まこまも

No.26

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二章 一学期最終日

09

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side:まもる

「守くんの処女御馳走様」
「……次それ言ったら二階の窓から突き落とすからな」
 ニコニコしているまことを、Tシャツを着ながら睨みつける。
 ……思ってたより痛くなかった。ていうか良かった、ぶっちゃけ。まことにはぜってー言わねぇけど。
 ……いや、うわ言で言ってたかもしれない……。
 今さらのように恥ずかしくなって、慌てて目をそらした。
 まことは、そんな俺に気づいている様子もなく、濡れた体をタオルで拭きながら、
「でも、僕もあげたから、おあいこでしょ?」
「……何を?」
「だから、初めて」
「……は、初めて……?!」
 まことは、俺が驚いてるのに気がついたのか、タオルを首にかけ直してから、
「言ってなかったっけ?僕が誰かと付き合ったことあるの、小学校のときの一回だけだよ。……女の子だったけど」
「そうなのか……え、その時は女子もいけたのか?」
「……いや……そうじゃないけど……」
 まことは言いづらそうに、どこか後ろめたそうに、言葉を続けた。
「女の子が、僕のこと好きで……付き合えないって言ったんだけど、しょうちゃん――その子のお兄さんが同級生で、親友で、断れなかったんだ」
「…………ああ」
「けど、結局妹の子のこと、好きになることができなくて……しょうちゃんには、嫌われちゃった」
 そう言って、はは、と笑う。
 ……こういうときの作り笑いは、下手だな。
「まことは、その、同級生のヤツが……」
「……好きだったよ」
 ……暫く、沈黙する。
 風呂場で、水の滴る音だけが響いていた。
 まことは目をそらし、
「ごめん、変なこと言って。忘れて」
「……それ、変態発言してるときに言えよ」
 重い空気が嫌で、冗談みたいに言う。
 まことはきょとんとして、首をかしげた。
「変態発言?何のこと?」
「……無自覚、だと……?!」
「それより僕、そこの守くんの使用済みシャツが着たいなぁ」
「だからそういうのだよ!!!」
 俺の声が、風呂場に反響した。


***


「あ、おーい!いっちー!!」
「うわっ!出た、妖怪キノコ星人!」
「モンスターみたいな扱いやめろよ~」
 いっちーは、しっし、という動作をして、オレを追い払おうとする。
 けどわかってるぜ、これはいっちーなりの愛情表現だ!
 かまわず、その背中に着いていった。
「コンビニ?いっちーコンビニ行くん?」
「まーな。飯買いに」
「オレもアイス買うわー」
 ぴろぴろーん、と軽快な音ともに、コンビニのドアが開く。
 一緒にパンコーナーに行くと、そこには既に男女の姿あった。
「花子ちゃん、何たべた~い?僕が買ってあげるよぉ~~」
「え~、花子、迷っちゃう~~」
 講習の面前で、いちゃいちゃしだす男女。
「ブスップルが」
 いっちーは、オレにしか聞こえないような声で、盛大に悪口を言う。
「へっ、キスマついてら。うぇー」
「きすま?なにそれ」
「キスマーク。ほら、首の」
 いっちーは、女のひとを指差して言った。
 確かに、首元に赤い印があった。
「……虫刺されじゃね?あーいうの、守にもついてたよ」
「は?マモル?」
 いっちーは、目を丸くした。
「そーそー、お前がマスド行かないって言ったとき、守と誠に会ったんだよ」
「…………マコト?」
「あ、知らねぇか、クラス違うもんな」
 思い出して、付け加える。
「今、守と同じクラスで、守と仲良いんだよ。委員長とかしてる。あとイケメン! けど、いっちーとはタイプ違って、カワイイって感じな」
「……あのさ、もしかして」
 いっちーは、無表情のまま、こう言った。
「そいつの名字、佐々野?」
「え?もしかして、知ってた?」
「……たぶんな」
 いっちーは、カップルが去ったのを確認して、棚からチーズのパンを手に取った。
「へー!じゃあ、四人で遊びてーなあ」
「ああ。……会いたいね」
 いっちー……一ノ瀬聖(いちのせしょう)は頷き、フッと笑った。
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