神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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群雄進撃編

第134話 新たな船出

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別荘に戻ると、一人の男が二人掛けのソファーに寝そべっていた。

「龍馬さん!」

ピットが声を掛けると、寝ていた男が飛び起きてピットに挨拶した。

「ピットさん、久しぶりじゃな!」

がっちりと握手した二人。

ピットは先に、龍馬へルクシルを紹介する。

「ほう、これはえらいなべっぴん(美人)さんじゃな!」

「…どうも」

ルクシルは龍馬が苦手なのか、そっけない態度をとる。

それから二人はこれまでのことを話した。

「そうか、じゃあ軍師殿達はあちこちで交渉しておるんじゃな?」

「はい、シフさんの共同経営者であるトーマトさんも進化して、今は『トーマス・グラバー』と改名しているのですが」
「この方が『大英海龍国』の商人だったらしく、孔明がそちらの方面と交渉を行っているようです」
「そして、シフさんが紹介してきた『トレビアン帝国』の『ロッチ公使』に官兵衛が話を行っているのです」

「そうか!トーマスさんには、わしら志士たちも、ようしてもらっておる」
「まさか彼まで知っておるとは、ピットさん達はまっこと顔が広いのう」
「トレビアン帝国は確か…ボナパルテって男が、前の王を倒して、新たな王になった国じゃったな?」

話を聞いた龍馬は、ピットに古都近辺の現状を中心に、この国全体を説明し始めた。

「三か月前にピットさんたちと別れた後、わしゃ長州に行って高杉さんに会いに行ったんじゃ」
「長州藩士の中でも、高杉さんは柔軟な考えを持っとるから、わしの話もすぐ理解してくれての」
「『おもしろい!じゃあ僕もピット君たちに会ってみよう』と高杉さんが言ったので、わしゃ長州を出たんじゃ」

ここまでの話を聞いたところで、高杉さんが訊ねて来た状況がよく分かった。

「本当は『ズラ』さんや、『クザゲン』さんとも会いたかったのじゃが、その時彼らは古都にいた為、逢えんかったのじゃ」
「あの時古都に行って二人に会っとれば…」

龍馬は悔しそうに話す。

「それでわしは、いったん土佐に帰ったんじゃ」
「以前話した、リザードマンの『ハンペン』、同じくリザードマンで庄屋の『ナカシン』と『ヨシトラ』に会って『公議政体論(佐幕と勤王にいる有能な人物で政治を行う)』の話をしたんじゃが、弱腰な幕府と共存などありえない」
「勤王の志士により、帝の下で新体制を創り、この国を狙う『夷狄(秦・宋・日ノ本)』を撃退すると息巻いておって、取り付く島もなかったのじゃ」
「挙句に、土佐藩主の『よっとる公』に煽てられて、長州と一緒に佐幕派の邪魔者を消す『天誅組(てんちゅうぐみ)』を創り、幕府の要人を次々と暗殺しはじめたんじゃ」

「土佐藩主の方も勤王の方なのですか?」

ピットの質問に龍馬は首を振る。

「わしらが住んどる土佐っちゅう所は、少し前から絶対的な身分制度があるんじゃ」
「よっとる公や、それに仕える人間武士は「上士」、それ以外の獣人は「下士」と呼ばれ、上士は下士に何をしても許される」
「以前の土佐は、そこまでひどい身分差別はなかった」
「しかし、『日ノ本との闇貿易』を境に、状況は一変してしもた」
「下士が上士に逆らえば死刑はもちろん、日傘を差せば死刑、草履以外の物を履いても死刑、道を歩く上士に礼(土下座)をとらなければ斬り殺される…」
「下士には、わしら郷士などの武士も含まれるが、基本的には下士と同じ扱いじゃ」
「よっとる公はその上士の頂点であり、同じく、わしらを虫けら以下にしか思っとらん」

ピットは、亜人連合国の身分制度について、ある程度聞いていた。

その中でも土佐は、特にひどい身分差別を受けていた藩なのだ。

「今、時流は『勤王』で、ハンペンは他藩にも知れ渡る『勤王の志士』なのじゃ」
「よっとる公はその影響力を利用し、嫌いな郷士にも拘らず支援しておるのじゃ」

しかし、と龍馬は話を続ける。

「今回の政変で、『勤王の旗頭』である長州が失脚してしまい、時流は『佐幕』へと移ろうとしている」
「そもそも、下士な大嫌いなよっとる公は、これを機に加担した下士を必ず粛清し始めるはず」
「それをハンペンに説明しても、あいつは『よっとる公が必ず立ち上がってくれる!』と信じて疑わんのじゃ」
「ハンペンは…前世同様、よっとる公を妄信しすぎちょる…」

友の目を覚ますことが出来ず、悔しがる龍馬。

「しかし、今はハンペンのことだけに構っている時間はないのじゃ」
「じつは今、わしゃある人の紹介で、幕府の海軍で働いておるんじゃが」
「先日の政変の時も、わしゃ『神戸海軍操練所』におったのじゃが、一緒に働いておった仲間の獣人が、暫くして行方不明になってのう」
「どうやら、古都に潜んで居る有力な勤王志士たちが、近く会合を開くと噂が流れておって、その会合に参加するために海軍から逃げだした様じゃ」

「そして、自領に戻った長州藩じゃが、近々古都に攻め上るという噂もある」
「このままでは、前世で起きた内戦は避けれんぜよ」

ここまで話し、龍馬はピットに向き直る。

「ピットさん、よかったら海軍にいる、わしの先生に会ってもらえんかの?」
「今、わしらは先生と一緒に、長崎港に寄港しておる」
「今ならわしの力で船に乗り込むことも可能じゃ!」
「どうか一緒に付いて来てくれ!」

頭を下げる龍馬の前で、ルクシルの顔を見るピット。

「…僕はいいとおもうよ」

ため息交じりに軽く頷いたルクシルに、ピットも決意する。

「龍馬さん、私を一緒に連れて行ってください!」

「ええがか?それならぜひお願いします」

「では、私とルクシルは急いで出立の準備をしますので、少しお待ちください」

龍馬の誘いに応じたピットたちは、すぐさま着替えて準備をし、手紙を残して出立した。

その日の夜、別荘に戻った二人は主の手紙を読み終えた。

「そうですか…王は決断しましたか」

官兵衛は呟き、孔明は答える。

「官兵衛殿も分かっていらっしゃると思いますが、我々が理由で、王自身の成長を邪魔してしまっています。」
「王には、自分が持っている力は『進化』だけではないと、自身で気づいてほしいのです」
「出来れば、『自分の御力で亜人連合国を手に入れてほしい』のですが…」

「孔明殿のハードルは相変わらず高いですな」

官兵衛の言葉に孔明は笑みを浮かべて答える。

「私は出来ない人には、こんな無茶なこと言いませんよ?」
「それに、この国に残された時間はあまり多くありません」

「やはり『日ノ本』が動いてくるようですか?」

官兵衛の言葉に孔明は静かに頷いた。

「私の考えでは、「オダノブナガ」は国内統一まで動かないと踏んでおりましたが、それを前倒しして亜人連合国に干渉してくるようです」

「つまり、武力行使を行うという事ですな」

「その通りです」
「恐らく、亜人連合国のゴタゴタが続いているうちに侵攻して、領土拡大の足場とするつもりなのでしょう」

孔明の見識に同意する官兵衛。

「ピット王には、半蔵とルクシルが付いているので、現段階での心配は無用です」

「王よ、どうか気を付けて…」

二人は主のことを信じつつ、自分達がやるべきことの打ち合わせを始めた。

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