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許さない
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その笑顔が気持ち悪くて仕方がない。
見る者が見ればには美しいと思えるものかもしれないが、望まぬまま連れて来られた縁には嫌悪しかなく、触れるどころか苛立ちに男を睨みつける。
「私にそんな顔をするのはお前くらいだろうな。とても……面白い」
「貴方を愉しませるために私はいるんじゃない。今すぐ家に帰して下さい」
きっと今も探し回ってくれているだろう家族に、しかし連絡を取ろうと持っていた魔道具はすでに取り上げられている。
ここがどこで、何故自分が連れて来られたのか。
目の前にいるこの男の正体は分かっているが、何故自分を攫ってきたのか?自分に一体何をさせたいのか?何も分からず不安だけが湧く。
「私が満足したら、な。せいぜい私を愉しませてみーー」
その言い方にすら苛立ち魔法を使い拘束しようとしたが、突如襲いくる吐き気に口と胸を押さえ蹲る。
「愚かだな。ここは魔界。ここは私の庭。私の許可なく魔力は使えん」
意味が分からない。
しかし治まらぬ吐き気と男の言葉に魔法を使おうとしたからだと理解でき魔力を抑えれば徐々にだがそれも治ってきた。
男が何を考えているか分からない。
何をしようとしているのか、縁に何をさせたいのか。
未だ理解は出来ないが目の前の男が自分にとって敵だということは分かり目に涙を溜めながらも睨むことをやめなかった。
「……面白い。その容姿に人間には有り得ぬ魔力。魔族ではないのが不思議なくらいだ」
男が何やら呟いているがそんなことどうでもいい。
魔法が使えないというなら自力でこの建物から抜け出すしかないと胸を押さえながらも逃げ口を探す。
「己が身が大事なら逃げようなどと考えぬことだ。魔力を使わずして外に出ようものなら怪我だけでは済まぬぞ」
「だったら早く帰して下さい。私は貴方に用などない」
「言っただろう。私が満足したならな」
「貴方の言うことを聞く理由も義理もない。私は貴方の心を満たす玩具でもなければ意志を持った人間です。いくら脅されたところで言うことを聞くとは思わないで下さい」
男の心が満たされようが満たされまいがどうだっていい。
早く解放しろと言うが男は笑うだけで縁を解放する気はないのだろう。
「まぁ今日のところは私も疲れた故許してやろう。だが逃げられるとは思わないことだ」
男がそう言い手を少し動かせば突如足に鎖のようなものが足に巻き付いてきた。
慌てて外そうとするがジャラジャラと音が鳴るだけでベッドの脚に繋がれた鎖は外れる気配はない。
「人の手で外れるものではないぞ。諦めることだな」
そう言われたからと諦められるはずがない。
揺すり叩いてみるが一向に外れる様子はなく、そんな縁に男は無駄な努力だと言わんばかりに呆れ部屋を出て行こうとする。
「私を連れてきたのはエルたちをここへ連れ戻すためですか?」
「………エル?」
それは誰だとばかりに怪訝な顔をする男は本当に憶えがないのだろう。
目の前で実の息子が名を呼んでいたのにそれすら聞こえていなかったらしい。
エルが、あれほど戻ることを拒んでいた理由はこれだったのだろう。
この男はきっと自分に子どもがいることさえ覚えていないに違いない。
ならば返してなどやらない。
彼らはもう縁の大切な家族なのだから。
「玩具が欲しいだけなら他をあたって下さい。貴方が誰であろうと私は従う気はない」
この男がこの魔界とやらでどれだけの立場であろうと縁には興味はない。
何もかも自分の思い通りになると思っているならお門違いだ。
自分を縛っていいのは家族だけ。
以前ルーに言ったように縁の中で全てが許されるのは家族である彼らだけなのだ。
「ますます面白い。いつまでそんな口が聞けるか見ものだな」
愉快だとばかりに声を上げながら男は部屋を後にするのだった。
その気配が離れていくのを確認すると強張っていた身体から力が抜け床に崩れ落ちる。
怪我をしたわけではないが精神的疲労が酷く、先程の吐き気からも体力的にかなりまいってしまっていた。
「……セイン…アレン………ジーク、ルー……………みんな」
心細さに名を呼ぶが当たり前だが誰からの返事もない。
どうしてこうなってしまったのか?
ここが男が言うように魔界という場所ならば魔法を主に攻撃防衛手段としている縁には分が悪い。
だからと言って武器を持ち合わせてもおらず、ジークたちのように力があるわけでもないため反撃方法がない。
「…………大丈夫。みんなが来てくれる、大丈夫」
全くの他人だったならば分からなかったが、男が憶えておらずとも子であるエルならばすぐにこの場所にも気付いてくれるだろう。
契約しているリルもいるためそう時間もかからないはずだ。
大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせ呼吸を整える。
以前ルーに攫われた時とは違い、相手の目的も思考も読めず下手に刺激し続ければ殺される可能性もあるだろう。
何度か深呼吸を繰り返すと震える両手を握りしめ起き上がる。
みんなが助けに来てくれるのを疑いはしない。
だからこそ彼らが来るまでの間に自分も自分に出来ることをしなければと未だ繋がれたままの足を解放するべく何か方法を考えるのだった。
見る者が見ればには美しいと思えるものかもしれないが、望まぬまま連れて来られた縁には嫌悪しかなく、触れるどころか苛立ちに男を睨みつける。
「私にそんな顔をするのはお前くらいだろうな。とても……面白い」
「貴方を愉しませるために私はいるんじゃない。今すぐ家に帰して下さい」
きっと今も探し回ってくれているだろう家族に、しかし連絡を取ろうと持っていた魔道具はすでに取り上げられている。
ここがどこで、何故自分が連れて来られたのか。
目の前にいるこの男の正体は分かっているが、何故自分を攫ってきたのか?自分に一体何をさせたいのか?何も分からず不安だけが湧く。
「私が満足したら、な。せいぜい私を愉しませてみーー」
その言い方にすら苛立ち魔法を使い拘束しようとしたが、突如襲いくる吐き気に口と胸を押さえ蹲る。
「愚かだな。ここは魔界。ここは私の庭。私の許可なく魔力は使えん」
意味が分からない。
しかし治まらぬ吐き気と男の言葉に魔法を使おうとしたからだと理解でき魔力を抑えれば徐々にだがそれも治ってきた。
男が何を考えているか分からない。
何をしようとしているのか、縁に何をさせたいのか。
未だ理解は出来ないが目の前の男が自分にとって敵だということは分かり目に涙を溜めながらも睨むことをやめなかった。
「……面白い。その容姿に人間には有り得ぬ魔力。魔族ではないのが不思議なくらいだ」
男が何やら呟いているがそんなことどうでもいい。
魔法が使えないというなら自力でこの建物から抜け出すしかないと胸を押さえながらも逃げ口を探す。
「己が身が大事なら逃げようなどと考えぬことだ。魔力を使わずして外に出ようものなら怪我だけでは済まぬぞ」
「だったら早く帰して下さい。私は貴方に用などない」
「言っただろう。私が満足したならな」
「貴方の言うことを聞く理由も義理もない。私は貴方の心を満たす玩具でもなければ意志を持った人間です。いくら脅されたところで言うことを聞くとは思わないで下さい」
男の心が満たされようが満たされまいがどうだっていい。
早く解放しろと言うが男は笑うだけで縁を解放する気はないのだろう。
「まぁ今日のところは私も疲れた故許してやろう。だが逃げられるとは思わないことだ」
男がそう言い手を少し動かせば突如足に鎖のようなものが足に巻き付いてきた。
慌てて外そうとするがジャラジャラと音が鳴るだけでベッドの脚に繋がれた鎖は外れる気配はない。
「人の手で外れるものではないぞ。諦めることだな」
そう言われたからと諦められるはずがない。
揺すり叩いてみるが一向に外れる様子はなく、そんな縁に男は無駄な努力だと言わんばかりに呆れ部屋を出て行こうとする。
「私を連れてきたのはエルたちをここへ連れ戻すためですか?」
「………エル?」
それは誰だとばかりに怪訝な顔をする男は本当に憶えがないのだろう。
目の前で実の息子が名を呼んでいたのにそれすら聞こえていなかったらしい。
エルが、あれほど戻ることを拒んでいた理由はこれだったのだろう。
この男はきっと自分に子どもがいることさえ覚えていないに違いない。
ならば返してなどやらない。
彼らはもう縁の大切な家族なのだから。
「玩具が欲しいだけなら他をあたって下さい。貴方が誰であろうと私は従う気はない」
この男がこの魔界とやらでどれだけの立場であろうと縁には興味はない。
何もかも自分の思い通りになると思っているならお門違いだ。
自分を縛っていいのは家族だけ。
以前ルーに言ったように縁の中で全てが許されるのは家族である彼らだけなのだ。
「ますます面白い。いつまでそんな口が聞けるか見ものだな」
愉快だとばかりに声を上げながら男は部屋を後にするのだった。
その気配が離れていくのを確認すると強張っていた身体から力が抜け床に崩れ落ちる。
怪我をしたわけではないが精神的疲労が酷く、先程の吐き気からも体力的にかなりまいってしまっていた。
「……セイン…アレン………ジーク、ルー……………みんな」
心細さに名を呼ぶが当たり前だが誰からの返事もない。
どうしてこうなってしまったのか?
ここが男が言うように魔界という場所ならば魔法を主に攻撃防衛手段としている縁には分が悪い。
だからと言って武器を持ち合わせてもおらず、ジークたちのように力があるわけでもないため反撃方法がない。
「…………大丈夫。みんなが来てくれる、大丈夫」
全くの他人だったならば分からなかったが、男が憶えておらずとも子であるエルならばすぐにこの場所にも気付いてくれるだろう。
契約しているリルもいるためそう時間もかからないはずだ。
大丈夫、大丈夫だと自分に言い聞かせ呼吸を整える。
以前ルーに攫われた時とは違い、相手の目的も思考も読めず下手に刺激し続ければ殺される可能性もあるだろう。
何度か深呼吸を繰り返すと震える両手を握りしめ起き上がる。
みんなが助けに来てくれるのを疑いはしない。
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