神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第156話 ルクシルの祖国 

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「ルクシル、入っていいかい?」

ノックをしたピットは中の返事を待つ。

「…どうぞ、大丈夫です」

中からは弱弱しくも、はっきりとルクシルは返事した。

ドアを開け中に入ると、金髪のルクシルが床に片膝をつき、頭を下げてピットを迎えた。

「…王よ、私はあなたを最後まで守ることができなかった」
「…言い訳はしない、僕を解任して新たな護衛を呼んでほしい」

ルクシルは、悲壮感を漂わせながらピットに告げた。

「ルクシルは、私の護衛をやめたいの?」

「やめたいなどではなく…私の力ではあなたを守り切れないと判断致しました」

下を向き、肩を震わせ応えるルクシル。

あの化け物との戦いで、気を失ったことを気にしているのだろうか?

少しの沈黙が流れ、ピットが口を開く。

「ねえルクシル、少し話をしないか?」

「王よ、仰せのままに」

そう言ってベッドに腰掛ける2人。

「なあルクシル、まずその『王』という呼び名はやめてくれないか?」

ハッとしたルクシルは言い直す。

「失礼しました、ピット様!」
「この地にいるときは『王』と言う言葉は伏せて…」

「そういう事じゃないんだ!」

ピットの言葉に、はっと息をのむルクシル。

「ごめん、そういう事じゃないんだ」
「私はルクシルに『王』としてではなく、『一人の男』として見てもらいたいんだ」
「だから、君にはいつでも『名前』で呼んでもらいたい」
「だめかな?」

ピットは気付いていなかった。

当人は王としての見方を捨てて、『個人』で見てほしいとお願いしたのだが、考え方によっては『ルクシルに好意を寄せている』ようにも聞こえる。

「はっ?こんな時に君は何を言っているのだ?」
「僕はただの護衛であって、そんな訳にいかないだろう?」
「だめだ、君の言葉であっても、それは絶対に受け入れられない!」
「君が思っているような女では…」

そして、ルクシルは後者と勘違いした。

焦るルクシルの言葉を聞いて、ピットは笑いだす。

「アハハハハ」
「そうだ、それでこそいつものルクシルだよ!」

「おまえ…僕をからかったのか!」

顔を赤くして怒り出すルクシル。

「アハハハハ」

「君ってやつは…フフフフフ」

ピット当人はそんなつもりはなかったのだが、結果、二人の心の間にあった『壁』は無くなっていた。

「でもさ、ルクシルはとても真っすぐで魅力的な人だよ?」
「女王が君を護衛にしてくれたことに、本当に感謝しているんだ」

ピットの素直な感想に、内心は嬉しくも、少しだけ困惑した顔になったルクシル。

「彼ならば…」

思いを呟くルクシル。

それからルクシルは、意を決した顔となり、自身の秘密と過去を話し始めた。

「以前、僕は森から攫われ、奴隷になったと言ったのだけどね…あれは少し違うんだ」

『変身解除』

そう唱えたルクシルの姿は、銀の髪に褐色の肌、燃えるような赤い瞳へと変身した。

「『ダークエルフ』これが僕の本当の姿さ」

(やはりあれは見間違いじゃなかったのだ…)

驚いたピットを横目に、ルクシルは寂しそうに話す。

「僕の本当の国は『日ノ本』にある『屋久島』という小さな島なんだ」
「僕の知る限り、ダークエルフの数は少なく、この島にいた数百人が全てだったと思う」
「そして僕が20歳の時に、『希少種』が生息していると知れてしまい、島は『日ノ本』に占領されて、皆は商品として売られ、私や一部の女は『公家や大名たち』に引き渡された」

「その後は…君の想像通りだよ…」

「そんな…そんなことって…」

ピットの言葉は続かない。

寂しく笑って、ルクシルは話を続ける。

「『公家や大名』のもとでの生活は…生き地獄だった」
「そこでは『人としての尊厳』などなかったのだから…」

「その時僕は、何度も何度も、数えきれないほど『死にたい』と考えていた」
「でもその度に、『生きていれば…生きてさえいれば、また家族に逢えるかもしれない』を心の支えにして耐えてきたんだ」

「そしてある日、僕はとうとう耐え切れなくなって、その城から逃げ出し、『変身』を使って亜人連合国に密航したんだ」

「あの…日ノ本にいたときに比べれば、亜人連合国の奴隷生活は『天国』だったよ…」

「そこからの話は、以前君に話した通りだ」
「ただ一つ違うのは、自分が希少種である『ダークエルフ』として悟られないよう、常に『変身』でエルフに化けている事かな…」

ルクシルは涙をこらえて、ピットの両手を握りながら顔を見る。

「なぁ、僕たちは何か悪い事でもしたのかな?」
「ただ静かに、小さな島の森の一部でひっそりと暮らしていただけなのだよ?」
「ただ『希少種』というだけで、僕らは家族や友達・恋人を失わなければならなかったのかな?」

「もう何十年も経ったのに…僕は過去を忘れることができないんだよ…」

話し終えたルクシルは、顔を伏せて、肩を震わせて泣いている。。

ピットも涙を流していた。

そんな彼女の壮絶な人生を聞き、ピットはどう返事すればいいか分からない。

「ルクシル…私は君の心を助けたい」
「もし君が望むなら、出来る限り私はそれを叶えてあげたい」

「それが『日ノ本』を攻め落とすであっても…」

ピットの決意にも似た言葉に、ルクシルは驚き、そしてピットを諭した。

「ありがとうピット」
「今の君の一言で、僕はどんなに救われただろうか…」

「でもね…君は…王である君は一時の感情で動いてはいけないのだ」
「もし僕のことを思ってくれるのであれば、そんな間違った世界を正しい方向へ導いてほしい」
「ピット…君ならきっとできると信じているから…」

そう話したルクシルは、涙を流しながら願いを伝える。

「そして…叶うなら、僕は…愛した家族や仲間たちを…探したい」
「まだ生きているかは…わからないけど…どんな形であれ…また皆を…生まれ育った『屋久島』へ…連れて…帰りたい」

ピットは泣きながら、涙が止まらないルクシルを優しく抱きしめた。

「わかった、ルクシル」
「私はもう迷わないよ」
「私は必ず『正しい世界、みんなが笑って暮らせる世の中』にしてみせるから!」

「そして私にも、ルクシルが愛した人たちを探しだす事を手伝わせてほしい!」

涙を拭いたピットは、ルクシルに向いて立ちあがり、ルクシルに手を差し伸べた。

「これからもよろしく、ルクシル!」

「ああ、これからもよろしく頼む…ピット!」

ピットの手を取り、ルクシルも涙を拭き立ちあがった。

「それと…」
「実はこのことを話しに来たんだけど、ルクシルは『転生者』みたいなんだ」

「そう…なのか?」

ピットの言葉に驚くルクシル。

「うん、この前の戦いのときに、何らかの形で進化の条件を満たしたのだと思う」
「どうする?」

少し考えて、進化を受け入れたルクシルは、前世を思い出す。

「なるほど…そういう事か」
「ありがとうピット、僕の前世はいつかちゃんと話すから、その時までは秘密にさせてくれ」

少し考えた後、分ったとピットが話すと同時に、ノックもせずに左腕を吊った龍馬が入ってきた。

「ピットさん、気が付いたか?」
「あれ、こちらの黒いエルフさんは誰じゃ?」

龍馬の言葉に、少し噴き出すルクシル。

「まったく…お前と言う奴は全然変わらんな、龍馬」

「うん?わしにこんなべっぴんな、エルフさんの知り合いはおらんがのう?」

この言葉を聞きピットとルクシルは大笑いした。
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