神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第297話 不器用な二人

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吟子の件もひと段落し、ピットは守備兵が休む大広間に、持ってきた酒や食料を配りながら、守備兵たちに労いの言葉を掛ける。

「皆、今日までご本当によく守ってくれた」

「今夜は我々援軍の者たちにて交代で見張るから、他の者は酒や食事を摂りゆっくり休んでほしい」

「そして、明日で全ての決着をつけ、夜はまた祝杯を上げよう!」

「「「オー!!!」」」

守備兵たちは我先に、ピットたちが持ってきた酒や食料で宴会を始めた。

「隣、いいかな?」

盃に残った酒を回しながら眺めるルクシルに、総司が酒と肴をもってやって来た。

「…ああ」

ルクシルは残った酒を一気に飲み干すと、隣に座った総司が盃に酒を注ぐ。

「本当に、ピットさんは王様らしくない人だな…」

総司は自分の盃を傾けながら呟く。

「ああ…あいつは剣の腕も大したことなく、自分の身すら自分で守れない」

「だから僕は、あいつに『もしも』がないよう、常に守らなければならないのだ…」

総司の言葉にルクシルは答え、注がれた酒を一気に飲み干す。

「ははは、ピットさんのことになると、ルクシルはいつも過保護になるな」

空いた盃に総司が酒を注ごうとするが、ルクシルは手で遮る。

「…そうですね、私たちはこの後見張りもありますし、これ位でやめておきましょう」

「ふっ…わかっているではないか、沖田殿!」

「心得たり!ルクシル殿!」

総司とルクシルは、自分たちの言葉にふと笑い出す。

「ははは…こんなことで笑ったのは、多摩の田舎で近藤さん達と剣術修行をやっていたころ以来だ」

「?そんなに新撰組内は楽しくないのか?」

ルクシルの質問に、総司は寂しそうな笑みを浮かべて話す。

「そうですね、前世の私は新撰組に入隊してすぐ労咳(結核)を患い、ただ無駄に生きて、皆に気を遣わせるだけの存在でしたから…」

「過去を忘れた現世では、病気にこそなりませんでしたが、周囲から新撰組は『人斬りの集まり』と忌み嫌われ、雇い主である京都守護職のかたもり公にすら、家臣としてみてもらえませんでした…」

総司は盃に残った酒を、ゆらゆらと揺らす。

「そんな中、我ら壬生浪士を『この国に必要』と言ってくださったピット王と、その言葉を聞きいれ、『帝』は新撰組を禁裏の警備隊長にしてくださいました」

総司は目線を盃から正面に移し、決意を話す。

「私はピットさんの為なら、命を投げ出しても惜しくない!」

「それはきっと、『新撰組』のみんなも、きっと同じ考えだと思う!」

「我ら新撰組は、この命尽きるまでピット様に忠誠を誓うつもりです!」

総司の言葉に、ルクシルは静かに笑みを浮かべる。

「そうか…ピットは幸せ者だな…」

ルクシルはそう言って、総司の盃に酒を注ぐ。

「この一杯くらいなら…お前の突きも鈍らないだろう?」

「えぇ、この程度の酒では全く問題ないですよ!」

笑みを浮かべた二人は、盃をカチンと合わせ、残った酒を一気に飲み干した。

「そう言えば、ルクシルはピットさんのことを、好きじゃないのかい?」

総司のストレートな問い掛けに、ルクシルは寂しそうな顔で答える。

「ピットが僕に見ているのは、恋ではなく『母性』だよ…」

「母性?」

総司の言葉にルクシルは続ける。

「彼は現世で母ウサギを早くに失い、更に前世では『孤児』だったと言っていたよ…」

「つまり彼は、僕に母のぬくもりを求めているのさ…」

そなのか?と、真剣な表情で聞く総司。

「僕もそれを判っていて、厳しくも優しく接するようにしているのさ…」

「ふーん…」

総司は気のない返事をする。

「どちらにせよ、彼は戦争が終わったら明帝と結婚する」

「僕はエルフの国に戻るだけだよ…」

ここまで話したルクシルは、すっと立ちあがる。

「少し夜風に当たってくる…」

ルクシルはそのまま窓の方へと歩いて行った。

(ルクシル…君も私も、生きるのが下手ですね…)

ひとり残った総司は、ポツリと呟いた。
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