二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
292 / 475

無礼講

しおりを挟む
 「うまっ!」 
 「なにこれ美味しい!」
 「めちゃくちゃ美味いっす」

 それぞれが驚きながらもその美味しさに手が止まらない。
 当初はマーガレットたちとだけ食べようと思ったのだが、色々あり大人数になったため準備に時間はかけられないと焼き肉にすることにしたのだ。
 あまり広くはないがギルドの裏庭を借り、焼く準備をお願いすると皆大喜びで手伝ってくれた。
 その間に縁は焼き肉に最も必要となるタレを作っていたのだ。
 大体の材料は分かっていたが、分量は分からなかったためエルやククルと味を調整しながら完成させた。
 皆の喜ぶ姿にククルも大満足のようであり、どうせならこのタレも売り出そうと楽しそうだった。

 「お疲れ様です。ここは代わりますので貴方も食べてきて下さい」

 「え?いや、あの、そんな…これはオレの仕事なので」

 皿など世話係に徹していた獣人の男性に代わると言ったが、まさかそんなこと言われると思っていなかったのかかなり驚かれオロオロしていた。

 「なら食べ終わったらまた代わって下さい。こういうのは焼き立てが一番ですから。仲間の方と一緒に味わってきて下さい」

 縁が言いたいことが分かったのかエルも他の獣人たちにと代わってくれた。

 「少し休憩するだけですよ。ここに座って。はいどうぞ」

 それでも戸惑う彼らに山盛りの焼いた肉の皿とタレを渡す。
 
 「人それぞれ好みはありますがご飯を食べなければ誰もが動けなくなるでしょう?食べられる時に食べるのも大切ですよ」

 「そうだね。代わるのは後でいいから先に食べな」

 マーガレットの言葉で漸く彼らも頷くと獣人仲間と食べ始めた。
 最初こそ不安そうだったが、食べている内に笑顔も見え始め良かったと胸を撫で下ろす。

 「すまないね」

 いきなり謝られ何のことかと首を傾げる。
 そんな縁に苦笑いすると主人である自分たちが言ってやらねばならなかったのに気をつかわせたと謝られた。

 「いえ、私こそすいません。確かに彼らの主人はお婆ちゃんなんですから先に確認を取るべきでした」

 いくらこうした方がいいと縁が言ったところで彼らの雇い主であり主人はマーガレットなのだ。
 それを確認も取らずいいからと彼らの仕事を奪った縁の方が悪い。

 「いや、以前アンタに言われて自分でも考えてみたんだがやっぱりまだ行動に移すのは難しいね」

 「そう考えてくれていると分かっただけでも彼らは喜ぶと思いますよ。少しずつでいいんです。出来ることだけでいいんです。無理をして続かないより、それだけだと思えることでもいいから続けていくことが大切で彼らもきっと喜びます」

 いきなり接し方を大袈裟に変えたところで彼らも不安にしかならないだろう。
 それが続かず元に戻れば尚更不信感が募る。
 ならば少しでいい。少しでいいから彼らという存在を認めて欲しかった。

 「それに美味しいものは大勢で食べた方がもっと美味しいでしょ?」

 人間も、獣人も、魔族であるエルだって縁と同じご飯を食べ美味しいと言ってくれる。
 分かち合うことが出来るならば分かち合っていきたい。
 
 「ククルさんとエルと一緒に作ったんです。お婆ちゃんも食べてみて下さい」

 材料を混ぜ合わせただけで作ったとは言えないかもしれないが美味しいと食べてくれたら嬉しい。
 盛り付けた皿にタレをかけて渡せば美味しいよと微笑んでくれた。

 「味付けを変えるだけでも美味しいでしょ?塩や胡椒もいいですがタレもいいですよね」

 今回は人数もあり焼き肉にしたが、簡単にするならば炒め物でも美味しく時間がないならば漬けておくのもいいと言えばククルが目を輝かせていた。

 「初めて食べたけど美味しいね。これなら子どもも喜びそうだ」

 「お爺ちゃんも食べました?美味しかったならよかったです」

 皿を持ちながら寄ってきたジンにおかわりを差し出せば喜んで受け取ってくれる。
 
 「今日はありがとう。みんな喜んでくれてるよ。それはもう怖いほどね」

 焼けた端から肉を奪っていく職員たちには苦笑いしかない。
 その隣ではククルがこれまた楽しそうに味の感想を聞いて回っていた。
 なんとも言えない光景だったが本人たちが楽しんでいるならばいいかと放っておくことした。

 「こういうのも偶にはいいね。今度する時は繋も連れてきな」

 「そうします。すごく喜びそうです」

 今回ギルドに来る予定はなかったためおいてきたがこれなら行きたいと言うことだろう。
 ならば他にランたちも呼ぼうと話し合っていれば、食べ終えた先程の獣人たちが代わってくれた。

 「あの……ありがとうございました。その、すごくうまかったです」

 「こちらこそ喜んでもらえたようで良かったです。また今度一緒に食べましょうね」

 ぎこちないながら礼を言われ微笑めば、照れたように彼らも笑って頷いてくれるのだった。
 
 「エニシお腹空いた」

 「はいはい。エルも一緒に食べましょ」

 あの中に入っていくのは大変そうだなと思っていれば、何故か縁たちが皿を持って近づいていった瞬間サッと場所を開けてくれるのだった。

 「すごいね。どんな魔法?」

 「いや、使ってませんからね」

 今回提案した縁に対しての感謝の意だと思うが、折角なので礼を言うとエルと共に肉を味わうのだった。
 
 




 





 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...