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第106話 馬と鹿
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秦の首都『咸陽』。
秦の首都『咸陽』。
現在、レッドキャップ(項羽)が自領を勝手にこの地名で名乗っているのが、こちらの方が他国に認められている正式な首都となる。
この国は今や宦官の趙高(ちょうこう)が全ての権力を握り、逆らうもの達は次々と粛清していた。
「趙高よ、秦は帥のお陰で今日も平和であるぞ」
何も知らない皇帝の良く使うこの言葉に、家臣たちは心の中で辟易としていた。
現実の秦は、四方を敵に攻められ、あちこちで内乱が発生している。
現在ラビットの家臣となっている章邯・董翳・司馬欣も、元はと言えば秦の犯罪者たちを守備兵として、宋軍の侵入を防ぐため森の砦に配置したのだが、レッドキャップの攻撃にあい陥落したのである。
また、レッドキャップ・秦国ともに双方を嫌っており、咸陽が2つになったのも、レッドキャップが真の首都とするために成都を改名したのである。
「趙高よ、秦国は今どのような状況じゃ?」
「はい、農作物は今年も大豊作で、それをもとにした貿易も順調で、皆皇帝に感謝しております」
「そうかそうか、皆趙高に任せておけば安心じゃな!」
この年の秦は大凶作で、農民たちは年貢を納める状況ではなかったのだが、そんな状況でも役人は残った食料を取り上げ飢饉が発生、あちこちで一揆が発生し軍と衝突している。
これを皇帝に進言しようとしても、趙高の息のかかったもの達に全てを揉み消されてしまう。
もはや皇帝には本当のことは一切耳に入ってこない状況である。
(ここで一度ちゃんと私に忠誠を誓っているか確認しないとな…)
趙高はあることを思いつく。
翌日、趙高は朝議に鹿を連れてくる。
「昨日、珍しい馬を手に入れました」
皇帝は眉を顰める。
「これは鹿ではないか!」
その皇帝の言葉に趙高は朝議に参加した者たち一人一人に聞いていく。
「これは何に見える?」
「…馬でございます」
うむ、と頷き次の者に聞く。
「これは鹿でございます!」
うむ、と頷きまた次の者へと聞いていく。
皇帝には何をやっているのか全く分からなかった。
全てを聞き終えた趙高は、皇帝に向かって進言する。
「どうやら、人にはいろいろな見え方があるようです」
この言葉を最後にその日の朝議は終了した。
次の朝、朝議を開くと2昨日の人数の1/4が欠席している。
「今日の朝議は出席者が少ないな?」
皇帝の言葉に趙高は答える。
「今日は流行り病で欠席者が多いようです」
「そうか…皆昨日は元気にしておったのだがな、体を大事にするよう伝えておいてくれ」
皇帝の言葉に趙高は礼を取る。
尚、欠席したのは鹿を鹿と言った者たちであった。
その日朝議を欠席した者たちは、二度と朝議に出ることはなかった。
秦の首都『咸陽』。
現在、レッドキャップ(項羽)が自領を勝手にこの地名で名乗っているのが、こちらの方が他国に認められている正式な首都となる。
この国は今や宦官の趙高(ちょうこう)が全ての権力を握り、逆らうもの達は次々と粛清していた。
「趙高よ、秦は帥のお陰で今日も平和であるぞ」
何も知らない皇帝の良く使うこの言葉に、家臣たちは心の中で辟易としていた。
現実の秦は、四方を敵に攻められ、あちこちで内乱が発生している。
現在ラビットの家臣となっている章邯・董翳・司馬欣も、元はと言えば秦の犯罪者たちを守備兵として、宋軍の侵入を防ぐため森の砦に配置したのだが、レッドキャップの攻撃にあい陥落したのである。
また、レッドキャップ・秦国ともに双方を嫌っており、咸陽が2つになったのも、レッドキャップが真の首都とするために成都を改名したのである。
「趙高よ、秦国は今どのような状況じゃ?」
「はい、農作物は今年も大豊作で、それをもとにした貿易も順調で、皆皇帝に感謝しております」
「そうかそうか、皆趙高に任せておけば安心じゃな!」
この年の秦は大凶作で、農民たちは年貢を納める状況ではなかったのだが、そんな状況でも役人は残った食料を取り上げ飢饉が発生、あちこちで一揆が発生し軍と衝突している。
これを皇帝に進言しようとしても、趙高の息のかかったもの達に全てを揉み消されてしまう。
もはや皇帝には本当のことは一切耳に入ってこない状況である。
(ここで一度ちゃんと私に忠誠を誓っているか確認しないとな…)
趙高はあることを思いつく。
翌日、趙高は朝議に鹿を連れてくる。
「昨日、珍しい馬を手に入れました」
皇帝は眉を顰める。
「これは鹿ではないか!」
その皇帝の言葉に趙高は朝議に参加した者たち一人一人に聞いていく。
「これは何に見える?」
「…馬でございます」
うむ、と頷き次の者に聞く。
「これは鹿でございます!」
うむ、と頷きまた次の者へと聞いていく。
皇帝には何をやっているのか全く分からなかった。
全てを聞き終えた趙高は、皇帝に向かって進言する。
「どうやら、人にはいろいろな見え方があるようです」
この言葉を最後にその日の朝議は終了した。
次の朝、朝議を開くと2昨日の人数の1/4が欠席している。
「今日の朝議は出席者が少ないな?」
皇帝の言葉に趙高は答える。
「今日は流行り病で欠席者が多いようです」
「そうか…皆昨日は元気にしておったのだがな、体を大事にするよう伝えておいてくれ」
皇帝の言葉に趙高は礼を取る。
尚、欠席したのは鹿を鹿と言った者たちであった。
その日朝議を欠席した者たちは、二度と朝議に出ることはなかった。
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