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気まぐれ
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「うーん、仕方ない。ロンでいいので手伝ってくれますか?」
言い方!!
「……それで快く引き受けてやる奴がいるなら俺はそいつを褒め称えてやりたい」
最近自分へのエニシの態度がおざなりになっているのは気のせいではないと思う。
「なら自分で自分を褒めてあげて下さい。こっちこっち」
「………」
もう怒るだけムダだと素直についていくとハイと調理用のナイフを渡された。
何となく受け取ってしまったが、なぜ自分がこれを渡されたのか分からずエニシを見れば笑顔で更にメロンを渡された。
「……あぁ、繋たちのオヤツか?」
「半分アタリで、半分ハズレです。繋たちへのオヤツではあるんですけど、これは皮を剥くんじゃなくて中をくり抜いてほしいんです」
意味が分からない。
どうせ食べるなら皮を剥いて食べればいいだけではないのか?
顔に出ていたのだろう、エニシがクスクス笑いながら教えてくれた。
「勿論そのまま食べるのも楽ですし美味しいですけど、どうせなら見て楽しむのも偶にはいいかなと。子どもたちも喜んでくれそうですし。こういうのはエルが得意というか器用ですしいつも頼んでいたんですけど、今日は子どもたち遊んでくれているみたいなので」
「で、通りすがりの俺が捕まったわけか」
理由は分かったが何とも下手な誘い方だったと苦笑いした。
「今なら試食第2号の特権がついてきますよ」
「………仕方ないな」
ルーではないが、ロンもまたエニシに餌付けされている自覚があるのだった。
「ん?待て。2号?なら1号はだ………ああ」
見ればキッチンの片隅で尻尾をふりふりしているフェンリルの姿に納得してしまった。
なんだろう………なにか複雑な気分になるが結局エニシだから仕方がないと自分を納得させるのだった。
言われるがままメロンの中をくり抜いていけば、今度はリンゴやオレンジの皮剥きを頼まれる。
「ロン、ロン」
呼ばれ差し出されたスプーンに反射的に口を開ければーー
「これはーー酒か?」
「大人たちにもご褒美がないとね?子どもたちには別に蜂蜜を入れたアイスにしておきました」
冷たさと共に口中に広がる酒の味に美味いなと感じた。
蜂蜜入りのものも食べさせてもらったが、これは確かに子どもたちにはいいだろう。
2人で会話するということがあまりなかったが、話してみれば思いの外違和感はなく、むしろ楽しいとも思った。
「ーーうん。完成です!綺麗でしょ?」
「まぁいいんじゃないか?」
ロンによってくり抜かれたメロンの中には色とりどりの果物が詰め込まれ、隠れて見えないが下にはアイスも入っている。
それなりに手間はかかったが、確かに目にも楽しく味も美味しいとなれば頑張ってよかったと思えた。
それから皆を呼びに行き出来たものを見せれば、子どもたちは目を輝かせて喜んでいた。
「ロンが手伝ってくれました。中にも仕掛けがあるので食べてみて下さい」
「おいしい~」
「アイのすきなりんご!」
「バナナ」
「ぎゃう?」
楽しそうに子どもたちが食べ進め、中にアイスが入っていると分かるとこれまた嬉しそうに食べてくれる。
「………言ってくれればオレが手伝ったのに」
ボソリと呟かれた声に振り返れば恨みがましい目でエルに睨まれていた。
いつもなら自分がいただろう場所にロンがいるのが気に食わないのだろう。
「繋たちと遊んでいたんだろ?」
「言ってくれればやめてたし!そこはオレの立ち位置だったのに…」
と言われても自分も誘われた立場なのでどうしろと言うのか。
断っていたらいたで何故手伝わないんだと責めてくるに決まっている。
「ありがとうエル。なら今度はエルにお願いしますね」
「うん」
態度が違い過ぎやしないだろうか?
自分にはズルイと睨み付けてくるのに、何故エニシが言えばすんなり納得するのか。
また恨みを買いたくはないため言わないが、「元凶はそいつだ!」と心の中で叫ぶのだった。
「ロンも手伝ってくれてありがとうございました。おかげで美味しいものが出来ました」
笑顔で礼を言われてしまえば文句を言うことも出来なくなり、それを嬉しいとも思ってしまったのだから自分も相当エニシに甘いのだろう。
「まぁ俺もそれなりに楽しかったからな。美味いもの食えたし満足ーー繋?どうした?」
袖を引かれる感触に下を見れば子どもたちがわっと抱きついてきた。
「おいしかった!」
「リンゴすき!」
「バナナも」
「ぎゃう?」
ありがとうと口々に礼を言われ、これは手伝って良かったと心から思えた。
そしてエルがこの場所を譲りたくないと言っていた理由も納得出来るのだった。
「………お前も睨んでないでさっさと食え」
「兄貴ばっかズルイ」
言われるがまま手伝っただけなのに何故自分はこうも睨まれなければいけないのかと元凶であるエニシを少しばかり恨むのであった。
言い方!!
「……それで快く引き受けてやる奴がいるなら俺はそいつを褒め称えてやりたい」
最近自分へのエニシの態度がおざなりになっているのは気のせいではないと思う。
「なら自分で自分を褒めてあげて下さい。こっちこっち」
「………」
もう怒るだけムダだと素直についていくとハイと調理用のナイフを渡された。
何となく受け取ってしまったが、なぜ自分がこれを渡されたのか分からずエニシを見れば笑顔で更にメロンを渡された。
「……あぁ、繋たちのオヤツか?」
「半分アタリで、半分ハズレです。繋たちへのオヤツではあるんですけど、これは皮を剥くんじゃなくて中をくり抜いてほしいんです」
意味が分からない。
どうせ食べるなら皮を剥いて食べればいいだけではないのか?
顔に出ていたのだろう、エニシがクスクス笑いながら教えてくれた。
「勿論そのまま食べるのも楽ですし美味しいですけど、どうせなら見て楽しむのも偶にはいいかなと。子どもたちも喜んでくれそうですし。こういうのはエルが得意というか器用ですしいつも頼んでいたんですけど、今日は子どもたち遊んでくれているみたいなので」
「で、通りすがりの俺が捕まったわけか」
理由は分かったが何とも下手な誘い方だったと苦笑いした。
「今なら試食第2号の特権がついてきますよ」
「………仕方ないな」
ルーではないが、ロンもまたエニシに餌付けされている自覚があるのだった。
「ん?待て。2号?なら1号はだ………ああ」
見ればキッチンの片隅で尻尾をふりふりしているフェンリルの姿に納得してしまった。
なんだろう………なにか複雑な気分になるが結局エニシだから仕方がないと自分を納得させるのだった。
言われるがままメロンの中をくり抜いていけば、今度はリンゴやオレンジの皮剥きを頼まれる。
「ロン、ロン」
呼ばれ差し出されたスプーンに反射的に口を開ければーー
「これはーー酒か?」
「大人たちにもご褒美がないとね?子どもたちには別に蜂蜜を入れたアイスにしておきました」
冷たさと共に口中に広がる酒の味に美味いなと感じた。
蜂蜜入りのものも食べさせてもらったが、これは確かに子どもたちにはいいだろう。
2人で会話するということがあまりなかったが、話してみれば思いの外違和感はなく、むしろ楽しいとも思った。
「ーーうん。完成です!綺麗でしょ?」
「まぁいいんじゃないか?」
ロンによってくり抜かれたメロンの中には色とりどりの果物が詰め込まれ、隠れて見えないが下にはアイスも入っている。
それなりに手間はかかったが、確かに目にも楽しく味も美味しいとなれば頑張ってよかったと思えた。
それから皆を呼びに行き出来たものを見せれば、子どもたちは目を輝かせて喜んでいた。
「ロンが手伝ってくれました。中にも仕掛けがあるので食べてみて下さい」
「おいしい~」
「アイのすきなりんご!」
「バナナ」
「ぎゃう?」
楽しそうに子どもたちが食べ進め、中にアイスが入っていると分かるとこれまた嬉しそうに食べてくれる。
「………言ってくれればオレが手伝ったのに」
ボソリと呟かれた声に振り返れば恨みがましい目でエルに睨まれていた。
いつもなら自分がいただろう場所にロンがいるのが気に食わないのだろう。
「繋たちと遊んでいたんだろ?」
「言ってくれればやめてたし!そこはオレの立ち位置だったのに…」
と言われても自分も誘われた立場なのでどうしろと言うのか。
断っていたらいたで何故手伝わないんだと責めてくるに決まっている。
「ありがとうエル。なら今度はエルにお願いしますね」
「うん」
態度が違い過ぎやしないだろうか?
自分にはズルイと睨み付けてくるのに、何故エニシが言えばすんなり納得するのか。
また恨みを買いたくはないため言わないが、「元凶はそいつだ!」と心の中で叫ぶのだった。
「ロンも手伝ってくれてありがとうございました。おかげで美味しいものが出来ました」
笑顔で礼を言われてしまえば文句を言うことも出来なくなり、それを嬉しいとも思ってしまったのだから自分も相当エニシに甘いのだろう。
「まぁ俺もそれなりに楽しかったからな。美味いもの食えたし満足ーー繋?どうした?」
袖を引かれる感触に下を見れば子どもたちがわっと抱きついてきた。
「おいしかった!」
「リンゴすき!」
「バナナも」
「ぎゃう?」
ありがとうと口々に礼を言われ、これは手伝って良かったと心から思えた。
そしてエルがこの場所を譲りたくないと言っていた理由も納得出来るのだった。
「………お前も睨んでないでさっさと食え」
「兄貴ばっかズルイ」
言われるがまま手伝っただけなのに何故自分はこうも睨まれなければいけないのかと元凶であるエニシを少しばかり恨むのであった。
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