3 / 30
第0章
2
しおりを挟む
「…………ここは?」
今日からまた仕事だとうんざりしながら起き上がり見えた室内の様子に固まる。
見たことがある壁、見たことがある天井、見たことがある部屋。
そんなはずないと立ち上がり部屋を飛び出そうとするがーー
バタンッ!
起き上がろうとするが力が入らずベッドから転げ落ちてしまった。
「なに?なんで……」
「お嬢様っ!?」
バタバタと誰かが駆け寄ってくる音が聞こえたがそれにも気付かず、動かない体に必死に力を込めるが震えるだけで思うように動かせない。
「やだ、なんで?」
自分の体のようで自分のものではないように体が重く動かないことが怖くなってくる。
もし一生このままなんてこと……
「お嬢様大丈夫です。暫く眠っていたせいで体が慣れてないだけです。きっとすぐ元のように動けるようになりますから」
混乱と恐怖で涙を流せば、そう言い優しく背を撫でてくれる手があった。
見上げれば見覚えがある優しい笑顔と薫ってくるあの爽やかな匂い。
更に涙が溢れ、力の入らない手をそれでも必死に伸ばせば温かな手がギュッと掴んでくれた。
「本当?」
「本当です。私も側におりますから」
普段なら何を根拠にそんなこと言うのだと上司に半ギレするが、何故か彼の言う言葉はすんなりと信じられた。
なら大丈夫だとホッと息をつくと手を借りベッドまで運んでもらう。
生まれて初めてのお姫様抱っこにドキドキしていれば、ふと見えた手足に驚き困惑した。
「うそ、私縮んでる?」
明らかに成人しているとは言い難い小さな手足。
先程は混乱していてそこまで考えられていなかったが、見下ろす自身の体は子どものそれだった。
「なんで?なんで私ーー痛っ!」
「お嬢様?」
突如襲いくる激しい痛みに頭を抑えて蹲る。
痛い痛い痛い痛い!助けて!誰か助けて!
今まで感じたことがないほどの痛みに再び涙が溢れ、少しでも痛みを和らげようとギュッとシーツを握りしめる。
「お嬢様!?どうされました!」
やだやだやだ死にたくない。
ここがどこだとか、この人は一体誰なのか、どうして自分は縮んでしまっているのか。
分からないことだらけではあったが、何故か今ここで痛みに負ければ自分がいなくなってしまうように感じた。
怖い怖い怖い。やだ死にたくないよっ。
「お嬢様大丈夫です、私がおりますから!」
恐怖で震える中聞こえた声に痛みを堪え俯いていた顔を上げれば、まるで彼も痛みを感じているように顔を歪め必死に呼びかけてくれていた。
大丈夫、大丈夫ですと握りしめてくれる手はとても暖かく、凍えていた心が少しずつ解けていく。
大丈夫大丈夫大丈夫!!
自己暗示のように自分に言い聞かせればまるで通じたかのように痛みが少しずつ引いていく。
「大丈夫です、大丈夫ですからね。私がずっと側におりますから」
バタバタと周りで誰かが走り回る音が聞こえたが、それを無視し握られた温もりだけに集中する。
「大丈夫、大丈夫、私は大丈夫」
そして徐々に治ってきた痛みにホッと力を抜いた途端、私はそのまま意識を失ったのだった。
「お嬢様!?早くお医者様を!」
「はい!」
心配そうに見守っていたメイドたちに指示を出すと痛みにだろう蹲る少女の体をゆっくりと助け起こす。
完全に意識がないためだらりと垂れ下がる手足を不安を押し殺し診察しやすいよう横たえる。
やっと目が覚めたと喜んでいれば再び眠りにつく少女にもしかしたらと不安がよぎる。
「お願いですからまたあの笑顔を見せて下さい」
以前目覚めた時に見せたあの笑顔を。
今まであのように笑った顔を見たことがなかった。
まるで死んでいるのではと思うほど無表情に、どうでもいいとばかりに日々淡々と過ごす少女の姿に主人であり彼女の父親もずっと心配していたのだ。
何とか出来ないものかと自分も一緒になり考えていたある日、慌てて駆けこんできたメイドによりお嬢様が倒れたと知らされた。
原因が分からず、処置のしようがないと医者も匙を投げる中ふと何の前触れもなく目を覚ましたのだ。
目覚めた途端何かブツブツと呟いたかと思えば部屋を出ていこうとするのを慌てて止めればいきなり抱きつかれ驚いた。
猫のように擦り寄ってくる少女にドキドキし、まるで大好きだと言わんばかりに微笑まれた時は年甲斐もなく心が高鳴ったものだ。
そんなことあるはずないと引き離そうとするが、離さないとばかりに更に背中に回る腕に力が篭る。
まるで別人のように可愛らしく笑う姿に戸惑い、しかし何故かもっと見たいとも思った。
けれど眠るように再び倒れたかと思えばそれから一月も目を覚まさないのであった。
心配に主人も日々気落ちしていき、弟であるアルフォートも毎日心配そうに部屋に訪れていた。
「姉様きっと目を覚ますよね?」
「えぇ。きっと今にお目覚めになりますよ」
自分にも言い聞かせるようにそう答える。
そのため部屋で物音がした時はかなり慌てた。
まさかと扉を壊す勢いで入れば床に倒れる少女に駆け寄る。
動かない体に泣く姿が切なく、大丈夫だと慰めていれば今度は頭を押さえ蹲った。
何もしてやれないことが辛く、せめてもと手を握ってやれば痛いほど握りしめられた。
大丈夫だと繰り返しながら縋るように握り返してくる少女を守ってやりたいという想いがその時芽生えるのであった。
今日からまた仕事だとうんざりしながら起き上がり見えた室内の様子に固まる。
見たことがある壁、見たことがある天井、見たことがある部屋。
そんなはずないと立ち上がり部屋を飛び出そうとするがーー
バタンッ!
起き上がろうとするが力が入らずベッドから転げ落ちてしまった。
「なに?なんで……」
「お嬢様っ!?」
バタバタと誰かが駆け寄ってくる音が聞こえたがそれにも気付かず、動かない体に必死に力を込めるが震えるだけで思うように動かせない。
「やだ、なんで?」
自分の体のようで自分のものではないように体が重く動かないことが怖くなってくる。
もし一生このままなんてこと……
「お嬢様大丈夫です。暫く眠っていたせいで体が慣れてないだけです。きっとすぐ元のように動けるようになりますから」
混乱と恐怖で涙を流せば、そう言い優しく背を撫でてくれる手があった。
見上げれば見覚えがある優しい笑顔と薫ってくるあの爽やかな匂い。
更に涙が溢れ、力の入らない手をそれでも必死に伸ばせば温かな手がギュッと掴んでくれた。
「本当?」
「本当です。私も側におりますから」
普段なら何を根拠にそんなこと言うのだと上司に半ギレするが、何故か彼の言う言葉はすんなりと信じられた。
なら大丈夫だとホッと息をつくと手を借りベッドまで運んでもらう。
生まれて初めてのお姫様抱っこにドキドキしていれば、ふと見えた手足に驚き困惑した。
「うそ、私縮んでる?」
明らかに成人しているとは言い難い小さな手足。
先程は混乱していてそこまで考えられていなかったが、見下ろす自身の体は子どものそれだった。
「なんで?なんで私ーー痛っ!」
「お嬢様?」
突如襲いくる激しい痛みに頭を抑えて蹲る。
痛い痛い痛い痛い!助けて!誰か助けて!
今まで感じたことがないほどの痛みに再び涙が溢れ、少しでも痛みを和らげようとギュッとシーツを握りしめる。
「お嬢様!?どうされました!」
やだやだやだ死にたくない。
ここがどこだとか、この人は一体誰なのか、どうして自分は縮んでしまっているのか。
分からないことだらけではあったが、何故か今ここで痛みに負ければ自分がいなくなってしまうように感じた。
怖い怖い怖い。やだ死にたくないよっ。
「お嬢様大丈夫です、私がおりますから!」
恐怖で震える中聞こえた声に痛みを堪え俯いていた顔を上げれば、まるで彼も痛みを感じているように顔を歪め必死に呼びかけてくれていた。
大丈夫、大丈夫ですと握りしめてくれる手はとても暖かく、凍えていた心が少しずつ解けていく。
大丈夫大丈夫大丈夫!!
自己暗示のように自分に言い聞かせればまるで通じたかのように痛みが少しずつ引いていく。
「大丈夫です、大丈夫ですからね。私がずっと側におりますから」
バタバタと周りで誰かが走り回る音が聞こえたが、それを無視し握られた温もりだけに集中する。
「大丈夫、大丈夫、私は大丈夫」
そして徐々に治ってきた痛みにホッと力を抜いた途端、私はそのまま意識を失ったのだった。
「お嬢様!?早くお医者様を!」
「はい!」
心配そうに見守っていたメイドたちに指示を出すと痛みにだろう蹲る少女の体をゆっくりと助け起こす。
完全に意識がないためだらりと垂れ下がる手足を不安を押し殺し診察しやすいよう横たえる。
やっと目が覚めたと喜んでいれば再び眠りにつく少女にもしかしたらと不安がよぎる。
「お願いですからまたあの笑顔を見せて下さい」
以前目覚めた時に見せたあの笑顔を。
今まであのように笑った顔を見たことがなかった。
まるで死んでいるのではと思うほど無表情に、どうでもいいとばかりに日々淡々と過ごす少女の姿に主人であり彼女の父親もずっと心配していたのだ。
何とか出来ないものかと自分も一緒になり考えていたある日、慌てて駆けこんできたメイドによりお嬢様が倒れたと知らされた。
原因が分からず、処置のしようがないと医者も匙を投げる中ふと何の前触れもなく目を覚ましたのだ。
目覚めた途端何かブツブツと呟いたかと思えば部屋を出ていこうとするのを慌てて止めればいきなり抱きつかれ驚いた。
猫のように擦り寄ってくる少女にドキドキし、まるで大好きだと言わんばかりに微笑まれた時は年甲斐もなく心が高鳴ったものだ。
そんなことあるはずないと引き離そうとするが、離さないとばかりに更に背中に回る腕に力が篭る。
まるで別人のように可愛らしく笑う姿に戸惑い、しかし何故かもっと見たいとも思った。
けれど眠るように再び倒れたかと思えばそれから一月も目を覚まさないのであった。
心配に主人も日々気落ちしていき、弟であるアルフォートも毎日心配そうに部屋に訪れていた。
「姉様きっと目を覚ますよね?」
「えぇ。きっと今にお目覚めになりますよ」
自分にも言い聞かせるようにそう答える。
そのため部屋で物音がした時はかなり慌てた。
まさかと扉を壊す勢いで入れば床に倒れる少女に駆け寄る。
動かない体に泣く姿が切なく、大丈夫だと慰めていれば今度は頭を押さえ蹲った。
何もしてやれないことが辛く、せめてもと手を握ってやれば痛いほど握りしめられた。
大丈夫だと繰り返しながら縋るように握り返してくる少女を守ってやりたいという想いがその時芽生えるのであった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです
珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる