二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
上 下
11 / 475

増えました

しおりを挟む
 建前上アレンは縁の奴隷ということにし、こちらに来てから初めての町を2人で観光する。
 いくつもの店々が建ち並び、我れ先にといらっしゃいとかけられる声に前世の市場みたいだなと思った。
 屋台もいくつも点在しておりアレンと買い食いしては色々と店を見てまわる。
 お金はどうしたかというと、神さまたちがくれた色々と入れておいたという鞄(縁は気付いていないがマジックバッグ)に金額を言って手を突っ込めば出てくるということに気付いてからは多用してしている。
 こちらの世界では紙幣はないらしく、金貨.銀貨.銅貨と馴染みのものから大きいもので白金貨というものもあるらしい。
 
 「そこな綺麗お方、奴隷はいかがですか?」

 ある店の前を通りかかった時にふとそう声をかけられた。

 「って、ちょっ、ちょっと!待って、待って下さい!」

 だがまさか自分に言われているとは思わず、気に留めず通り過ぎようとして慌てて男が追ってきた。
 
 「なにか?」

 いきなり後ろから腕を掴まれたと思えば、すかさずアレンが男の手を縁から引き剥がしてくれた。

 「随分躾のなってない犬ですね。どうでしょう?当店で新しい奴隷でも見繕ってみては」

 割り込んできたアレンに侮蔑の表情を浮かべながら、新しく買い替えてはどうだと言ってくる。
 
 「結構で……いえ、やっぱり見せてもらってもいいですか?」

 「!?」

 「どうぞっ!どうぞこちらに!」

 嬉々として店内に案内する店主らしき男とは裏腹にアレンの表情は青褪めている。
 本当にすげ替えられると思っているのだろうか。
 もちろん縁にそんな意思はなく、これから卵を育てるにあたり何も知らない自分を手伝ってくれる人が欲しいだけだったのだが。 

 「こちらは如何でしょう?まだ16と若く容姿もそれなりで家事も得意ですのでーー」

 「他には?」

 店主が言うには容姿が整った若い獣人がオススメらしいが、如何せん縁の中身は年寄りのジジイであるわけで年頃の男の子を侍らせる趣味はない。
 それに加え、先程から「それなりの容姿」と言ってはいるが自分のことを棚に上げてよく言えたものだと思う。
 よく肥えた脂肪の固まりは腹にこれでもかと巻きつけられ、動く度にぶるんぶるんとよく揺れる。典型的なメタボ。
 脂ぎった顔は吹き出物ばかりでお世辞にも綺麗とは言えず、縁を見てニヤニヤと笑うそれは気持ち悪くて仕方がない。

 「………」

 店に入ってからと言うもの一切喋らず黙り込むアレンは、しかし何も言わないくせに縁の服の裾をずっと握っていて動きづらかったがそのままにしておいた。
 首輪のことで縁を騙していたことへの意趣返しである。

 「出来れば身の回りの世話とある程度の自衛ができる方がいいのですが」

 これからどうするかはまだ決めていないが、アレンは大丈夫としても卵を抱えた縁と自衛もできない世話がかりではアレンの足手まといにしかならない。
 卵が孵ったとしても蛇など育てたことない縁は助言をしてもらえる相手を探していた。
 そんな有能な人材はいないと思うが、最悪どちからの能力が特化した者を2人雇えばいい。
 先程から店主が薦める奴隷たちは縁の希望とは合わないため、自由に見させてほしいと頼めば渋々ながら了承してくれた。
 これ以上は下手に薦めて帰られても困ると思ったのだろう。
 他の客の接客に向かう店主を見送り店の奥に進む。

 「こうして人が店で売られているというのはなんとも奇妙というか怖いですね」

 部屋中には檻がいくつも設置されており、中には獣人や人間などの子どもから年寄りといった年齢の者たちが閉じ込められている。
 はっきり言って見ていて気持ちのいいものではない。
 だがこちらの世界では普通のことで、見ていて辛いからといって皆が皆を縁が救ってやることはできない。

 「こうも怯えられていては買うことも難しーーん?」

 なにやら視線を感じ右奥のさらに奥にある檻の方を見れば、鉄格子越しにこちらを驚いたように見ている男の姿が目に入った。

 「猫?いや、微妙に違う?豹とかチーターですかね」

 細身だが引き締まった無駄のない筋肉に、これまた整った綺麗な顔と透き通った薄緑色の瞳。
 汚れてはいるが肌は白く、短く切られた髪と揃いの黒い耳はピクピクと頭の上で動いていて可愛い。
 決して女性に見えることはないがどことなく色気を感じもする。

 「あなたのお名前は?」

 「セイン」

 怯えられないよう静かに語りかけるが意外にもしっかりと返事が返ってきた。

 「ではセイン。あなたの特技は?」

 「元は貴族家で従事をしていたのである程度の身の回りの世話と簡単な護衛ぐらいならできます」

 命を狙われることもある貴族を守るためある程度は戦えるようである。
 これはいい。
 物扱いするわけではないが、セインは縁の条件に当てはまっており容姿も縁の好みである。
  目の保養だ。
 うんうんと頷く縁にさらに身の危険を感じたのか、後ろからアレンに腕を引かれた。

 「そんな顔しなくても、あなたが望まない限り手を離すことも売ることもしませんよ」

 「……本当か?」

 不安で仕方ないのだろう。
 アレン自身は縁に惜しみなく愛を伝えてはくれているが縁はそれをしたことがない。
 アレンが縁に向ける愛情と縁がアレンの向けるものは今はまだ一緒とは言えないのだ。
 だが大切には思っている。
 幸せになってほしいと願うぐらいにはアレンを大切に思っているのだ。

 「約束、したでしょう?あなたが自由を望む時は言ってくれと。つまりその時が来るまで私たちはずっと、一緒だといいうことです」

 「……あぁ、約束だ」

 ギュッと抱きついてくるアレンの背中に手を回すと優しく撫で下ろしてやった。
 なんとも手がかかる子だなと思っているとーー

 「その人に触るなっ!」

 ガシャガシャと激しく格子が揺れる音とセインの叫び声が聞こえた。
 落ち着いた雰囲気だと思っていたセインは今はこちらを鬼の形相で睨みつけている。
 正しくは縁を抱きしめるアレンをだが。

 「どうしました?ーーわっ!?」

  なにかあったかと檻に近づけば、すごい勢いで格子越しにセインに抱き寄せられる。
  渡さないと言わんばかりにギュウギュウと抱きつかれれば苦しさに呻くしかない。

 「なっ、何事ですか!今すごい音がーーっ!?お前っ、なにしてる!?」

 駆けつけた店主に速攻引き離された。
 
 「キサマッ!お客様に向かってなにをしてくれたんだ!」

 「ゲホッ、ゲホッ…まっ…まって、まってください。彼を、傷付けない、でっ」
 
 鞭を振るおうとする手を慌てて止めると、心配そうに見るアレンに大丈夫だと伝え再び檻に近寄る。

 「大丈夫、大丈夫です。どこにも怪我なんてしてません。ちょっとびっくりしただけです」

 自分がしでかしたことに気付いたのか顔面蒼白で震えて蹲るセインを撫でてやった。
 
 「私も男なのでそう簡単には壊れませんよ。でもになるんですからこれから少しずつ慣れていきましょう」

 「…家族?」

 「お客様っ!?」

 商品の失態に謝ろうとした店主を遮り私は宣言したのだった。

 「この子買います」


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される

Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木) 読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!! 黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。 死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。 闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。 そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。 BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)… 連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。 拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。 Noah

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...