神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第135話 亜人連合国の将軍

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幕府海軍旗艦「富士山丸」。

全長70m弱の艦艇で、艦橋の後ろに煙突が2本、艦橋と煙突の前後に回転式2連装砲を一門づつと、艦中央側面に固定式の副砲が、左右2門ずつ配備されている。

蒸気船であるこの艦は、この世界では旧式の船であるが、情勢により数を揃えねばならない幕府が、『三龍合衆国』から急遽買い付けた軍艦の一隻である。

亜人連合国には、この同型艦が薩摩藩に1隻と幕府に5隻の計6隻存在する。

現在富士山丸は、長崎港に幕府要人を連れて寄港していた。

初めて船に乗ったピットは、興奮を抑えられずにいた。

「龍馬さん、この鉄の船はいったいどうやって動くのですか?」
『この鉄の塊がなぜ浮くのですか?』
「あの大きな筒みたいなもので戦うのですか?」
「あの白い服の獣人達は、皆この船で働いているのですか?」
「すごい!凄いです、龍馬さん!」

「ワハハッ!ピットさんも、わしが初めて船を見た時と、おんなじ反応をしとるな!」

「ピットさん、今先生がこちらに戻って来ているそうですので、その間にこの船の『クルー』を紹介しますきに」

そう言って龍馬は、ピットたちを連れて船内を案内し始めた。

「龍馬さん、船内を案内しているときに、体の周りが光っている人がいませんでした?」

「そうなんじゃ、たまにわしの仲間が光っとるんじゃが、あれはなんじゃ?」

ピットは進化について、もう一度説明する。

「はー、と言う事は儂でも進化させることが出来るがか?」

「はい、条件は龍馬さんを信用してくれることになります」

「なるほど、ちょっと待っててくれ!」

そう話すと、クルーを数名連れてきた。

「よし、お前ら一列に並べ!」

「えっ?ちょっと、どういう事ですか?」

こうして、千屋寅之助(ちやとらのすけ)・高松太郎(たかまつたろう)・近藤長次郎(こんどうちょうじろう)・新宮馬之助(しんぐううまのすけ)・沢村惣之丞(さわむらそめのじょう)の5人が進化を果たした。

更に、ピットが船内で見つけた、イタチの獣人で紀州藩士の『陸奥陽之助(むつようのすけ)』も進化する。

彼らが前世で、日本初の株式会社『亀山社中』を設立し、更にそのあと『海援隊』の設立を行っていた。

この時、もう一人のイタチ獣人から進化した『佐藤政養(さとうまさやす)』は、後日の亜人連合国で鉄道を創ることになる。

「まずはこの後に起こるであろう『池田屋事件』を、未然に防がにゃいかん」
「その為には、長州藩士の秀才『トシマロ』か、肥後の『テイゾウ』、この海軍操練所から脱走した『キツマ』『キヤタ』含む数名の誰かを探し出して、会合場所を突き止めねばならん」
「とりあえずわしは、先生に許可をもらって、古都を探してみるぜよ」

龍馬たちがそんな話をする中、先生が帰ってくる。

「龍馬、今帰ったぞ!」
「おいらに何か話があるんだろ?」

ピットたちが声の方を見ると、裃を着たドワーフがトコトコ歩いてきた。

「お前さんが、龍馬の話していたピット王さんかい?」
「おいらは海軍奉行の責任者『リンタロウ』、龍馬が是非あなたと会わせたいって言っていたので、どんな方なのか楽しみにしていたよ」

『リンタロウ』は気さくにピットへ挨拶した。

「私も龍馬さんが『先生』とおっしゃる方がどんな方なのだろうと、お会いできるのを楽しみにしていました」

挨拶も終わり、龍馬が本題を話し始めた。

「先生、実は長州が古都で、秘密裏に会合を開こうとしよると情報がありまして」
「わしがその会合を開かんよう、古都に潜伏しておる『ヅラ』さんに、頼みに行こうと思っとります」
「先生、無理を承知でお願いします」
「わしが古都に行くことをお許しください」

そう言って龍馬はリンタロウに頭を下げる。

「龍馬、いま古都では『よっとる公』の部下たちが、血眼になって『土佐勤王党』の奴らを探しだして捕まえているらしい」
「いくらお前の頼みでも、今の古都に行かせる事は出来ん!」
「わかってくれ、龍馬!」

先生の言葉にも、龍馬はなおも食い下がる。

「ここでわしが行かなかったら、また多くの血が流れてしまう!」
「もう…前世のような悲劇は起こしちゃいかんがじゃ」

「前世の悲劇?」

何のことかわからずにいるリンタロウに、ピットがこれまでの経緯を説明した。

「そうか、だからお前さんは、俺とピット王を早く合わせたかったわけだな?」

「ピット王、よかったらおいらの前世の記憶を戻しちゃもらえないかい?」

この言葉に、ピットは了承して進化を行う。

「なるほど、確かに前世の歴史と、現世の歴史の流れが被っているようだな」
「おいらの前世の名前は『勝麟太郎(かつりんたろう)』だ、以後よろしく頼むよ」
「しかし…どうしたものだろうか」

悩んでいる二人に、ピットが提案をする。

「その役目、私が引き受けましょうか?」

「ピットさんが?」
「ピット様、あなたは何を言っている!」

龍馬の声と同時に、ルクシルが語尾を強めて言葉を返す。

「リンタロウ殿の話を聞いただろう?そんな所に行ったら僕でも守れる自信はないぞ!」

「そうじゃ、ピットさん。わしらでも危ないのに、何も知らんあんたが行ったら自殺行為じゃ」

二人の言葉を静かに聞く麟太郎。

「ピット王、その感じだと、何か方法があるんだろ?」

麟太郎の質問に、ピットは説明する。

「私はこの国に『大英海龍国の商人』として入国しております」
「もし私に何かあった場合、幕府は大英海龍国との『重大な』外交問題に発展しかねません」
「さらに、私には頼もしい護衛がおりますので心配いりません!」

ピットの言葉に、表情が明るくなる龍馬とは対照的に、ため息をつきながら、片手で頭を抱えるルクシル。

「よし、分かった!」
「ピット王のその提案に、おいらたちは乗っからせてもらうよ!」

ルクシルが何か言おうとするその前に、麟太郎が追加で提案してくる。

「しかし、それでも安全とは言えないから、おいらと親交のある『キッチョム』どんに、護衛の依頼をしておこう」

「『キッチョム』どんは、確か長州の高杉さんが評価されていた御仁ですね?」

「そうじゃ!今後の為にも『薩摩藩』と縁を持っておいた方がええがじゃ!」

ピットの問いに、龍馬が返事をした。

「…本当は反対だが、仕方ない」

ルクシルも渋々承知する。

「さて、あとはどうやって古都まで行くかだが…」

麟太郎たちが思案する中、一人の高貴な身なりをした男が入ってきた。

「お邪魔するよリンタロウ、誰かと打ち合わせ中だったのかい?」

その姿を見た、ピット以外のみんなが平伏した。

「ピット様、この国の将軍『とくもち』様です!」

「えっ」

ルクシルの言葉に、慌てて礼を取ろうとするピット。

「無礼者!」

「いいよ、いいよ、気にしなくて」

怒鳴る護衛に、問題ないと諫める将軍。

「リンタロウ、この方は誰だい?」

居直った麟太郎は、ピットのことを説明した。

「そうでしたか、貴方が森の争乱を鎮めてくれた『王』でしたか」
「こちらの非礼をお詫びします」

そう言って頭を下げる将軍を、慌てて止めるピット。

「此方こそ、貴方の船で勝手に話し込んでしまい、申し訳ありませんでした」

ここで麟太郎が、ここまでの話の内容を説明する。

「そうですか、古都でそんな計画があるかもしれないのですか」
「そういう事でありましたら、私から幕臣の方へは伝えておきましょう」
「リンタロウ、薩摩の護衛の件はくれぐれも頼みますよ」

「はっ!」

そう指示すると、将軍はピットに向き、一つの提案をする。

「もし宜しければ、このまま『大阪港』まで、この『富士山丸』に乗って行かれませんか?」

将軍からの提案に、ピットたち一同は驚く。

「事情が事情でありますし、王であるあなたを、表に立って助けることが出来ない私に、せめてこれ位はさせて頂ければと思っております」
「それに、こちらでも噂になっておりました『森の争乱』を治めた、貴方のお話も聞きたいので」

にこりと笑う将軍に、ピットは協力をお願いする。

「ありがとうございます、もし宜しければ将軍の厚意に甘えさせていただきます」

将軍はコクリと頷き、護衛に伝える。

「今からピット王は、余の『賓客』になったが故、他の幕臣たちに協力するよう伝えよ!」

将軍の号令に、承知しましたと返事をする。

「ピット王、リンタロウ、邪魔したね」
「また後からゆっくり話は聞かせてもらいます」
「この船にいる間は、どうぞゆっくりしていってください」

将軍はそう言って退出した。

「優しい方ですね」

ピットの言葉に麟太郎は嬉しそうに語る。

「おいらね、あの将軍様が大好きなんだよ」
「あの人の為なら、この命を差し出しても惜しくないと思ってる」

麟太郎の言葉は将軍の人柄を物語っていた。

この時、ピットは将軍が「転生者」であることが分かっていのたが、そのまま告げずにいた。

この後どれだけでも時間があると思っていたからだ。

そして、この時伝えなかったことが、ピットを大きく後悔させることとなる。

ピットの出現は、今まであった「前世の過去」を狂わせ始める。
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