神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第158話 月下の天才剣士たち

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呉を出て二日目の夜、ピットたちは満月に照らされた古都市内に到着する。

古都は平日の夜にも拘らず、大層な賑わいであり、3人は大通りを人並みを分けるようにして歩く。

ピットは獣人から人となり、袴に剣を帯同した武士の出で立ちとなる。

ルクシルはいつも通り、エルフ剣士の出で立ちだ。

人に戻った陸奥は、出立時からずっとぼやいていた。

「あ~あ、なんで俺がこの危険な古都の道案内を、仰せつかっちまったのかな」
「俺の剣術は大したことないし、得意な交渉事ができる場面でもないし、龍馬さんが俺を選んだ理由が全く分からねえぜ!」

「よくもあんなに、いつまでもボヤいていられるものだ…」

ルクシルはあきれを通り越し、感心の域に達していた。

「そんなの決まっているじゃないですか!」
「龍馬さんが一番頼りにしている陸奥さんだからこそ、大事な任務を任せたんですよ!」

「…ピットさん、あんたよくわかっているね!」
「古都の道案内は任せろ!俺が命を懸けて守るぜ!」

陸奥はピットのおだてで、ご満悦となった。

「ピットは人を使うのがうまいな…」

此方は、本当に感心しているルクシルであった。

「たしか加茂川沿いの道を真っすぐのぼって…」

陸奥はぶつぶつ言いながら、道を思い出し、思い出し進んでいく。

「…ピット、誰かに付けられている」

ルクシルの言葉に、ピットは視線を逸らさずにコクリと頷く。

「陸奥さん、そこの角を右に曲がってもらっていいですか?」

ピットの言葉に、何かを察したのか頷く陸奥。

右に曲がった瞬間、一気に走り出した3人。

「僕に付いて来てくれ!」

ルクシルを先頭に、人ごみの中を右に曲がり、左に曲がり、一気に走り抜ける。

「もう…大丈夫だ」

3人は走るのをやめて、路地裏を速足で歩きだす。

「おい、誰だったんだよ?」
「見廻組なんかに捕まったらいやだぜ!あいつら拷問が趣味みたいなやつらだし!」

『いいえ、私たちは見廻組ではありませんよ?皆さん』

暗がりの中、3人の目の前には『だんだら羽織』を身に纏った、細身の鬼が両手を広げて立ち塞がった。

「お前たちは『局長』と『ハジメ』さんを呼んで来い」
「ここは私と、向こうにいる『ケイスケ』さん二人でいい」

「「はい、組長!」」

鬼たちの言葉にピットたちが振り返ると、そこには同じ羽織を着たもう一人の鬼が、刀に手をかけ立っている。

「あなた達は誰です?この古都で身元不明の志士たちは、あらかた捕縛したと思ったのですが?」

細身の鬼の質問に、ルクシルが剣を抜こうとするが、それをピットが制する。

「初めまして、私たちは今日古都へ参りました『大英海龍国』の商人、ピットと申します」
「この二人は私の案内役と護衛になります」
「これから薩摩藩邸の『キッチョム』殿に会う予定です」
「この件は、将軍『とくもち』公から達しがあっているはずですよ?」

ピットは細身の鬼の目を見ながら、毅然と説明した。

「将軍様から?私たちは何も聞いていないですね?」
「一度我々の屯所に来ていただき、じっくり説明願えますでしょうか?」

なるほど、どうやら将軍の達しは、どこかで揉み消されているようだな。

ピットはそう理解し、二人の鬼に話を続ける。

「そうですか、じゃあ仕方ない」

その言葉と共に、ピットたちは刀を抜く。

「あとで『容保』公に怒られても知りませんよ?」

「何故お前たちが『かたもり』公の名前を知っている!」

ケイスケが驚き質問した瞬間に、ピットは指示を出す。

「ルクシルは『沖田総司』の相手をしてくれ!」
「私と陸奥は『山南敬助』の相手をする!」

「任せろ!」と、短く返事をするルクシル。

「『沖田総司』?『山南敬助』?やつらは何を言っている?」

「ルクシル、気を付けろ!沖田は『天然理心流』と『北辰一刀流』の使い手で、『三連突』を出してくる!」
「陸奥さん、山南は龍馬さんと同じ『北辰一刀流』の免許皆伝だが、半獣化できる私たちなら、二人で何とかできる!」

「え?え?どういう事?」

オロオロする陸奥の横を抜け、暗がりを利用したピットの体は、一気にケイスケの体に密着させ、つばぜり合いに持ち込んだ。

「すごい、一瞬でケイスケさんの懐に入るなんて、やるなあいつ!」

「感心してみているところすまないが…君には、僕の相手をお願いするよ」

ルクシルは静かに双剣を構えた。

「へ~、双剣とか昔の剣豪みたいだね!」
「でもさ、私の攻撃をちゃんと見切れるかな?」

ソウジは剣先に全てを集中させて、ピクリとも動かなくなった。

「さっき…ピットとか言ってたやつ?」
「あいつ、『沖田総司』や『山南敬助』と言っていたけど、あれは私たちの事かい?」
「もしそうだとして、なんで私の流派を知っていたのだい?」
「しかも、仲間しか知らない私の技まで知っている」
「それだけじゃなく、ケイスケさんの流派も構える前から当てている」
「君たちはいったい何者なんだい?」

「へえ…一分の隙もないほどに集中しておきながら、よくそれだけ喋れるものだな?」
「『新撰組一番隊組長の、沖田総司(おきたそうじ)君?』」

「貴様、何故出来たばかりの『新撰組』の名を!?」

一瞬だけ隙ができたソウジを、ルクシルは見逃さない。

2本の剣で相互に突きを連続するルクシル。

その突きを後ろに下がりながら、月明りの中全て上半身だけでかわすソウジ。

ルクシルの連続突きが一瞬止まった瞬間、ソウジの『三連突』が襲ってくる。

二撃目まではスウェイで躱すが、三撃目は速過ぎて躱せない。

胸を貫いた!と思った瞬間、ルクシルの体は宙を舞い、つま先でソウジの刀を握った手を蹴り上げた。

「くっ、『とんぼ返り』で手を蹴り躱すとは、なかなか足癖がよくない女性ですね」

「ああ、昔からあまり行儀が良い方ではなかったのでね…」

こんなやり取りをしながらも、二人の顔は強敵との戦いにうっすらと笑っていた。

そして、ピットの方も死闘が続く。

暫くつばぜり合いが続くも、やがてケイスケに押し出されてしまう。

もう一人の陸奥は、へっぴり腰でケイスケを威嚇するのがやっとだ。

弾かれたピットを、ケイスケの突きが襲うが、着地した瞬間にピットは後ろに跳ね飛ぶ。

一気に駆け出すケイスケに向かって、ピットは前に跳ね飛び、『ケイスケ』の顎へ頭突きを喰らわせる。

「うぐっ!」

『ケイスケ』はその場で片膝をついたが、ピットもまた、ケイスケが瞬時に出した突きにより、左肩を貫かれていた。

「ピット!」

「ルクシル!沖田に集中しろ!」

心配するルクシルにピットもとっさに声を掛けるが、ソウジはその瞬間を見逃さない。

ソウジは斬り上げで、ルクシルの剣一本を弾き飛ばしてしまう。

「さあ、どうする剣豪さん?」
「もう一つしか剣は残っていませんよ?」

再び突きの構えをするソウジ。

「…ああ、そうだな」
「じゃあ僕も、『本気』の剣を見せてあげるよ」

ルクシルは両手で剣を握りしめ構える。

その集中した剣先は、闇の中で僅かに震えている。

「その構えは…」
「あなた『北辰一刀流』が使えるのですか?」

瞬間、高速の踏み込みでソウジの刀を叩き落としたルクシル。

「速い!」

思わず呟くソウジ。

「すまないな…僕も『北辰一刀流』免許皆伝なんだ」

ルクシルはとっさに剣を捨て、ソウジの腕を掴み投げ飛ばした。

「ぐっ!」

背中から投げ倒れたソウジの首に、ルクシルは小太刀を突き付ける。

「ちなみに『喧嘩』も強くてね…兄にもよく勝ったものさ」

「静まれ!」

「双方、刀を収めよ!」

通りの外からの大声が4人の戦いを止める。。

そこに現れたのは、イノシシの獣人数名と、『だんだら羽織』の男たち。

ルクシルは小太刀を収め、ソウジは起き上がり、落とした刀を鞘に収める。

「いい刀だな、『菊一文字』か?」

「何故?なぜあなたは私の『愛刀』まで知っているのですか?!」

ルクシルの言葉に、ソウジは驚きを隠せない。

「フフフッ…あの『沖田総司』の驚く顔が見れるだなんて…転生もしてみるものだよ」

ルクシルは、ふっと笑ってピットのもとへ向かう。
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