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王子と向かい合うことになった縁たちは早くも後悔していた。
確かに話しを聞くとは言った。
言ったが、まさかそれが王子が生い立ちで長々数時間はかかるだなんて聞いてない。
こんなことなら正座しなければ良かったと後悔しながらも痺れる足を摩る。
気付いたアズが優しく撫でてくれた。
「……それで、貴方の生い立ちも日々の苦労と暴挙も分かりましたがそれを話したかっただけですか?そんなことならその辺で売っている人形にでも1人喋っていなさい」
「ちがっ、ちがう!あ、いえ、ちがうんです。私はただーー」
「とりあえずその話し方を止めなさい。前のようにでもいいですし、無理に丁寧に話す必要はありません」
「すいません」
そんなことを謝るぐらいなら、先日の件を謝って欲しいくらいだ。
呆れながらも話しの続きを促す。
「えっと、だから、その、貴方みたいな人が私の隣にいてくれれば嬉しいな…と」
「私みたいな凡人そこら辺にいっぱいいますよ。むしろお城にいる優秀な教師の方たちにでも教えを請う方がよほど現実的です」
「………」
見るからにしょげ返る王子の姿に、これは本当に以前アレンたちに罵詈雑言叫んでいた王子なのかと疑ってしまう。
あまりに長くなった話し合いに舟を漕ぎ始めてしまったアズを膝に抱えるとエルを見る。
首を傾げるエルにどうしたかと思えば背中にキラリと光るものが。
殺す?
そう心の声が聞こえた気がし、慌てて手を下ろさせた。
「貴方は私に何を求めているんですか?嫌われている母親の代わり?役立たずとクビにした教師?何でも言うことを聞く召し使いですか?」
「ちがう!私はただ貴方に側にいて欲しくて…」
本当にそう思っているのか、こちらを見つめる瞳は真っ直ぐだがはっきり言って縁があの依頼を受けて得することは何もない。
依頼であるためお金は稼げるが、逆に言えばそれだけだ。
とくに金銭に困っていない縁には全くもって旨味がない。
「貴方の希望は分かりましたが、それを受けることに私は利益を見出せません。それに私は貴方に何か教えるほど知識も実力もありません。つまり教育係をするには無理があるんですよ」
精神的なもので言えばこの王子様の遥か上ではあるが、かと言って勉強を教えるには縁は歳をとり過ぎており、まだこの世界に慣れていないのに誰かに教育を施すほどの経験もない。
純粋に依頼を受けることは無理ですと言えば、泣きそうになっていた。
「でも、でもっ!」
彼の境遇には同情するが、だからといって縁がしてやれることは何もない。
「……週一回です」
「え?」
「教育係は無理ですが、相談役でも話し相手でもいいなら受けます」
「本当っ!?」
嬉しそうに喜ぶ姿に苦笑いしたが、そんなに人に飢えていたのだろうか?
「ただし条件があります」
断ることもできたが、条件が守れるならと言えば凄い勢いで頷いていた。
まだ内容を言ってもいなかったのに頷いて本当に大丈夫か?と心配になる。
「貴方は依頼主になるなるわけですが、私は貴方に使えるわけではないので命令は聞きませんし、言いたいことは言います」
「はい。お願いします」
「「………」」
あまりの素直さにエルと2人無言になる。
本当にこの子は誰なんだ?
「当たり前ですが会う時は私以外にも……そうですね、エルに同伴してもらいますが構いませんね?」
「はい」
本当に大丈夫だろうか?
もうすでに得体の知れない生き物に見えてきた縁であった。
「はいはい言うのは構いませんが、貴方からの条件はないんですか?」
何でも聞いてもらえるのは受ける側には喜ばしいが、依頼主にも要望がないのか聞けば何故か頰を赤くし俯いてしまう。
どこに赤くなる要素があったか分からず、もはや彼は病気なのではと疑ってしまう。
「…ま、え…」
ん?
あまりに小さ過ぎる呟き。
「名前を呼んで欲しい、です」
この子はもしかして女の子だったのだろうか?
それほど乙女全開のお願いに、もはや言葉もない。
「……私ごときが王子様の名前を呼ぶなどできかねます」
やんわり断るが、またもやシュンと落ち込む姿に溜息しか出ない。
何故ここまで懐かれたのか?
「なので何か……愛称?あだ名?でもいいので考えて下さい。貴方と私たちだけの呼び名です」
「っ、はい!」
おやつを貰えられたワンコのようだった。
「とりあえず今日はここまでにして……来週のお昼頃、にまたギルドに行きますのでそれまでに依頼を出しておいてください。その時にまた依頼内容をつめていきましょう」
「はい!」
もう何も言うまい。
疲れた身体と精神を休めるために早く帰りたい。
王子には悪いが面倒なことになったなぁと思う縁であった。
そうして何とか隠れ家に戻った縁たちは、夜ジークたちに今日あったことを話せば猛抗議を受け、説得するのにかなり苦労するのであった。
確かに話しを聞くとは言った。
言ったが、まさかそれが王子が生い立ちで長々数時間はかかるだなんて聞いてない。
こんなことなら正座しなければ良かったと後悔しながらも痺れる足を摩る。
気付いたアズが優しく撫でてくれた。
「……それで、貴方の生い立ちも日々の苦労と暴挙も分かりましたがそれを話したかっただけですか?そんなことならその辺で売っている人形にでも1人喋っていなさい」
「ちがっ、ちがう!あ、いえ、ちがうんです。私はただーー」
「とりあえずその話し方を止めなさい。前のようにでもいいですし、無理に丁寧に話す必要はありません」
「すいません」
そんなことを謝るぐらいなら、先日の件を謝って欲しいくらいだ。
呆れながらも話しの続きを促す。
「えっと、だから、その、貴方みたいな人が私の隣にいてくれれば嬉しいな…と」
「私みたいな凡人そこら辺にいっぱいいますよ。むしろお城にいる優秀な教師の方たちにでも教えを請う方がよほど現実的です」
「………」
見るからにしょげ返る王子の姿に、これは本当に以前アレンたちに罵詈雑言叫んでいた王子なのかと疑ってしまう。
あまりに長くなった話し合いに舟を漕ぎ始めてしまったアズを膝に抱えるとエルを見る。
首を傾げるエルにどうしたかと思えば背中にキラリと光るものが。
殺す?
そう心の声が聞こえた気がし、慌てて手を下ろさせた。
「貴方は私に何を求めているんですか?嫌われている母親の代わり?役立たずとクビにした教師?何でも言うことを聞く召し使いですか?」
「ちがう!私はただ貴方に側にいて欲しくて…」
本当にそう思っているのか、こちらを見つめる瞳は真っ直ぐだがはっきり言って縁があの依頼を受けて得することは何もない。
依頼であるためお金は稼げるが、逆に言えばそれだけだ。
とくに金銭に困っていない縁には全くもって旨味がない。
「貴方の希望は分かりましたが、それを受けることに私は利益を見出せません。それに私は貴方に何か教えるほど知識も実力もありません。つまり教育係をするには無理があるんですよ」
精神的なもので言えばこの王子様の遥か上ではあるが、かと言って勉強を教えるには縁は歳をとり過ぎており、まだこの世界に慣れていないのに誰かに教育を施すほどの経験もない。
純粋に依頼を受けることは無理ですと言えば、泣きそうになっていた。
「でも、でもっ!」
彼の境遇には同情するが、だからといって縁がしてやれることは何もない。
「……週一回です」
「え?」
「教育係は無理ですが、相談役でも話し相手でもいいなら受けます」
「本当っ!?」
嬉しそうに喜ぶ姿に苦笑いしたが、そんなに人に飢えていたのだろうか?
「ただし条件があります」
断ることもできたが、条件が守れるならと言えば凄い勢いで頷いていた。
まだ内容を言ってもいなかったのに頷いて本当に大丈夫か?と心配になる。
「貴方は依頼主になるなるわけですが、私は貴方に使えるわけではないので命令は聞きませんし、言いたいことは言います」
「はい。お願いします」
「「………」」
あまりの素直さにエルと2人無言になる。
本当にこの子は誰なんだ?
「当たり前ですが会う時は私以外にも……そうですね、エルに同伴してもらいますが構いませんね?」
「はい」
本当に大丈夫だろうか?
もうすでに得体の知れない生き物に見えてきた縁であった。
「はいはい言うのは構いませんが、貴方からの条件はないんですか?」
何でも聞いてもらえるのは受ける側には喜ばしいが、依頼主にも要望がないのか聞けば何故か頰を赤くし俯いてしまう。
どこに赤くなる要素があったか分からず、もはや彼は病気なのではと疑ってしまう。
「…ま、え…」
ん?
あまりに小さ過ぎる呟き。
「名前を呼んで欲しい、です」
この子はもしかして女の子だったのだろうか?
それほど乙女全開のお願いに、もはや言葉もない。
「……私ごときが王子様の名前を呼ぶなどできかねます」
やんわり断るが、またもやシュンと落ち込む姿に溜息しか出ない。
何故ここまで懐かれたのか?
「なので何か……愛称?あだ名?でもいいので考えて下さい。貴方と私たちだけの呼び名です」
「っ、はい!」
おやつを貰えられたワンコのようだった。
「とりあえず今日はここまでにして……来週のお昼頃、にまたギルドに行きますのでそれまでに依頼を出しておいてください。その時にまた依頼内容をつめていきましょう」
「はい!」
もう何も言うまい。
疲れた身体と精神を休めるために早く帰りたい。
王子には悪いが面倒なことになったなぁと思う縁であった。
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