二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
311 / 475

許さない

しおりを挟む
 その笑顔が気持ち悪くて仕方がない。
 見る者が見ればには美しいと思えるものかもしれないが、望まぬまま連れて来られた縁には嫌悪しかなく、触れるどころか苛立ちに男を睨みつける。

 「私にそんな顔をするのはお前くらいだろうな。とても……面白い」

 「貴方を愉しませるために私はいるんじゃない。今すぐ家に帰して下さい」

 きっと今も探し回ってくれているだろう家族に、しかし連絡を取ろうと持っていた魔道具はすでに取り上げられている。
 ここがどこで、何故自分が連れて来られたのか。
 目の前にいるこの男の正体は分かっているが、何故自分を攫ってきたのか?自分に一体何をさせたいのか?何も分からず不安だけが湧く。

 「私が満足したら、な。せいぜい私を愉しませてみーー」

 その言い方にすら苛立ち魔法を使い拘束しようとしたが、突如襲いくる吐き気に口と胸を押さえ蹲る。
 
 「愚かだな。ここは魔界。ここは私の庭。私の許可なく魔力は使えん」

 意味が分からない。
 しかし治まらぬ吐き気と男の言葉に魔法を使おうとしたからだと理解でき魔力を抑えれば徐々にだがそれも治ってきた。
 男が何を考えているか分からない。
 何をしようとしているのか、縁に何をさせたいのか。
 未だ理解は出来ないが目の前の男が自分にとって敵だということは分かり目に涙を溜めながらも睨むことをやめなかった。

 「……面白い。その容姿に人間には有り得ぬ魔力。魔族ではないのが不思議なくらいだ」

 男が何やら呟いているがそんなことどうでもいい。
 魔法が使えないというなら自力でこの建物から抜け出すしかないと胸を押さえながらも逃げ口を探す。

 「己が身が大事なら逃げようなどと考えぬことだ。魔力を使わずして外に出ようものなら怪我だけでは済まぬぞ」

 「だったら早く帰して下さい。私は貴方に用などない」

 「言っただろう。私が満足したならな」

 「貴方の言うことを聞く理由も義理もない。私は貴方の心を満たす玩具でもなければ意志を持った人間です。いくら脅されたところで言うことを聞くとは思わないで下さい」

 男の心が満たされようが満たされまいがどうだっていい。
 早く解放しろと言うが男は笑うだけで縁を解放する気はないのだろう。

 「まぁ今日のところは私も疲れた故許してやろう。だが逃げられるとは思わないことだ」

 男がそう言い手を少し動かせば突如足に鎖のようなものが足に巻き付いてきた。
 慌てて外そうとするがジャラジャラと音が鳴るだけでベッドの脚に繋がれた鎖は外れる気配はない。

 「人の手で外れるものではないぞ。諦めることだな」

 そう言われたからと諦められるはずがない。
 揺すり叩いてみるが一向に外れる様子はなく、そんな縁に男は無駄な努力だと言わんばかりに呆れ部屋を出て行こうとする。

 「私を連れてきたのはエルたちをここへ連れ戻すためですか?」

 「………エル?」

 それは誰だとばかりに怪訝な顔をする男は本当に憶えがないのだろう。
 目の前で実の息子が名を呼んでいたのにそれすら聞こえていなかったらしい。
 エルが、あれほど戻ることを拒んでいた理由はこれだったのだろう。
 この男はきっと自分に子どもがいることさえ覚えていないに違いない。
 ならば返してなどやらない。
 彼らはもう縁の大切な家族なのだから。

 「玩具が欲しいだけなら他をあたって下さい。貴方が誰であろうと私は従う気はない」

 この男がこの魔界とやらでどれだけの立場であろうと縁には興味はない。
 何もかも自分の思い通りになると思っているならお門違いだ。
 自分を縛っていいのは家族だけ。
 以前ルーに言ったように縁の中で全てが許されるのは家族である彼らだけなのだ。

 「ますます面白い。いつまでそんな口が聞けるか見ものだな」

 愉快だとばかりに声を上げながら男は部屋を後にするのだった。
 その気配が離れていくのを確認すると強張っていた身体から力が抜け床に崩れ落ちる。
 怪我をしたわけではないが精神的疲労が酷く、先程の吐き気からも体力的にかなりまいってしまっていた。

 「……セイン…アレン………ジーク、ルー……………みんな」

 心細さに名を呼ぶが当たり前だが誰からの返事もない。
 どうしてこうなってしまったのか?
 ここが男が言うように魔界という場所ならば魔法を主に攻撃防衛手段としている縁には分が悪い。
 だからと言って武器を持ち合わせてもおらず、ジークたちのように力があるわけでもないため反撃方法がない。
 
 「…………大丈夫。みんなが来てくれる、大丈夫」

 全くの他人だったならば分からなかったが、男が憶えておらずとも子であるエルならばすぐにこの場所にも気付いてくれるだろう。
 契約しているリルもいるためそう時間もかからないはずだ。
 大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせ呼吸を整える。
 以前ルーに攫われた時とは違い、相手の目的も思考も読めず下手に刺激し続ければ殺される可能性もあるだろう。
 何度か深呼吸を繰り返すと震える両手を握りしめ起き上がる。
 みんなが助けに来てくれるのを疑いはしない。
 だからこそ彼らが来るまでの間に自分も自分に出来ることをしなければと未だ繋がれたままの足を解放するべく何か方法を考えるのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...