二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
432 / 475

甘いです

しおりを挟む
 繋に代わり抱っこを要求してきた翔を抱え元来た道を並んで歩く。

 「ねぇ、ほんとにアイツでいいの?ひょろひょろだったじゃん。殴ったら吹っ飛んできそうだったよ」

 出来れば殴らないで上げてほしい。
 家族以外には基本好戦的なエルは、いまいち男を雇った意味が理解出来ないのだろう。

 「彼に強さは求めていませんよ。むしろだと分かる見た目が大事だったんです」

 「は?」

 大事なのは子どもたちに警戒心を抱かせないような容姿。
 今はお婆さんのおかげで彼らも落ち着いてはいるが、中にはそれまで大人たちに暴力を振るわれていた子もいる。
 そんな中生活のためにとはいえ、知らない人間をいれるならばとかなり悩んだ結果が彼だ。
 
 「私を抱えるくらいには力がありましたし、妹さんがいたなら多少は子どもたちの相手も苦にはならないでしょう。あの様子なら怒って手を上げるということもなさそうですし、むしろ子どもたち相手にも頭を下げそうです」

 「謝るのが癖じゃないかってくらい謝ってたからね」

 だからこそ彼なのだ。
 子どもたちが怒ってもごめんねと受け入れられる相手が必要だった。
 縁はサウルもいたためある程度は許してくれていたが、あのお婆さんでさえ近付くのに数日かかった子もいた。
 マルスやフレックも最初の頃は泣いて怯えられたが、肉という餌付けと数時間という滞在時間のため少しずつ慣れていった。
 だが共に生活していくとなれば話しは難しくなってくる。
 彼には申し訳ないが、子どもたちが見ても受け入れやすいだろう弱そうな見た目が大事だったのだ。
 身長は高くとも痩せ細った身体、すいませんと謝まる気弱そうな性格は条件に当てはまっていた。

 「だとしてもアイツに条件良すぎじゃない?」

 甘いよと言うエルに苦笑いする。
 たぶん彼の中での自分は随分優しい人間だと思われているようだ。

 「ではエルならどうします?」

 「え?」

 「食べるにも困る中、弟である幼いアズを抱え、今日の私のように雇いたいという人間が来たとして」

 これでもう食うに困ることはない。
 暖かい家で、美味しい食事をとり、寒さに震えることもない。
 最高の生活ではあるが、それも他の自分より幼い子どもたちの努力の上で成り立っているとしたら。
 自分たちのために彼らが汗水流して頑張ってくれている中、自分は簡単な作業を手伝うだけで養ってもらわれているとしたら。

 「気分悪いね」

 「でしょ?」

 それでも縁が彼にそれを強いることをしなかったのは、強いる必要が彼ならば必要がないと思ったから。

 「あの彼なら申し訳ないと率先して頼んだ以上に働いてくれるかもしれませんねぇ。稼いだお金で子どもたちに何か買ってくれるかも。楽しみですねぇ」

 「………………ソウダネ」

 それが狙いだったかとエルが頬を引き攣らせていた。
 
 「彼は人間ですからイリスさんたちと違って町に入ることに問題はありません。お婆ちゃんたちとも顔見知りでもありますから何かあった時すぐに連絡をとれます。お母様のこともあるでしょうから病人の世話も慣れているでしょう」

 「つまりエニシの求めてた条件に全部当てはまったってわけね」

 その通り。

 「なのでお婆ちゃんには感謝してます。あの時彼を受け入れてくれてありがとうございます」

 マーガレットがあの時知り合いの頼みを聞いてくれたからこそ彼に出会えた。
 断っていたら、縁が行くまでに彼が辞めてしまっていたら、いくらでも可能性があった中で彼を見つけることが出来た。

 「まったくアンタは本当に。何かあったら言いな。やっぱりダメだったてんなら私からもアイツに言ってやるさ」

 「それ裏切ったが最後地獄じゃん」

 「お婆ちゃんは優しいですからそんなことしませんよ?」

 「そんなことって言ってる当たり何するか分かってんじゃん!」

 何のことやら。
 エルは最近怒りっぽいなぁとぼやけば、誰のせいだと怒られるのであった。

 「ママ、エルにぃいじめちゃ、めっよ」

 「繋!ありがと!」

 味方を得たとばかりに繋をギュッと抱きしめるエル。

 「いじめてませんよ。ママはエルお兄ちゃんが大好きですからね。ただエルお兄ちゃんと遊んでるだけです」

 「じゃなくて、オレ遊んでんでしょ!」

 何故バレたのか。
 どんどんツッコミが鋭くなっていくなぁと彼の成長を喜ぶのであった。
 


 
 
 
 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...