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第0章
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「…………ここは?」
今日からまた仕事だとうんざりしながら起き上がり見えた室内の様子に固まる。
見たことがある壁、見たことがある天井、見たことがある部屋。
そんなはずないと立ち上がり部屋を飛び出そうとするがーー
バタンッ!
起き上がろうとするが力が入らずベッドから転げ落ちてしまった。
「なに?なんで……」
「お嬢様っ!?」
バタバタと誰かが駆け寄ってくる音が聞こえたがそれにも気付かず、動かない体に必死に力を込めるが震えるだけで思うように動かせない。
「やだ、なんで?」
自分の体のようで自分のものではないように体が重く動かないことが怖くなってくる。
もし一生このままなんてこと……
「お嬢様大丈夫です。暫く眠っていたせいで体が慣れてないだけです。きっとすぐ元のように動けるようになりますから」
混乱と恐怖で涙を流せば、そう言い優しく背を撫でてくれる手があった。
見上げれば見覚えがある優しい笑顔と薫ってくるあの爽やかな匂い。
更に涙が溢れ、力の入らない手をそれでも必死に伸ばせば温かな手がギュッと掴んでくれた。
「本当?」
「本当です。私も側におりますから」
普段なら何を根拠にそんなこと言うのだと上司に半ギレするが、何故か彼の言う言葉はすんなりと信じられた。
なら大丈夫だとホッと息をつくと手を借りベッドまで運んでもらう。
生まれて初めてのお姫様抱っこにドキドキしていれば、ふと見えた手足に驚き困惑した。
「うそ、私縮んでる?」
明らかに成人しているとは言い難い小さな手足。
先程は混乱していてそこまで考えられていなかったが、見下ろす自身の体は子どものそれだった。
「なんで?なんで私ーー痛っ!」
「お嬢様?」
突如襲いくる激しい痛みに頭を抑えて蹲る。
痛い痛い痛い痛い!助けて!誰か助けて!
今まで感じたことがないほどの痛みに再び涙が溢れ、少しでも痛みを和らげようとギュッとシーツを握りしめる。
「お嬢様!?どうされました!」
やだやだやだ死にたくない。
ここがどこだとか、この人は一体誰なのか、どうして自分は縮んでしまっているのか。
分からないことだらけではあったが、何故か今ここで痛みに負ければ自分がいなくなってしまうように感じた。
怖い怖い怖い。やだ死にたくないよっ。
「お嬢様大丈夫です、私がおりますから!」
恐怖で震える中聞こえた声に痛みを堪え俯いていた顔を上げれば、まるで彼も痛みを感じているように顔を歪め必死に呼びかけてくれていた。
大丈夫、大丈夫ですと握りしめてくれる手はとても暖かく、凍えていた心が少しずつ解けていく。
大丈夫大丈夫大丈夫!!
自己暗示のように自分に言い聞かせればまるで通じたかのように痛みが少しずつ引いていく。
「大丈夫です、大丈夫ですからね。私がずっと側におりますから」
バタバタと周りで誰かが走り回る音が聞こえたが、それを無視し握られた温もりだけに集中する。
「大丈夫、大丈夫、私は大丈夫」
そして徐々に治ってきた痛みにホッと力を抜いた途端、私はそのまま意識を失ったのだった。
「お嬢様!?早くお医者様を!」
「はい!」
心配そうに見守っていたメイドたちに指示を出すと痛みにだろう蹲る少女の体をゆっくりと助け起こす。
完全に意識がないためだらりと垂れ下がる手足を不安を押し殺し診察しやすいよう横たえる。
やっと目が覚めたと喜んでいれば再び眠りにつく少女にもしかしたらと不安がよぎる。
「お願いですからまたあの笑顔を見せて下さい」
以前目覚めた時に見せたあの笑顔を。
今まであのように笑った顔を見たことがなかった。
まるで死んでいるのではと思うほど無表情に、どうでもいいとばかりに日々淡々と過ごす少女の姿に主人であり彼女の父親もずっと心配していたのだ。
何とか出来ないものかと自分も一緒になり考えていたある日、慌てて駆けこんできたメイドによりお嬢様が倒れたと知らされた。
原因が分からず、処置のしようがないと医者も匙を投げる中ふと何の前触れもなく目を覚ましたのだ。
目覚めた途端何かブツブツと呟いたかと思えば部屋を出ていこうとするのを慌てて止めればいきなり抱きつかれ驚いた。
猫のように擦り寄ってくる少女にドキドキし、まるで大好きだと言わんばかりに微笑まれた時は年甲斐もなく心が高鳴ったものだ。
そんなことあるはずないと引き離そうとするが、離さないとばかりに更に背中に回る腕に力が篭る。
まるで別人のように可愛らしく笑う姿に戸惑い、しかし何故かもっと見たいとも思った。
けれど眠るように再び倒れたかと思えばそれから一月も目を覚まさないのであった。
心配に主人も日々気落ちしていき、弟であるアルフォートも毎日心配そうに部屋に訪れていた。
「姉様きっと目を覚ますよね?」
「えぇ。きっと今にお目覚めになりますよ」
自分にも言い聞かせるようにそう答える。
そのため部屋で物音がした時はかなり慌てた。
まさかと扉を壊す勢いで入れば床に倒れる少女に駆け寄る。
動かない体に泣く姿が切なく、大丈夫だと慰めていれば今度は頭を押さえ蹲った。
何もしてやれないことが辛く、せめてもと手を握ってやれば痛いほど握りしめられた。
大丈夫だと繰り返しながら縋るように握り返してくる少女を守ってやりたいという想いがその時芽生えるのであった。
今日からまた仕事だとうんざりしながら起き上がり見えた室内の様子に固まる。
見たことがある壁、見たことがある天井、見たことがある部屋。
そんなはずないと立ち上がり部屋を飛び出そうとするがーー
バタンッ!
起き上がろうとするが力が入らずベッドから転げ落ちてしまった。
「なに?なんで……」
「お嬢様っ!?」
バタバタと誰かが駆け寄ってくる音が聞こえたがそれにも気付かず、動かない体に必死に力を込めるが震えるだけで思うように動かせない。
「やだ、なんで?」
自分の体のようで自分のものではないように体が重く動かないことが怖くなってくる。
もし一生このままなんてこと……
「お嬢様大丈夫です。暫く眠っていたせいで体が慣れてないだけです。きっとすぐ元のように動けるようになりますから」
混乱と恐怖で涙を流せば、そう言い優しく背を撫でてくれる手があった。
見上げれば見覚えがある優しい笑顔と薫ってくるあの爽やかな匂い。
更に涙が溢れ、力の入らない手をそれでも必死に伸ばせば温かな手がギュッと掴んでくれた。
「本当?」
「本当です。私も側におりますから」
普段なら何を根拠にそんなこと言うのだと上司に半ギレするが、何故か彼の言う言葉はすんなりと信じられた。
なら大丈夫だとホッと息をつくと手を借りベッドまで運んでもらう。
生まれて初めてのお姫様抱っこにドキドキしていれば、ふと見えた手足に驚き困惑した。
「うそ、私縮んでる?」
明らかに成人しているとは言い難い小さな手足。
先程は混乱していてそこまで考えられていなかったが、見下ろす自身の体は子どものそれだった。
「なんで?なんで私ーー痛っ!」
「お嬢様?」
突如襲いくる激しい痛みに頭を抑えて蹲る。
痛い痛い痛い痛い!助けて!誰か助けて!
今まで感じたことがないほどの痛みに再び涙が溢れ、少しでも痛みを和らげようとギュッとシーツを握りしめる。
「お嬢様!?どうされました!」
やだやだやだ死にたくない。
ここがどこだとか、この人は一体誰なのか、どうして自分は縮んでしまっているのか。
分からないことだらけではあったが、何故か今ここで痛みに負ければ自分がいなくなってしまうように感じた。
怖い怖い怖い。やだ死にたくないよっ。
「お嬢様大丈夫です、私がおりますから!」
恐怖で震える中聞こえた声に痛みを堪え俯いていた顔を上げれば、まるで彼も痛みを感じているように顔を歪め必死に呼びかけてくれていた。
大丈夫、大丈夫ですと握りしめてくれる手はとても暖かく、凍えていた心が少しずつ解けていく。
大丈夫大丈夫大丈夫!!
自己暗示のように自分に言い聞かせればまるで通じたかのように痛みが少しずつ引いていく。
「大丈夫です、大丈夫ですからね。私がずっと側におりますから」
バタバタと周りで誰かが走り回る音が聞こえたが、それを無視し握られた温もりだけに集中する。
「大丈夫、大丈夫、私は大丈夫」
そして徐々に治ってきた痛みにホッと力を抜いた途端、私はそのまま意識を失ったのだった。
「お嬢様!?早くお医者様を!」
「はい!」
心配そうに見守っていたメイドたちに指示を出すと痛みにだろう蹲る少女の体をゆっくりと助け起こす。
完全に意識がないためだらりと垂れ下がる手足を不安を押し殺し診察しやすいよう横たえる。
やっと目が覚めたと喜んでいれば再び眠りにつく少女にもしかしたらと不安がよぎる。
「お願いですからまたあの笑顔を見せて下さい」
以前目覚めた時に見せたあの笑顔を。
今まであのように笑った顔を見たことがなかった。
まるで死んでいるのではと思うほど無表情に、どうでもいいとばかりに日々淡々と過ごす少女の姿に主人であり彼女の父親もずっと心配していたのだ。
何とか出来ないものかと自分も一緒になり考えていたある日、慌てて駆けこんできたメイドによりお嬢様が倒れたと知らされた。
原因が分からず、処置のしようがないと医者も匙を投げる中ふと何の前触れもなく目を覚ましたのだ。
目覚めた途端何かブツブツと呟いたかと思えば部屋を出ていこうとするのを慌てて止めればいきなり抱きつかれ驚いた。
猫のように擦り寄ってくる少女にドキドキし、まるで大好きだと言わんばかりに微笑まれた時は年甲斐もなく心が高鳴ったものだ。
そんなことあるはずないと引き離そうとするが、離さないとばかりに更に背中に回る腕に力が篭る。
まるで別人のように可愛らしく笑う姿に戸惑い、しかし何故かもっと見たいとも思った。
けれど眠るように再び倒れたかと思えばそれから一月も目を覚まさないのであった。
心配に主人も日々気落ちしていき、弟であるアルフォートも毎日心配そうに部屋に訪れていた。
「姉様きっと目を覚ますよね?」
「えぇ。きっと今にお目覚めになりますよ」
自分にも言い聞かせるようにそう答える。
そのため部屋で物音がした時はかなり慌てた。
まさかと扉を壊す勢いで入れば床に倒れる少女に駆け寄る。
動かない体に泣く姿が切なく、大丈夫だと慰めていれば今度は頭を押さえ蹲った。
何もしてやれないことが辛く、せめてもと手を握ってやれば痛いほど握りしめられた。
大丈夫だと繰り返しながら縋るように握り返してくる少女を守ってやりたいという想いがその時芽生えるのであった。
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