神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第219話 旧知の友

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ここは長州の山奥。

そこには一軒の家があり、猿の獣人老夫婦が畑を耕し、ひっそりと暮らしていた。

「おーい!ひげおやじー!」

畑を耕す老人に、口ひげを生やした小柄な男が話しかける。

「おお!『コダマ』か!」

猿の老人は、古き友人の来訪に驚く。

コダマは進化により、『児玉源太郎(こだま・げんたろう)』となり若返っていた。

「乃木!お前が突然軍をやめて、この山の中に隠居したのを、儂は探し出すのに苦労したぞ!」

「ははは!何も言わずに辞めて悪かったな、児玉!」

『乃木希典(のぎ・まれすけ)』は、顎に蓄えたひげを握りながら、手拭いで顔の汗を拭く。

「せっかく来たのだし、時間はあるのじゃろ?」

「今日はうちで酒でも飲みながら、ゆっくり話そうじゃないか?」

「おお、それはええのう!」

「実はそうなると思ってのう、街でつまみになりそうなものを持ってきたのじゃ!」

児玉はそう言って、イカや魚の干物を見せる。
「ホホッ!用意がええのう」

こうして二人は、夜を待たずに酒盛りを始めた。

「なあ乃木よ、お前は進化した後、何故軍をやめて山に籠った?」

「しかも、進化したにも関わらず老人のままじゃないか?」

囲炉裏を前に胡坐をかき、湯呑に日本酒を入れて、児玉は不思議そうに聞いた。

「児玉…儂はな、前世を思い出したから軍人をやめたのじゃよ」

同じく湯呑に酒を入れた酒を回しながら、乃木は寂しそうに呟く。

「儂はな…前世で自身が無能にもかかわらず、旅順攻略の司令官を賜った」

「その為に、儂は多くの兵士たちを死なせてしもうた…」

「儂が総司令官職を断っておれば、彼らを死なせずに死んだのじゃ」

乃木は、前世で旅順攻略を行った際、多くの兵士の命を奪った自責の念に駆られていた。

「児玉、これは生まれ変わったからと言って、許される事ではないのだ」

湯呑に残った酒を一気に飲み干す乃木。

児玉は胸元に直していた任命書を乃木に渡す。

「大村元帥から預かった、此度の土佐解放戦の司令官任命書だ」

「なぁ乃木よ、ここは一旦前世の事は忘れて、この任命書を受け取ってはくれぬか?」

任命書を黙って読む乃木。

任命書を飲み終え、ふーっとため息をつく乃木に、児玉が話す。

「儂は、今この戦争に勝つことだけを考えておる」

「そして、今回の土佐攻略は、お前さんが前世でやった旅順攻略によく似ておる」

「今この国の中で、これをやってのけられる男はお前しかおらん!」

「頼む!儂の顔を立てると思って、司令官の任を引き受けてくれ!」

そう言って頭を下げる児玉。

囲炉裏の火をじっと見つめ、乃木はただ黙って考えた。

「分かった児玉、この任受けよう」

「本当か?!」

乃木の返事に喜ぶ児玉。

「児玉よ、儂が土佐攻略を受けるにあたって、ひとつ頼みがある」

「なんじゃ?わしに出来る事なら何でも聞いてやるぞ?」

児玉の回答に、乃木は笑いながら答える。

「そんな大したことではない」

「ただ、同じ気持ちでいる男がもう一人おるので、その男を参謀として付けたい」

乃木の言葉にハッとする児玉。

「良いのか乃木?わしが参謀についてもよいのだぞ?」

児玉の申し出に、首を振る乃木。

「いや、あの男がええんじゃ」

「彼奴もきっと、今頃前世を思い出して悔やんでおるはずじゃ」

「儂もあいつと一緒に土佐を開放できれば、少しは前世で死んでいった兵士たちに顔向けが出来ようぞ」

注いでもらった酒を、じっと見つめる乃木。

「乃木、お前は優しい男だな…」

乃木の言葉につぶやく児玉。

「わかった!お前さんの条件はすべて飲もう!」

「ほかに必要な物があったら何でも言ってくれよ!」

「分かった児玉、この木石(感情なく動く人)でよければ力になろうぞ」

乃木と児玉はがっちりと握手した。

「しかし、前世の旅順攻略は苦労したな…」

「全く、あれはヒヤヒヤもんじゃったぞ!…」

そうして二人は、一晩中前世を語り合った。
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