まこまも

No.26

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三章 夏休み

02

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side:まもる

 この前まことが家に来てから、一週間後。
 いつも俺の家だと悪いと言われて、今日は、まことの家で勉強会をすることになった。

 で、ラインで教えられた通りに、来てみたわけだが……。
「…………ここ?」
 目の前にそびえ立つのは、少なくとも十階はありそうな、綺麗なマンション。
 …………こんな高級住宅に住んでるのか? 
 シマムラのTシャツで来た俺の場違い感が半端じゃない。
 とりあえず『着いた』と連絡すると、『今迎えに行く!』と返事が来た。
 暫くして、自動ドアが開いた。
「よかった!待ってたよ!」
 まことはニコニコして、俺に手を振った。
 今日は半袖のラフな青いパーカーを着ていて、それがとても似合っていた。

 マンション入り口のインターホンに鍵をかざすと、ピピッと音がして、自動ドアが開く。
 ……何、このハイテク。
「こっちだよ」
 当たり前のような顔をして進むまことに、着いていく。
 そこにはエレベーターがあった。
 デパートかよ。
 まことは、一番上にある、十階のボタンを押した。
 ……最上階って、一番高いんじゃないの?
「ここが僕の家だよ。1001号室」
 しかも角部屋だし。
 耐えきれず、まことに聞いた。
「お前の両親、何の仕事してるの?」
「ん?お父さんはお医者さんで、お母さんは薬剤師だよ」
「……………………」
 何だっけ……こいつ、勉強ができて、顔も良くて、性格も良くて、人気もあって、おまけに金持ち?
 は?
 ふざけんなよ。
 前世何だよ。
 ちなみに俺の家は、父親は普通の出版社に務めていて、母親はスーパーでパートをしている、ごく普通の家庭だ。

「ただいま。友達連れてきたよ」
「お、おじゃまします……」
 家にまこと一人じゃないのかと気づいて、慌てて言う。
 「どうぞ~」と声がして、やや間があり、女の人が出てきた。
「お母さんだよ」
「こんにちは、須貝守です」
「あら、こんにちは~」
 母親はエプロンを外しながら、微笑んでそう言う。
 髪が長くて、美人。なんとなくまことに似てる。
 というか、まことが母親似なのか。
 その母親は、必要以上に、俺をじっと見ていた。
 まことはそれに気がつき、慌てて言った。
「お母さん、守くんは不良とかじゃないよ。同じ高校のクラスメイトで……」
「あっ!そうよね、うん、赤って珍しいから……じろじろ見てごめんなさい」
「いえ、あの、すみません」
 どう答えていいかわからないから、とりあえず謝る俺。
 そうだよな、その年代くらいだと、赤メッシュとかびっくりするよな。
 しまった……そんなに考えずにピアスとかつけてきてしまった。
「とりあえず、僕の部屋来て!」
 珍しそうに見てくる母親の目から逃れるように、まことは俺の手を引っ張った。

 まことの部屋はシンプルだ。
 あるのは勉強机と、背の低い本棚と、人をダメにする例のクッション椅子。
 本棚の上には、パステルカラーのゆるいキャラのぬいぐるみが何個かと、ペット用のゲージが置かれていた。
「何か飼ってるのか?」
「うん、ハムスターだよ」
 まことがゲージを軽く叩くと、木の家からもそもそと毛玉の塊が出てきた。
  ハムスターにしては結構大きくて、耳がグレーで、体が雪みたいに白い。
「ゴールデンハムスターの、白いのだよ」
「へー」
 ゴールデンなんとかとかよくわかんないけど、とりあえず返事しておく。
 まことはニコニコしながら、ゲージの外からハムスターのピンクの手をつつき、
「もう二年くらい飼ってるんだ」
「へえ。名前ついてんの?」
「うん。大福ちゃん」
 大福。確かに白いし丸いし、大福っぽい。
 「おやつあげていいよ」と言われたので、言われた通り乾燥したコーンを、ゲージの外からあげた。
  ……あ、食べてる。大福がコーン食べてる。かわいい。癒しだ。
 まことの方を振り向くと、床に折り畳み式の机を組み立てていた。
「あ、リビングの方がいいかな?」
「いや、ここでいい」
 頷いて、鞄から宿題を取り出す。

 普通、友達と勉強会とか、だいたい遊びになったりするもんだが、まこととすると本当に「勉強会」になる。
  まあ……終わったら、何をとは言わないがだいたい誘ってくるけど。

「……そういえば、ベッドないんだな」
「うち、みんな同じ部屋で寝てるんだ。未だに。……あ、僕のベッドでヤりたかった?」
「は?バカか。んなこと言ってねぇ」
 まことにニヤッとして言われたので、すぐにプリントに目を落とす。
  こいつ何言ってんだ。ほんとに。いや、ちょっと思ったけど。ちょっとな。絶対言ってやるもんか。
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