まこまも

No.26

文字の大きさ
上 下
12 / 38
二章 一学期最終日

04

しおりを挟む
「……意味わからない……理解が追い付かない……」
「まだ言ってる」
「悠長に菓子食うなよ。ふざけんなよ」
 ベッドに寝ている俺の隣で、そいつはぽりぽり音をたて、食べ出したらキリがない例のじゃがいものお菓子を食べている。
「……にしても、守くんが今まで彼女いなかったのすごく意外だよ。初めてが僕なんて嬉しいな」
「今度それ言ったらブッ殺すぞテメェ」
 自分がモテること自覚して言ってんのかこいつは。
 だとしたらほんと腹立つな。
 ……先に言っておくが、俺たちは最後までしたわけじゃない。
 さすがに何の準備もなしで、そーいうことはできねぇし。
 ただちょっとあの……服は脱いだけど……とにかくアウトではない、セーフだ、セーフ。
 ………………自信ないけど。
「わかったよ……。けど、守くんのこと、色々わかって嬉しい」
 佐々野は爽やかに笑って、
「すぐ声出ちゃうとことかほんと可愛いよね」
「あああああああ」
 聞きたくない聞きたくない。枕に突っ伏す。
 部屋はクーラーが効いてるはずなのに、顔が熱い。
 そのまま顔を上げないでいると、「ふふっ」という笑い声が聞こえた。ふざけんな。マジふざけんな。
「……お菓子食べないの?僕が全部食べちゃうよ」
「は?食わせろよ」
 起き上がると、佐々野はニコッと笑った。
 慌てて目をそらす。
 ……やばい。さっきのを思い出して、まともに顔が見れない。
 二人で黙々とお菓子を食べていると、佐々野は思い出したように言った。
「……そういえば、もうすぐお昼ご飯だね」
「あ、そうだな。帰らなくていいのか?」
 テストは三時間目で終わったから、今、ちょうど十二時だ。
「今日はみんな家にいないんだよね。だから何か買って帰ろうと思ってたけど」
「俺も。じゃあ、一緒に食いにいく?」
「えっ、いいの?!やったー!初デートだねっ!」
「あ?」
「ん?」


 デート、なのかはともかく、家を出て近くの商店街に来た。
「何食う?」
「ドーナツとかいいよね」
「あ、いいな。俺あのソバのやつ食べたい」
「じゃあ、そうしよう。美味しいよねあれ」
「うん。佐々野とは味の好みが合うよな」
 そんな話をしながら、人通りの多いその通りを歩く。
 あ……『佐々野』、か。
「……そうだ、俺も下の名前で呼ぶよ」
「え?」
「まことって」
 佐々野、いや、まことは驚いたように目を瞬いた。
 そして、俺の腕をつかみ、真剣な顔で、
「……やっぱさ、帰ってさっきの続きしない?」
「断る」
 手を振りほどいた。
「お願い!じゃあ、テイクアウトにして、ドーナツと守くんを食べたい」
「誰が食われるか」
「さっき食われかけた癖になに言ってるの」
「……そ、それはほら、咄嗟だったし、その」
「守くん、ずっとそういってるけどさー……」
 もごもごしていると、まことは、周りに聞こえないような小さな声で囁いた。
「ほんとは、そういうこと、されるの好きでしょ?」
「…………っ」
 ……強く否定できない。 
 だって実際、まことにされるの、自分でするより気持ち良……って、何考えてんだ俺は!
 だ、大体、何でこんな公衆の面前で、言葉攻めにあわないといけないんだよ!
「……やっぱ、別れる!だいたい男同士とか、どうかしてる!」
「えー、関係ないって言ってなかった?」
「気が変わったんだよ」
「それにさっき、男の僕にされてあんなイっ――」
「あーっ!!!あああ!!!」
 思わず大声を出すと、周りの人が何事かと見てきた。
 二重で恥ずかしい思いをして、黙りこむ。
 まことは、フッと、普段あまり見せない妖しい笑みを浮かべた。
「このまま付き合ってくれたら、気持ちいいこといっぱいしてあげるよ?」
「………………」
「僕のこと、嫌いじゃないんでしょ?」
「………………」
「大好きだよ、守くん」
「………………」
 ……頭の中、ショートしそう。
「ま、とりあえずご飯食べに行こうよ」
 まことはそう言って、いつもの爽やかな笑顔に戻り、楽しそうに、俺の手を引いた。


 蒸し暑い外から、涼しい店内へ入る。
「何がいいかな。あ、冷やし中華があるよ」
 さっきの具合はどこにいったのか、まことはいつものように明るく笑いかける。
 呆れながらふと前を向くと、カウンターの向こうに、その誠を熱いまなざしで見つめる若い女の店員がいた。
「冷やし中華、おすすめですよ~!」
「そうですか?じゃあそうしようかな」
「はい!こちらセットになっておりまして~――」
 店員は飛びっきりの笑顔で、まことに話しかける。
 ……騙されてる……騙されてるぞ店員……。
 こいつは爽やかイケメンじゃない、ただの変態だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...