型。
だがその顔立ちは、女子が見たら黄色い声をあげそうな、すごく整ったものだった。
背こそ平均だけれど、スラッとしていて、まるでどっかのモデルみたいな、そんなやつ。
「へえ、彼女できたのかよ」
一ノ瀬は意地悪く笑い、ドカッと俺の隣に座った。
……見た目の代償というか、こいつ、態度や口はそこそこ悪い。
何て言うか……少女漫画で言うとこの、俺様?ドS?そういう系だ。
まあ、そこも含めて、モテてるんだけどな。
「彼女じゃない。できるわけないだろ」
「そっかー、残念だなー!」
はるは全然残念じゃなさそうに、嬉しそうに笑った。
おい。
「……っていうか、一ノ瀬は夏祭り行かないんじゃなかったのか」
「行かないつもりだったけど、キノコがはしまき買いに行くって言うから、俺も飯だけ買って帰ろうかなぁと」
一ノ瀬はそう言って、焼きそばの袋を見せた。
「守は、誰かと来てんのー?」
「えっと……あの」
はるに聞かれて、何と言おうか迷っていたそのとき、近くでがさりと足音がした。
そっちを見ると、戻ってきたまことがつっ立っていた。
声をかけようとしたが、彼は俺の方を見ず、何故か酷く驚いた顔をしていた。
そして、まことは呟くように言った。
「しょうちゃん?」
……しょうちゃん?
誰のことかわからないでいると、隣にいた一ノ瀬が、弾みをつけて立ち上がった。
そしてまことを見て、にやっと笑い、
「久しぶりだな、マコト」
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説



ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!


真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。


もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる