神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

文字の大きさ
上 下
107 / 317

第106話 馬と鹿

しおりを挟む
秦の首都『咸陽』。

秦の首都『咸陽』。

現在、レッドキャップ(項羽)が自領を勝手にこの地名で名乗っているのが、こちらの方が他国に認められている正式な首都となる。

この国は今や宦官の趙高(ちょうこう)が全ての権力を握り、逆らうもの達は次々と粛清していた。

「趙高よ、秦は帥のお陰で今日も平和であるぞ」

何も知らない皇帝の良く使うこの言葉に、家臣たちは心の中で辟易としていた。

現実の秦は、四方を敵に攻められ、あちこちで内乱が発生している。

現在ラビットの家臣となっている章邯・董翳・司馬欣も、元はと言えば秦の犯罪者たちを守備兵として、宋軍の侵入を防ぐため森の砦に配置したのだが、レッドキャップの攻撃にあい陥落したのである。

また、レッドキャップ・秦国ともに双方を嫌っており、咸陽が2つになったのも、レッドキャップが真の首都とするために成都を改名したのである。

「趙高よ、秦国は今どのような状況じゃ?」

「はい、農作物は今年も大豊作で、それをもとにした貿易も順調で、皆皇帝に感謝しております」

「そうかそうか、皆趙高に任せておけば安心じゃな!」

この年の秦は大凶作で、農民たちは年貢を納める状況ではなかったのだが、そんな状況でも役人は残った食料を取り上げ飢饉が発生、あちこちで一揆が発生し軍と衝突している。

これを皇帝に進言しようとしても、趙高の息のかかったもの達に全てを揉み消されてしまう。

もはや皇帝には本当のことは一切耳に入ってこない状況である。

(ここで一度ちゃんと私に忠誠を誓っているか確認しないとな…)

趙高はあることを思いつく。

翌日、趙高は朝議に鹿を連れてくる。

「昨日、珍しい馬を手に入れました」

皇帝は眉を顰める。

「これは鹿ではないか!」

その皇帝の言葉に趙高は朝議に参加した者たち一人一人に聞いていく。

「これは何に見える?」

「…馬でございます」

うむ、と頷き次の者に聞く。

「これは鹿でございます!」

うむ、と頷きまた次の者へと聞いていく。

皇帝には何をやっているのか全く分からなかった。

全てを聞き終えた趙高は、皇帝に向かって進言する。

「どうやら、人にはいろいろな見え方があるようです」

この言葉を最後にその日の朝議は終了した。

次の朝、朝議を開くと2昨日の人数の1/4が欠席している。

「今日の朝議は出席者が少ないな?」

皇帝の言葉に趙高は答える。

「今日は流行り病で欠席者が多いようです」

「そうか…皆昨日は元気にしておったのだがな、体を大事にするよう伝えておいてくれ」

皇帝の言葉に趙高は礼を取る。

尚、欠席したのは鹿を鹿と言った者たちであった。

その日朝議を欠席した者たちは、二度と朝議に出ることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

聖獣達に愛された子

颯希
ファンタジー
ある日、漆黒の森の前に子供が捨てられた。 普通の森ならばその子供は死ぬがその森は普通ではなかった。その森は..... 捨て子の生き様を描いています!! 興味を持った人はぜひ読んで見て下さい!!

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

処理中です...