二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
473 / 475

矛盾がなんだ

しおりを挟む
 悲しみを乗り越えて欲しいと言いながら、ジークに生きてほしいと言う。
 自分が自分ではなくなると、乗り越えれないと。
 一見矛盾しているようだが、本当の意味で乗り越えられないというわけではないだろう。
 悲しみを乗り越えながらも、どこか心に穴が空いたような感覚。
 悲しみは乗り越えても空いた穴が塞がることも、他のもので埋めることも出来ない。

 「お前を残して逝くのは心配だからな。ギリギリまで足掻いてやるよ」

 「心配だから、ですか?寂しいじゃなくて?」

 どこか不服そうな顔なのは自身が周りにどれだけ影響力があるのか自覚していないからだろう。
 心配されるようなことをしている自覚もこの番にはないのだ。
 
 「寂しいなんて当たり前だろ。けどな、それ以上に何かやらかさねぇか心配なんだよ俺は」

 「?」

 何故だとばかりに首を傾げる縁の頭を軽く小突いてやる。

 「自覚ねぇのが一番タチ悪ぃんだよ」

 自覚もなく基本的に自分に素直に生きる縁には注意したところであまり意味はないのだった。

 「お前が俺たちのことを何より大事に想ってくれてんのは分かってる。だがな、だからって自分を犠牲にすんのは絶対にやめろ。俺たちが傷付くよりいいなんて、考えてもいいが行動にはすんな。どうせならどうやったら誰も傷つかねぇですむか考えろ」

 「……………はい」

 少しの間が気にはなったが素直に頷いた頭を撫でてやる。

 「あと変に気を使うのもな。お前がどれだけ迷惑だって考えようが俺たちにとってはお前の側にいて、お前に関われる方が幸せなんだよ」

 「それは嘘だ」

 「なんでだよ」

 それまで素直に話しを聞いていたくせに、即座に言い返してきた言葉に思わず突っ込んでしまった。

 「だって………」

 この番は何度言ってもそこら辺を聞きやしない。
 人に迷惑かけるのは良くないとは思うが、それも相手次第である。
 縁本人が迷惑だろうと思うことも、相手によっては頼られて嬉しいと感じることだってあるのだ。

 「本音を言えばな………アレンたちもそうだろうが、本当はお前を部屋に閉じ込めてどこにも出さねぇで、俺たちがいなきゃ生きていけねぇようにしてぇんだよ」

 「…………」

 驚いたように目を見開く縁を引き寄せると膝に乗せる。

 「もっと言えば、俺だけしか見えなくなるようにどこかに隠しちまいてぇ」

 酷い独占欲だ。
 誰にも見せず、誰にも触れさせることなく、ただ自分というただ1人の番だけを見ていて欲しい。
 毎日愛を囁き、一緒にご飯を食べ、共に眠る。
 常に側にいて、離すことなく2人で生きていく。

 「分かるか?それだけ俺たちはお前を愛してるんだよ」

 人間の縁にとっては重いだろう。
 だがそれが隠すことない本音だ。

 「お前の側にいられんなら何でもいいんだよ。お前が迷惑だって思うことでもな」

 「ゔぅ」

 どうしたらいいんだとばかりに唸り俯く頭を撫でつつ、抱き寄せる。

 「…………イヤになったか?」

 理解させるためとはいえ縁には重過ぎたかと心配になったが、俯きながらも首を振る姿にホッとした。

 「嬉しいです。けど本当にそれでいいのかって不安で、自分にそんな価値があるのかって…面倒くさい奴だって思われるのが怖くて…………みんなのことが大好きだから」

 好きだから嫌われたくないというのは当たり前のことだ。
 ジークたちを信用していないわけではない。

 「お前はもう少し自分を好きになってやれ」

 彼はきっと自分を信用していないのだ。
 不安になるのも、自分の価値を考えてしまうのも、自分を犠牲にしようとするのも、自分が嫌いで信用していないから。

 「お前が、縁が俺たちのことを大事だってんなら、その俺たちが何より大事に思ってるお前を大事にしてくれ、頼むから」

 そこまで責任を負わなくていい。
 イヤだと言ってくれればいつでも、どこへでも攫って行ってやる。
 見たくないものがあれば瞳を隠してやるし、疲れたと言ってくれればいくらでも担いで歩いてやる。
 
 「お前が生きて笑ってくれさえすれば俺たちは幸せなんだ」

 他に何もいらない。
 何より愛しい存在が、ただすぐ側で笑っていてくれているだけでいい。
 全てが叶わずとも、それだけは譲れないジークの願いだった。
 

 


 


 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...