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本音
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「アンタたちは私が怖くはないかい?」
エニシが倒れ込むジンを助けに行ったのを遠目に見ながら、膝に繋を乗せつつ目の前に座る双子の父親だと言う男に声をかけた。
「怖く…はないが、なんだ、その……こうやって縁以外の人間と話したのは初めてで戸惑ってはいるな」
エニシのおかげで悪い人間だとは思われていないだろうが、やはり今までのことからすんなりとは受け入れられはしないだろう。
「それでいいさ。あの子は人が良すぎるからね。アンタたちがそうやって周りを警戒してやるぐらいが丁度いいよ」
エニシや子どもたちのようになれとは言わない。
優しく懐が深いため面倒なことにも巻き込まれてしまう彼を守るためにもいくらエニシ自身が気をゆるしていても警戒する人物が必要なのだ。
「その、アンタはいいのか?」
「何がだい?」
「アンタたちが縁を気に入っているのは知ってる。知ってるからこそ聞くが、俺たち獣人が縁の側にいるのが気に食わなくはないのか?」
今更である。
「そりゃあね。最初聞いた時は驚いたさ。なんでよりによって獣人なんだとも思った」
「ならーー」
「けど笑うんだよ」
それはそれは嬉しそうに、楽しそうに、そしてとても幸せそうに笑うエニシに離れろとは言えなかった。
「アンタたちの話しを楽しそうに笑いながら話して、繋や真、愛依を愛しそうに見るあの子に……あぁ、間違ってたのは私の方だったんだって気づいたんだよ」
「………」
やはり心の中でどこか何で獣人なんかと思う気持ちが少なからずあったのだ。
「きっとアンタたちだからあの子はああして笑ってられるんだろう」
「……だといいけどな」
細く頼りなさそうに見えてエニシは誰よりしっかりとした意志を持ち何があっても揺るがない。
「結局私らはあの子を心配するふりして、何よりあの子に教えられてたんだよ。獣人だ、人間だとそんなの些細なことだってね」
幸せになることに人間も獣人も関係ないのだと。
何よりエニシにとって幸せになるために必要だったのが彼らだったのだ。
「きっと私らがアンタたちと別れなって言っても切り捨てられるのは私らだろうね」
寂しそうな顔をしながらも、それでも手を離されるのはマーガレットたちの方だろう。
「それはーー」
「いいんだよ。それでいいんだ。繋と真と愛依を見てね、分かったのさ」
呼ばれたと思ったのかきょとんと見上げてくる繋の頭を撫でてやる。
「同じなんだね。成長がいくら早かろうが、私らと違う耳を持ってようが、私らにはない尾を持ってようが私には可愛いひ孫でしかなくて、同じ人間なんだ」
見た目が人間にしか見えない繋にしても、その身体には獣人の血が少なからず流れている。
それでも嫌悪感はなく、マーガレットをばーばと可愛く呼んでくれるのが嬉しくて仕方がない。
「あの子は最初からちゃんと分かってた。何が一番大事かを。エニシとってアンタたちが人間か獣人かなんて関係ない。何より大切な家族なんだ」
「ああ。俺もだ」
その言葉を聞けただけで今日ここへ来た甲斐があった。
その声から、その表情から、彼がどけだけエニシを大切に想ってくれているのかが分かる。
「繋、アンタはママが好きかい?」
「すきっ!!」
笑顔でそう答える表情は普通の人間の子どもと何ら変わりない。
「パパはどうだい?」
「すき!セーパパね、ずーーとみえるのよ」
どういうことかと聞いてみれば目がとてもいいと言いたかったらしい。
「アーパパはつおいの」
力が強いらしい。
「クーパパもつおーいけど、やさしいの」
ねー?とにこりと微笑まれれば言われた本人も嬉しそうに笑っていた。
「ルーはどうだ?」
ジークの質問にそれまで笑っていた繋が考え込んでしまう。
「ルーはね、こどもなの」
「「ぶふぅっ!」」
まさかの回答に2人して吹き出してしまった。
子どもに子どもと言われるとは面白くて仕方がない。
我慢出来ずに腹を抱えて笑えば、繋はどうしたのとばかりに首を傾げている。
「あははははっ、そうかい。ルーは子どもかい。ははははははっ」
「おまっ、子どもって。しかもパパって付かないのかよ。ははははははっ」
どちらが子どもか分かったもんじゃない。
以前会った時の言動からしても本当に大丈夫かと不安でしかなかったが、まさか子どもにまで心配されるほどだったとは。
本人が聞けばそんなぁ~と情けない顔をする気がする。
「ルーね、ママとるの」
どうやらルーはエニシにべったりくっつき独り占めするため繋はそれが不満らしい。
「そりゃパパとは言えないね。いいとこ兄貴ぐらいだろ」
「あいつはな~、確かに中身はガキだからな」
パパと呼ばれるにはもう少し時間が……いや無理だな。
「アンタたちのとこは本当に賑やかだね。まぁ、そこまでいるならあの子も大丈夫だろ。ちゃんと守ってやんな」
「分かってる」
こうして話してみてやはり彼らと自分たちの違いなど些細なものだということが分かった。
普通に会話し、一緒に笑う。
何もおかしいところなどなく、気にしていた今までが異常だったということだ。
「繋もルーなんかに負けないで、むしろ奪いとってきな。ママは私のだってな」
「あいっ!」
「これは強敵だな」
苦笑いするジークに、繋と2人笑い合うマーガレットであった。
エニシが倒れ込むジンを助けに行ったのを遠目に見ながら、膝に繋を乗せつつ目の前に座る双子の父親だと言う男に声をかけた。
「怖く…はないが、なんだ、その……こうやって縁以外の人間と話したのは初めてで戸惑ってはいるな」
エニシのおかげで悪い人間だとは思われていないだろうが、やはり今までのことからすんなりとは受け入れられはしないだろう。
「それでいいさ。あの子は人が良すぎるからね。アンタたちがそうやって周りを警戒してやるぐらいが丁度いいよ」
エニシや子どもたちのようになれとは言わない。
優しく懐が深いため面倒なことにも巻き込まれてしまう彼を守るためにもいくらエニシ自身が気をゆるしていても警戒する人物が必要なのだ。
「その、アンタはいいのか?」
「何がだい?」
「アンタたちが縁を気に入っているのは知ってる。知ってるからこそ聞くが、俺たち獣人が縁の側にいるのが気に食わなくはないのか?」
今更である。
「そりゃあね。最初聞いた時は驚いたさ。なんでよりによって獣人なんだとも思った」
「ならーー」
「けど笑うんだよ」
それはそれは嬉しそうに、楽しそうに、そしてとても幸せそうに笑うエニシに離れろとは言えなかった。
「アンタたちの話しを楽しそうに笑いながら話して、繋や真、愛依を愛しそうに見るあの子に……あぁ、間違ってたのは私の方だったんだって気づいたんだよ」
「………」
やはり心の中でどこか何で獣人なんかと思う気持ちが少なからずあったのだ。
「きっとアンタたちだからあの子はああして笑ってられるんだろう」
「……だといいけどな」
細く頼りなさそうに見えてエニシは誰よりしっかりとした意志を持ち何があっても揺るがない。
「結局私らはあの子を心配するふりして、何よりあの子に教えられてたんだよ。獣人だ、人間だとそんなの些細なことだってね」
幸せになることに人間も獣人も関係ないのだと。
何よりエニシにとって幸せになるために必要だったのが彼らだったのだ。
「きっと私らがアンタたちと別れなって言っても切り捨てられるのは私らだろうね」
寂しそうな顔をしながらも、それでも手を離されるのはマーガレットたちの方だろう。
「それはーー」
「いいんだよ。それでいいんだ。繋と真と愛依を見てね、分かったのさ」
呼ばれたと思ったのかきょとんと見上げてくる繋の頭を撫でてやる。
「同じなんだね。成長がいくら早かろうが、私らと違う耳を持ってようが、私らにはない尾を持ってようが私には可愛いひ孫でしかなくて、同じ人間なんだ」
見た目が人間にしか見えない繋にしても、その身体には獣人の血が少なからず流れている。
それでも嫌悪感はなく、マーガレットをばーばと可愛く呼んでくれるのが嬉しくて仕方がない。
「あの子は最初からちゃんと分かってた。何が一番大事かを。エニシとってアンタたちが人間か獣人かなんて関係ない。何より大切な家族なんだ」
「ああ。俺もだ」
その言葉を聞けただけで今日ここへ来た甲斐があった。
その声から、その表情から、彼がどけだけエニシを大切に想ってくれているのかが分かる。
「繋、アンタはママが好きかい?」
「すきっ!!」
笑顔でそう答える表情は普通の人間の子どもと何ら変わりない。
「パパはどうだい?」
「すき!セーパパね、ずーーとみえるのよ」
どういうことかと聞いてみれば目がとてもいいと言いたかったらしい。
「アーパパはつおいの」
力が強いらしい。
「クーパパもつおーいけど、やさしいの」
ねー?とにこりと微笑まれれば言われた本人も嬉しそうに笑っていた。
「ルーはどうだ?」
ジークの質問にそれまで笑っていた繋が考え込んでしまう。
「ルーはね、こどもなの」
「「ぶふぅっ!」」
まさかの回答に2人して吹き出してしまった。
子どもに子どもと言われるとは面白くて仕方がない。
我慢出来ずに腹を抱えて笑えば、繋はどうしたのとばかりに首を傾げている。
「あははははっ、そうかい。ルーは子どもかい。ははははははっ」
「おまっ、子どもって。しかもパパって付かないのかよ。ははははははっ」
どちらが子どもか分かったもんじゃない。
以前会った時の言動からしても本当に大丈夫かと不安でしかなかったが、まさか子どもにまで心配されるほどだったとは。
本人が聞けばそんなぁ~と情けない顔をする気がする。
「ルーね、ママとるの」
どうやらルーはエニシにべったりくっつき独り占めするため繋はそれが不満らしい。
「そりゃパパとは言えないね。いいとこ兄貴ぐらいだろ」
「あいつはな~、確かに中身はガキだからな」
パパと呼ばれるにはもう少し時間が……いや無理だな。
「アンタたちのとこは本当に賑やかだね。まぁ、そこまでいるならあの子も大丈夫だろ。ちゃんと守ってやんな」
「分かってる」
こうして話してみてやはり彼らと自分たちの違いなど些細なものだということが分かった。
普通に会話し、一緒に笑う。
何もおかしいところなどなく、気にしていた今までが異常だったということだ。
「繋もルーなんかに負けないで、むしろ奪いとってきな。ママは私のだってな」
「あいっ!」
「これは強敵だな」
苦笑いするジークに、繋と2人笑い合うマーガレットであった。
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