二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

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無い物ねだり

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 結局朝まで起きることがなかったアズに心配したが、どうやら初めて魔法を使ったため疲れただけだと言われ安心した。

 「昨日頑張ってくれたアズのために今日は約束のドリアをつくりましょうか」

 「やったぁ、つくる!」

 たくさん寝て回復したのかいつもの元気なアズにホッとした。
 なので今日は以前約束していたドリアを作ることに。
 いつものように準備を頼んであったためアズと調理場に向かえば、いつものメンバーとエルビスがいた。
 自然足が止まったアズを抱っこしてやると、準備万端やる気十分のみんなに挨拶する。

 「今日もよろしくお願いします」

 「「「「「お願いしますっ!」」」」」

 「え?なにコレ?」

 初めて見る光景に驚くエルビスに苦笑いを返す。
 縁も最初は驚いたがもう慣れたものだった。

 「ではまず簡単に言うとご飯の上にシチューをかけて食べる、という料理なんですが別にご飯にこだわる必要はありません。パンでも美味しくいただけるのでみなさん好きな方を選んで下さい」

 本来はご飯で作るものなのだろうが、あくまで縁が教えるのはドリアもどきなのでそこまで難しく言う必要はない。
 
 「このままでは物足りない方もいると思うのでお肉も足していきましょう。配分はみなさんにお任せしますね」

 「「「「「はいっ」」」」」

 「……マジで、なんなのコレ?」

 気にしたら負けですよエルビスさん。
 アズにはどうするか聞けばご飯がいいというので縁の分とまとめて盛り付けていく。

 「ではアズの出番です。この上に好きなだけチーズをかけて下さい」

 「いっぱい?」

 たくさんかけていいと言えば嬉しそうに、たっぷりのチーズをかけていた。
 これで準備は完了。

 「ではここからはエルビスさんの出番です。みなさんが作ってくれたものを表面だけ焦げ目がつくぐらい焼いてほしいんです」

 ドリアを作るにあたり問題だったのがオーブンだ。
 こちらではそんな画期的なものは当然だがなく表面だけ焼くということができない。
 釜で焼くにも耐熱用の皿がなかったため入れたが最後全て燃えてしまう。
 どうしたものかと悩んでいる縁の前に現れたのがエルビスだった。
 得意なのは闇魔法だが、炎魔法も少しは使えるというのでお願いすることにしたのだ。
 こんなことにつかうことになるとは……と若干呆れているようだったが。

 「了解。でも危ないから離れててよ」

 興味津々に近寄ろうとしていた面々に注意する。
 それからなにやらボソボソと呟いたと思えばエルビスの手から炎が飛び出した。
 熱くないのか聞けば扱っている本人には問題ないらしいが、当たり前だがそれ以外には害があるためアズは念入りに離しておいた。
 ジュウジュウとチーズが焼けるいい匂いに誰かのお腹がなる音が聞こえたが誰も何も言わなかった。
 みんな同じ気持ちだったのだろう。

 「めっちゃイイ匂いすんね」

 「ですね。やはり出来たてが美味しいので焼けた方から順に召し上がっていって下さい」

 全てが出来上がるまでは時間がかかるためそう提案すれば、みんな嬉しそうに皿を抱えて食堂に向かうのだった。

 「出来立ては熱いので注意して下さいね」

 「「「「「はいっ!」」」」」

 「だから何なのソレ?」

 次々と焼いていくエルビスが呆れた顔をしていたが、そんなこと気にならないのか嬉しそうに皿を抱えるとエルビスに礼を言い皆食堂へ向かうのだった。

 「……ではこれで最後ですね。エルビスさんお疲れ様でした。おかげでみなさん喜んでましたよ」

 「まぁ、本来の使い道と違うだろうけど役に立ったならよかったよ。あーー、それと……その、名前だけどエルでいいよ。さん付けもいらないから」

 どこか気恥ずかしそうにそう言ったかと思えば縁たちの分の皿まで抱えてさっさと食堂へ向かうエルビスだった。

 「……では私たちも食べましょうか」

 頷くアズと食堂へ向かえばすでに食べ終えたメンバーが美味しかったと嬉しそうに教えてくれた。
 
 「ジークたちも食べてみて下さい。でも熱いので気をつけて食べて下さいね」

 「うまっ!」
 「あつっ!でも美味いな」
 「すげぇな」

 喜んでもらえたようで良かった。
 セインは猫舌ぽかったがそれでも少しずつ美味しそうに食べている。

 「おいしいっ」

 アズにも冷ましながら取り分けてやれば美味しそうに食べていた。

 「こちらも美味しいですよ。アズあ~ん」

 「あ~ん。ーーおいしいっ」

 パンで作ったものも食べさせてみれば美味しいと笑っていた。
 隣でホッとしているエルの背を撫でてやる。
 実は今アズに食べさせたのはエルが作ったものだったのだ。
 アズも縁もご飯でしか作っておらず、エルもご飯で作ろうとしていたのを縁がパンに変更させた。
 誰が作っても味に大差はないが、やはり大切な相手には自分が作ったものを食べてほしいだろう。
 自分が作ったものだと言う勇気はまだないようだが美味しいと食べくれたアズにエルも嬉しそうだった。
 もちろんアズが作ったものもこっそりエルに渡している。

 「エルのおかげで美味しいものが出来ました。ありがとうございます」

 「べつに」

 言葉だけなら不機嫌そうではあるがプイっと背けた顔から見える耳が赤かった。
 可愛いなぁと思ったが言えば拗ねてしまいそうなので黙っておく縁であった。
 


 
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