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逆に
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「ククルさんは魚は捌けますか?」
「…………はい?」
今日も今日とて突然の訪問に驚きながらも喜んで迎え入れれば、なんとも脈絡のないエニシの質問に咄嗟に答えることが出来なかった。
彼が来ることは勿論いつでも大歓迎だが、挨拶もそこそこにそんなことを言われククルも戸惑った。
「えーと?」
「突然すいません。もしよければククルさんにお勧めしたい商品があったのでお店の方で扱ってもらえないかと思って来ました」
それはとても喜ばしい話しだがそれと先程の質問の意味が分からない。
どういうことかと聞けばそっと机に置かれたそれに釘付けになった。
「これは?私はその…武器は扱わないことにしているのですが」
少なからず揉め事が多い武器の扱いに自分は全く手は出しておらず、エニシには申し訳ないがこれからも扱う気はないと伝えれば笑って違うと首を振られた。
「これは調理器具です。食材を切る時に使うナイフを私の希望でこの形にしてもらいました。なので切れ味を見てもらおうと思って」
先程の質問はそういう意味かと理解したが出来ないと言えば、怒ることなく出来る人がいれば呼んで欲しいと言われた。
切れ味を試すだけであれば魚である必要はないのではとも思ったが、エニシが言うならば何か意味があるのだろうと従業員で2人の子を持つ女性を呼ぶと言われるがまま魚を捌いてもらう。
「何ですかこれ!?めちゃくちゃ切れる!」
「分かっていただけて良かったです。ついでと言っては何ですがその身を薄く花びらのように切ってもらうことは出来ますか?」
興奮冷めやらぬ女性にそんなにすごいのか?と疑問に思っていれば、これまた言われた通り身を薄く切っていくことに驚いた。
普通ならばこれほど薄くすれば身がボロボロになりとてもじゃないが食べることなど出来なくなる。
「ありがとうございます。ではついでに一緒にいただきましょう」
「「え?」」
はいと言って手渡された皿には見覚えがある黒い液体。
自分たちが作り上げたそれにどういうことかと聞く前に切り身を醤油に浸すとパクリと食べたエニシにその場にいた全員が驚いた。
「少し温いですけど美味しいですね」
「ケイも!」
「はいはい。ほら、エルも食べてみて」
もうどこから突っ込めばいいのか分からない。
その食べ方はどうなのかと、生で食べるなど腹を壊すのではとか、言いたいことは沢山あったが美味しいですねと食べる親子に誘われ一口食べてみた。
「ん!?」
「生で食べるには鮮度の問題がありますけど美味しいでしょ?で、コレ欲しくないですか?」
ここまでされて頷かないわけにいかない。
何より私も欲しい!と隣で肩を揺さぶってくる女性に売れないわけがないだろうと交渉を開始するのだった。
「お鍋もいくつか作ってもらったのでこちらもお願いします」
次々に出される商品にこんなに一体どうしたのかと聞かずにはいられなかった。
「私の故郷ではあったものなんです。けどこちらでは見かけないので作ってもらいました」
あっさりとそう言うエニシに、ではそこに行けばもっと良いものがあるのでは?と思ったが結局それがどこか聞くことは出来なかった。
自分もまだまだだなと反省する。
「エニシくんには一生頭が上がりませんよ」
「そうですか?私からすれば我儘を聞いてくれるククルさんにこそ頭が上がりませんが」
なんてことを言うのか。
今後の商売を考えただけで自分にどれだけの利益があるのか。
そこまでの知識ときっかけを与えてくれたエニシにはいくら感謝してもし足りない。
「自己満足で済むところを他人にも教えようとするのはすごいことです。それにエニシくんはほとんど見返りを求めないでしょう?それほどの人がどれだけいると思います?そんな貴方だから私も話しを聞きたいと思うんです」
人とは欲深い生き物だ。
それは商人である自分も、自分の周りを見ただけでも分かる。
それ自体は決して悪いことではないが、そこから私利私欲に溺れては身を滅ぼした愚かな人間を何人も見てきた。
その中には実の父の名もあったが、そんなことをエニシに言う気はさらさらない。
信頼を失うのが怖いと言うのもあるが、何よりそのことでエニシに気を使われることが嫌だったからだ。
過去の自分ではなく、今のククルという1人の商人を彼は見てくれているから。
「私も商人ですから見返りがなければまず動きません。ここで働いている者たちも給金という見返りがあるからこそ働いています。けどエニシくんにとっての見返りはほとんどが自分のためではなく他人のためです。私はそこが何より驚きでもあり信頼しているところなんです」
ナイフや鍋と言った便利な物もエニシがいなかれば生まれることはなかった。
なのに彼が見返りとして頼んできたのはそれを作る作り手の手助け。
お人好しのバカと人によっては言われるかもしれないが、逆に迷うことなくそう出来る彼だからこそ手伝いとも思う。
「これからも何かありましたらすぐにご連絡を」
自分を売り込むことも忘れないククルであった。
「…………はい?」
今日も今日とて突然の訪問に驚きながらも喜んで迎え入れれば、なんとも脈絡のないエニシの質問に咄嗟に答えることが出来なかった。
彼が来ることは勿論いつでも大歓迎だが、挨拶もそこそこにそんなことを言われククルも戸惑った。
「えーと?」
「突然すいません。もしよければククルさんにお勧めしたい商品があったのでお店の方で扱ってもらえないかと思って来ました」
それはとても喜ばしい話しだがそれと先程の質問の意味が分からない。
どういうことかと聞けばそっと机に置かれたそれに釘付けになった。
「これは?私はその…武器は扱わないことにしているのですが」
少なからず揉め事が多い武器の扱いに自分は全く手は出しておらず、エニシには申し訳ないがこれからも扱う気はないと伝えれば笑って違うと首を振られた。
「これは調理器具です。食材を切る時に使うナイフを私の希望でこの形にしてもらいました。なので切れ味を見てもらおうと思って」
先程の質問はそういう意味かと理解したが出来ないと言えば、怒ることなく出来る人がいれば呼んで欲しいと言われた。
切れ味を試すだけであれば魚である必要はないのではとも思ったが、エニシが言うならば何か意味があるのだろうと従業員で2人の子を持つ女性を呼ぶと言われるがまま魚を捌いてもらう。
「何ですかこれ!?めちゃくちゃ切れる!」
「分かっていただけて良かったです。ついでと言っては何ですがその身を薄く花びらのように切ってもらうことは出来ますか?」
興奮冷めやらぬ女性にそんなにすごいのか?と疑問に思っていれば、これまた言われた通り身を薄く切っていくことに驚いた。
普通ならばこれほど薄くすれば身がボロボロになりとてもじゃないが食べることなど出来なくなる。
「ありがとうございます。ではついでに一緒にいただきましょう」
「「え?」」
はいと言って手渡された皿には見覚えがある黒い液体。
自分たちが作り上げたそれにどういうことかと聞く前に切り身を醤油に浸すとパクリと食べたエニシにその場にいた全員が驚いた。
「少し温いですけど美味しいですね」
「ケイも!」
「はいはい。ほら、エルも食べてみて」
もうどこから突っ込めばいいのか分からない。
その食べ方はどうなのかと、生で食べるなど腹を壊すのではとか、言いたいことは沢山あったが美味しいですねと食べる親子に誘われ一口食べてみた。
「ん!?」
「生で食べるには鮮度の問題がありますけど美味しいでしょ?で、コレ欲しくないですか?」
ここまでされて頷かないわけにいかない。
何より私も欲しい!と隣で肩を揺さぶってくる女性に売れないわけがないだろうと交渉を開始するのだった。
「お鍋もいくつか作ってもらったのでこちらもお願いします」
次々に出される商品にこんなに一体どうしたのかと聞かずにはいられなかった。
「私の故郷ではあったものなんです。けどこちらでは見かけないので作ってもらいました」
あっさりとそう言うエニシに、ではそこに行けばもっと良いものがあるのでは?と思ったが結局それがどこか聞くことは出来なかった。
自分もまだまだだなと反省する。
「エニシくんには一生頭が上がりませんよ」
「そうですか?私からすれば我儘を聞いてくれるククルさんにこそ頭が上がりませんが」
なんてことを言うのか。
今後の商売を考えただけで自分にどれだけの利益があるのか。
そこまでの知識ときっかけを与えてくれたエニシにはいくら感謝してもし足りない。
「自己満足で済むところを他人にも教えようとするのはすごいことです。それにエニシくんはほとんど見返りを求めないでしょう?それほどの人がどれだけいると思います?そんな貴方だから私も話しを聞きたいと思うんです」
人とは欲深い生き物だ。
それは商人である自分も、自分の周りを見ただけでも分かる。
それ自体は決して悪いことではないが、そこから私利私欲に溺れては身を滅ぼした愚かな人間を何人も見てきた。
その中には実の父の名もあったが、そんなことをエニシに言う気はさらさらない。
信頼を失うのが怖いと言うのもあるが、何よりそのことでエニシに気を使われることが嫌だったからだ。
過去の自分ではなく、今のククルという1人の商人を彼は見てくれているから。
「私も商人ですから見返りがなければまず動きません。ここで働いている者たちも給金という見返りがあるからこそ働いています。けどエニシくんにとっての見返りはほとんどが自分のためではなく他人のためです。私はそこが何より驚きでもあり信頼しているところなんです」
ナイフや鍋と言った便利な物もエニシがいなかれば生まれることはなかった。
なのに彼が見返りとして頼んできたのはそれを作る作り手の手助け。
お人好しのバカと人によっては言われるかもしれないが、逆に迷うことなくそう出来る彼だからこそ手伝いとも思う。
「これからも何かありましたらすぐにご連絡を」
自分を売り込むことも忘れないククルであった。
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