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矛盾がなんだ
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悲しみを乗り越えて欲しいと言いながら、ジークに生きてほしいと言う。
自分が自分ではなくなると、乗り越えれないと。
一見矛盾しているようだが、本当の意味で乗り越えられないというわけではないだろう。
悲しみを乗り越えながらも、どこか心に穴が空いたような感覚。
悲しみは乗り越えても空いた穴が塞がることも、他のもので埋めることも出来ない。
「お前を残して逝くのは心配だからな。ギリギリまで足掻いてやるよ」
「心配だから、ですか?寂しいじゃなくて?」
どこか不服そうな顔なのは自身が周りにどれだけ影響力があるのか自覚していないからだろう。
心配されるようなことをしている自覚もこの番にはないのだ。
「寂しいなんて当たり前だろ。けどな、それ以上に何かやらかさねぇか心配なんだよ俺は」
「?」
何故だとばかりに首を傾げる縁の頭を軽く小突いてやる。
「自覚ねぇのが一番タチ悪ぃんだよ」
自覚もなく基本的に自分に素直に生きる縁には注意したところであまり意味はないのだった。
「お前が俺たちのことを何より大事に想ってくれてんのは分かってる。だがな、だからって自分を犠牲にすんのは絶対にやめろ。俺たちが傷付くよりいいなんて、考えてもいいが行動にはすんな。どうせならどうやったら誰も傷つかねぇですむか考えろ」
「……………はい」
少しの間が気にはなったが素直に頷いた頭を撫でてやる。
「あと変に気を使うのもな。お前がどれだけ迷惑だって考えようが俺たちにとってはお前の側にいて、お前に関われる方が幸せなんだよ」
「それは嘘だ」
「なんでだよ」
それまで素直に話しを聞いていたくせに、即座に言い返してきた言葉に思わず突っ込んでしまった。
「だって………」
この番は何度言ってもそこら辺を聞きやしない。
人に迷惑かけるのは良くないとは思うが、それも相手次第である。
縁本人が迷惑だろうと思うことも、相手によっては頼られて嬉しいと感じることだってあるのだ。
「本音を言えばな………アレンたちもそうだろうが、本当はお前を部屋に閉じ込めてどこにも出さねぇで、俺たちがいなきゃ生きていけねぇようにしてぇんだよ」
「…………」
驚いたように目を見開く縁を引き寄せると膝に乗せる。
「もっと言えば、俺だけしか見えなくなるようにどこかに隠しちまいてぇ」
酷い独占欲だ。
誰にも見せず、誰にも触れさせることなく、ただ自分というただ1人の番だけを見ていて欲しい。
毎日愛を囁き、一緒にご飯を食べ、共に眠る。
常に側にいて、離すことなく2人で生きていく。
「分かるか?それだけ俺たちはお前を愛してるんだよ」
人間の縁にとっては重いだろう。
だがそれが隠すことない本音だ。
「お前の側にいられんなら何でもいいんだよ。お前が迷惑だって思うことでもな」
「ゔぅ」
どうしたらいいんだとばかりに唸り俯く頭を撫でつつ、抱き寄せる。
「…………イヤになったか?」
理解させるためとはいえ縁には重過ぎたかと心配になったが、俯きながらも首を振る姿にホッとした。
「嬉しいです。けど本当にそれでいいのかって不安で、自分にそんな価値があるのかって…面倒くさい奴だって思われるのが怖くて…………みんなのことが大好きだから」
好きだから嫌われたくないというのは当たり前のことだ。
ジークたちを信用していないわけではない。
「お前はもう少し自分を好きになってやれ」
彼はきっと自分を信用していないのだ。
不安になるのも、自分の価値を考えてしまうのも、自分を犠牲にしようとするのも、自分が嫌いで信用していないから。
「お前が、縁が俺たちのことを大事だってんなら、その俺たちが何より大事に思ってるお前を大事にしてくれ、頼むから」
そこまで責任を負わなくていい。
イヤだと言ってくれればいつでも、どこへでも攫って行ってやる。
見たくないものがあれば瞳を隠してやるし、疲れたと言ってくれればいくらでも担いで歩いてやる。
「お前が生きて笑ってくれさえすれば俺たちは幸せなんだ」
他に何もいらない。
何より愛しい存在が、ただすぐ側で笑っていてくれているだけでいい。
全てが叶わずとも、それだけは譲れないジークの願いだった。
自分が自分ではなくなると、乗り越えれないと。
一見矛盾しているようだが、本当の意味で乗り越えられないというわけではないだろう。
悲しみを乗り越えながらも、どこか心に穴が空いたような感覚。
悲しみは乗り越えても空いた穴が塞がることも、他のもので埋めることも出来ない。
「お前を残して逝くのは心配だからな。ギリギリまで足掻いてやるよ」
「心配だから、ですか?寂しいじゃなくて?」
どこか不服そうな顔なのは自身が周りにどれだけ影響力があるのか自覚していないからだろう。
心配されるようなことをしている自覚もこの番にはないのだ。
「寂しいなんて当たり前だろ。けどな、それ以上に何かやらかさねぇか心配なんだよ俺は」
「?」
何故だとばかりに首を傾げる縁の頭を軽く小突いてやる。
「自覚ねぇのが一番タチ悪ぃんだよ」
自覚もなく基本的に自分に素直に生きる縁には注意したところであまり意味はないのだった。
「お前が俺たちのことを何より大事に想ってくれてんのは分かってる。だがな、だからって自分を犠牲にすんのは絶対にやめろ。俺たちが傷付くよりいいなんて、考えてもいいが行動にはすんな。どうせならどうやったら誰も傷つかねぇですむか考えろ」
「……………はい」
少しの間が気にはなったが素直に頷いた頭を撫でてやる。
「あと変に気を使うのもな。お前がどれだけ迷惑だって考えようが俺たちにとってはお前の側にいて、お前に関われる方が幸せなんだよ」
「それは嘘だ」
「なんでだよ」
それまで素直に話しを聞いていたくせに、即座に言い返してきた言葉に思わず突っ込んでしまった。
「だって………」
この番は何度言ってもそこら辺を聞きやしない。
人に迷惑かけるのは良くないとは思うが、それも相手次第である。
縁本人が迷惑だろうと思うことも、相手によっては頼られて嬉しいと感じることだってあるのだ。
「本音を言えばな………アレンたちもそうだろうが、本当はお前を部屋に閉じ込めてどこにも出さねぇで、俺たちがいなきゃ生きていけねぇようにしてぇんだよ」
「…………」
驚いたように目を見開く縁を引き寄せると膝に乗せる。
「もっと言えば、俺だけしか見えなくなるようにどこかに隠しちまいてぇ」
酷い独占欲だ。
誰にも見せず、誰にも触れさせることなく、ただ自分というただ1人の番だけを見ていて欲しい。
毎日愛を囁き、一緒にご飯を食べ、共に眠る。
常に側にいて、離すことなく2人で生きていく。
「分かるか?それだけ俺たちはお前を愛してるんだよ」
人間の縁にとっては重いだろう。
だがそれが隠すことない本音だ。
「お前の側にいられんなら何でもいいんだよ。お前が迷惑だって思うことでもな」
「ゔぅ」
どうしたらいいんだとばかりに唸り俯く頭を撫でつつ、抱き寄せる。
「…………イヤになったか?」
理解させるためとはいえ縁には重過ぎたかと心配になったが、俯きながらも首を振る姿にホッとした。
「嬉しいです。けど本当にそれでいいのかって不安で、自分にそんな価値があるのかって…面倒くさい奴だって思われるのが怖くて…………みんなのことが大好きだから」
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ジークたちを信用していないわけではない。
「お前はもう少し自分を好きになってやれ」
彼はきっと自分を信用していないのだ。
不安になるのも、自分の価値を考えてしまうのも、自分を犠牲にしようとするのも、自分が嫌いで信用していないから。
「お前が、縁が俺たちのことを大事だってんなら、その俺たちが何より大事に思ってるお前を大事にしてくれ、頼むから」
そこまで責任を負わなくていい。
イヤだと言ってくれればいつでも、どこへでも攫って行ってやる。
見たくないものがあれば瞳を隠してやるし、疲れたと言ってくれればいくらでも担いで歩いてやる。
「お前が生きて笑ってくれさえすれば俺たちは幸せなんだ」
他に何もいらない。
何より愛しい存在が、ただすぐ側で笑っていてくれているだけでいい。
全てが叶わずとも、それだけは譲れないジークの願いだった。
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