94 / 475
孫発見
しおりを挟む
その子どもを知ったのは初めてFランクに指名依頼がきたとジンが驚きながら報告してきた時だった。
まさかそんなこと、と思いながら書類を確認したが内容に間違いはなく本当に指名依頼だった。
しかもその依頼を出したのが、マーガレットたちの古くからの友人で気難しいので有名な男だった。
「アイツとうとう字も読めないほど耄碌したんじゃないだろうね?」
「読めなかったらそもそも依頼を出せてないでしょ。まぁこれは私も驚いたけどね」
調合師のその男は普段から薬草採取の依頼をギルドに出してくるのだが、その選定が厳しかった。
回復薬を作る行程で薬草の鮮度、傷などの傷みのあるなしはそれなりに関係してくる。
良いものから良いものができるのは当たり前で、長年調合師として生きてきたその男が出来がいいものを求めるのは当たり前だった。
当たり前ではあるが、それが依頼を受けるだろう新米冒険者にまで伝わるかはまた別の話しだ。
憧れから冒険者になった者、貧しさに求められ冒険者になった者、はたまたお遊び半分で冒険者になった者。
冒険者になった理由など多くある中で、下の下である薬草採取の依頼を真面目に、それこそ丁寧にこなす者など殆どいない。
乱暴に土から引き抜かれたもの、傷だらけに葉が折れたものなどザラではない。
それでも使えないわけではないので依頼内容に問題はないのだが、その男はそのまま黙っているような性格ではなく目の前で散々冒険者を貶した挙句、逆上して襲い掛かってきた新米冒険者たちを正当防衛などを理由に叩きのめしては精神的にも体力的にも相手の色々をへし折るのだ。
そんなことをしていれば依頼を受ける者などいなくなるかと思うが、相手はまだなって日が浅い新米冒険者たち。
他に依頼がなければ受けるしかなく、逆に言えばそれで諦めてしまうようであれば冒険者など辞めた方がいいとマーガレットたちも黙認している。
好きに自分たちの冒険をするのは構わないが、依頼を受けたからには依頼に応える必要があるのだ。
色々言われたからと怒っていては、何かあった時にも瞬時に冷静な判断は下せないだろう。
「この、エニシってヤツは……一応成人してはいるみたいだけどどんな子なんだい?」
あの男が気に入るほどなら何かあるかと思えば、返ってきた答えは意外なものだった。
「それが…どうも見た目は貴族のいいとこの坊ちゃんって感じらしいんだけど中身はどっか抜けてるっていうか天然ボケ?みたいらしく、でも誰にでも丁寧みたいだから職員からはかなり気に入られてるみたいだね。それに何人か奴隷を連れてるみたいなんだけど……」
「だけど?」
珍しく言い澱む様子にどうしたのかと思い顔を上げれば苦笑いするジンがいた。
「家族…みたいだったって」
「はぁ?」
意味が分からなかった。
言葉の意味は分かるが、分かるが故に分からなかった。
「奴隷…なんだろ?」
「首輪をつけてたから奴隷には間違いないと思うけど、職員が見た限りだと子ども1人に獣人2人だったって」
さらに意味が分からなかった。
このギルドでも奴隷はいる。獣人も人間も。
奴隷はいるが、ジンがいう家族のようなものではまずない。
確かに奴隷にしておくには惜しいものもいるが、その殆どが雑用係であり弱い立場であった。
マーガレット自身彼らを蔑むことはなく一職員と思って接しているが、中にはそれを気に食わないと思っている職員がいるのは知っていた。
「そう命令されてるってことはないのかい?」
言って自分でもそれはないだろうと思ったが、何を好き好んで奴隷たちと家族ごっこするのか。
「それはないんじゃないかな?奴隷たちも怖がってる様子はなかったっていうし、むしろ楽しそうに笑ってたって。子どもにしてもエニシくんがずっと抱っこしてたらしいよ」
「………」
もう訳が分からなかった。
なんでそんなことをするのかマーガレットの理解の範疇にない。
「とりあえず様子見だね。家族ごっこがしたいだけならその内飽きるだろう。ああ、アイツの依頼は本人に聞けばいいさね。ただ採りに行くだけならいつもの依頼と変わらないだろ」
職員の報告によれば悪い人間ではないようだが、遊びでやっているならばその内本性を現すだろう。
もっともそれが素ならば、あの男に気に入られてしまう可能性が高いが。
それでアイツの機嫌が良くなるなら良いことだし、ダメならまた新しい新米冒険者が犠牲になるだけだ。
「まぁ、その内どんなヤツか会ってみるか。アイツに聞かれた時に何も知らないじゃきっとうるさいだろうからね」
「教えろってうるさいだろうね」
自分もそうだと自覚があるが、あの男も気に入った相手に対してすこぶる甘くなるのだ。
と言っても、そこまで認められる人間は現在でも数えられるほどしか居らず、認められるにはかなり難易度が高い。
どれだけ人として優れているか、どれだけ自分たちにとって利があるか、どれだけの実力があるのか。
全てを満たせとは言わないが元冒険者として、マーガレットより優れている何かを見つけられなければ認めることはできないのだ。
まさかそんなこと、と思いながら書類を確認したが内容に間違いはなく本当に指名依頼だった。
しかもその依頼を出したのが、マーガレットたちの古くからの友人で気難しいので有名な男だった。
「アイツとうとう字も読めないほど耄碌したんじゃないだろうね?」
「読めなかったらそもそも依頼を出せてないでしょ。まぁこれは私も驚いたけどね」
調合師のその男は普段から薬草採取の依頼をギルドに出してくるのだが、その選定が厳しかった。
回復薬を作る行程で薬草の鮮度、傷などの傷みのあるなしはそれなりに関係してくる。
良いものから良いものができるのは当たり前で、長年調合師として生きてきたその男が出来がいいものを求めるのは当たり前だった。
当たり前ではあるが、それが依頼を受けるだろう新米冒険者にまで伝わるかはまた別の話しだ。
憧れから冒険者になった者、貧しさに求められ冒険者になった者、はたまたお遊び半分で冒険者になった者。
冒険者になった理由など多くある中で、下の下である薬草採取の依頼を真面目に、それこそ丁寧にこなす者など殆どいない。
乱暴に土から引き抜かれたもの、傷だらけに葉が折れたものなどザラではない。
それでも使えないわけではないので依頼内容に問題はないのだが、その男はそのまま黙っているような性格ではなく目の前で散々冒険者を貶した挙句、逆上して襲い掛かってきた新米冒険者たちを正当防衛などを理由に叩きのめしては精神的にも体力的にも相手の色々をへし折るのだ。
そんなことをしていれば依頼を受ける者などいなくなるかと思うが、相手はまだなって日が浅い新米冒険者たち。
他に依頼がなければ受けるしかなく、逆に言えばそれで諦めてしまうようであれば冒険者など辞めた方がいいとマーガレットたちも黙認している。
好きに自分たちの冒険をするのは構わないが、依頼を受けたからには依頼に応える必要があるのだ。
色々言われたからと怒っていては、何かあった時にも瞬時に冷静な判断は下せないだろう。
「この、エニシってヤツは……一応成人してはいるみたいだけどどんな子なんだい?」
あの男が気に入るほどなら何かあるかと思えば、返ってきた答えは意外なものだった。
「それが…どうも見た目は貴族のいいとこの坊ちゃんって感じらしいんだけど中身はどっか抜けてるっていうか天然ボケ?みたいらしく、でも誰にでも丁寧みたいだから職員からはかなり気に入られてるみたいだね。それに何人か奴隷を連れてるみたいなんだけど……」
「だけど?」
珍しく言い澱む様子にどうしたのかと思い顔を上げれば苦笑いするジンがいた。
「家族…みたいだったって」
「はぁ?」
意味が分からなかった。
言葉の意味は分かるが、分かるが故に分からなかった。
「奴隷…なんだろ?」
「首輪をつけてたから奴隷には間違いないと思うけど、職員が見た限りだと子ども1人に獣人2人だったって」
さらに意味が分からなかった。
このギルドでも奴隷はいる。獣人も人間も。
奴隷はいるが、ジンがいう家族のようなものではまずない。
確かに奴隷にしておくには惜しいものもいるが、その殆どが雑用係であり弱い立場であった。
マーガレット自身彼らを蔑むことはなく一職員と思って接しているが、中にはそれを気に食わないと思っている職員がいるのは知っていた。
「そう命令されてるってことはないのかい?」
言って自分でもそれはないだろうと思ったが、何を好き好んで奴隷たちと家族ごっこするのか。
「それはないんじゃないかな?奴隷たちも怖がってる様子はなかったっていうし、むしろ楽しそうに笑ってたって。子どもにしてもエニシくんがずっと抱っこしてたらしいよ」
「………」
もう訳が分からなかった。
なんでそんなことをするのかマーガレットの理解の範疇にない。
「とりあえず様子見だね。家族ごっこがしたいだけならその内飽きるだろう。ああ、アイツの依頼は本人に聞けばいいさね。ただ採りに行くだけならいつもの依頼と変わらないだろ」
職員の報告によれば悪い人間ではないようだが、遊びでやっているならばその内本性を現すだろう。
もっともそれが素ならば、あの男に気に入られてしまう可能性が高いが。
それでアイツの機嫌が良くなるなら良いことだし、ダメならまた新しい新米冒険者が犠牲になるだけだ。
「まぁ、その内どんなヤツか会ってみるか。アイツに聞かれた時に何も知らないじゃきっとうるさいだろうからね」
「教えろってうるさいだろうね」
自分もそうだと自覚があるが、あの男も気に入った相手に対してすこぶる甘くなるのだ。
と言っても、そこまで認められる人間は現在でも数えられるほどしか居らず、認められるにはかなり難易度が高い。
どれだけ人として優れているか、どれだけ自分たちにとって利があるか、どれだけの実力があるのか。
全てを満たせとは言わないが元冒険者として、マーガレットより優れている何かを見つけられなければ認めることはできないのだ。
31
お気に入りに追加
3,728
あなたにおすすめの小説


僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる