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第2章
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それは放課後、せっかく天気もいいし中庭で少し寝て帰るかと横になっていた時だった。
コツコツと誰かが来た音はしたが、すぐに立ち去るだろうと気にしていなかった。
だがーー
「あぁーーー疲れたーーー!やっと終わった!今日も1日お疲れ様私!」
そんな大声が聞こえたかと思えば、ダンダンと何かがぶつかるような音が聞こえてきた。
「マジ!マジなんなの、あのバカ!勉強が分からない?お前がしねぇからだろうがバカ。宿題をやっておけ?バカのお前のための宿題だよ、お前がやれ。サマンサを見習えだ?てめぇはリアン王子を見習えよクズ!何でもかんでも私に責任押し付けやがってマジ殴りたい!」
…………すっご。
ここまでの罵詈雑言初めて聞いたかもしれない。
しかも言ったのが声からして女性であることが分かり更に驚いた。
「彼のためじゃなかったら今頃殴ってるわよ!なんであんなバカ私が面倒見なくちゃいけないのよ!私が自分で言ったからだけどね!マジ後悔!」
すごいなぁと思って聞いていれば途中から自分へのツッコミが入りだし面白くなってきた。
「セバスに比べれてあのバカときたら…いえ、比べることさえおかしいわ!あのバカを比べられるとしたら虫ね、虫しかないわ!虫でさえ自分の食い扶持は自分で探すんだから虫の方が偉いわ、虫さんごめんね!」
「ぶふぅっ」
思わず吹き出してしまった。
そのバカとやらはどれだけバカなのかと笑いが止まらなかった。
虫にさえ及ばないと言われるとは中々のものである。
「はーはー、はは、はははははっ」
「…………っ」
涙で滲む瞳を拭いながら体を起こせば、先程まで罵詈雑言叫びまくっていた少女が驚きに固まっているのが目に入る。
声からしてもしかしてと思っていたが、まさか本当に彼女だったとは。
いつも澄ましたような顔で常にクラスの上位にいる彼女がこんなことをするとは思ってもみなかった。
「意外にかなりお転婆だったようだね。アメリア嬢?」
先程のダンダンと聞こえていた音は彼女の格好からして木を殴りつけていた音だったらしい。
その構えは中々様になっている。
「……サ、サハル、王太子、殿下………」
名前を呼ばれたかと思えば真っ青になり、かと思えば真っ赤になる顔色に面白い子だなと思った。
「………終わった…………全て終わりよ」
絶望という言葉が似合うほどの落ち込みようである。
そのままパタリと倒れたかと思えばシクシクと泣き出した時は流石に焦った。
慌てて駆け寄り助け起こそうとするがーー
「もう終わりよ。これも全てあのバカがバカ過ぎるからなんだから。もうこうなったらアイツを殺してから死んでやるわ。誰のせいでこうなったか思い知ればいいのよ」
かなり物騒なことを呟きだした。
「こんなことならセバスにキスの一つでもねだっておくんだったわ。死ぬ前に少しぐらいいいじゃない。どうせもう死ぬしかないなら思い出の1つや2つ。あと少しで幸せになれると思ったのに。どうせ私には幸せになる資格がないと言ってるんでしょ。いいわよ。こうなりゃお望み通り死んでやるわよ。火炙り?首吊り?出来れば痛くないのにしてよね」
「…………」
ここまでくるとどう声をかけていいか迷う。
まさかそこまで思い詰めるとは思わず、大笑いして申し訳なくなった。
「ははははは、まさかこうも簡単に終わるなんて。まぁ私が悪いんだけど。少しぐらい悲しんでくれるかしらセバス」
死を覚悟し涙を流す少女に焦る。
このままではここで首でも吊ってしまう勢いだ。
「待ってくれ!死ななくていい!死ななくていいから!」
「え?」
きょとんとこちらを見上げてくる姿はいつもの凛とした優等生な彼女とは違いどこか幼さが残るもので、あれほど罵詈雑言叫んでいた少女とは思えぬほど可愛らしい。
「笑ったのは悪かった。先程聞いたことは誰にも言わないから落ち着きなさい」
「………本当に言わない?」
迷子にでもなったかのように不安そうに見上げるくる瞳が何とも可愛いらし……って違う!
「言わない、言わないから落ち着いて」
「はい」
素直に返事をすると起き上がろうとするのを手伝ってやる。
今まで見てきたアメリア像から離れた彼女はとても可愛らしい少女だった。
「あの、本当に言いませんか?」
チラチラとこちらを窺ってくる姿は小動物のようだ。
「言わない。だから泣き止んでくれ」
これではまるで自分が泣かせてしまったかのようだ。
結果的に言えばその通りなのだが、まさか泣くとは思っていなかったのだ。
「まぁ、なんだ。何か事情があったんだろう?あそこまで鬱憤が溜まっていたとなれば叫びたいという気持ちも分かーーってだから泣くな!」
「や、優しい。あのバカ、も、見習え、っての」
静かに涙を零しながらも切れ切れに呟く。
これはかなり辛い思いをしてきたのだろうと、誰にも言わないことを約束し事情を聞いてやるのだった。
聞いた後また笑ってしまったのは仕方がないだろう。
まさかあの彼女が想いを寄せる相手のためにここまで大掛かりなことをするとは。
しかもその相手が使用人!
その想いの強さと大胆な行動に、呆れつつも憧れたのであった。
コツコツと誰かが来た音はしたが、すぐに立ち去るだろうと気にしていなかった。
だがーー
「あぁーーー疲れたーーー!やっと終わった!今日も1日お疲れ様私!」
そんな大声が聞こえたかと思えば、ダンダンと何かがぶつかるような音が聞こえてきた。
「マジ!マジなんなの、あのバカ!勉強が分からない?お前がしねぇからだろうがバカ。宿題をやっておけ?バカのお前のための宿題だよ、お前がやれ。サマンサを見習えだ?てめぇはリアン王子を見習えよクズ!何でもかんでも私に責任押し付けやがってマジ殴りたい!」
…………すっご。
ここまでの罵詈雑言初めて聞いたかもしれない。
しかも言ったのが声からして女性であることが分かり更に驚いた。
「彼のためじゃなかったら今頃殴ってるわよ!なんであんなバカ私が面倒見なくちゃいけないのよ!私が自分で言ったからだけどね!マジ後悔!」
すごいなぁと思って聞いていれば途中から自分へのツッコミが入りだし面白くなってきた。
「セバスに比べれてあのバカときたら…いえ、比べることさえおかしいわ!あのバカを比べられるとしたら虫ね、虫しかないわ!虫でさえ自分の食い扶持は自分で探すんだから虫の方が偉いわ、虫さんごめんね!」
「ぶふぅっ」
思わず吹き出してしまった。
そのバカとやらはどれだけバカなのかと笑いが止まらなかった。
虫にさえ及ばないと言われるとは中々のものである。
「はーはー、はは、はははははっ」
「…………っ」
涙で滲む瞳を拭いながら体を起こせば、先程まで罵詈雑言叫びまくっていた少女が驚きに固まっているのが目に入る。
声からしてもしかしてと思っていたが、まさか本当に彼女だったとは。
いつも澄ましたような顔で常にクラスの上位にいる彼女がこんなことをするとは思ってもみなかった。
「意外にかなりお転婆だったようだね。アメリア嬢?」
先程のダンダンと聞こえていた音は彼女の格好からして木を殴りつけていた音だったらしい。
その構えは中々様になっている。
「……サ、サハル、王太子、殿下………」
名前を呼ばれたかと思えば真っ青になり、かと思えば真っ赤になる顔色に面白い子だなと思った。
「………終わった…………全て終わりよ」
絶望という言葉が似合うほどの落ち込みようである。
そのままパタリと倒れたかと思えばシクシクと泣き出した時は流石に焦った。
慌てて駆け寄り助け起こそうとするがーー
「もう終わりよ。これも全てあのバカがバカ過ぎるからなんだから。もうこうなったらアイツを殺してから死んでやるわ。誰のせいでこうなったか思い知ればいいのよ」
かなり物騒なことを呟きだした。
「こんなことならセバスにキスの一つでもねだっておくんだったわ。死ぬ前に少しぐらいいいじゃない。どうせもう死ぬしかないなら思い出の1つや2つ。あと少しで幸せになれると思ったのに。どうせ私には幸せになる資格がないと言ってるんでしょ。いいわよ。こうなりゃお望み通り死んでやるわよ。火炙り?首吊り?出来れば痛くないのにしてよね」
「…………」
ここまでくるとどう声をかけていいか迷う。
まさかそこまで思い詰めるとは思わず、大笑いして申し訳なくなった。
「ははははは、まさかこうも簡単に終わるなんて。まぁ私が悪いんだけど。少しぐらい悲しんでくれるかしらセバス」
死を覚悟し涙を流す少女に焦る。
このままではここで首でも吊ってしまう勢いだ。
「待ってくれ!死ななくていい!死ななくていいから!」
「え?」
きょとんとこちらを見上げてくる姿はいつもの凛とした優等生な彼女とは違いどこか幼さが残るもので、あれほど罵詈雑言叫んでいた少女とは思えぬほど可愛らしい。
「笑ったのは悪かった。先程聞いたことは誰にも言わないから落ち着きなさい」
「………本当に言わない?」
迷子にでもなったかのように不安そうに見上げるくる瞳が何とも可愛いらし……って違う!
「言わない、言わないから落ち着いて」
「はい」
素直に返事をすると起き上がろうとするのを手伝ってやる。
今まで見てきたアメリア像から離れた彼女はとても可愛らしい少女だった。
「あの、本当に言いませんか?」
チラチラとこちらを窺ってくる姿は小動物のようだ。
「言わない。だから泣き止んでくれ」
これではまるで自分が泣かせてしまったかのようだ。
結果的に言えばその通りなのだが、まさか泣くとは思っていなかったのだ。
「まぁ、なんだ。何か事情があったんだろう?あそこまで鬱憤が溜まっていたとなれば叫びたいという気持ちも分かーーってだから泣くな!」
「や、優しい。あのバカ、も、見習え、っての」
静かに涙を零しながらも切れ切れに呟く。
これはかなり辛い思いをしてきたのだろうと、誰にも言わないことを約束し事情を聞いてやるのだった。
聞いた後また笑ってしまったのは仕方がないだろう。
まさかあの彼女が想いを寄せる相手のためにここまで大掛かりなことをするとは。
しかもその相手が使用人!
その想いの強さと大胆な行動に、呆れつつも憧れたのであった。
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