二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
181 / 475

不思議な少年

しおりを挟む
 「ありがとうございます」

 そう言って腕の中で頭を下げた少年をレオナルドは不思議な生き物を見るように見ていた。
 ここまでされて何故自分に頭を下げられるのか。
 レオナルド自身が何かしたわけではないのだが、それでも王女あの女に関わりがある自分は怒りをぶつけるにはちょうどいいはずだ。
 治癒魔法を使った時ももちろん驚いたが、それをレオナルドに躊躇いなく使ったことが何より驚いたものだ。
 数秒だが頰に触れた手はかなり冷え切っており、ならば恨み言の一つでも言えばいいものを逆に赤く頰を張らせたレオナルドの心配をする。
 足の怪我にしても何も言わず、レオナルドが気付かなければきっと最後まで言わなかっただろう。
 彼は転んだだけだと言っているが、その背中には人の足跡が残っており後ろから蹴り飛ばされたか、踏まれ押さえつけられたのかが分かる。
 聞いたところによると成人してはいるようだが、見た目の細さから子どもを相手にしている気になってしまう。
 そんな彼が自身は何もしてないのに訳が分からない理由で捕らえられ牢に入れられていたならばもう少し混乱し慌てても良さそうなのだが、少し話しただけでも彼が落ち着いているのが分かった。
 
 「一般的な立場で言えば母親ですからね。大切な我が子です」

 「………は?」

 泣き止まない赤子の声に心配そうな顔を見れば父親というより母親のように見えた。
 だがそれを伝えれば自ら母親だという少年に何を言っているんだと思ったが、駆け寄る待ち人たちに囲まれ尋ねることは出来なかった。
 案の定ギルマスたちに口々に責められ睨みつけられるが、やはりというか予想通りというか当事者である少年が怒ることはなく、むしろ王子が褒められ嬉しいと喜んでいる。
 大丈夫なのか?
 感情がないわけではないだろう。
 自分のことよりレオナルドの頰を心配してくれたほどで、我が子を抱きしめる顔は本当に嬉しそうに笑っている。
 なのに怒るということをしない。
 何も思っていないわけなかろうにそれをレオナルドに言うわけでも八つ当たりするわけでもない。

 「……君は何かないのか?」

 気付けばそう尋ねていた。

 「何か?」

 何のことだと本当に不思議そうに言う少年に、不思議を通り越して心配になってくる。

 「なぜ怒らない?ここまでのことをされたんだ。小言の一つや二つ言ってもいいはずだ。いや、言わない方がおかしい」

 現にギルマスたちは怒り、先程からレオナルドを睨みつけてきているのだから。

 「私は宰相様に何もされてませんよ?」

 「それはそうだが……」

 「私も人間なので今までのことに怒りがないわけではありません。ありませんが、それを宰相様に言っても仕方ないでしょう?私は貴方に何もされていないのですから」

 言っていることは分かる。
 分かるがそれをそうとも割り切れないのが人間だ。
 あの王女を自分が止められなかったのも悪かったと言うが、それさえキョトンとされてしまう。

 「宰相様のお仕事は王様の相談役であり補佐、国のため人のために尽くすことでしょう?子どもたちの教育係でもなければ、父親母親でもありません。そんな貴方を何故責めなければいけないのでしょうか」 

 「………」

 彼が言っていることは正論だが、普通なら出来ない考え方でもある。

 「私が色々されたのは王女様です。そのことに怒りはあっても、それを貴方に八つ当たりしようとは思いません。文句も謝罪も当人同士がしなければ解決することもしませんよ」

 彼は本当に自分より歳下なのだろうか?
 見た目も歳も確認はしたが、あまりに達観した考え方に疑ってしまう。
 
 「こうなってもまだ話し合う機会を与えてくれるということだろうか?」

 「もちろんです。その為に来たのですから」

 そこまで言ってくれた彼に感謝しつつ、従者に王女を呼びにいってもらう。
 数分後ーー

 「レオナルドどういうことです!?あの男を牢から出したですって!」

 「牢!?お前エニシさんを牢に入れたのか!」

 「当たり前ではないですか!」

 「ふざけるなっ!勝手に国から追い出そうとしただけでなく、牢に入れただと!?どれだけ馬鹿なことをすれば気がすむんだ!」

 「馬鹿!?私はお兄様のためにーー」

 「今までの行いからよく兄だと言えたな。私はお前を妹だと思ったことなど一度もない!」

 「なんてこと仰るの!?」

 そんな喧嘩を繰り広げながら現れた兄妹に、その場の全員が大きな溜め息をつくのであった。
 ただ1人を除いて。

 「疲れたでしょう?ゆっくりお休みなさいケイ」

 泣き疲れた我が子を寝かしつけるその姿はまさに母親だった。

 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...