286 / 475
さぁどうします?
しおりを挟む
いつまで経っても離れない手に一呼吸おくと、顔を上げゼスを見る。
「先程から見ているだけで何もしないのは戸惑っているせいですか?それとも拒否すれば依頼を受けぬという脅しですか?」
「っ!?わ、悪かった!このバカさっさとその手を離せ!」
「なんで?だってオレーー」
「うるせぇ!客に何してんだ!バカヤロウ!」
ゼスのおかげで何とか引き剥がしてもらえたが、父親によって引き剥がされた当人は何をするんだと父親に食ってかかっている。
殴り合いでもしそうな雰囲気だが縁にはそんなことどうでもいい。
喚く青年を風魔法で転ばせると拘束し、動けなくなったところを念のためエルに押さえておいてもらう。
「私は何度も離してほしいと言いましたよね?」
「いやオレはーー」
「貴方の意見など聞いてません。私は言ったかどうか聞いているんです。はいかいいえ、それしか求めていない」
椅子に腰掛けながらも床に倒れ込む青年を見下ろす。
紹介してくれた少女には悪いがこれ以上これが続くようなら依頼は全てなかったことにしてもらう。
我慢してまでこの鍛冶屋に頼む理由も、なくては困るものでもない。
「あ、いやそのーー」
「はい、かいいえ、です」
それ以上の言葉は許しはしない。
「………はい」
流石に縁の態度にマズいと感じたのか漸く頷いた。
「痛いので離して下さいとも言いましたね?」
「…はい」
再び頷く青年に微笑む。
「それが聴こえていながら貴方がしたことは自分勝手な主張と私の腰を折らんばかりに更に腕に力を込めたこと、ですね?」
「………はい」
今更ながらに自分のしでかしたことに気付いたのか顔色が悪い。
逆にニコニコと微笑む縁にエルたちが恐怖で黙り込んでいる。
「貴方が何をもって私にそうしたかは分かりませんが私はそれを貴方に許した覚えはありませんし、とても不愉快でした。私に触れていいのは私がいいと認めた人たちだけです」
突然のことに驚きはしたが何を言っても力を緩めない青年に力があるなと感心などするはずもなく、唯々不愉快であり怒りしかなかった。
「自分の主張だけしてそれが無条件で叶えられるのは小さな子どもだけです。貴方はそんなに子どもなんですか?」
遠回しにお前いくつだよ!と言ってやれば、フルフルと首を振る仕草は否定しながらも子どものようだった。
「なら、私に言う言葉は分かりますね?」
縁も流石に鬼ではない。
怒りはしたが、きちんと謝罪さえしてもらえれば許そうと思える。
「あの……すいません、でした」
床に倒れながらも謝る青年に大きく溜め息をつくと話しは終わりと立ち上がろうとしーーー
「けど好きなんです。オレと結婚して下さい」
…………………………は?彼は今何と言った?
好き?結婚?誰が?誰と?
考えること数分。
エルを見る。
「やっぱりね。気付いてなかったでしょ」
はい。気付いてませんでした。というか気付くわけがない。
「念のため確認しますが、先程の告白はもしかして私に対するものだったりしますか?こちらの女性にではなく?」
そうであってほしいと願いながらも聞けば、何ともあっさり頷かれ全身の力が抜けた。
もう考えることが馬鹿らしくなってきた。
そういうことならば先程までの彼の言葉と行動も理解は出来る。
理由出来るだけで許せるわけではないが。
「私が男であることは理解してますか?」
「はい」
「なら自分が男であることも理解してますよね?」
「はい」
ん~~~~。ある意味すごい。
「そうですか…………お断りします」
「なんで!?」
いや、むしろ了承してもらえると思っていたことに驚く。
あれほど怒られて嫌われてないとどうしたら思えるのか。
「理由を上げるとすれば私が貴方のことを好きではないからですね。むしろ嫌いです」
珍しくもはっきり嫌いだと言う縁にエルが驚いていた。
好意を寄せられたかといって彼がしたことがなくなるわけではなく、大袈裟だが自分に暴力を振るおうとした相手にいい感情など抱きはしない。
「残念ですが私はもう結婚していますし、可愛い子どもも大切な家族もいるのでどう間違っても貴方を選ぶことはありません」
縁がここまでキツイ物言いなのはそうまで言わなければ彼が諦めないだろうと思ったからだ。
変に追いかけ回されても迷惑のため断る時はキッパリと。
「…………」
「納得していただけたようですね。では依頼の続きをーー」
「いやっ!オレは諦めなーー」
「いい加減にしろっ!このバカタレが!」
殴り飛ばされ飛んでいく青年の姿に懐かしさを感じたのは何故だろうか?
バカは殴られねば治らないのか。
縁たちを放置し親子喧嘩を始めてしまった2人に、これはもう今日は依頼は無理だなと諦めるのだった。
「いつもこんな感じなんですか?」
「いえっ!普段から親しくさせていただいてますが、怒っている姿なんて一度も……」
流石に客であり貴族の前で怒鳴り殴るなどゼスもしたことがなかったらしい。
彼女には今日一日でかなり衝撃的な体験をさせてしまい、申し訳なかったと謝罪しておくのだった。
「先程から見ているだけで何もしないのは戸惑っているせいですか?それとも拒否すれば依頼を受けぬという脅しですか?」
「っ!?わ、悪かった!このバカさっさとその手を離せ!」
「なんで?だってオレーー」
「うるせぇ!客に何してんだ!バカヤロウ!」
ゼスのおかげで何とか引き剥がしてもらえたが、父親によって引き剥がされた当人は何をするんだと父親に食ってかかっている。
殴り合いでもしそうな雰囲気だが縁にはそんなことどうでもいい。
喚く青年を風魔法で転ばせると拘束し、動けなくなったところを念のためエルに押さえておいてもらう。
「私は何度も離してほしいと言いましたよね?」
「いやオレはーー」
「貴方の意見など聞いてません。私は言ったかどうか聞いているんです。はいかいいえ、それしか求めていない」
椅子に腰掛けながらも床に倒れ込む青年を見下ろす。
紹介してくれた少女には悪いがこれ以上これが続くようなら依頼は全てなかったことにしてもらう。
我慢してまでこの鍛冶屋に頼む理由も、なくては困るものでもない。
「あ、いやそのーー」
「はい、かいいえ、です」
それ以上の言葉は許しはしない。
「………はい」
流石に縁の態度にマズいと感じたのか漸く頷いた。
「痛いので離して下さいとも言いましたね?」
「…はい」
再び頷く青年に微笑む。
「それが聴こえていながら貴方がしたことは自分勝手な主張と私の腰を折らんばかりに更に腕に力を込めたこと、ですね?」
「………はい」
今更ながらに自分のしでかしたことに気付いたのか顔色が悪い。
逆にニコニコと微笑む縁にエルたちが恐怖で黙り込んでいる。
「貴方が何をもって私にそうしたかは分かりませんが私はそれを貴方に許した覚えはありませんし、とても不愉快でした。私に触れていいのは私がいいと認めた人たちだけです」
突然のことに驚きはしたが何を言っても力を緩めない青年に力があるなと感心などするはずもなく、唯々不愉快であり怒りしかなかった。
「自分の主張だけしてそれが無条件で叶えられるのは小さな子どもだけです。貴方はそんなに子どもなんですか?」
遠回しにお前いくつだよ!と言ってやれば、フルフルと首を振る仕草は否定しながらも子どものようだった。
「なら、私に言う言葉は分かりますね?」
縁も流石に鬼ではない。
怒りはしたが、きちんと謝罪さえしてもらえれば許そうと思える。
「あの……すいません、でした」
床に倒れながらも謝る青年に大きく溜め息をつくと話しは終わりと立ち上がろうとしーーー
「けど好きなんです。オレと結婚して下さい」
…………………………は?彼は今何と言った?
好き?結婚?誰が?誰と?
考えること数分。
エルを見る。
「やっぱりね。気付いてなかったでしょ」
はい。気付いてませんでした。というか気付くわけがない。
「念のため確認しますが、先程の告白はもしかして私に対するものだったりしますか?こちらの女性にではなく?」
そうであってほしいと願いながらも聞けば、何ともあっさり頷かれ全身の力が抜けた。
もう考えることが馬鹿らしくなってきた。
そういうことならば先程までの彼の言葉と行動も理解は出来る。
理由出来るだけで許せるわけではないが。
「私が男であることは理解してますか?」
「はい」
「なら自分が男であることも理解してますよね?」
「はい」
ん~~~~。ある意味すごい。
「そうですか…………お断りします」
「なんで!?」
いや、むしろ了承してもらえると思っていたことに驚く。
あれほど怒られて嫌われてないとどうしたら思えるのか。
「理由を上げるとすれば私が貴方のことを好きではないからですね。むしろ嫌いです」
珍しくもはっきり嫌いだと言う縁にエルが驚いていた。
好意を寄せられたかといって彼がしたことがなくなるわけではなく、大袈裟だが自分に暴力を振るおうとした相手にいい感情など抱きはしない。
「残念ですが私はもう結婚していますし、可愛い子どもも大切な家族もいるのでどう間違っても貴方を選ぶことはありません」
縁がここまでキツイ物言いなのはそうまで言わなければ彼が諦めないだろうと思ったからだ。
変に追いかけ回されても迷惑のため断る時はキッパリと。
「…………」
「納得していただけたようですね。では依頼の続きをーー」
「いやっ!オレは諦めなーー」
「いい加減にしろっ!このバカタレが!」
殴り飛ばされ飛んでいく青年の姿に懐かしさを感じたのは何故だろうか?
バカは殴られねば治らないのか。
縁たちを放置し親子喧嘩を始めてしまった2人に、これはもう今日は依頼は無理だなと諦めるのだった。
「いつもこんな感じなんですか?」
「いえっ!普段から親しくさせていただいてますが、怒っている姿なんて一度も……」
流石に客であり貴族の前で怒鳴り殴るなどゼスもしたことがなかったらしい。
彼女には今日一日でかなり衝撃的な体験をさせてしまい、申し訳なかったと謝罪しておくのだった。
21
お気に入りに追加
3,696
あなたにおすすめの小説
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
偽物の番は溺愛に怯える
にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』
最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。
まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる