二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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俺もだろ?

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 縁を抱え駆けていくセインの後ろ姿に不満はあったが止めはしなかった。
 縁ならばきっと次は自分を優先してくれると知っていたから。
 複数番がいるというのは自分が知っている中でもかなり珍しい。
 不満がないと言えば嘘になるが、それ以上に満たされるものがあるからこそ離れたいとも辞めたいとも思わなかった。

 「仕方ねぇ。明日のためにもやることはやっておくか」

 少しでも縁と過ごせるようやるべきことは済ませておこうと手を動かすのだった。
 それから一晩寝、皆で朝食をとると各々自分の作業を始める中ジッと縁の後ろ姿を見つめる。
 カチャカチャと食器を洗う音だけが室内に響き、戻ってきた日常にホッと息をつく。
 自分が思っていたより縁がいない日々を寂しく思っていたようだ。

 「………………手伝ってくれればもっと早く済みますよ」

 その言葉に即座に席を立つと隣りに並び手伝っていく。
 いい歳してガキかよとも思ったが、縁もバカにすることなく手伝ってくれてありがとうございますと微笑んでいたのでよしとしとこう。

 「真と愛依はちゃんとパパを驚かせることができたみたいですね」

 「イタズラ好きな誰かさんのおかげでな」

 まさかあんなことが出来るなど誰が考えるものか。
 やろうと思った我が子たちもそうだが、それを聞き笑いも止めもしなかった縁が不思議でしかなかった。

 「カイが出来たというのもそうですけど、私も2人がなれたら見てみたいなと思ったんですよ。実際初めて愛依がなった時小さい身体でガオーって鳴くのがすごく可愛いかったですから」

 自分は間違っていなかったと自信あり気に頷く縁には困ったものだ。
 2人が熊の姿になれたからと言って何か問題かと聞かれれば何もない。
 何もないが、主に父親であるジークの精神と心臓に多少負荷がかかったぐらいだ。

 「…………それはいいが変身するにも俺たちの前だけだぞ。下手にあのまま外に出て野生の熊と間違われたらどうなるか分かんだろ」

 そのせいで我が子を殺されては死んでも死にきれない。

 「分かってます。それは練習する前にちゃんと約束させました」

 約束させた上でやらせたというならばジークも許してやるしかないだろう。
 それにしても何とも抜かりない奴だ。

 「あとエルにも謝ってやれ。あれはかなりまいってたぞ」

 「エルって見た目の割に嘘つくの苦手ですよね」

 「お前大概失礼だな」

 ジークたちに秘密にしていただけで嘘をついていたわけではないのだが、たぶんエルも縁の突拍子もない行動を誰かと分かち合いたいと思っていたのだろう。
 エルには同情しかない。
 縁にしてもエルが嘘が苦手だと言うがそれもこれも縁がエルをそう変えたのではないかと思っている。
 出会った頃の彼ならばきっと平気で嘘をつけていたことだろう。
 だが縁に出会い、大切な人が出来、信頼を失いたくないからと変わったのではないか。
 全くつかないとはジークたちも言わないが、それで縁が傷付くようなことは決してしない。

 「律儀に守るところがエルですよね。ロンならきっと大騒ぎしてすぐみんなにバレてましたよ」

 「あいつはなぁ。ルーのせいかかなり心配症だからな」

 色々心配事が絶えないルーを見守ってきたロンだからこそ家族に何かあればかなり煩……騒ぐ。
 もし見ていたのがロンだったなら熊になった愛依に驚き、何てことを教えているんだと縁たちを大声で注意していたことだろう。
 だが残念かな彼らと一緒にいたのはエルであり、道連れにされ拒むことも出来なかったのだろう。
 とことん縁と子どもたちに甘い。

 「まぁもう済んだことだからどうしようもねぇが………仕置きは必要だよな」

 「何でですか。どうせなら我が子の成長を応援したママにご褒美下さいよ」

 「そうきたか」

 変なところで口が回るものである。
 仕置きと言ってもジークも縁に触れたかっただけなのでどちらでも構わなかったのだが、まさかの切り返しには思わず笑ってしまった。

 「分かった分かった。なら今日は存分に労ってやるよ」

 丁度全て洗い終えたため縁の手をとると綺麗に手を拭き取ってやる。
 当たり前に伸ばされた手に笑いながらも抱え上げれば、そのまま椅子に腰を下ろした。

 「愛依がね、愛依もパパみたいにカッコよくなれた?って。初めて姿を変えられた時に言ってました」

 女の子がそれでいいのか?とも思ったが、父親としてカッコいいと思われていたことは純粋に嬉しい。

 「私が愛した人は強くて、頼りになって、そしてとても優しい。私は幸せ者ですね」

 「そんなに褒めても何も出ねぇぞ」

 「そうなんですか?ギュッと抱きしめても、キスもしてくれないんですか?」

 襲い掛からなかった自分を褒めてほしい。
 この可愛くも、綺麗で、誰よりも魅力的な番が自分のものだと柄でもないが周りに自慢して回りたいほどだ。
 噛み付くようにキスをし、その細い腰を抱き寄せる。
 そのまま一切身体を離すこともせず部屋まで運べば、やっと食事にありつけた獣のように獰猛な笑みを向けるのだった。

 「ーーさぁ褒美の時間だ」

 それはどちらのためものだったのか。たぶん両者だ。



 
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