今日もお嬢様はままならない

minmi

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第3章

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 触れたのは無意識だった。

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。最近はサハラ王太子殿下だけじゃなく、リアン殿下もシリウス殿下も助けてくださるから」

 アメリアはただ事実を言っているだけなのだろう。
 だが隣にいる自分ではなく、今ここにはいない男たちの話しをされ心が乱れた。
 いつになく2人心休まる時間を共に過ごせていると思っていた中だったこともあり、自分のことを忘れないで欲しいと衝動的に触れた手は温かった。

 「あ、あの、セ、セバス?」

 キョロキョロと面白いほど動揺し視線を彷徨わせる姿がとても可愛く、手を離されないことにもホッとした。

 「お疲れのようでしたので。以前私の手は元気が出ると言っていただいたので試してみたのですが駄目でしたでしょうか?」

 「え!?ぜ、全然!むしろ嬉しーーあ、いえ、とても元気が出るわ、ありがとう」

 ーー可愛い。とても。
 恥ずかしそうに俯きながらも握られた手は離されるどころか、もっとと言うように強く握りしめられる。
 手を握ってこれではこの先どうなるのやら。
 楽しみなような、見るのが勿体ないような……
 
 「あ、あのっ!その………セバ、スはどんな女性が魅力的、に……感じるかしら?」

 「魅力、ですか?」

 勿論お嬢様ですよ……とは流石に言えない。
 
 「そうですね………髪ですかね?」

 「髪?」

 「ええ。髪の毛が綺麗な方はとても美しく感じます」

 「……………そう」

 アメリアの美しい髪を見そう言ったのだが、何故かしゅんとなってしまった表情に首を傾げる。
 今の発言のどこに落ち込んでしまったのか。
 これほど美しいプラチナブロンドそういるものではない。
 見たことがあるとすれば奥様ぐらいであったが、彼女もその美しさに周りからかなり羨ましがられていた。
 アメリアの美しさを表す一つでもあるその髪に文句をつけるものなど誰一人いないに違いない。

 「そう、そうなのね。………ありがとう」

 明らかに気落ちしている様子に理由が全く分からない。
 これは以前「お前のような薄汚れた髪よりサマンサの方が美しい」というバカのバカらしい発言をアメリアが引きずっていたに他ならない。
 それまで毎日のようにテティによる黒髪阻止計画により褒められていただけにかなりショックだったのだ。

 「………そろそろ帰りましょうか。私アルを呼んでくるわね」

 「いえ、それならば私がーー」

 「姉様!姉様いました!魚です!」

 興奮したように呼ぶアルにアメリアは微笑むとそっと握っていた手を離された。

 「ありがとう。おかげで元気が出たわ」

 その言葉とは裏腹に悲しそうに微笑むアメリアに、これは何かおかしいと離された手をもう一度繋ぎ直す。

 「どうされました?顔色が悪いようですが」

 「そうかしら?……風邪でも引いてしまったかしらね。皆にうつしても悪いから早く帰りましょう」

 明らかに自分から逃げようとしているアメリアに心配になる。
 私の何が悪かった?
 自問自答するが先程の会話の中でアメリアを傷付けるような言葉を言った覚えはない。

 「姉様!早く!」

 「はいはい。あの、大丈夫よ。少しアルと魚を眺めたら帰るから少し待っていてちょうだい」

 そう言われてしまえば離すしかなく、するりと離れていく温もりに困惑するばかりであった。

 「セバスさんどうでした?え、あの、セバスさん?」

 上手くいったかとニヤニヤしながら近寄ってきたテティだが、放心状態のセバスに驚いていた。

 「お嬢様は自分の髪色を嫌っていたのか?」

 「え?そんなことないですよ。私が毎日毎日黒髪になんかしなくても十分美しいって褒めて………あ、もしかしてあのバカ王子に何か言われたのかしら?本当毎回毎回いい加減にして欲しいですね」

 
 どういうことかと聞けば、以前にもあのバカはアメリアに向かって「お前は本当に可愛げがないな。サマンサを見習ったらどうなんだ。これが婚約者とは恥ずかしくて仕方がない」と宣ったらしい。
 ………殺すヤルか?
 帰ってきて早々「可愛いげのない私でもセバスは好きになってくれるかしら?」と相談されたテティは怒りのあまり「あの野郎、殺すっ!」と絶叫したらしい。
 あの時はいったい何事かと思ったが、そういう理由だったのかと納得した。
 声に出していないだけでセバスも同じ気持ちだ。
 いくらアメリアがバカが言ったことが事実ではないと分かっていても、言われて何も思わないわけではないだろう。
 恋する少女が好きな人のためにと努力しようとしているのに、何も知らない人間がお前可愛くないなと言えば本気ではないとしても傷付くに決まっている。
 想う相手もそんなこと思っていたらと考えもするだろう。

 「だとしたら……また染めたいなんて言いかねないですよ!?やっと、やっと諦めてくれてたのに!うそ、やめてよ!私の努力が!」

 テティの嘆きようには驚いたが、確かにあの落ち込みようでは言い出しかねない。
 アメリアならば黒髪になろうともセバスは全く気にならないが、その理由がこんな自分では嫌われると思ってのことならば許せない話しだ。
 彼女はそのままで十分魅力的なのだから。
 もっとしっかり話せばよかったと後悔するばかりであった。
 
 
 
 

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