166 / 475
仕方ないですねぇ
しおりを挟む
そらから暫く泣き続ける男の背を撫でてやっていたが、このままでは逆上せてしまうと風呂から上がると部屋に戻る。
着替える時以外はべったりと張り付いてくる男に呆れるが、性的なものを感じさせることはなく、迷子になっていた子どもがやっと見つけた親に必死に抱きついているような感じであり無理に引き剥がすのも忍びなく感じてしまう。
「いい加減離れまーー」
「やだ」
「喉が渇いたんですが」
「……どっか行かない?」
「そのつもりなら一緒にお風呂に入ってませんよ」
まだ完全に信用したわけではないが、今までの態度を見る限り無理矢理犯されるなんてことはないだろう。
チラチラと様子を窺いながらも飲み物を取りに行ったのを確認すると、疲れを吐き出すように大きな溜め息をつく。
何故あそこまで懐かれているのやら。
一人が寂しいと嘆く気持ちは分かるが、それと縁に執着する意味が分からない。
初めて会ったのだってつい最近であり、会った回数など片手の指で事足りる。
気に入ったと言っていた容姿にしても、探せばいくらでも代わりもそれ以上も見つけられるだろう。
「エルだって綺麗な分類だと思いますけどねぇ。あ、男だから産めないか」
いや、子どもを産むためだけであればもう容姿などどうでもいいのでは?
「魔力がないと駄目なのであれば魔族の女性に頼むとかすればーー」
「やだ!オレはアンタがいいの!」
縁が考えに耽っている間に戻ってきてしまったようだ。
両手に持っていたグラスを近くのテーブルに置くと今にも泣きそうな顔で目の前まで駆け寄ってくる。
ソファーに座る縁の前に膝をつくとギュッと両手を握られた。
「お願い。オレの番になってーーいや、なって下さい!」
お手本かのようなプロポーズに状況も忘れキュンとしたが、だからと言ってそう簡単に受け入れていい問題ではない。
「私である必要はないでしょう?確かに私は貴方が気にいる容姿かもしれませんが、それだけで決めるにはまだ早いです。もしかしたらこれから出逢う人の中に本当に貴方が求める人が現れるかもしれません。そのためにもーー」
「ちがう!それだけじゃない!オレ…オレはアンタがいいの。アンタじゃないとイヤなの」
どうしたものか。
「そう言われても……大体私は人間ですよ?貴方たちみたいに長生きなんて出来ません。一人が嫌だと泣くぐらいなら他の方がーー」
「そ、それでも!……それでもア、アンタがいいって言ってるじゃん。なんでダメなの?オ、オレのことそんなキライ?」
あ~あ~、やっと泣き止んだかと思ったのにまた泣いちゃいましたね。
あのヘラヘラと笑っていた時が随分と懐かしい。
「好きとか嫌いとかの問題ではなくーーって、だから嫌いとは言ってないでしょう?そんなに泣いて明日はヒドイことになりますよ」
縁が嫌いと発言する度に流れる涙が増し縁の膝を濡らしていく。
折角着替えた服が台無しだ。
「一人が辛いのは分かります。けれどそれと私を番に望むのは違うでしょう?私を番にしてその後は?私が死ねば貴方はまたそうやって泣くんでしょう?子が出来なかったら?貴方はまた一人だと泣き喚くんですか?」
「オレ、オレは……」
彼が何を一番望んでいるかが問題なのだ。
彼は縁を番にすれば全てが解決すると思っていたようだが、そんなことあるはずがない。
まず縁にはすでに3人の番がいるため寂しいからと彼だけ構ってやるということは出来ない。
ジークたちにしても寿命の長さを理解した上で番になった。
セインとの間に子ども、繋が出来たことは喜ばしいことだが、それが他の番にも適応されるかは分からない。
そもそも男であるため子が出来ないと分かっていてもアレンは縁を番にと望んでくれていた。
きっと3人を残して先にいなくなるだろう自分に悩んだが、何より彼らが縁を愛していると伝えてくれたからこそ番になることを決めた。
「貴方が嫌いで言っているわけではないんです。一人は嫌だと泣く貴方にだから言ってるんです。分かるでしょう?私は貴方の番にはなれなーー」
「なんで!だって……だってオレ言ったじゃん!」
「…?」
「オレ、アンタがいいって言ったじゃん!そりゃ、一人になるのはイヤだけど…でも!アンタがいいってオレ言ったもん!アンタじゃなきゃイヤってオレ言ったもん!」
もんって……
痛いほど握られた両手にさらに力がこもる。
「お願いだから…オレのものになってよ。もうペットになってなんて言わないから、もうアンタのガキ邪魔とか言わないから、もう怒鳴ったりしないから。もうワガママ言わないから、ねぇ……お願いだから嫌いにならないで……」
「………」
震える手で引き寄せられ、小刻みに揺れる肩を見ればもうダメだと言ってやることが出来なかった。
あれほど拒絶していたにも関わらずどうしてこうなったのやら。
「お願いする前に私に言うことがあるでしょう?何故私なんですか?」
彼が何故そうまでして縁を選んだかは分からない。
それでもそうまでして縁がいいと言うのであれば、何故縁でなければいけないのか?ちゃんと言って欲しかった。
着替える時以外はべったりと張り付いてくる男に呆れるが、性的なものを感じさせることはなく、迷子になっていた子どもがやっと見つけた親に必死に抱きついているような感じであり無理に引き剥がすのも忍びなく感じてしまう。
「いい加減離れまーー」
「やだ」
「喉が渇いたんですが」
「……どっか行かない?」
「そのつもりなら一緒にお風呂に入ってませんよ」
まだ完全に信用したわけではないが、今までの態度を見る限り無理矢理犯されるなんてことはないだろう。
チラチラと様子を窺いながらも飲み物を取りに行ったのを確認すると、疲れを吐き出すように大きな溜め息をつく。
何故あそこまで懐かれているのやら。
一人が寂しいと嘆く気持ちは分かるが、それと縁に執着する意味が分からない。
初めて会ったのだってつい最近であり、会った回数など片手の指で事足りる。
気に入ったと言っていた容姿にしても、探せばいくらでも代わりもそれ以上も見つけられるだろう。
「エルだって綺麗な分類だと思いますけどねぇ。あ、男だから産めないか」
いや、子どもを産むためだけであればもう容姿などどうでもいいのでは?
「魔力がないと駄目なのであれば魔族の女性に頼むとかすればーー」
「やだ!オレはアンタがいいの!」
縁が考えに耽っている間に戻ってきてしまったようだ。
両手に持っていたグラスを近くのテーブルに置くと今にも泣きそうな顔で目の前まで駆け寄ってくる。
ソファーに座る縁の前に膝をつくとギュッと両手を握られた。
「お願い。オレの番になってーーいや、なって下さい!」
お手本かのようなプロポーズに状況も忘れキュンとしたが、だからと言ってそう簡単に受け入れていい問題ではない。
「私である必要はないでしょう?確かに私は貴方が気にいる容姿かもしれませんが、それだけで決めるにはまだ早いです。もしかしたらこれから出逢う人の中に本当に貴方が求める人が現れるかもしれません。そのためにもーー」
「ちがう!それだけじゃない!オレ…オレはアンタがいいの。アンタじゃないとイヤなの」
どうしたものか。
「そう言われても……大体私は人間ですよ?貴方たちみたいに長生きなんて出来ません。一人が嫌だと泣くぐらいなら他の方がーー」
「そ、それでも!……それでもア、アンタがいいって言ってるじゃん。なんでダメなの?オ、オレのことそんなキライ?」
あ~あ~、やっと泣き止んだかと思ったのにまた泣いちゃいましたね。
あのヘラヘラと笑っていた時が随分と懐かしい。
「好きとか嫌いとかの問題ではなくーーって、だから嫌いとは言ってないでしょう?そんなに泣いて明日はヒドイことになりますよ」
縁が嫌いと発言する度に流れる涙が増し縁の膝を濡らしていく。
折角着替えた服が台無しだ。
「一人が辛いのは分かります。けれどそれと私を番に望むのは違うでしょう?私を番にしてその後は?私が死ねば貴方はまたそうやって泣くんでしょう?子が出来なかったら?貴方はまた一人だと泣き喚くんですか?」
「オレ、オレは……」
彼が何を一番望んでいるかが問題なのだ。
彼は縁を番にすれば全てが解決すると思っていたようだが、そんなことあるはずがない。
まず縁にはすでに3人の番がいるため寂しいからと彼だけ構ってやるということは出来ない。
ジークたちにしても寿命の長さを理解した上で番になった。
セインとの間に子ども、繋が出来たことは喜ばしいことだが、それが他の番にも適応されるかは分からない。
そもそも男であるため子が出来ないと分かっていてもアレンは縁を番にと望んでくれていた。
きっと3人を残して先にいなくなるだろう自分に悩んだが、何より彼らが縁を愛していると伝えてくれたからこそ番になることを決めた。
「貴方が嫌いで言っているわけではないんです。一人は嫌だと泣く貴方にだから言ってるんです。分かるでしょう?私は貴方の番にはなれなーー」
「なんで!だって……だってオレ言ったじゃん!」
「…?」
「オレ、アンタがいいって言ったじゃん!そりゃ、一人になるのはイヤだけど…でも!アンタがいいってオレ言ったもん!アンタじゃなきゃイヤってオレ言ったもん!」
もんって……
痛いほど握られた両手にさらに力がこもる。
「お願いだから…オレのものになってよ。もうペットになってなんて言わないから、もうアンタのガキ邪魔とか言わないから、もう怒鳴ったりしないから。もうワガママ言わないから、ねぇ……お願いだから嫌いにならないで……」
「………」
震える手で引き寄せられ、小刻みに揺れる肩を見ればもうダメだと言ってやることが出来なかった。
あれほど拒絶していたにも関わらずどうしてこうなったのやら。
「お願いする前に私に言うことがあるでしょう?何故私なんですか?」
彼が何故そうまでして縁を選んだかは分からない。
それでもそうまでして縁がいいと言うのであれば、何故縁でなければいけないのか?ちゃんと言って欲しかった。
41
お気に入りに追加
3,728
あなたにおすすめの小説


僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる