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まず一歩
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ククルからの提案は一先ず置いておくことにし、獣人の少女2人の手続きをしてもらう。
「彼女たちですが……サウル、君が彼女たちを買いなさい」
「は?」
まさかそんなことを言われると思っていなかったのか驚いたように見上げてくる彼の前で膝をつく。
「彼女たちと一緒に暮らすのはサウルです。居もしない私が買ってあれこれ指示するより何をやってほしいか、どうしてほしいのか一番近くで暮らす君が彼女たちに教えて上げて」
「………でも、オレそんな金ねぇ」
イヤだとは言わなかったことにホッとする。
「その心配はありません。ククルさん、お願い出来ますか?」
「分かりました。一度こちらで立て替えましょう」
勿論縁が買うことも考えたが、一緒に暮らせない以上縁を主人とするのは彼女たちにも不便でしかなく、主人ではないのだからとサウルたちの言葉を聞かないのも問題である。
ならば子どもではあるがサウルを主人とした方が効率もよく、彼ならば2人を不当に扱うことはしないだろうとも思ったのだ。
「これからは私に渡していた月々のお金は彼女たちの代金にあてなさい」
立て替えをククルに頼んだのも身内である縁が貸すよりお金の重さと、人を買うという重さを学んでもらうためククルを間に挟んだ。
「アンタなんにもなくなるじゃん」
「気になるなら、こちらに泊まりに来た時はサウルたちが作ってくれた味噌を食べさせてくれたら嬉しいです」
元々サウルが気にするだろうともらっていただけであり、今は自分たちだけで生活も出来ていることからやめても問題ないだろう。
「来るのやめたりしない?」
「私がお金目当てで来てたと思ってました?違いますよ。サウルたちに会いたいから来ていたんです。君たちのことが大好きだから」
「…………わかった」
どこか不安そうではあるが頷いてくれたならば大丈夫だろう。
代金を支払うと契約書にはサウルにサインさせた。
「これで完了ですね。ではいくつか必要な物の買い出しをして帰りましょうか」
「書き出してもらえれば私が後日お届けしますよ」
「いえ。今日にも必要な物もありますので今買って行きます。ただお手伝いしてもらっても構いませんか?」
ククルの申し出は嬉しいが、2人の着替えも必要になってくるため断り、代わりに荷物持ちを頼んだ。
本当は契約も済んだので帰ってもらっても構わないのだが、手伝いたいという本人の強い希望によりお願いした。
サウルと手を繋ぎ店々を回っていくが、やはり奴隷に対する周りの視線は冷たく少女が萎縮してしまっている。
姉のイリスが手を繋ぎ元気付けてはいるが、足が悪いこともあり俯いてしまっていた。
「ちょっと一休みしましょうか」
ククルに何か飲み物を買って来て欲しいと頼めば凄い速さで駆けていき、2人分のお茶を買ってきてくれた。
そう、2人分。縁とサウルのためのものだろう。
それが当たり前なのだと分かってはいても辛い現実に少し心を痛めながらも鞄から2人分のコップと水を取り出す。
「甘いものは大丈夫ですか?」
不審に思いながらも頷いて答える2人に木苺のシロップを水に混ぜてやるとハイと手渡す。
「「…………」」
「たくさん歩いて疲れたでしょう?少し休憩ね」
飲んでいいよと言うが何も言わず固まる2人に苦笑いする。
慣れない扱いに戸惑っているのだろう。
こればかりは慣れていってもらうしかないと諦めるとサウルと一緒にククルが買ってきてくれたお茶で喉を潤おす。
「…………………あ、おいしい」
「あ、あまいね」
小さくはあるが美味しいと溢す2人に微笑む。
「ククルさん」
「はい!」
「これ、欲しいですか?」
先程からそれは何だと目を細め凝視してくるククルに、ハイと瓶入りのシロップを渡せば目を輝かせていた。
「果物を甘く煮詰めたものです。パンに塗っても美味しいですし、水などで割っても美味しいですよ」
「なんと!果実を煮詰めるなんて考えもしたことなかったです!少し頂いても?」
その喜びように手離す気はなさそうだと瓶ごと持っていっても構わないと言えば更に喜んでいた。
彼のことなので良い具合に商品化し縁にも少なからず恩恵を与えてくれるだろう。
ぶつぶつと何事か呟き出したククルは放っておくことにし、少女たちのコップも回収すると鞄にしまう。
「あとは今日のご飯に何か少し買っていきましょうか。サウルは何がいいですか?」
「さかな」
「いいですね。お肉はアレンが獲ってきてくれるでしょうから魚にしましょうか」
人数もいるため念願のちらし寿司でもいいかもしれないと頷きながらも鞄からタオルを取り出すと少女の頭に被せてやる。
「え?」
「ちょっと何やっーー」
「これで少しは気にならないでしょ?あと少しなので我慢して下さいね」
声まで消してやることは出来ないが、隠れる視線に多少は安心出来るだろう。
そのため歩き辛くはなっただろうが………
「足が辛いでしよ?靴は脱いでいいですよ」
「あ、あの、でも……」
それでは歩けないと言い終える前に靴を脱がせると軽く足をマッサージしてやり腕に抱え上げる。
「わっ、え?え?」
「さっ、行きましょうか。イリスさんはもう少し頑張ってくれますか?」
「え?あ、あの…う、うん」
これでも男であり大家族の子持ちなのだ。
少女を抱えて歩くぐらい問題はなく、サウルとどの魚がいいかと話し合いながら店を見て回るのだった。
「彼女たちですが……サウル、君が彼女たちを買いなさい」
「は?」
まさかそんなことを言われると思っていなかったのか驚いたように見上げてくる彼の前で膝をつく。
「彼女たちと一緒に暮らすのはサウルです。居もしない私が買ってあれこれ指示するより何をやってほしいか、どうしてほしいのか一番近くで暮らす君が彼女たちに教えて上げて」
「………でも、オレそんな金ねぇ」
イヤだとは言わなかったことにホッとする。
「その心配はありません。ククルさん、お願い出来ますか?」
「分かりました。一度こちらで立て替えましょう」
勿論縁が買うことも考えたが、一緒に暮らせない以上縁を主人とするのは彼女たちにも不便でしかなく、主人ではないのだからとサウルたちの言葉を聞かないのも問題である。
ならば子どもではあるがサウルを主人とした方が効率もよく、彼ならば2人を不当に扱うことはしないだろうとも思ったのだ。
「これからは私に渡していた月々のお金は彼女たちの代金にあてなさい」
立て替えをククルに頼んだのも身内である縁が貸すよりお金の重さと、人を買うという重さを学んでもらうためククルを間に挟んだ。
「アンタなんにもなくなるじゃん」
「気になるなら、こちらに泊まりに来た時はサウルたちが作ってくれた味噌を食べさせてくれたら嬉しいです」
元々サウルが気にするだろうともらっていただけであり、今は自分たちだけで生活も出来ていることからやめても問題ないだろう。
「来るのやめたりしない?」
「私がお金目当てで来てたと思ってました?違いますよ。サウルたちに会いたいから来ていたんです。君たちのことが大好きだから」
「…………わかった」
どこか不安そうではあるが頷いてくれたならば大丈夫だろう。
代金を支払うと契約書にはサウルにサインさせた。
「これで完了ですね。ではいくつか必要な物の買い出しをして帰りましょうか」
「書き出してもらえれば私が後日お届けしますよ」
「いえ。今日にも必要な物もありますので今買って行きます。ただお手伝いしてもらっても構いませんか?」
ククルの申し出は嬉しいが、2人の着替えも必要になってくるため断り、代わりに荷物持ちを頼んだ。
本当は契約も済んだので帰ってもらっても構わないのだが、手伝いたいという本人の強い希望によりお願いした。
サウルと手を繋ぎ店々を回っていくが、やはり奴隷に対する周りの視線は冷たく少女が萎縮してしまっている。
姉のイリスが手を繋ぎ元気付けてはいるが、足が悪いこともあり俯いてしまっていた。
「ちょっと一休みしましょうか」
ククルに何か飲み物を買って来て欲しいと頼めば凄い速さで駆けていき、2人分のお茶を買ってきてくれた。
そう、2人分。縁とサウルのためのものだろう。
それが当たり前なのだと分かってはいても辛い現実に少し心を痛めながらも鞄から2人分のコップと水を取り出す。
「甘いものは大丈夫ですか?」
不審に思いながらも頷いて答える2人に木苺のシロップを水に混ぜてやるとハイと手渡す。
「「…………」」
「たくさん歩いて疲れたでしょう?少し休憩ね」
飲んでいいよと言うが何も言わず固まる2人に苦笑いする。
慣れない扱いに戸惑っているのだろう。
こればかりは慣れていってもらうしかないと諦めるとサウルと一緒にククルが買ってきてくれたお茶で喉を潤おす。
「…………………あ、おいしい」
「あ、あまいね」
小さくはあるが美味しいと溢す2人に微笑む。
「ククルさん」
「はい!」
「これ、欲しいですか?」
先程からそれは何だと目を細め凝視してくるククルに、ハイと瓶入りのシロップを渡せば目を輝かせていた。
「果物を甘く煮詰めたものです。パンに塗っても美味しいですし、水などで割っても美味しいですよ」
「なんと!果実を煮詰めるなんて考えもしたことなかったです!少し頂いても?」
その喜びように手離す気はなさそうだと瓶ごと持っていっても構わないと言えば更に喜んでいた。
彼のことなので良い具合に商品化し縁にも少なからず恩恵を与えてくれるだろう。
ぶつぶつと何事か呟き出したククルは放っておくことにし、少女たちのコップも回収すると鞄にしまう。
「あとは今日のご飯に何か少し買っていきましょうか。サウルは何がいいですか?」
「さかな」
「いいですね。お肉はアレンが獲ってきてくれるでしょうから魚にしましょうか」
人数もいるため念願のちらし寿司でもいいかもしれないと頷きながらも鞄からタオルを取り出すと少女の頭に被せてやる。
「え?」
「ちょっと何やっーー」
「これで少しは気にならないでしょ?あと少しなので我慢して下さいね」
声まで消してやることは出来ないが、隠れる視線に多少は安心出来るだろう。
そのため歩き辛くはなっただろうが………
「足が辛いでしよ?靴は脱いでいいですよ」
「あ、あの、でも……」
それでは歩けないと言い終える前に靴を脱がせると軽く足をマッサージしてやり腕に抱え上げる。
「わっ、え?え?」
「さっ、行きましょうか。イリスさんはもう少し頑張ってくれますか?」
「え?あ、あの…う、うん」
これでも男であり大家族の子持ちなのだ。
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