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もうやだ
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「エル!あれ何ですか?あの赤いーー」
「バッ、バカ!そこさっき罠張ったとこ……あー、もう!」
何度繰り返したか分からない言い合いに疲れ果てていた。
狩りをしたいというエニシの希望通り森に来たわけだが、未だ何も捕獲できていない。
というのも張ったそばからエニシがダメにしていくからである。
罠自体は器用に作るのだが、張って安心してしまうのかその後何か他のものに興味を惹かれ罠を置いたことを忘れてしまう。
案の定足下にあった罠を忘れ仕掛けを壊してしまった。
「すいません。今度こそは鹿をーー」
「いや、こんな小さい罠に引っかかるのウサギとか小動物ぐらいだから」
目標が大きいのはいいことだとは思うが、この罠に関して言えば一生鹿が引っかかることはない。
早々に目標をぶち壊してやった。
「私にはまだ早かったですかね。槍とか振り回してた方が当たる気がします」
「(いや、そんなエニシみたくない!)ま、まぁ焦んなくてもいいんじゃない?魔法でなら上手くいくかもしんないし」
そんな野蛮人な姿見たくないと慌てて説得する。
「魔法ですか……落とし穴でも掘ってみましょうか」
「落ちない自信があるんならいいよ」
「………」
目は口ほどに物を言う。
そっと逸らした目線にエルも実行は不可能と判断した。
「とりあえず今日はもう帰ろう。オレも疲れたし、ケイだって待ちきれずに泣いてるかもよ」
「仕方ないですね。今度また挑戦しましょう」
諦めてくれないのか……
その挑戦する心意気はすごいと思うが、皆の心の平穏のためにも諦めてほしかった。
「そういえばさぁ、何でアイツらのこと許したの?」
「うん?」
あの時はエルも何も言わなかったが、やはりアズライトを泣かせたあの兄弟たちを許すことができなかったのだ。
アズライトを泣かせたのは弟の方だったが、その兄であるあの男もエルは信用できない。
「許したわけではないですよ?」
「でも頭撫でてやってたじゃん。アメだってやってたし」
弟には骨だったが。
確かにあんな弟に振り回される兄貴に少し同情したが、それでもこちらに対する態度は許せるものではなかった。
なのにエニシに頭を撫でてもらい、2人にとアメまでやるのが納得できない。
オレだって滅多に撫でてもらえないのに!
「なんというか……あれじゃ私が彼をいじめているようでしたからね。あのまま食ってかかられても迷惑でしたし、弟さんが周りに迷惑かけないよう早々に探しに行ってもらいたかったんですよ」
「………そう」
納得できるが、できない。
エニシが優しいのは自分たちだけでいいじゃないかと子どものようなことを思ってしまう。
「エル」
「なに」
ダメだと思いながらも不機嫌な声になってしまい、気まずく顔を背ける。
「ありがとう」
「……なにが?」
「一緒にいてくれて。エルがいてくれて私はとても嬉しいですよ」
そっと頰に手を添えられそちらに向かされると、にっこりと微笑むエニシの顔が目の前にあった。
「オレ何にもしてない」
「そうですか?私は助けられてばかりだと思ってますよ」
そう言われれば何も言えなくなり、優しく頭を撫でられれば先程までのささくれ立った苛立ちもスッと凪いでいく気がした。
「今度みんなで川に行きましょう。約束だったでしょ?ちゃんとアズに泳ぎ方教えてあげて下さいね、お兄ちゃん」
「ハハッ、そうだね。ママは泳げないもんね。オレが頑張るしかないか」
「そんなこと言う子にはこうです」
「いはい、いはい」
頰をつねられたが、全然力は入っておらず痛いというのも冗談だ。
こうして自分も大切な家族だと言ってもらえることがとても嬉しい。
実の血の繋がった親とはなれなかった、なりたいとも思わなかった家族。
唯一家族と思って探していたアズライトと一緒に見つけたのは本当の家族だった。
血の繋がりなどなくともエルのことを大切だと笑って言ってくれる。
何も出来なくてごめんと泣けば、そんなことないと優しく頭を撫でてくれる。
不安に泣く大切な弟に何も出来ずにいれば、大丈夫だと一緒に抱きしめ慰めてくれる。
家族とはこういうものなんだとエニシに会って初めて分かった。
だからこそそれを邪魔する者は許せない、許さない。
時々毒を吐くが、基本的に優し過ぎるエニシの代わりに自分が彼らを守るんだと改めて決意するのだった。
「そろそろ帰りましょうか。私もお腹が空いてきました」
「帰ろ帰ろ。オレお腹ぺこぺこ」
「エルはこれ以上成長しないで下さいよ。仲間がいなくなったら寂しいじゃないですか」
「それ何の仲間?嫌だよ。オレはもっともっとデカくなんの!」
「ダメです!」
こうして冗談を言い合える幸せ。
エニシは本気かもしれないが。
色々と振り回されてばかりだが、こうして毎日楽しく過ごせることに感謝するのであった。
「バッ、バカ!そこさっき罠張ったとこ……あー、もう!」
何度繰り返したか分からない言い合いに疲れ果てていた。
狩りをしたいというエニシの希望通り森に来たわけだが、未だ何も捕獲できていない。
というのも張ったそばからエニシがダメにしていくからである。
罠自体は器用に作るのだが、張って安心してしまうのかその後何か他のものに興味を惹かれ罠を置いたことを忘れてしまう。
案の定足下にあった罠を忘れ仕掛けを壊してしまった。
「すいません。今度こそは鹿をーー」
「いや、こんな小さい罠に引っかかるのウサギとか小動物ぐらいだから」
目標が大きいのはいいことだとは思うが、この罠に関して言えば一生鹿が引っかかることはない。
早々に目標をぶち壊してやった。
「私にはまだ早かったですかね。槍とか振り回してた方が当たる気がします」
「(いや、そんなエニシみたくない!)ま、まぁ焦んなくてもいいんじゃない?魔法でなら上手くいくかもしんないし」
そんな野蛮人な姿見たくないと慌てて説得する。
「魔法ですか……落とし穴でも掘ってみましょうか」
「落ちない自信があるんならいいよ」
「………」
目は口ほどに物を言う。
そっと逸らした目線にエルも実行は不可能と判断した。
「とりあえず今日はもう帰ろう。オレも疲れたし、ケイだって待ちきれずに泣いてるかもよ」
「仕方ないですね。今度また挑戦しましょう」
諦めてくれないのか……
その挑戦する心意気はすごいと思うが、皆の心の平穏のためにも諦めてほしかった。
「そういえばさぁ、何でアイツらのこと許したの?」
「うん?」
あの時はエルも何も言わなかったが、やはりアズライトを泣かせたあの兄弟たちを許すことができなかったのだ。
アズライトを泣かせたのは弟の方だったが、その兄であるあの男もエルは信用できない。
「許したわけではないですよ?」
「でも頭撫でてやってたじゃん。アメだってやってたし」
弟には骨だったが。
確かにあんな弟に振り回される兄貴に少し同情したが、それでもこちらに対する態度は許せるものではなかった。
なのにエニシに頭を撫でてもらい、2人にとアメまでやるのが納得できない。
オレだって滅多に撫でてもらえないのに!
「なんというか……あれじゃ私が彼をいじめているようでしたからね。あのまま食ってかかられても迷惑でしたし、弟さんが周りに迷惑かけないよう早々に探しに行ってもらいたかったんですよ」
「………そう」
納得できるが、できない。
エニシが優しいのは自分たちだけでいいじゃないかと子どものようなことを思ってしまう。
「エル」
「なに」
ダメだと思いながらも不機嫌な声になってしまい、気まずく顔を背ける。
「ありがとう」
「……なにが?」
「一緒にいてくれて。エルがいてくれて私はとても嬉しいですよ」
そっと頰に手を添えられそちらに向かされると、にっこりと微笑むエニシの顔が目の前にあった。
「オレ何にもしてない」
「そうですか?私は助けられてばかりだと思ってますよ」
そう言われれば何も言えなくなり、優しく頭を撫でられれば先程までのささくれ立った苛立ちもスッと凪いでいく気がした。
「今度みんなで川に行きましょう。約束だったでしょ?ちゃんとアズに泳ぎ方教えてあげて下さいね、お兄ちゃん」
「ハハッ、そうだね。ママは泳げないもんね。オレが頑張るしかないか」
「そんなこと言う子にはこうです」
「いはい、いはい」
頰をつねられたが、全然力は入っておらず痛いというのも冗談だ。
こうして自分も大切な家族だと言ってもらえることがとても嬉しい。
実の血の繋がった親とはなれなかった、なりたいとも思わなかった家族。
唯一家族と思って探していたアズライトと一緒に見つけたのは本当の家族だった。
血の繋がりなどなくともエルのことを大切だと笑って言ってくれる。
何も出来なくてごめんと泣けば、そんなことないと優しく頭を撫でてくれる。
不安に泣く大切な弟に何も出来ずにいれば、大丈夫だと一緒に抱きしめ慰めてくれる。
家族とはこういうものなんだとエニシに会って初めて分かった。
だからこそそれを邪魔する者は許せない、許さない。
時々毒を吐くが、基本的に優し過ぎるエニシの代わりに自分が彼らを守るんだと改めて決意するのだった。
「そろそろ帰りましょうか。私もお腹が空いてきました」
「帰ろ帰ろ。オレお腹ぺこぺこ」
「エルはこれ以上成長しないで下さいよ。仲間がいなくなったら寂しいじゃないですか」
「それ何の仲間?嫌だよ。オレはもっともっとデカくなんの!」
「ダメです!」
こうして冗談を言い合える幸せ。
エニシは本気かもしれないが。
色々と振り回されてばかりだが、こうして毎日楽しく過ごせることに感謝するのであった。
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