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悲しみはいつか
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悲しみに歪むその表情に彼には申し訳ないが嬉しいと思ってしまう。
彼にとって自分がそれほど大切だと想われているのだと。
自分と同じく獣人を愛した男の子。
「大丈夫。まだ時間はあるわ。けどそうなってしまった時に頼れるのは私もあの子たちも貴方だけだから」
自分たちが何も考えず手を伸ばせるのは本当に彼だけだ。
「………………はい」
嫌だという顔をしながらも頷いてくれた彼に微笑む。
手招きすれば近付いてきた彼の手をそっと握った。
「悲しまないで。私幸せよ。あの人が亡くなってからずっと1人だった。何度あの人の側に行きたいって思ったか分からない。けどまだダメ、あと少しだからって自分に言い聞かせてた」
彼が死ぬ間際言ったのだ「もっと君と生きたかった」と。
悲しみもあったが、それほど想ってくれていたことが嬉しかった。
言葉が少ない人ではあったが、その一言が何より自分という存在を愛してくれているのだと伝えてくれた。
だからこそ、そんな彼の想いを胸に生きてきた。
彼はいないが、彼の想いを抱いて彼の代わりに。
「そんな私に貴方が運んできてくれた。この幸せを。あの人との間に子どもは出来なかったけど、血は繋がってはいないけど、あの子たちはとても大切な私の子だわ」
大切な大切な子どもたち。
おばあちゃん!とその可愛い声で、だいじょうぶ?と本当に心配そうに、できたよ!と目を輝かせ、純粋に自分を家族として慕ってくれている。
奴隷だった時には得られなかったものを彼らは運んできてくれた。
「あの子たちが大人になるまで見守ってあげたかったけど、それは無理だから…………お願いね」
彼も自分に子どもたちを預けるにあたり覚悟はしていただろう。
だからこそ悲しそうに俯いてはいるが嫌だとは言わなかった。
日に日に動きが鈍くなってきた身体にやはり人間は脆いなと実感はしても苛立ちはしなかった。
膝や腰をその小さな手で摩ってくれる子どもたちにどれだけ心が温まったことか。
あれほど早く寿命が来てくれないかという思いも、今はまだ死にたくないという思いに変わった。
「エニシさんになら任せられる。いえ、貴方にしか頼めないから…お願いね」
いつかはその日を迎えるだろうことを考えていただろう彼ならばきっと子どもたちを幸せにしてくれるだろう。
「私だってそう簡単に死んでなんかやらないわ。最期の最期まで生きてやるんだから。あの子たちの元気な姿を目に焼き付けて、あの人に会ったらこんな可愛い子たちと一緒にいたのよって自慢してやるんだから」
毎日こんな可愛い子たちが貴方のお墓に手を合わせてくれてたわよって。
可愛らしく「わたしもおじいちゃんにあってみたかったな」と言ってたわよって。
彼らの中で自分はお婆ちゃん、あの人はお爺ちゃんになっていた。
本当に家族のようだった。………いや、家族なのだ。
「前に言いましたよね。愛情深い貴方だからこそ任せたいと。あの時の判断が間違ってはなかったと胸を張って言えます。貴方のおかげであの子たちは愛情を知ることが出来た」
親に売られ、親に捨てられ、親を亡くし、ただその日を生きることだけを考えて生きてきた子どもたち。
「愛には色々ありますけど、愛情というものは相手がいてこそだと私は思います。貴方の愛情をあの子たちはきちんと受け取ったからこそ元気に、明るく、そして心優しく育ってくれた」
子など育てたことはなかった。
だからこそ、こうなれたらいいなという想いだけで彼らに接してきた。
痩せ細った子には温かいご飯をたっぷり、暴力に怯える子にはもう大丈夫だよと優しく治療を、汚れていた身体を慎重に洗ってやり、よく眠れるようにと背中を撫でてやる。
「きっとその愛情を彼らは次へと繋いでくれる。ありがとうございます。本当にありがとうございます。貴方に出会えたことに感謝を。そしてーー」
その笑顔に嬉しくなる。
「そんな貴方に出会ってくれた貴方の旦那様に何より感謝したいです」
それは自分にとって何よりの褒め言葉だった。
今の自分がいるのは彼がいたから、彼が自分を助けてくれたからこそ今こうして幸せだと笑って言える。
本来なら誰にも知られず1人孤独に死んでいくだけだった。
そんな中で愛しい彼に出会い、エニシに出会い、子どもたちに出会えた。
エニシのおかげで自分という存在が、獣人だが誰より愛したあの人のことを知ってもらうことが出来た。
「……………とっても嬉しいわ。ふふっ、嬉し過ぎてまだまだ生きられそう」
無理だとは分かっているがそれでも少しでも長く生きていたい。
彼のおかけで出会えた彼らと共に。
「それは良かった。そういえば今日はサウルがご飯のお手伝いをしてくれました。美味しく出来たのでいっぱい食べて下さい」
「それは楽しみね。いくらでも食べられそう」
エニシとふふふと笑い合いながら部屋へ向かえば、恥ずかしそうにしながらも差し出される皿を喜んで受け取るのだった。
彼にとって自分がそれほど大切だと想われているのだと。
自分と同じく獣人を愛した男の子。
「大丈夫。まだ時間はあるわ。けどそうなってしまった時に頼れるのは私もあの子たちも貴方だけだから」
自分たちが何も考えず手を伸ばせるのは本当に彼だけだ。
「………………はい」
嫌だという顔をしながらも頷いてくれた彼に微笑む。
手招きすれば近付いてきた彼の手をそっと握った。
「悲しまないで。私幸せよ。あの人が亡くなってからずっと1人だった。何度あの人の側に行きたいって思ったか分からない。けどまだダメ、あと少しだからって自分に言い聞かせてた」
彼が死ぬ間際言ったのだ「もっと君と生きたかった」と。
悲しみもあったが、それほど想ってくれていたことが嬉しかった。
言葉が少ない人ではあったが、その一言が何より自分という存在を愛してくれているのだと伝えてくれた。
だからこそ、そんな彼の想いを胸に生きてきた。
彼はいないが、彼の想いを抱いて彼の代わりに。
「そんな私に貴方が運んできてくれた。この幸せを。あの人との間に子どもは出来なかったけど、血は繋がってはいないけど、あの子たちはとても大切な私の子だわ」
大切な大切な子どもたち。
おばあちゃん!とその可愛い声で、だいじょうぶ?と本当に心配そうに、できたよ!と目を輝かせ、純粋に自分を家族として慕ってくれている。
奴隷だった時には得られなかったものを彼らは運んできてくれた。
「あの子たちが大人になるまで見守ってあげたかったけど、それは無理だから…………お願いね」
彼も自分に子どもたちを預けるにあたり覚悟はしていただろう。
だからこそ悲しそうに俯いてはいるが嫌だとは言わなかった。
日に日に動きが鈍くなってきた身体にやはり人間は脆いなと実感はしても苛立ちはしなかった。
膝や腰をその小さな手で摩ってくれる子どもたちにどれだけ心が温まったことか。
あれほど早く寿命が来てくれないかという思いも、今はまだ死にたくないという思いに変わった。
「エニシさんになら任せられる。いえ、貴方にしか頼めないから…お願いね」
いつかはその日を迎えるだろうことを考えていただろう彼ならばきっと子どもたちを幸せにしてくれるだろう。
「私だってそう簡単に死んでなんかやらないわ。最期の最期まで生きてやるんだから。あの子たちの元気な姿を目に焼き付けて、あの人に会ったらこんな可愛い子たちと一緒にいたのよって自慢してやるんだから」
毎日こんな可愛い子たちが貴方のお墓に手を合わせてくれてたわよって。
可愛らしく「わたしもおじいちゃんにあってみたかったな」と言ってたわよって。
彼らの中で自分はお婆ちゃん、あの人はお爺ちゃんになっていた。
本当に家族のようだった。………いや、家族なのだ。
「前に言いましたよね。愛情深い貴方だからこそ任せたいと。あの時の判断が間違ってはなかったと胸を張って言えます。貴方のおかげであの子たちは愛情を知ることが出来た」
親に売られ、親に捨てられ、親を亡くし、ただその日を生きることだけを考えて生きてきた子どもたち。
「愛には色々ありますけど、愛情というものは相手がいてこそだと私は思います。貴方の愛情をあの子たちはきちんと受け取ったからこそ元気に、明るく、そして心優しく育ってくれた」
子など育てたことはなかった。
だからこそ、こうなれたらいいなという想いだけで彼らに接してきた。
痩せ細った子には温かいご飯をたっぷり、暴力に怯える子にはもう大丈夫だよと優しく治療を、汚れていた身体を慎重に洗ってやり、よく眠れるようにと背中を撫でてやる。
「きっとその愛情を彼らは次へと繋いでくれる。ありがとうございます。本当にありがとうございます。貴方に出会えたことに感謝を。そしてーー」
その笑顔に嬉しくなる。
「そんな貴方に出会ってくれた貴方の旦那様に何より感謝したいです」
それは自分にとって何よりの褒め言葉だった。
今の自分がいるのは彼がいたから、彼が自分を助けてくれたからこそ今こうして幸せだと笑って言える。
本来なら誰にも知られず1人孤独に死んでいくだけだった。
そんな中で愛しい彼に出会い、エニシに出会い、子どもたちに出会えた。
エニシのおかげで自分という存在が、獣人だが誰より愛したあの人のことを知ってもらうことが出来た。
「……………とっても嬉しいわ。ふふっ、嬉し過ぎてまだまだ生きられそう」
無理だとは分かっているがそれでも少しでも長く生きていたい。
彼のおかけで出会えた彼らと共に。
「それは良かった。そういえば今日はサウルがご飯のお手伝いをしてくれました。美味しく出来たのでいっぱい食べて下さい」
「それは楽しみね。いくらでも食べられそう」
エニシとふふふと笑い合いながら部屋へ向かえば、恥ずかしそうにしながらも差し出される皿を喜んで受け取るのだった。
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